第22話
《sideブラフ》
夜遅くにトオルを見送った私はフルフルと共に眠るために寝室に入ったが、眠ることができなくて、一人で夜空を眺めた。
トオルの無事を祈ることしかできない。
「パパ?」
この三カ月で、少しずつ話せるようになったフルフルが私を呼ぶ。
「フルフル」
私は娘を抱きしめる。
「お父さんは?」
「大丈夫だよ。必ず無事に帰ってくるよ」
「うん」
娘を不安にさせてはいけない。
私は娘の横で眠るためにベッドに入る。
彼女が眠りについても、私は目を閉じたまま意識だけは覚醒していた。
明け方になって、眩しさが差し込んできても、トオルはまだ砦を作るために働いてくれている。
元々領地に住んでいる村人は少ないため、トオルの方針で、子供以外は全員が魔物を狩るようにして、レベル上げをしていた。
それは、村から森まで近くで壁を築いていると言っても、いつ魔物が侵入してくるのかわからないからだ。
午前中は、フルフルを連れて、皆の指揮をとって魔物を討伐する。
畑などの作業もしなければならないので、人数を三部制で分けている。
魔物の討伐。
農作物の世話。
加工や細工の準備。
全てトオルが考えたことで、私はトオルのアイディアに効率が良くなる方法を考えたに過ぎない。
「領主様!」
いつもより10名少ない村の中を、ハンスが私を呼ぶために走ってくる。
「どうしたのだ、ハンス? 何か問題でも起きたのか?」
「いえ、ヨーゼフのやつが戻って参りました!」
「ヨーゼフが? トオルはどうしたんだ?」
「それがわからないので、お話を聞いて頂こうと思って」
「わかった。フルフル、一緒に行こう」
「うん」
ドラゴンであるフルフルは、子供の体をしているが、魔物を討伐する際に、力を発揮してくれている。
普通の者たちがレベルをあげるよりも明らかに強い。
トオルの成長が異世界人ということで早いのはわかっていたが、フルフルはそれに負けない成長速度で強くなっている。
そのため、トオルがいない村ではフルフルが一番の戦力として役に立っていた。
「ヨーゼフ、よくぞ無事に戻った」
トオルと共に作業に赴いた9名が全員が戻ってきた。
「どういうことだ? トオルはどうしたんだ?」
「トオル様より伝言を預かっております」
ヨーゼフの話を聞いて、私はトオルの危機を感じ取った。
これでもセリフォス兄上の元で、領地経営以外にも戦術や戦略なども知識として学んできた。その中には相手との駆け引きも含まれており、トオルが危惧するようなことももちろん含まれている。
ユリウス兄上がどのような戦いをするのかわからない。
勇者アンリを頼りにしているからこそ、気にもしていないのかもしれないが、あまりにも無防備すぎる。
「わかった。すぐにソカイの街へ使いを出してくれ。手紙を認める」
「はっ!」
「ヨーゼフ、よくぞ無事に戻ってきてくれた」
「いえ! 全てはトオル様の機転のおかげです。我々があのまま砦に留まっていれば、敵へ突撃をかけさせられていたかもしれないのです」
ユリウス兄上ならば、やりかねないと思ってしまう。
「ヨーゼフたち九人は夜通し働いてくれたのだ。ゆっくり休んでくれ」
「ハンス、使いを頼む」
「はっ!」
私はすぐにソカイに家令に向けて手紙を認め、準備だけはしておくように伝えた。
王族を死なせたとあっては何かとソカイの地も悪く言われてしまうので、協力は惜しまないだろう。
「フルフル。明日は戦場に向かわなければならない。君はこの地を守っていてくれるかい?」
「いや! フルフルも一緒にいく!」
「ごめん。まだそれはできない。フルフルが大人になって、ちゃんと理解できるようになったら必ず連れて行く。だから今は待っていてくれないか?」
私は帰って来れるという保証はないと思いながらも娘に待ってて欲しいと言い続けることしかできない。
「わかった。パパ、必ず帰ってきて」
「ああ、お父さんも一緒に連れて帰ってくるからね」
「うん」
娘を抱きしめて、約束をした。必ずどちらかは帰ってくる。
この命を散らしても、トオルだけは守ってみせる。
トオルの報告では、敵は一時的に撤退して、体制を整えて軍勢で襲ってくるとか書かれている。
そのため砦に群がる敵兵の背後から、奇襲を仕掛けてほしいと書かれていた。
こんな危機的状況にも関わらず、私の手柄を考えてくれているトオルは家族思いな人だ。
「必ずやり遂げる」
私はフルフルとヨーゼフたち作業を行なった者たちを村に残して、ハンスを指揮官に20名ほどの精鋭部隊を築いた。
メインはソカイ軍に担ってもらうが、我々も遊撃部隊として参加する。
何よりもソカイの地には将軍がいない。
つまり軍を指揮できる者がいないことになる。
私が指揮官になって指揮をして動いてもらうつもりだ。
「グシャの兵よ! 領主自ら貴様らを指揮する! 勝ちに行くぞ!」
「「「「おおおおお!!!!」」」」
叫び声を上げる精鋭と村を出た。
見送りにフルフルが来ていたが、彼女の悲しい顔が見たくなくて、手を振るだけにとどめてしまった。
もっと、かまってあげたかったが、許してほしい。
トオル、待っていてくれ! 必ず迎えに行く。だから死ぬな!
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