第19話

 ソカイの街を歩いていると、珍しい建物が目に入ってきた。

 

「あの建物は?」

「教会だね」

「教会?」


 異世界に来てから初めて見る変わった建物に興味を持った。教会は元の世界でもあまり馴染みがないから、見たことがないのも納得できる。


「興味があるの?」

「ああ、ちょっとよってもいいか? 戦勝祈願ってことで」

「まぁいいんじゃない」


 俺たちは教会に入っていくと、神父服をきたお爺さんが祈りを捧げていた。


「おや、お客様とは珍しい。お若い方々、本日はどうされました?」

「実は、明日から隣国と小競り合いがありまして、戦勝祈願に祈りを捧げたいのですがいいですか?」

「もちろんです。神は信心深い者を救済してくれることでしょう」


 神父様に、お布施を渡して祈りを捧げさせてもらう。

 俺たちが渡したお布施が満足する額だった様子で、ニコニコとした神父様はわかりやすい。


「祈りたまえ、祈りを捧げる者たちに女神よ。どうか応えたまえ」

 

 神父様の声が響くと教会の中が光り輝く。


「うん? 誰?」


 そう言って女性の声が聞こえて、祈りを捧げるポーズをとっていた俺は目を開く。


「えっと、女神様ですか?」

「そうよ。私、愛と美の女神フレイヤ。そんで? あんた誰?」

「えっと、トオル・グシャと言います」

「へぇートオルって言うんだ。よろ〜」


 真っ赤なロングヘアーに美しい容姿、軽い感じの女神様は、思っていたのと違う。

 プカプカと浮きながらマニュキュアを塗っている。


「そんで? 何? 何か願い事?」

「えっと、この先の未来が安全に送れますように?」

「ハァ〜そんだけなの? そんで? 隣の子は何? 友達? 綺麗な子ね」

「いえ、婚約しているので夫? ですかね」

「マジ!」


 俺がブラフを紹介すると、ブラフは祈りを捧げるポーズのまま固まっている。


 どうやら時間が止まっているようだ。


「男同士じゃん! いいわ〜! マジ、尊いわ! あんたら最高じゃん。気に入った! 私は気に入ったよ! やっぱり尊い物は愛でてこそよね」

「えっと?」

「うん。決めた。あなたに一つだけスキルを授けてあげる!」

「えっ? いいんですか?」

「あっ、なんだあんた鍛治神の加護を持ってんじゃん。もしかして異世界人?」


 ブラフのステータス鑑定で見てもらった際に???神の加護というのは確かに記されていた。

 

 それが鍛治神の加護だと始めて知った。


「はい。そうです。鍛治神って?」

「やっぱりそうだよね。ウケる〜」


 勝手に浮きながら笑っている。


「異世界人って、無駄に能力強いから、神たちが監視する意味で加護つけてるの。だけど、珍しいね。鍛治神って結構気難しい子なんだけど、あんたに加護を与えるって」

「そうなんですか?」

「うん。ちょっとねぇ〜変わった子なのよ。そんで? どんなスキルが欲しいわけ?」

「えっ?」

「だから、一つだけスキルをあげるって言ったでしょ?」


 俺は女神様に会いに来て、いきなりスキルをもらえると思わなかったから、何も考えてなかった。


 どうすればいいのか考えて、ブラフを見た。


 戦場に出て、ブラフが怪我をした時の事を考えてしまう。


 ブラフだけじゃない。フルフルが怪我をしたら誰が見てくれる? お医者さんがいない。


「あの! 回復魔法とか治療魔法っていうスキルでもいいですか?」

「いいよ〜、尊いわ〜。そっちの子を見て決めたっしょ」

「えっ? あっはい」

「ふふ、守ってあげたいんだね。何かあったときに」


 女神様は俺の願いに満足そうに何度も頷いていた。


「はい!」

「うん。いいね。めっちゃいいわ。萌える! それに、こっちの子は男の子にしては可愛いから推せる! うん。君たちコンビはいいね。気に入った。こっちの子にも加護をあげよう」


 めちゃくちゃノリが軽い。


 本当にいいのだろうか?


「えっと、そんなにしていただいていいんですか?」

「いいのいいの。お姉ちゃんの言うこと聞いておきなさいって。私ってさ、愛と美の女神でしょ。二人の愛が尊いって思えば応援したくなっちゃったんだよね。それに、この子って美しいから、もっと磨きたくなるじゃん」


 舌なめずりして、ブラフを見ている女神様に若干の恐怖を覚えてしまう。


「私ってさ、普段はドSなんだけど、気に入った子には世話を焼いちゃうタイプなんだよね。だから、気にしない気にしない。それと私と鍛治神の銅像を作ってね。そうしたら、あなたたちのことをもっと見守ってあげられるから! あっ、これ私とあの子のモデルだから。それじゃねぇ〜」


 そう言って俺のカタログ召喚が勝手に発動して、フレイヤ様と鍛治神様らしき人たちが写っているカタログが手元に残った。


「トオル? どうかしたの?」

「うっ!?」

 

 ブラフに声をかけられて、女神様が言っていた加護の効力を目の当たりにする。


 いつもの二割増ぐらいでブラフが輝いている。

 それも可愛いとか、綺麗とかいう風に輝いている。


 あの女神様、なんてことを!


「ねぇ、なんだろう? トオルがいつもよりもカッコよく見えるなんだけど」

「なっ!」

「そうですね。お二人とも祈りを捧げたことで聖なる気を纏われたようです。これも女神様のご加護でしょう。これからも女神様の幸在らんことを」


 神父様に別れを告げて、俺たちは教会を後にした。


 ソカイの街でチラチラと見られてしまうので、俺たちは急いでグシャの村に帰った。

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