第4話~小料理屋にて~

ここは赤坂、こじんまりとした古風な小料理屋がそこにあった。

「女将さん、小一時間程、彼(青木さん)と二人で話をしたいので、外してくれませんか。終わったら呼びますので。」

「分かりました。ごゆるりと。」女将さんが正座し手をついて挨拶をした後、畳の部屋を退出した。

「青木さん、呉でどういう話になったか、教えてください。」と、岩瀬一志は青木を促した。

「分かりました。」

自分(青木)が、「砂山中将、思い付きで恐縮ですが、111号は、船の6割が出来ていて、民間会社へその状態で渡せば、輸送船に改造し使える訳で、民間会社も乗ってくるのではないでしょうか。」と言った話をし、砂山中将の温情で、111号の撤去を待って頂いていることを岩瀬に説明した。

「確かに海軍は撤去費用の持ち出しも無くなり、民間企業は、約半値で船を造れ商売になる…。しかし、そのお話を聞いて上司が動いてくれる等。ちょっと浅はかだったかも知れませんね。申し訳ないが、あなたの立案をあなたのお立場(小尉)で進めることは、無理があります。」

青木は顔を上げれなくなった。口惜しさと恥ずかしさで畳に涙がこぼれてきた。

「これから、(日本は)どうなっていくのでしょうか。」

岩瀬は、青木でなく自分に問いかけていた。

沈黙が長い間続いた。

「青木さん、111号の用途についてですが、ここで言えませんが、それ以外に用途があるかも知れません。

この話は、私にお預け願いたい。ある方に相談したら、口が悪い表現ですが、食いつくと思います。」

青木は、目をぬぐいながら「ありがとうございます。ありがとうございます。」と額を床の畳に擦り付けた。

岩瀬は、「青木さん、昼間にお会いした時、初めてお会いしますと、おっしゃっていましたが、覚えてないと思いますが、直接お会いしたのは、2度目ですよ。」

「え…。」青木は、岩瀬の声が懐かしい声だと思っていたが、分からないでいた。

「十数年前に、あなたがうちの大学が練習をしていた(合宿所の)ラグビーグランドへ消石灰を借りに来たことを覚えてませんか。」


青木は、岩瀬との出会いが霧が晴れたように記憶が戻って来た。

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