第20話~ 訣別 ~

「プォ・プォ・プォ・プォ…。」石巻の港から1艇の小舟が沖へと向かい走っていた。

乗っているのは、岩瀬、青木、長瀬の3人。

「岩瀬少佐、九鬼大佐が会うことをよく許してくれましたね。」青木が小船を操縦しながら言った。

「あれから2日ですね…。」

岩瀬は色々と考えていた。

あの隣の部屋の人は、多分、大臣だろう。フフフ…。隠したつもりで姿を見せなかったが東北訛りが十分すぎる程に会話に出ていた。

それよりも気になったのは、あの後、佐々木課長に言われたことだ。

桔梗丸の建造改修時に九鬼大佐から言われ極秘で桔梗丸に自爆装置を取付けたこと。

その理由について問うと九鬼大佐からは、「もし、敵に攻撃されこいつ(桔梗丸)が死にそうに(沈没しそうに)なった時は、(桔梗丸と)一緒に腹を切りたい(自爆したい。)、戦人(いくさびと)の覚悟(死に様)ができるように餞(はなむけ)として作ってほしい。」と言われたそうだ。

ハッ、もしかして、九鬼大佐は、桔梗丸をソ連や米国へ首を差し出したくはないのではないのか。それくらいだったら腹切り(自沈)を考えているのかもしれない。

九鬼大佐、あなたの投降拒否の理由が何となく分かってきましたよ。

「岩瀬さん、桔梗丸が見えてきました。」長瀬が桔梗丸へ大きく手を振りながら言った。

波に揺られた小舟は、超大型の船に横付けされた。

それ(小舟)は、まるで、シロナガスクジラに吸い付いた小さなコバンザメようだった。

桔梗丸のデッキには、九鬼船頭や船員10人が客人を待っていた。

小舟を桔梗丸から投げられたロープに結び、桔梗丸から架けられた縄梯子を上り、岩瀬はデッキの淵に着いた。

デッキから自ら船頭が手を伸ばし、「岩瀬少佐、ようこそ桔梗丸へ。」と笑みを浮かべて言った。

がっしりとお互いの手を組み岩瀬の足は桔梗丸のデッキに着いた。

「九鬼大佐、お久しぶりです。」と岩瀬は九鬼に敬礼をした。

その後に、青木、長瀬が船員の前田に梯子から手を引っ張ってもらい桔梗丸に着いた。

3人が揃ったところで、綺麗に横一列になった船員達8名が敬礼をし、3人は返礼をした。

「お昼になりましたが、昼食はお済ですか?」と九鬼は3人に聞いた。

「お腹ペコペコであります。」長瀬が自分の腹を指さして言った。

その動作が面白かったのか、豊田を始め船員達はクスッと笑い出した。

「ちょうど良かった。昼食に用意いたカレーライスの準備がしてありますので、桔梗丸のカレーは海軍一ですよ。是非食べて行って下さい。」

「九鬼大佐、お言葉に甘えさせて頂きます。」岩瀬が言ったか言わないうちに、

「特大の超大盛でお願いします。」長瀬が言った。

「ぷっ。わっはっは。」船員達は長瀬の言葉に笑い転げた。

青木は長瀬の所作に首を横に振りあきれ返っていた。

九鬼が食堂まで3人を案内し、スパイスが効いていて鶏肉、ジャガイモ、人参、玉ねぎが入ったカレーを振舞った。

美味しすぎて、長瀬は、超大盛りのカレーをおかわりしていた。

食事が終わり、長瀬や青木はさっきデッキで挨拶をした8人と食堂にいる船員達30人との表情の違いに違和感を感じていた。

親しみ。に対し、恐れ。である。

俺達が怖いのかな(長瀬)。

「君は名前は?どこの出身なの?」長瀬がぶっきらぼうに若い船員に聞いた。

「長短のチョウと岡山のオカで長岡と言います。出身は京都です。」

「なんや。ワレは京都かいな。ワイは大阪やで。」と青木が言った。

「自分と一緒で名前に長(ちょう)がついてて非常に宜し、俺の名前は長瀬。君と俺とで長さんコンビだな。それに流石に京都出身だけあって品があるな。大阪出身とえらい違うな。また、ちゃう(違う)。ちゃう。言うのかいな?」と長瀬が変な顔をして青木に言った。

「なんやと。長瀬。表に出ろや。」

「表は海、今は夏だが東北の外海(そとうみ)は寒くて泳げませ~ん。うぅぅさむ。」おどけて長瀬が答えた。

「しばくぞ。」

青木と長瀬が相手の首を絞めだし、。

「やったな。」「上等だ。」と言い更に強く絞めだした。

周りにいた船員が止めようとした瞬間、長瀬が意識がなくなったのか倒れてしまった。

青木が「おい、大丈夫か。」と長瀬の肩を抱き、

「しっかりしろ。」と青木が涙目で言った途端、

長瀬がすっくりと立ち上がり、勝ち誇ったように、拳を握り肩をぐるぐる回し、

「今日(の喧嘩)はこれくらいにしておいたるわ。」と言った。

すかさず青木が、「なんでやねん。」と長瀬の胸を軽く裏手で叩きツッコんだ。

青木と長瀬は直ぐに笑い顔になり、船員達に向かい、

「どうもシンズレイ(失礼)しました。」と軍帽を前後ろ逆に被り敬礼をし言った。

これは、大学ラグビー部の時の余興で二人がよくやったお笑いネタだった。

長瀬がした変な顔は、お笑い開始の合図であった。

船員達は爆笑し、その場の雰囲気が和んできた。

その時を待っていたかのように、岩瀬が、「九鬼大佐は、これ(から)。」と言った途端に、九鬼は、言葉を遮り、

「岩瀬少佐、潮風にあたりませんか。」と促した。

九鬼は船首まで、岩瀬を連れて行った。

「岩瀬さん、名無しの権兵衛殿からは、桔梗丸との交渉については、どのような条件を言われましたか。」

「条件は…、桔梗丸は撤収の上、米軍の新兵器開発のための標的とする。首謀者の4名、九鬼、豊田、福士、中村は、拘束し即時、ソ連へ引き渡しとする。それ以外の乗務員については留置所にて拘束だが、放免出来るようソ連と鋭意折衝する。と言われました。」

「やはり、船員達の放免が確約ができないのですか。」

「…。了解いただけないと、明日早朝に日本の戦闘機による桔梗丸への攻撃が開始させます。戦闘機の搭乗員は、皆、若い者達です。戦争が終わった今、彼らと戦えますか。船員達の為にも投降してください。」訴えるように岩瀬が言った。

「桔梗丸や船員の皆が決めることです。明日その時に答えが出ます。

今日は、岩瀬さんとお話しできて嬉しかったです。多分、桔梗丸も喜んでいますよ。」九鬼はそう答えた。

「お別れですね。」岩瀬は九鬼の死ぬ覚悟が揺るがないとみて寂しそうに言った。

「お元気で。」愁いを込めた笑みで九鬼は答えた後、九鬼は岩瀬の耳元で何かお願い事をしていた。


桔梗丸の船員達が甲板で帽子を振り見送る中を、岩瀬、青木、長瀬は小舟で帰って行った。

後ろ髪を引かれるように…。


夕方になり、桔梗丸の中では、最後の酒宴が行われていた。

「新人飲めよ。」「もう一杯飲めよ。」「さあさあ、まだ行けるだろ。」「ねえ~ん。もっと飲んでよ~。」

長岡は、みんなに酒を勧められながら、

「中村さん、いつも昼時になるとデッキに出て、笛で奏でている曲は何て言うんですか。」

と聞いた。

「あの曲は、俺の生まれ故郷の青森で祭りの際、吹いてるねぶた囃子と言う曲だよ。」

「あの曲、好きだな~。血が騒いでくるいい曲です。」ほろ酔い気分の長岡が言った。

「中村、今夜は桔梗丸やみんなのために弾いてやったらどうだ。」と中村と同期の福士が促した。

「青森ねぶたは戦で勝利し凱旋の時に奏でみんなで跳ねる(踊る)祭りだ。明日、戦いがある俺たちには、弘前のねぷた祭りは出陣ねぷたでその曲の方が合っていると思う。ちょっと整然とした曲となるが。福士、どっちにする。」

「中村、明るい曲がいいに決まっている。さあ、用意してくれ。」

中村は、自室から笛を持って来て吹き始めた。

「ぴあぴあぴあららら~ん…。」最初はゆっくりと、徐々に速く奏でた。

その曲を聴き、青森出身の工藤が、「ホッ。らっせーら。らっせーら。らっせ・らっせ・らっせーら。」と叫び跳ねた。

みんなは見様見真似で叫び狂ったように跳ねた。

福士はすりこぎ棒を台所から持ってきて、太鼓のバチの代わりに机を叩いた。

「踊り踊るな~ら。」三浦は東京音頭を踊っているように見えた。


その後も長岡は跳ねながらも船員達から、へべれけに意識がなくなるまで飲まされていた。


「しっかりしろ。」渡辺が長岡の左頬を右手で叩き意識の確認をした。

三浦が長岡の口に接吻をしたが気がつかない。

「船頭~ん、大丈夫で~す。眠っておりま~す。」

「三浦さん、これから長岡君を江島の浜辺へ送ってください。」

「は~い。」

「それから、皆さんにお願いがあります。この巻物に名前を書いて貰えませんか。桔梗丸や皆さんがいた証として、巻物を長岡さんに授けたいと思いますが、如何でしょう。」

「船頭、いいと思います。」福士が言った。

「下手な字でもいいですか。人によっては斬新な字と褒められることもありますが。」と、中村の手振りに皆がどっと笑った。

「私も。」「自分もお願いします。」「同じく。」次から次へと106名全員が賛同の声を上げた。

九鬼は小さく頷いた。微笑みながら。


翌日の早朝、桔梗丸の船員達は来(き)たるものを待っていた。

みんな、同志(桔梗丸、船員達)と共に逝けるという顔は清々しく、神々しくさえあった。

その時、遠くより飛行機のエンジン音が聞こえてきた。

双眼鏡で空を見張っていた豊田が、「船頭、右前方より、やってきましたね。日本戦闘機16機。米軍2機 ソ連2機。距離約1,800(メートル)。」

「日本にとって昨日の敵(米国、ソ連国)は今日の友か。機数からして米軍機 ソ連機は見張り(監視)役かな。敵機襲撃が来たら撃ち落とすつもりだったが、日本機は撃ち落とせないな。桔梗丸の(射撃の)技量が見せられず残念だな。」と中村は言った。

日本機達は船(桔梗丸)の上空に来たが、ぐるぐると旋回しているだけで、一向に攻めてこない。

それを見て、

「米軍、ソ連軍も(日本機が攻めず)イライラしているだろう。豊田さん、主砲、高角砲へ空砲を打つよう。」と九鬼は指示を出した。

「伝達、主砲、高角砲へ空砲を打て。」

「ビシュリー。」空砲とは言え大轟音が鳴り響いた。

若い戦闘機員達は慌てたように攻撃に移ってきた。

日本機2機より魚雷が発射された。

桔梗丸の左舷より魚雷が来たが、操舵を右に切り十分にかわせた。

「へたっぴーめ。もっと近くで(魚雷を)落とさなと当たらないよ。」

福士は笑って言った。

その声に船員達も笑った。

日本機4機より魚雷2発、爆弾2発が発射され、魚雷2発、爆弾1発をかわしたが、1発が主砲近くに爆弾が命中した。

主砲にいた福士は頭を砲台長用観測鏡にぶつけ血まみれになっていた。

「兵曹長、大丈夫ですか。」兵員達が慌てて近づいた。

「桔梗丸を全身全霊をもって爆撃から守ってくるから、後は頼むぜ。」

「兵曹長、自分も行きます。」「私も。」「自分も。」

「馬鹿野郎。ここを守れ。外は一人でいい。一人で十分…。みんなさらばだ。」

福士は日本刀とロープを手に持ち、主砲室を出て行った。

兵員達は無言で敬礼をした。涙を流しながら。

福士は主砲の前方にある策にロープで身体を括り付けて、

「桔梗丸、(爆弾は)痛いよな。一緒に逝こう。」と言った。

その姿は、直立不動の状態で、両手で日本刀を杖代わりに持ち、目は前方を凝視していたが、鼓動は既に止んでいた。


その後、桔梗丸は魚雷を熟練操舵で3発かわした。

九鬼は、「そろそろいいでしょう。(日本機、米軍機、ソ連機共に)桔梗丸の技量は十分に分かったと思います。ソ連の戦闘機との交戦をしたかったが、ゼロ戦は撃てませんね。エンジンを停止してください。」と言った。

「エンジン停止せよ。」豊田が下士官に大声で指示した。

「ドーンドッバーン。」「ドーンドッバーン。」動かない桔梗丸に魚雷が2発が当たった。

甲板で三浦が上空を飛んでいる日本機に向かい「まぁだまだ、(桔梗丸は)このくらいじゃ死なないよ~。」と大声で言った。

「ドーンドッバーン。」…。更に4発が当たった。

その後、こちらに近づいてくる魚雷に向かって、三浦が両手を広げ「みんな~、お先に、あたしが旦那(桔梗丸)を守る。おーりゃ。」と大声で叫び海に身体を投げ出した。甲板に居た船員3人が慌てて止めようとしたが間に合わなかった。

「ザバーン。ドーーン。」船体に振動が鳴り響いたが三浦の人身御供が天に届いたのか魚雷は不発だった。

九鬼は「前田君、総員退去するよう。皆さんに伝えてください。船頭からの最後の命令です。皆、生きてください。と、それから前田君、これから10分後に自爆のボタンを押してもらえますか。」

「船頭、承知しました。」前田は敬礼し走って行った。

九鬼は思った。桔梗の旗印の明智光秀は敗走の途中で竹槍に刺されて自害したが、悔しくも百姓によって首を見つけられ敵将に辱めを強いられたが、桔梗丸は自分の意志でこの世から亡くなる(木端微塵)ことを望んでいると。

「豊田さん、最後まで着いてきてくれてありがとう。それではお先に。」と言い一人で船頭室に向かい扉の鍵を閉めた。

九鬼は正座し、一人で桔梗丸や船内にいる船員達への一礼をした。

それから、おもむろに短刀を腹に突き刺し、更に首の頸動脈を切り、血の海の中に倒れた。満足そうな笑顔で旅立って逝った。

豊田は船頭室の廊下側に立っていた。九鬼の物音がなくなると、その場から立ち去り救命用ボートへ急いで向かっていった。


その頃、中村は実弾が入っている高角砲で狙いを定めていた。

ソ連機は桔梗丸は攻撃しないと思い込み、空中で桔梗丸をバカにするように機体を左右に振り近くを飛んでいた。

「悪鬼め。たほらんけ・こん(馬鹿・野郎)死んで亡くなった日本国民に詫びろじゃ。」「ダ・ダ・ダ…。ダ・ダ・ダ…。」

監視役のソ連の戦闘機2機とも、黒煙を上げ墜落していった。

中村は、腰に差してあった笛を取りおもむろにねぶた囃子を弾き始めた。

「ぴあぴあぴあららら~ん…。」懐かしい津軽を思い浮かべながら。


その時、桔梗丸は哀しい泣き音を残し大爆発をおこした。「クオオーン…。ドッカーーン。バラ・バラ・バラ…。」

船員は豊田以外誰一人として海へ退去しなかった。皆、笑顔と共に桔梗丸と一緒に逝った。

桔梗丸の周りを旋回していた日本の戦闘機乗員達は、桔梗丸のバラバラになって沈みゆく姿に一様に敬礼をし、中には涙を流している者もいた。

米軍機の搭乗員は、逃げて行くボートを凝視していた。


宮城県女川(おながわ)の沖合にある江島(えのしま)と言う小島の岩場で、長岡が遠くで聞こえる轟音で目が覚めた。

あれ、ここはどこだ。なんでここにいるんだろう?桔梗丸は?船頭、福士さん、みんなは?

長岡の傍らに大きなカバンにおいてあり、中身を見ると巻物が1巻、おにぎり6個、水筒と百円札がずっしりと入っていた。

長岡は巻物を開いて見ると桔梗丸船員達の思いが書いてあった。


【友よ。桔梗丸は母国に弓は引けない。

 桔梗丸は存在自体が鬼畜異国の者達から抹殺されるであろう。

 貴君には桔梗丸の功績やその仲間達がいたことをいつまでも覚えていておいてほしい。

 往きて…生きてほしい。

 友よ、お願いする。

 さらば、友よ。

 しばしの岐れぞ。友よ。


 桔梗丸の功績

  武蔵より1023人救助、信濃より791人救助、大和より約3000人救助

  小笠原丸より638人救助、泰東丸より667人救助

  北海道の留萌小平町沖にて、悪鬼外道なソ連潜水艦2隻撃沈


 桔梗丸の仲間たち108名(連署107名)

  (署名)福士…。中村…。前田…。渡辺…。…。…。

     …豊田…。九鬼…。


 長岡与一郎殿へ託す】


「ザザーン…。スーン…、ザーン…。シュルシュル…。」

長岡は涙と共に岩場に立ちすくんでいた。


豊田はその後、仙台で米軍駐留兵に見つかりソ連国軍人に引き渡された。

豊田は暗い部屋の中にある椅子に座らせられていた。

部屋にはソ連の人間が3人いた。

その一人が悠長な日本語で、「貴方のお名前と階級、桔梗丸の役職を答えなさい。」

「豊田五郎、海軍大尉、艦長代理である。」毅然として答えた。

「桔梗丸の乗務員全員の名前をこの紙に書きなさい。」

豊田は名前を思い出しつつペンを走らせ書いていった。

「船員は、私を入れて計107名。これでいいかな。」

「ここに日本国より入手した桔梗丸の乗務員名簿があるが、108人と書いているがなぜ違うのか。」

豊田は名簿に目を通しながら、「アッハッハ。新人の長岡が入っているね。あいつは、敗戦後すぐ、母ちゃんに会いたくなり桔梗丸から一人だけ降りた情けない小僧だよ。だから、ソ連の潜水艦攻撃に参加していないから書いてないのさ。さて、約束通り聴取に協力したのだから帰らせてもらうよ。」

「お前は何故、桔梗丸から逃げ出したのか。小僧と一緒の臆病者か。」

「(九鬼)艦長が自決した後、虚しさが出てきて気が付いたらボートに乗っていた。これ(女)に会いたいしね。さっ、いいかな。」

ソ連人二人が豊田を縛り上げた。

「何するんだ。」

「我が国の潜水艦2隻、戦闘機2機の搭乗員達を死なせたことは、日本国のサルども100万人の死をもっても代えがたい。お前も殺す。」

「助けてくれ。助けて下さい。後生だ。お願い。」

豊田は目隠しをされ庭にある木に括りつけられた。

ソ連人3人が各々銃を持ち引き金を引いた。

右肩に一発。左右の足に一発ずつ当たった。

「うぬ。」豊田は歯を食いしばり耐えていた。

ソ連人二人に傷ついた豊田は座らされ首を前に出さされた。

豊田は、「桔梗丸は神だ。神の意思に従い生きたまでだ。俺の何が悪い。悪いのはお前ら(ソ連国)だろう。」と大声で叫び、その後、豊田はソ連人が分からない小声で「(九鬼)船頭、(新人を守る)業務が完了しました。」と言った。

「オッ。チョウド、イイモノガアル。」部屋の片隅に鋸が立てかけてあった。

豊田の首に大きな怜悧なその鋸が振り下ろされ、前、後ろにと引かれた。「ドン。ギーツ。ギーツ。ギーツ。ギーツ。」「うぐ。げぼ。」豊田の口から多量の血が噴き出した。

ソ連人が鋸を何十回か引いた後、「ごとん。」豊田の身体から首が離れ地面に転がった。

「コイツ、キモチガワルイナ。シンデモワラッテヤガル。」

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