第15話

 森ラットを捕まえた俺たちは8匹の森ラットを狩って家へと帰った。


 罠を張り、村人と協力して討伐できたのは8匹。

 レベルが上がったのかどうかもわからない。


 だけど、一つだけ言えることは、俺はこの世界に適応しつつある。


「俺はやれる」


 森ラットを倒すことができた。

 戦闘というには、安全な策をとったがそれでも魔物を殺すことができた。


 ゴブリンの時は、切羽詰まっていたので必死だったが。今回は違う。

 自分の意思で殺すことができた。


「こちらのお肉はどうされますか?」

「すまないが解体の仕方を知らないんだ。そちらに預けるから、俺たちが食べられる分だけを分けてもらえるか?」

「かしこまりました」

「二人の分以外は、そちらで分けてくれるか?」

「ありがとうございます」


 俺は村人たちと上手く関係を結べる方が良いと思っているからな。


「帰ったぞ」

「遅いぞ! もう卵が孵ってしまうじゃないか?」

「すまない。森ラットを狩っていたんだ」

「そんなことはいい。早く来てくれ」


 俺はブラフに手を引かれて卵がある魔法陣の部屋へと入っていく。

 そこでは確かに巨大な卵にヒビが入っていた。


「さぁ、最後にもう一度魔力を注いであげてくれ」

「わかった」


 俺たちは力を合わせて魔力を注いでいく。

 

「キタキタ!」

「ああ、もう少しだ」


 魔力を注いでいるからだろうか? 生まれる感覚が分かる!


「殻を破るぞ!」


 そういって姿を見せたのは、人間の赤ん坊だった。


「えっ?」

「出てきた!」

「いやいやいやいや! おかしいだろ?!」

「うん? どうしたんだい?」

「普通に人間の女の子だろ!?」

「そういうことか、普通ではないぞ。ほら見てくれ」


 そういってブラフは殻を破って出てきた可愛らしい女の子を抱き上げる。


「まず、ツノがある」

「確かに!」


 龍の角と言われて理解できるのかよく変わらないが、鹿のようなツノがあった。

 

「それに尻尾も」


 言われてお尻を覗き込めば、オレンジ色をした太い尻尾がお尻から生えていた。


「髪の毛がフサフサで、顔が可愛らしいから人間に見えるが、ちゃんとドラゴンの子供だよ。鳥系ならハーピーとか、魚系ならマーメイドのような子供が生まれたよ」


 言われて想像を膨らませると羽の生えた女の子と、下半身が魚な女の子が浮かんでくる。


「それはそれで可愛いな」

「でしょ。だけど、私はドラゴンが一番可愛いと思うんだよね」

「確かに」


 クリクリとした瞳に、龍の角、フワフワなオレンジの毛並みはどこかブラフを思わせる。だが、ところどころの顔立ちは俺にも似ているような気がするから不思議だ。


「どうして、二人の特徴を兼ね備えているんだ?」

「当たり前でしょ? 二人の魔力から波長を読み取って魔物は生まれてくるんだから」


 魔力にDNAでも入っているというのか? 正直意味がわからん。

 それもこの世界の常識なのだろうか?


「ハァー異世界はとんでもない。それはやっぱり常識なんだな。わかった。もういいや。それで? 名前は決めたのか?」

「名前?」

「愛の結晶の娘なんだろ?!」

「ふふ、やっと認めたね。そうだね。名前をつけてあげないと」

「ガオー」


 鳴き声はやっぱりドラゴンなんだな。

 ただ、可愛い声でガオーと言われても全然怖くない。


「ふふ、元気だね。お腹が空いたのかい? 魔力をあげようね」


 そういってブラフが指を口元に差し出すと、それを吸い出した。


「えっ? 何してるんだ?」

「うん? 魔力をあげているんだよ。子供にミルクをあげるようなものだね。魔物たちは魔力を栄養にするから、いっぱいあげて強くしてあげないとね」

「そういうものか」


 ブラフがあげているのを見つめながら、チュパチュパと美味しそうに飲んでいる姿はやっぱり可愛い。


 子供とはこんなにも可愛いのか? 正直、結婚と言われた時はブラフとキスをしたりしないといけないのかと思ったが、どうやらそれはしなくて良さそうだ。


「ほら、トオルも魔力をあげてよ」

「俺もか?」


 俺は自分の手が汚れていないのか気になって一度台所で手を洗いに行った。

 

「こっこれでいいか?」


 俺はフワフワと柔らかいドラゴンの子供を抱き上げて、指を差し出す。

 全然歯が生えていない口の中はモニュモニュとしてくすぐったく感じるが、なんだか必死に指を咥えている姿は可愛くて愛おしい。


「ふふ、美味しそうだね。うん。私とトオルの子供だからな。フルフルなんてどうだい?」

「フルフル?」

「うん。私の最後の文字である(フ)と、トオルの最後の文字である(ル)をとってフル。可愛くしてあげたいから、フルフルだよ」

「まぁ俺もネーミングセンスは壊滅的だからな。まだ可愛く聞こえるな。わかった。それでいい」


 俺は我が子であるフルフルをしっかりと抱き上げて、魔力を注ぎ込む。

 これからカタログ召喚をして熟練度を上げようと思ったが、夜には空っぽになりそうだ。


「たくさん食べるね。やっぱりドラゴンは強くなりそうで良かったよ」

「他の魔物はそうじゃないのか?」

「うん。中には、人間の魔力が合わなくて死んじゃう子もいるんだ。だから、ドラゴンは丈夫だし、大きくなったら領地の守り神にもなってくれるんだよ」

「そういうことか、色々と考えているんだな」

「ガオー」

「悪い悪い。どうやら、もう魔力切れだ。あとはブラフ頼むな」


 俺はブラフにフルフルを預けて、自分たちの食事を支度する。


「トオルは、魔力切れになってもしんどくないのかい?」

「うーん、元々魔力を知らないからじゃないか? ちょっと倦怠感はあるが、それだけだ」

「羨ましいな。私は魔力切れになると頭痛がして、動けなくなってしまうのに」


 なぜか恨めしそうに見られてしまうが、そんなことを言われても知らん。


「今日は、ブラフの好きな物を作ってやるから機嫌を直せ」

「本当かい?! なら、今日はトオルが作ってくれるスープがいい。私はトオルのスープ料理が大好きなんだ」

「鍋料理だな。わかった。準備してくるよ」


 フルフルは、ブラフに抱っこされながら眠そうにしていた。

 魔力を吸って眠くなったんだろうな。


 なんだか癒される気分になるから、ブラフのいうことを聞いて卵を買って良かった。


 


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