第16話

 フルフルが生まれたことで、一つの目標を立てた。

 それはこれからの異世界をどうやって生きていくのか決める指針だと俺は思うことにした。


「なぁ、ブラフ」

「なんだい?」

「俺は魔物と共存できる領地を作りたい」

「魔物と?」

「ああ、王国は魔族と戦っているんだろ?」

「そうだね。他の国とも戦っているよ」


 フルフルが俺の膝に座って、俺が作った木彫りのオモチャをガジガジと齧っている。少し歯が生えてきて、痒いのだろう。


「フルフルや他の魔物と共存できる環境を作りたい。もちろん、害獣として認定されているゴブリンや共存出来ない魔物がいることもわかっている」


 俺だって理想を押し付けたいわけじゃない。


「率先して戦うことをやめるわけじゃない。だが、食べられる魔物であっても取りすぎないで環境を守ってやりながら、自然が整った領地にしてやりたい」

「漠然と領地経営をしなければいけないと思っていたんだけど、トオルの意見に私も賛成だ。フルフルがのびのびと暮らせる環境に作ってやりたい」


 フルフルのためっていうのもあるが、この世界の魔物が可愛いくて、守ってあげたいと思う存在なら、共存できる環境を作りたい。


 だけど、俺たちも生きていくためには、彼らを糧としなければいけない場合もある。


 だからこそ、少しでも彼らと共に生きる方法を考えていきたい。


「そのためにも領地の全体を把握することは大事だ」

「そうだな。荒地と化している未開の森を攻略して、魔物を討伐する」

「うん。私は常々、トオルの行動力には驚かされる。私たちのレベルが上がることで魔力量が増えて、しかも強い魔力をフルフルに与えられる」

「そうだ。俺たち自身が良質で、美味しい魔力を保有する」


 魔物の生態系を知らない俺にブラフが講義を行ってくれる。

 それをフルフルも一緒に聞かせることで、勉強を一緒に行う。


 まだまだ話ができるわけではないが、フルフルは賢くて、俺たちが置かれている状況を理解していくれている。


 グシャ領と、王に名付けられた領地は、広大な荒地と化した森が八割だ。

 さらに、川が一割に、我々が開拓した場所が一割。


 王都へ続く南の街道。

 北は荒地の森から高い岩山が見えており、東には隣国があり、大きな川で分断されいる状態だ。


 そして、西は荒地が続いているが、北のように岩山が見えるのではなく、その先には海があるのだとブラフが教えてくれた。


 つまりは、山と海に囲まれた領地なので、様々な魔物と共存することができるはずだ。


 ただ、魔物の中には人喰いなど、どうしても相容れない魔物も存在する。


 そういった者たちには悪いが、俺たちは聖人君子じゃない。与えられた領地の中で共存できる魔物とだけ暮らしていく。


 良き隣人として、互いに支え合い暮らせる関係が整えられる相手だけだ。


「元の世界でも家畜として、生き物を管理していて共存していた。そういうことに役立つカタログを取り寄せてみよう」


 家畜道具のカタログが召喚できたが、正直何が何か全くわからなかった。


 畜産についての知識が全くないことを思い知らされた。

 それに魔物の生態なども知らないので、どの魔物が共存できて、どの魔物がダメなのか、調査も必要になる。


 出来ることを一つずつやっていくしかない。


 荒地は見えている範囲から順番に木を切り、数を減らしていく。

 全ての木を切るわけではなく、こちらから見通しをよくして、見張り台などの材料に使わせてもらった。


「トオル様、見張り台はかなり使い勝手が良いです」

「ああ、大工として本領発揮できる場があって良かったよ」


 宮大工を目指していたことで、釘を使わなくても組める方法を知っていたことが今回の見張り台に生きていた。


 前回、町で作った組み立て式の椅子は道具があった。

 しかし、この世界にはロープや釘がすぐに手に入らない。


 ロープは存在しているが、貴重な物であり、釘は特注で頼まなければ作ってくれないのだ。


 だからこそレンガ調の壁が積み上げて土で固めるという家が多いのだろう。


 雨風に対しても強くなっていて風通しが良い。


 だが、せっかく俺がこの場にいて、荒地で取れる大量の木材があるなら、加工して家や見張り台。箸や柵など作れるものは全て木材で作っていきたい。


 不燃剤などはないので、燃えやすくはあるが、これだけ大量の木材があるので使わない手はない。


 手先が器用な奴らを何人か弟子にして、食器や家具なども作らせている。


「まさか、こんなところで職人ギルド証明書が役に立つとはな」

「冒険者ギルド、傭兵ギルド、商人ギルド、職人ギルドは、王都でも有名な四大ギルドだからね。世界をまたにかけて活躍ができる。その中でも職人ギルドは入ることが難しくて、何年も技術を磨く弟子になって、親方の許可が出れば職人ギルドの試験が受けられるらしいよ」


 俺が受かった後に、ブラフが色々と調べてくれて、わかったことだ。


 職人ギルドに所属しているというだけかなりの地位を約束される。


 俺が指示を出す際に、自分の経歴として職人ギルドに在籍していると伝えただけで、神様を崇めるように俺に手を合わせるのはやめてほしい。


「それだけ、技術っていうのものは貴重で、認められた人がいるってだけで尊敬できるんだよ」

 

 ブラフの説明は嬉しいが照れ臭ささを感じてしまう。

 

 だが、元の世界で磨いた技術が認められることが素直に嬉しい。


 ブラフの協力で、木々を倒す機材をカタログ召喚したものから具現化してもらって、さらに田畑を作るために慣らしをして領地拡大をしていく。


 そんなことをしている間に三ヶ月の時が流れていた。


 一通の手紙が、ブラフの元に届いていた。

 

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