第16話~第3番艦信濃の死に水~

昭和19年11月28日、信濃と桔梗丸は横須賀軍港に停泊していた。

片や空母、片や輸送船と用途が違うにしろ、同じ巨艦が並んでいる姿は壮観である。

13時30分、信濃は横須賀軍港を出航し、その2時間後、桔梗丸は信濃を追うように出航していった。

20時40分、信濃は護衛駆逐艦の磯風、浜風、雪風と浜名湖南約160kmを走行していた。

その姿を米軍潜水艦アーチャーフイッシュが発見し攻撃しようと追尾し始めた。

エンジンの具合が不調になり速力が低下したため、信濃は魚雷攻撃を警戒しゆっくりとジグザグな航路を取った。

アーチャーフイッシュは信濃に追いつくため危険を顧みず潜航せず水上全力航行に切り替えた。

29日3時10分、信濃はアーチャーフイッシュに遂に追いつかれた。

すかさずアーチャーフイッシュは魚雷6発を発射。内4発が信濃に命中した。

たった4発だけだが船が傾き浸水して行き、10時37分に総員退艦発令が出て、信濃は10時55分に沈没した。

初陣に向かう途中に沈没という哀れな最後となってしまった。


桔梗丸のシルエットが信濃の沈没場所に近づいた。

浜名湖南方面の海に、信濃の船員達が数百名もぷかりぷかりと浮いて助けを呼んでいた。

九鬼は即座に桔梗丸の乗務員達へ指令を出した。「福士君、直ぐに救助の用意をしてください。」

「ハッ、了解しました。」

九鬼は表情が暗くなりながら思った。我が船(桔梗丸)は、兄弟船(武蔵、信濃)の死に水を取ることになったが、この先、大和もそうなるのか。この船の鬱々たる運命(さだめ)なのか。

信濃から救出したのは791名であった。

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