第17話~第1番艦大和との惜別、戦闘へ~

昭和20年4月7日14時23分、戦艦大和は坊ノ岬沖にて激戦の末に大爆発を起し、キノコ雲を最後に日本国いや日本国民へ別れを告げた。


桔梗丸は大和の最後を看取っていた。

守るべき戦闘機隊のないまま孤立無援の状態で、手ぐすね引いて待っているアメリカ大艦隊のところに大和を沖縄へ行かせる(特攻強行作戦の)意味があったのか。海軍にそのことを止める将校がいなかったのか。理解に苦しむと九鬼は唇をかみしめた。


桔梗丸の甲板では船員皆泣いていた。

「兄様(第一号艦大和)へ敬礼。」福士は喉が潰れるような大声で叫んだ。

全船員が敬礼したところに、バアーンと唸る音が近づいて来る。米軍の戦闘機3機が桔梗丸をターゲットに選んだ。

「(九鬼)船頭、魚雷が左側方よりやって来ます。」双眼鏡で海面を見ていた船員が叫んだ。

魚雷3発が水泡を上げてひたひたと近づいてきた。

「間に合わないか。総員、(防御姿勢を)固めーい。」と九鬼が豊田五郎船頭代行へ指示をした。

「総員、防御姿勢を固めーい。繰り返す。固めーい。」伝声管を使い豊田が大声で叫んだ。

魚雷1発が逸れたが、2発が桔梗丸の左舷中央に入っていった。

バーン。物凄い轟音がし、大地震のような揺れがが桔梗丸に襲った。

揺れが収まると桔梗丸は、まるで何にもなかったのかように平然と佇んだ。

「二重底が船を守ってくれた。凄いよ。お前(桔梗丸)こそ、不沈艦。うん…いや。不沈船だよ。」長岡が涙を流しながら桔梗丸に話しかけた。


砲兵長の中村智之が砲兵員達に叫んだ。

「いいか。敵機を落とすコツは、ハエたたきだ。みんな、いいか。集中力を見せろ。撃てい。」

ヴァン・ヴァン・ヴァン…。

新型対空火器10cm連装高角砲6基が火を噴いた。

グオーーン。バシャン。

敵機2機が黒煙と共に海面に落ちていったが、

敵機1機は逃げるように空の彼方へ飛び去った。


福士は、「船頭、砲兵員達が敵機2機をやっつけてくれました。ハッハッハ。残りの敵機1機は腰抜で逃げて行きましたよ。」と笑みを浮かべて言った。

「砲兵員達にご苦労様と伝えてください。それから、敵機1機が帰ったと言うことは、暫くしたら敵戦闘機の大群が来ると思われます。急いで大和乗務員達の救助をお願いします。」九鬼は、敵機1機が飛んで行った方向を双眼鏡で追いかけながら言った。

「そうですね。しくじりました。(敵機1機を)逃しちゃ行けなかったのですね。」

福士は悔やんだ。

それから3時間、必死に救助を行い大和の乗務員3000名位を救出できた。

救出にあたっていた長岡は、あんなに奮戦し大爆発した大和の乗組員を3000名救出したことは奇跡でしかないが。本当に救出したのは人間なのか?桔梗丸の輸送用大倉庫で身体を濡らして横になっている多くの大和の乗務員達を見ていると亡霊のような感じがしてならない。疑問が生じていた。


「敵機襲来。距離4000(m)、かず(数)およそ200(機)。」双眼鏡で見張りをしていた渡辺が叫んだ。

緊急を知らせるラッパが鳴り出した。桔梗丸の乗務員達に緊張が走り砲撃の構えに入った。

その時である。急に海霧がサアーと出てきた。

海霧は、濃く、深く、海上のもの全てを包み込むように。


敵機軍団は海霧により味方同士がぶつかり始めた。

「クモ(雲)かキリ(霧)かもワカラナイ。」「ウツナ(撃つな)。キジュウ(機銃)をツカウナ。ミカタ(味方)をウッテ(撃って)シマウゾ。」「コウド(高度)をアゲテ。イチジ(一時)、タイヒ(退避)ダ。」

海霧を逃れ、上空に暫く非難し旋回していた。

海霧が晴れたときには、桔梗丸の姿はなかった。

桔梗丸は蜃気楼だったのか。敵機の乗員達はそう思えた。

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