第20話 

 深夜になって、敵も寝静まった時間にイカダの上に物資を載せて川を下っていく。


 こちらが上流であったこともあり、向こう岸へと一気にイカダを繋げて川を渡らせる。


 作業員を配置して、数日かけて手作業の地ならしをしていた。下準備をすでに一カ月前から始めていたのだ。


「全ての物資が届いたな」


 人員は最低限の作業員だけ、もしも敵に見つかれば、攻められる恐れがある。


 ブラフとフルフルには、領地を守ってもらい。

 俺は少数精鋭で砦を築いていく。


 世に知られた一夜城だ。


 木の加工スキルを持っている俺には難しいことじゃない。大量の木々を椅子を組み立てるように砦としてイメージして一気に組み上げる。


 ただ基礎はしっかり出来ていないので、数日しか持たないハリボテの砦ではあるが十分な働きはしてくれるはずだ。


「一気に組み上げるぞ!」


 俺は暗闇の中でも、問題なく作業ができる

 パーツを先に作っておいて、順番に型にはめていくだけだ。


 レベルが上がったことで、全身の筋力が上がっている。体力も増えた。夜目も効くので、月明かりで十分に作業に支障はない。


 様々な恩恵が俺を進化させていることが、ここ数日で分かった。


「トオル親方、外壁は完成です」

「よし、明るくなってきたから、砦を一気に組み上げるぞ」


 1000人ほどの人間が寝泊まりできる屋根ありの拠点を完成させる。


 一万人と言われるとかなり厳しいと思っていたが、1000人程度ならば、十分に収容できるだけの木材が、グシャ領には存在した。


 さらに、荒地だったことで、魔物が自然に発生していて、大量の肉に困ることもない。


 それを塩漬けの保存食にして、干し肉と干し飯を大量に作って食料の確保もできた。


 あとは敵に攻め込まれる前に、味方陣営が到着すれば問題ない。


 ソカイの家令には、王国の軍勢に出立して欲しい時間を伝えたいる。


「出来たぞ!」

「「「おう!!!」」」


 明け方には立派な一夜城が完成した。


 川につけていたイカダがそのまま砦の壁や、外堀となって活用されている。


 ここまで運ぶのもロープで繋いでいて、水をたくさん含んでいるので、一日程度なら火矢を放たれても燃えることはない。


「俺たちの一夜城の完成だ! だが、油断するなよ! 敵が来るまでここを死守するんだ!」

「「「おう!!!」」」


 俺を含めて男ばかり10名ほどで、作り上げた。

 作業は夜通し行われたこともあって、疲労が溜まっている。


 順番に眠ってもらい、女神様に頂いた回復魔法を皆に使っていく。


 ここを守らなくちゃ意味がない。


 砦の中に食料を運び込んで、味方を待つばかりだ。


「てっ、敵襲!!!」


 しかし、なかなか味方が現れない。


 味方よりも先に偵察部隊としてやってきた敵が俺たちの砦を見つけた。


「なっ! なんだこの砦は! いつこんな物ができたんだ! ええい、こんな物がここにあっては我々の領地が危ない! 破壊せよ!」


 数はこちらよりも少ない。


 五名ほどの少数だ。


 しかし、こちらはただの平民。

 向こうは兵士として装備を整えた物たち。


 まともに戦っても勝ち目はない。


 だから俺は真っ先に指揮官らしき者を狙って、火の魔法を使った。


「ファイヤーボール!」


 遠距離攻撃が可能で、敵を倒せる火力を含んだ魔法が指揮官を焼いて行く!


 初めてこの手で人を……。


 手が震えてそれでも俺がここでやらなければ砦が壊される。


「皆の者! 用意していた石を投げよ!」


 こちらの砦を破壊しようと向かって来ていた者たちにはロープと石を組み合わせて作った投擲スリングで攻撃を行う。


 弓矢なんて上等な物は存在グシャ領で何か攻撃手段が用意できないかとカタログ召喚をしながら調べた結果。


 石にロープを巻き付けて、回して勢いをつけて投げつけることで威力を増幅させる武器の存在を知った。


 近距離戦闘では勝ち目がない。


 だからこそ砦があることを活かして、攻撃方法を用意しておいた。


 一カ月の間に、作業員にはその練習もしてもらっている。いきなり渡されて使えるとは思っていない。


 数日ではあったが、十分に成果が出せるほどの効果は得られた。


 目の前で倒れていく敵兵、残りの四人も倒すことができた。


「砦を死守したぞ! 奴らのことがバレないよう埋めるぞ!」


 最初から敵が攻めてくることは想定していた。


 だから、穴を掘ってそこに敵兵を安置する。


 他にもトイレ用やゴミを捨てるようの穴なども事前に用意してある。


 視察隊が戻らない場合は、一定数の兵が攻めてくるか、また視察隊が来ることが想定できる。


 少しでも時間を稼いで、味方が来るのを待つしかない。


 自分の手を見て嫌悪感に苛まれる。


 同時にブラフとフルフルの顔が浮かんできて、自分がやらなければ、二人を守ることができない。


 気持ちを奮い立たせて、目を閉じた。


「親方! 味方です!」


 敵側ではなく、味方の方角から軍勢がやってくる光景に涙が出そうになる。


 俺たちはやり遂げたんだ!


「迎え入れる準備をする! 近くまで引きつけ味方か判断してくれ!」

「かしこまりました!」


 彼らにも帰ったら特別報酬を渡してやりたい。


 ユリウス王子の不機嫌そうな顔を迎えいれる。


「ようこそおいでくださいました」

「本当に敵陣営前に砦を! どういう仕組みだ?」

「書状を頂いた一ヶ月前から準備をいたしました」

「ふん、そうか。ご苦労」


 受け渡しは済んだ。

 あとは立ち去るだけだ。


「お前はグシャの者だな?」

「はい! 何か?」

「貴様らも共に戦っていけ、人員は一人でも多い方がいいからな! これは命令である!」

「なっ!」

「なんだ文句でもあるのか?」


 ここで逆らっても良いことはない。  


「かしこまりました」

「うむ。まずはもてなしをせよ。我々は飲み物しか持った来ておらぬからな!」

「はっ!」


 ユリウス王子が連れて来た兵に食糧を渡して、用意を促す。


 横柄な態度なのは王子だけでなく兵士も同じだった。


「こんなチンケな物だけが? 所詮はグシャだな!」


 それはブラフを揶揄しての言葉なのだろう。


 怒りが湧いてきたが、大人しく黙って彼らに従った。

 

 それがブラフのためになると信じて……。


 

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