第26話~若い女性との出会いは~いざさらば~

小笠原が入院し一ヶ月経ったある日のこと、通路のエレベーター前の方から「山目さん、お願いですから部屋に戻って下さい。」と女性の困ったような声が聞こえてきた。

小笠原はギクシャクと杖をつきながら歩行の自主訓練をしていたが、その声が気になり角を曲がり覗いてみると患者がエレベーター前で暴れていた。

その患者(山目)は、先日入院してきたが脳障害の症状が出ていて、通路で身体を右の方向へコマのようにぐるぐる回りながら歩き他の人の歩行を邪魔をしたり、それを止めようとした看護士や職員を殴ったりしていた。

その日も山目は、「俺は家に帰る。どけ。」と我儘を言い出し、女性を突き飛ばしながらエレベーターに乗ろうとしていた。女性はそれでも必死に乗るのを止めようとしていた。小笠原は(くっそー、身体が自由に動けば簡単にとり押さえられるのにと)思った瞬間に、山目が素早く走り寄り小笠原の杖を奪い取って小笠原の肩に強く打ちつけた。

小笠原は「うっ。」と言葉を発しながら尻もちをついていた。

山目は、「へっへっへ。」と笑い杖を振り回しながら女性の方へ近づいて行った。

小笠原は「やぁうめぇろう(止めろ)。」と大きな声で叫んでいた。

山目が声の方へ振り向くと、小笠原は人が変わったように杖が無くてもすっくと立ち上がり、左手で手刀を上段に構えていた。

小笠原の形相は死と向き合ったことのある鋭い目をしており、周りには殺気が立ち込めていた。

その様を見て山目の身体は金縛りにあったように硬直していた。

小笠原は山目に近づき、「とおっ。」と手刀を素早く振り下ろした。

山目の頭が割られたと思った途端、小笠原の眼下には、女性が山目の前に立ちはだかり、小笠原の手刀は女性の額の直前で止まっていた。

女性は、「山目さんは悪くなかと。病気が悪いとよ。」と優しく言った後、しゃがみ込み震えていた。

山目は立ったまま失禁(放尿)をし、わなわなと怯えていた。

そのこと以来、小笠原は彼女が気になる存在になっていった。

彼女の名前は城光寺妃瑚(ミコ)、福岡出身のポニーテールが似合う可愛いい女性だった。


「いやーぁ。病院の美味しい食事のせいかな。小食になり30キロ瘦せました。ある意味(病院食の)お陰ですね。」

不味いと言う意味なのか、小笠原はしかめっ面をした。

ミコが笑いながら、「小笠原さん、痩せて。」小声で「イ・ケ・メンですよ。」と言った。

「いや~。一度も言われたことがないですよ。退院したら無理やりデートに誘ったりして。ハッ・ハッハ。」


「小斎は、男前じゃの。」

「ほんに、あなた様と一緒でありますの。ホ・ホ・ホ。あの娘は小笠原殿を好いてなさる。間違いはありませぬ。」

黄泉の国から小笠原のことが心配になり、天(空)から覗き見をしている忠興と玉(ガラシャ)であった。


「よ・か・よ(いいですよ)。」ミコは優しい博多弁で答えた。

否定されることの返しを考えていたのに・・エ、エ~。

キョトンとした。イケメンになった小笠原清秀(小斎)であった。


二人のこれからはどうなるのか?楽しみなこと・・にしてほしいな。

「桔梗丸、帰るぞ。これが(観ることの)最後じゃな。小斎、幸せになれよ。」

「小笠原殿、おさらばですね。」

若い姿の長岡夫婦(忠興、ガラシャ)の目頭から想いの粒がぽとりと落ちた。

ボー。桔梗丸の汽笛が空気を心地よく震わせた。

大和型戦艦4番艦桔梗丸は乗員107名と長岡与一郎(忠興)と玉(ガラシャ)を乗せ黄泉の国へと再び旅立つ。

桔梗丸が進んでいる空には巻物が紐を開いてゆるりゆるりと飛んでいた。まるで花(桔梗丸)の周りをヒラヒラと飛ぶ蝶のように。

巻物には長岡与一郎と玉の名前も追記されており、その連名からの

【小笠原清秀殿、赤羽晶一郎殿】への御礼が記してあった。【友よ、未来永劫忘れない 有難う】と。


黄泉の国へと続く桔梗丸の想いの航跡が残っていた。


いざさらば。

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大和型戦艦4番艦 帝国から棄てられた船~古(いにしえ)の愛へ~ 花田一晃 @jko4166

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