第21話
砦に陣を構えた王都軍は、すぐに戦闘を開始した。
隣国の兵士が、砦を破壊するために押し寄せてきたからだ。
相手も同じ1000程度の兵士を連れてきたが、俺が作り上げた砦が防御を固め、ユリウス王子が連れてきていた女性勇者がチートだった。
「アンリ。どうか、私のために力を使ってくれないか?」
「ユリウスが言うなら仕方ないね。ふふ、イケメンは得だよね〜。こんな美少女にお願いができるんだから」
「はは、君が私の陣営に加わってくれて本当に助かるよ」
「利害の一致ってやつだよね。仕方ないやりますか!」
俺は同じ世界からやってきた彼女も、同じように忌避感を持つのではないかと危惧してしまう。
「あ〜面倒だな。死んじゃえよ!」
だが、俺の心配など全く関係ない苛立った声を出して、アンリと呼ばれた勇者は予想通り魔法を展開していく。
ブラフによって鑑定してもらった結果。
♢
名前:アンリ・ヤマジ
年齢:19歳
性別:女性
称号:異世界の勇者
職業:魔導士
レベル:3
生命力:100
攻撃力:20
守備力:10
魔力量:500
魔法力:500
魔法守備力:3000
魅力:30
運力:10
通常スキル:全魔法属性(熟練度初級)、魔法の才能、
固有スキル:無詠唱(熟練度初級)、自動翻訳(熟練度MAX)
知識スキル:異世界知識。
加護:魔導神からの加護。
♢
あまりにも魔法に偏ったチート能力かな対して、不思議に思った。
普通に攻撃を受ければ弱く、物理攻撃が当たればすぐに死んでしまうんじゃないか?
しかも俺がこっちにきて三カ月の間にレベル上げを頑張ってやっていた。
しかし、彼女はレベル3のままだ。戦闘をしたことはあるのだろうが、あまりにもレベルが上がっていない。
「この勇者なら」
俺は共に召喚された勇者たちが圧倒的な強さを手に入れて、手に負えないことを想定していた。だが、今の彼女なら俺でも倒せそうだと思えてくる。
「敵が退避していく! さすが勇者アンリだ!」
「えっ? もう、全然歯応えないんですけど」
魔法は確かに凄い一発目の爆発魔法で、数名の兵士を倒すことができた。
だけど、相手もバカではない。
強力な魔導士がいて、砦がある相手に無闇に突っ込んではこない。
「十分に活躍してくれているよ。初戦闘は我々はの勝利だ! 勝鬨をあげよ!」
ユリウス王子の言葉に兵士たちが歓声をあげる。
本当にそうだろうか? 敵軍としても様子を見て、離れた場所でこちらを伺っているような気持ち悪い感覚を覚える。
こんな時に、ブラフが近くにいてくれたら相談ができるんだが、いない相手を求めても仕方ないな。
「ヨーゼフ、少し頼みたいことがあるから数名を連れて、砦を離れてくれるか?」
「よろしいのですか?」
「ああ、伝令だ。今の状況をブラフに伝えて、必要なら救援が送れるようにしてほしい」
「救援が必要には思えませんが?」
「ああ、だがどうしても嫌な予感がするんだ」
「わかりました。トオル様の言葉を我々は信じております」
ただ、勝手に脱走させたと言われては困るので、俺はユリウス王子に進言をすることにした。
「初勝利おめでとうございます!」
「うん? なんだグシャの者か、我は気分がいい。何か言いたいことがあるなら、言ってみろ」
「勇者アンリ様のご活躍とても素晴らしいと感じました」
「そうだろうな」
「はい! 私はこの勝利を最後まで見届けて勝利の一員になりたいと思います」
「くくく、グシャの民にしておくのが、惜しいほどに面白い奴だな」
俺は腹の中で舌を出しながら、ユリウス王子と勇者アンリを褒め称えた。
「このまま勝利は確実だと思われます。そこでソカイで祝勝パーティーが出来るように伝令を向かわせたいのですが、よろしいでしょうか?」
「気の早い奴だな。だが、先程も言った通り気分が良い。貴様の申し出受けてやろう」
「ありがとうございます! 最後まで勝利を!」
すぐに馬鹿騒ぎをしている砦を出て、ヨーゼフたち九人をグシャに向かわせるように手配した。
「トオル様は、一緒に行かれないのですか?」
「俺も出て終えば、ユリウス王子にあやしまれてしまう。ブラフに事情を伝え、ソカイにいる兵を動かしてもらってくれ」
「かしこまりました! 必ず戻ります」
ヨーゼフたちを見送り、俺は確保していた食糧を口に入れて見張り台に上がっていく。
「あぁ? なんだお前?」
「グシャ領からお手伝いに来たものです! 見張りを交代します!」
「はは! 助かるぜ。みんなが初勝利に酔いしれてるなかで見張りをさせられて嫌気がさしていたんだ」
見張りの兵は喜んで見張り台を降りていく。
俺は代わりに見張り台の上から敵国へと、視線を向けた。
隣国とは、どんな相手なのかブラフに聞いているから、初勝利に酔いしれていてはいけないのだ。
身を引き締めるぐらいでなければならない。
「嵐の前の静けさだな」
隣国は、王国と違って勇者召喚は出来ない。
それでも滅亡することなく、国を続けている強国なのだ。
油断は決してしてはならない。
ブラフと何度も話し合って出した答えだ。
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