第14話~桔梗丸と僕との出会い~

桔梗丸は単独行動で戦火をくぐり抜け、物資の調達に、マニラ、ビルマ、シンガポール等を回り十分に社(新日本郵船)や、日本軍に貢献していた。


昭和19年は、戦況がより厳しくなってきたなか、

桔梗丸は手負い傷(爆撃や機銃後)があり、10月に船体補修のため横須賀軍港に入港していた。

少し風があり、船尾では国旗、三階菱紋の旗、桔梗紋の旗がたなびいていた。

「すんごいな~。こんなでかい船は初めて見た。それにこの船、かっこいいし(船体の)色もいいな~。」まだ幼さの残る少年兵がまじまじと桔梗丸を見つめていた。

船の艦上で働いていた船員が少年兵に気づき、「おーい。君。もしかして、今日から来る新人さんかね?」とだみ声で言った。

「はーい、そーです。」大きな声で少年兵が答えた。

「君―。この先にタラップがあるからー、そこから船に入って来てくれー。」少年兵の耳が痛くなりそうな大きなだみ声で船の後方を指差した。

少年兵は、「わかりました。」と初々しくお辞儀をし直ぐに走り出した。

タラップから船に乗り込むと、船員が出迎えていた。

少年兵が船員に向かってぎこちない敬礼をし「本日より桔梗丸に配属になりました二等兵の長岡と申します。」と挨拶をした。

「兵曹長の福士だ。この船(桔梗丸)は戦艦ではなく輸送船だから、見ての通り海軍の軍服を着ていない。桔梗丸では艦長の指示で、軍の階級では人を呼んでない。目上の人には、さん。目下の人には、君。で呼んでいるので、気を付けてほしい。」

「はい。福士へいそう…。もとい、福士さん、わかりました。」長岡は福士に敬礼をした。

「長岡君、敬礼もなしでいいよ。これから船長の九鬼さんのところへ連れていくから、ついてきて。」

船内の階段を下り、船長室の前で福士慎吾郎はノックをして、

「船頭、108番目の船員、長岡君をお連れしました。」と声を掛けた。

部屋の中から、「どうぞ。」と声がした。

福士に促され、長岡が「失礼します。」と言い船長室へ入った。

部屋の中には、船長用の机・椅子と、来客用のソファーセットがあるだけの簡素な部屋だった。

船頭と呼ばれた男が椅子から立ち上がり、長岡を見た瞬間唖然とした表情をしたが、優しい顔で「九鬼と言います。遠路ご苦労様。さ、そこに座りなさい。」と言い、右手でソファーの席を指し示した。

なんて大きな人だろう。若い時に相撲でも取っていたのかな?

長岡はそう思いつつ深々とお辞儀をし、「本日付で桔梗丸に配属となりました長岡と申します。よろしくお願いします。」と言いソファーに浅く座った。

「長岡君、失礼な質問ですが、顔の傷はどうしてついたの。」

九鬼は長岡の右の額の傷、そしてもう一つは鼻を横一文字で切り裂かれた傷について聞いた。

「お恥ずかしい話ですが、額の傷は中学の頃に隣の中学生達と喧嘩となり、向こうが投げた石が額に当たり傷が出来てしまいました。鼻の傷については身内の問題で出来た傷ですのでご容赦下さい。」

鼻の傷は妹から受けた包丁の傷であった。

「前から長岡姓ですか。」

「小さい頃に細川姓から長岡姓に変わりましたが。」九鬼はまた驚いた表情をした。

「何かございましたか。」と長岡が聞いた。

「いや。君がある人に似ていたから。聞いただけ、それだけです。桔梗丸を見てどう思いました。」と笑顔で九鬼が話を切り替えた。

「超大型で、戦艦か、民間船か判らないような見たこともない不思議な船だと思いました。」

長岡は率直な気持ちで答えた。

九鬼は頷き、「この船は、建造途中で一度撤去が決まった船。帝国に一度捨てられた船なんです。それをいろんな方達のお力により復活した史上最高の船だと私は思っています。

この桔梗丸に輸送船の責務を全うさせたい。輸送船の作業は馬鹿にしてはいけない仕事です。物資の調達が何よりも大事なのです。腹がすいていたら。なんとか(戦)に行けないですよ。」憂いた表情からにこやかな顔になりながら話した。

「桔梗丸に御孝行させてください。若輩ですが乗組員の方々の一員にさせてください。」

長岡は九鬼船頭や桔梗丸と生死を共にしようと決意を固めた。

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