第25話~下天の夢?~

「小笠原殿を乗船させなくて宜しいのですか。」

「九鬼殿、いいのです。小斎(小笠原)は現世に生きて欲しい。わしの命令で玉(ガラシャ)を(あの世に)送ったことは忘れた方が良いのです・・。小斎には新たな幸せな日を過ごしてと願っております。恩に酬いるためにも・・。」

忠興は、遠くの岸にいる小笠原へ(心の底で)詫びながら言った。

「これから桔梗丸で黄泉の国へ参りますが宜しいか。」

「夫婦二人で(黄泉の国)逝けるのですから法外この上なしです。九鬼殿、よろしく頼みます。」

「わらわも忠興様との(死出の)旅が楽しみじゃ。」ガラシャは猫なで声で言い、忠興の左腕にもたれた。

「船出じゃ。法螺貝を吹け。」九鬼が采配を振り海賊達へ命じた。

ぼうおぅお。ぼうおぅお。

「小斎、さらばじゃ。」「小笠原殿、おさらば。」忠興とガラシャは手を振った。

巨大な船、桔梗丸は、ゆっくりと沖へ沖へとむかった。


「わしはここにおるのに。待ってくだられ。殿おっ、姫えっ。どこに行かれる。」

小笠原は狼狽し叫んだ。


桔梗丸の船映がだんだんと薄くなり消えてしまった。

同時に小笠原の意識も・・。



高速道路の追い越し車線で、緊急車両が次々通る中、ネクスコEASTの道路巡回車が止まっていた。

パトカーが止まり、警察官一人が道路巡回車を避ける様に誘導を始めた。

「大丈夫ですか。このままじゃ危険ですよ。」クルマの運転席側の窓越しに、もう一人の警察官が声をかけたが、乗っている若い男は、意識がないのか返事がない。

警察官は緊急を要すると判断し、ドアの窓ガラスを壊した。

「しっかりしてください。救急車を呼びますから。」


小笠原は目を覚ました。

上半身を起こし、「え。ここはどこだ。」と呟いた。


小笠原は大学病院へ救急車で運ばれ、脳梗塞の治療をしてもらったが、意識が戻らないで1週間が過ぎていたのだった。


小笠原の意識が戻ったのに気づいた看護士が先生を呼びに行き、先生がすぐに小笠原の診断をしたが、「とのうお~(殿)。ひめえい(姫)~。き・う・だぃ・いせ~(巨大船・桔梗丸)は?」と意味不明のことを何度も言っていた。

先生の診断では彼(小笠原)は記憶障害と言語障害(後遺症)がみられ、

それ以外では右半身麻痺があると言っていた。


小笠原が入院後、会社の上司、同僚が沢山見舞いに来てくれた時に、小笠原は障害がある、たどたどしい言葉で長岡顧問のことを皆に聞いた。「なうがうおうか(長岡)こうもん(顧問)は?いつしよ(一緒)にい~た、こうもんは?」

「長岡さん?誰ですか?、そんな顧問なんて会社にいませんよ。」

知っている人は誰一人もいなかった。

何故・・?

これも記憶障害?後遺症かもしれないのか。

顔、声、奥さんのことまで記憶に深く残っているのに・・。

何故かな涙が出てくる。これも病気のせいなのか。

【こもん~。次ぎの現場へ行きましょう。】と小笠原が言うと顧問の笑っている優しい顔が浮かんでくる。

やはり、(後遺症)か。


それから、小笠原がリハビリを開始して3ケ月が過ぎようとしていた。

「小笠原さん、麻痺の症状が殆ど無いようになりましたね。本当に凄いです。三瓶先生も(回復に)驚いていましたよ。それに大分、痩せましたね。」作業療法士の若い女性がリハビリ中の小笠原へ声を掛けたのだった。

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