第18話

 ソカイの街で第二王子ユリウスを迎える。


 薄い青色の髪をしたイケすかないイケメン王子様。

 その横には、一緒に異世界紹介された勇者の一人が付き従っていた。


「お待ちしておりました。第二王子ユリウス様」

「ほう、家臣の礼を取るとは、少しは賢くなったじゃないか、ブラフ。そういう態度を王宮でもとっていたら、もっと可愛がってやったのになぁ〜」


 ブラフの顎を掴んで強引に顔を上げさせるユリウス王子。

 

 俺はぐっと拳を握って耐えた。

 

 ここで、この王子を殴っても誰の得にもならない。


「離していただけますか? いくら王子でも貴族の顔を掴んで良いはずがありません」

「ふん、家臣の癖に偉そうだな。まぁいい。お前たちは支援する側の人間だ。ちゃんと支援できるんだろうな? まさか何も用意していませんでは話にならんぞ」

「此度は、ソカイ領から、物資と薬剤の提供がなされます。我々グシャ領からは食糧と拠点を提供させていただきます」

「はぁ? 拠点だと」

「はい!」


 俺が教えた通りにブラフが第二王子ユリウスに告げる。


 ソカイ領の領主は王都にいるので、家礼を務める老人がソカイ領屋敷を提供してくれた。

 王族を迎える場所を設けられた。


「嘘をつくなよ。これから向かう隣国との国境沿いは、草原だ。そんな場所に拠点をつくれば、すぐさま隣の国から破壊するために兵が送られてくるに決まっているだろ!?」

「それは到着して自ら、確認して下さいませ」

「ふん、もしも拠点がなければわかっているだろうな? 即刻王へ嘘をついたと報告させてもらうからな」

「はい! もちろんです」


 ブラフが自信満々で答えたことに、ユリウス王子は面白くなさそうにそれ以上言葉を発するのをやめた。


「それでは明日、現地でお待ちしております。本日は長旅の疲れをソカイ領でごゆるりとおやすみください」


 これ以上一緒にいても、こちらもあちらも気分が良くないだろう。

 不意に、召喚された勇者を見てみたが、どうやらこちらに興味がないようだ。

 出されたお菓子とお茶を堪能して、見向きもしなかった。


 女性のようだが、どんなチート能力を持っていたのか覚えていない。


「ブラフ様」

「ああ」


 俺の言いたいことがわかった様子でブラフは、勇者を鑑定してくれた。


「それでは失礼します」

「はっ! さっさといけ」


 ユリウス王子は好きになれそうにないタイプだ。



《sideブラフ》


 不思議なものだ。


 王宮にいた頃は、ユリウス兄上を怖いと思っていた。

 そのはずなのにトオルが横にいてくれるだけで、怖さが半減した。


 今でもユリウス兄上は苦手だ。


 だけど、怖くはない。


「本当にあれで良かったのかい?」

「ブラフはよくやってくれた。前に嫌な思いをしたって言っていたのに怖くなかったか?」

「ああ、トオルが側にいてくれたからね」


 そうだ、トオルが私に勇気をくれたんだ。


 トオル知っているかい? 私は本当は酷く臆病な性格だったんだ。


 人前で話すことも苦手だった。人付き合いも苦手で、ハーレムにいた頃は友人と呼べる人はいなかった。


 セリフォス兄上か、代わる代わるやってくるメイドと話をするだけだった。


 そんな私に光を与えてくれたのは、いつもトオルだった。領主になって村人と交流を持つようになるなど考えてもいなかった。


 命令をして、それを実行させる。


 多分、私も他の貴族や王族と同じで、村人一人一人のことなど考えて行動はしない。だが、トオルは一人一人に目線を合わせて会話をしていた。


 楽しそうに笑顔で語るトオルに、誰もが惹かれて集まっていく。


 私が遠くから、それを眺めていると、トオルは私の手を取って同じように中心に連れていくのだ。


 だから、怖いと思っていたユリウス兄上の前でも、トオルが横にいてくれたから何も怖くはなかった。


 だって、ユリウス兄上に嫌われても、私にはトオルがいてくれるのだからな。


「俺なんて貴族様ってだけで、ビビりまくりだったぞ」

「本当に? トオルはいつも堂々としているじゃない」

「まぁ、貴族と王族の違いはイマイチわかってないのは事実だ」

「はは、その辺も勉強しないとね」

「おう、ブラフが教えてくれるなら、頑張るぞ」


 どうして、そんなにも前向きでいられるの? カタログ召喚だって、本当は私がいないと何の意味もない能力だよ。


 火の魔法を使えるようになって、戦闘でも力を発揮しているけど、トオルは最初と変わっていない。


 どうして能力がなくても普通でいられるんだろう? どうしてみんなと笑っていられるの? フルフルも私よりもトオルに懐いているんだよ。


 私はお世話をすることで、懐いてもらおうと努力をしているけど、トオルが来たらフルフルはすぐにトオルに抱きついて、膝に乗りにいくんだ。


「うん。何でも教えてあげるよ。トオルのためなら」

「何だそれ。ほら、明日の朝には砦を組み立てるから今から忙しくなるぞ」

「わかってるよ。行こう。トオル」


 私はそっとトオルの手を握ってみた。


 トオルは少しだけ驚いた顔をしたけど、振り払うことはない。


 私は嬉しくなって、口元がニヤけてしまう。


 屋敷の窓から、ユリウス兄上がその光景を見ていることなど気にしないほどに浮かれていた。

 

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