第17話 

 ブラフに届いた手紙には、第二王子ユリウスが隣国と戦闘をする支援を行うようにという命令書だった。


 この国は常に魔族や隣国と小競り合いを続けている。

 所謂、戦国時代のような小国が集まったような世界なのだ。


 王国は、勇者召喚という裏技で勝利して、各方面に対して力を示している。


 今回も勇者を召喚した力試しと、王国の王子が指揮を取る名目が欲しいようだ。


「おいおい、俺たちはここにきて、三ヶ月しか経っていないんだぞ。支援する物資も、食料もないのにどうやって支援をしろって言うんだ?」


 ブラフに怒っても仕方ないが、やっと領地経営の形が出来始めたばかりで邪魔が入ることに苛立ってしまう。


「……無税の代償がこれだったのか」

「無税の代償? どういう意味だ?」

「父上が言われていたんだ。貴族として、領地を得る以上は、王国の緊急時には領民よりも王国を優先しなければならない。三年は王国へ無税であっても、有事には協力してもらうぞと」


 つまり、王様は最初からこういうことが起きることを想定していたのか。つくづくこの国の王様は。


「やられたね」

「だが、どうにかして支援はしなければいけないってことか?」

「ああ、何もしないというのは許されないだろうな」

「とにかくそれを考えよう。期限とかはあるのか?」

「一ヶ月ほどだね」


 一ヶ月で俺たちにできること、頭を捻って俺は浅知恵しか思いつかない。


「全然期間がないじゃないか、急ピッチで取り掛かれるか」

「何をするの?」

「普通は、支援っていうのは何を求められる物なんだ?」


 俺は異世界の戦争という物を知らない。

 いや、元の世界でも戦争なんて経験したことがない。


 だけど、大工としてボランティア活動には参加したことがある。


 国が支援物資や、建築機材を送ってプレハブや、家の再建などを大工たちに頼んできたので、それを実行する仕事だ。


 もしかしたら、それを活かせるかもしれない。


「そうだね。普通は食料、次に武器や治療に必要な薬剤。他にはテントとか、色々と遠征に持っていくと邪魔になる物を各地の領地で賄うんだ」

「なるほどな。つまりは、遠征時に休息を出来て腹を満たせる物が揃っていればいいんだな?」


 それなら荒地と川で用意できそうだ。


「うん。そうだね」

「なら、武器や薬剤などの物資の調達は隣のソカイ領に頼もう。隣国に攻める際に、こちらの領地に来るのは川を挟んで不便になるから、ソカイ領から陸続きで攻め込むはずだろうからな」

「多分」


 頭の中で地図を広げて、隣国と戦うのに最適な場所を考える。


「なら、こっちはテントと食料を提供する」

「食料だけじゃなくて、テントも? 布なんてないよ」

「忘れたのか? 俺は大工だぞ」

「えっ?」


 確かにこの世界の人間に大工だと言ってもわからないかもしれない。

 レンガ建築が当たり前で、お城もレンガと石を駆使して作れられていた。


 だが、俺は木の加工が出来て、ここは川沿いだ。

 ある秘策が俺の中で浮かんでいた。


 日本という国で、歴史に載っているポヒュラーな方法ではあるが、国境沿いに軍勢が休める場所を作ってしまえばいいというこの状況なら使えるはずだ。


「任せろ。そっちは俺がなんとかする。だから、ブラフは村人たちに大量の食料になる魔物を捕獲するように命令してきてくれ。肉はいくらあっても足りないからな。軍勢の規模なども書いてあるのか?」

「わかった。軍勢は」


 約千人の中隊で攻撃を仕掛ける。


 大規模な戦闘ではなく、第二王子が戦場に出たという箔をつけるために行われる演習のようなものだろう。

 

「うん。それなら問題ない」

「そうなのか?」

「ただ、ソカイの領地にテントを張るから、向こうの家令に許可もとっておいてほしい」

「わかった」


 箔をつけるためなら、数ヶ月も居座ることはないだろう。

 一ヶ月が良いところか? なら、問題なく可能なはずだ。


「すぐに取り掛かろう。まずは、木が必要になるから伐採する。カタログ召喚で機材を具現化してくれ」

「わかった!」


 俺たちはすぐに動き出した。


 フルフルには悪いが、魔力吸収は少なめにしてもらう。

 ブラフには具現化魔法を中心に魔力を使ってもらうからだ。


 木々の伐採して必要な量を確保する。

 次は木々を加工して、イカダを幾つか作った。

 

 村人たちには戦場のために保存食を大量に作ってもらう。

 倉庫に貯蔵していた塩は大量に使うことになったが仕方ない。


 これは王国とグシャ領の戦いだ。


 グシャ領が手紙の指令に失敗すれば、ブラフは蔑まれ、無税を取り下げられるかもしれない。

 

 今まで臨時で求められていた税金が、固定で支払う必要が出てくる。

 今のグシャ領にとっては、どっちが良いのかと問われれば、臨時の方がありがたい。その時だけ用意すれば良いのだから、固定で渡せる物が何もない。


「絶対にやり遂げて見せるぞ」


 二日で必要なだけの伐採を終えた俺は木々を乾燥させるために並べて、五日目から加工を行う。空いている時間で、魔物を狩ってレベル上げもしておく。

 

 もしかしたら戦場に駆り出されるかもしれない。

 こんなところで無駄死になんてするわけにはいかない


 異世界にきて、ブラフとフルフルと出会ったことで、目的が出来たんだ。


 絶対に王国の思惑なんかに潰されてたまるか!


「トオル。どうしてここまでしてくれるの?」

「何を言っているんだ?」

「だって、王国から無能だと思われるのは私だ。トオルじゃない。それなのに、トオルは自分のことのように頑張ってくれているから」

「ブラフ、俺たちはもう家族だ。家族を守るのは当たり前だろ?」


 俺の言葉にブラフは驚いた顔をして、瞳を潤ませる。


「わからないよ。私は家族の愛情なんて知らない」

「そうか? セリフォス様だったか? お前の兄さんは冷たそうに見えて、ちゃんとお前に愛情を注いでくれていたと俺は思うぞ。だから、今のお前は優しく育ったんだってな」


 戸惑いを見せるブラフの頭を撫でてやる。フルフルも頭を差し出すので、両手で二人の頭を撫でてやりながら、俺は最後の仕上げをするために準備に頭を使う。


「必ず、成功させてみせからな」

「うん。トオルならやり遂げてくれると信じているよ。そのために協力する!」

「ガオー!」


 二人に応援されて、昔の人に習った方法を使わせてもらう。

 

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