領地経営スタート
第7話
俺の申し出を聞いてくれたブラフと共に、領民が住んでいる村へ向かった。
村人に老人は一人もおらず、若者と子供ばかりの小さな村だ。
「あっ、あなた方は?」
この中では一番歳を重ねていそうな男性が、オドオドとした態度で聞いてくる。
ガリガリの体は、食事をまともに取れていないことがわかる。
家々も、雨風は凌げているが、機能性が感じられない掘立小屋が数軒立っていた。
「こちらにおわすのは、この領地を治めることになったブラフ様だ!」
俺は大袈裟にブラフを持ち上げる。
そんな行動によって、集まっていた村人たちは驚いて平伏していく。
「領主様とは知らずに申し訳ありませんでした!」
やっぱりこの世界は貴族や領主という存在に対して、必要以上に謙る態度をとってしまう。
それほどまでに身分差に対して、絶対的な教育がなされているということだ。
「皆の者よ、顔を上げてくれ! 私は君たちと話をしたいのだ」
「はっ、話でございますか?」
「ああ、この村の者達はここにいる者たちで全員だろうか?」
「はっ、はい」
村人の返事で100名には程遠い、60名ほどの人々が平伏している。
もしかしたら、家の中に寝たきりの老人とかがいるのかと思ったが、家から気配はしない。
「そうか、ならばここにいる者たちを全員、私の従者として雇いたいと思うのだかどうだ?」
「へっ? 従者?」
「ああ、現在、私は領地経営をするために開拓をしなくてはいけない。そのための人材が必要だ。もちろん、無理に魔物と戦わせて殺すようなことはしない。田畑を育てる手伝いや、屋敷で家事仕事全般など、メイドや執事、庭師や農家として、様々な仕事を手伝ってもらいたい」
貴族としての品があり、優しい雰囲気を持っているブラフが話をすることで、村人たちも話が耳に入りやすい。
「あっ、あのそれは税を取られるのと、どう違うのでしょうか?」
「最初の一年は畑や開拓がメインだから君たちから税を取るつもりはない。逆に微々たる者だが給金と食事を提供しよう」
「そっ、それは本当でございますか?!」
食事という言葉に男性が飛びついた。
瘦せ細った体からわかるとおり、食料に困窮していたのだろう。
「まだまだ備蓄は少ない。だが、朝と晩、二食の提供を約束する。どうだろうか?」
ブラフの問いかけに、男性は戸惑いながらも他の村人たちの顔を見た。
戸惑っている者が多い中で瘦せ細った子供たちが目に入る。
「喜んでお受けいたします!!!」
「ありがとう。皆の名前と出来ることを聞いておきたいから、屋敷の方まで来てくれるか?」
「かしこまりました」
屋敷に来てもらう理由として、彼らのために食事も用意したからだ。
大きな鍋にスープを作り肉団子を入れた。
子供でもたくさん肉が食べられるように工夫しておいた。
スープの中に麦を入れて、麦粥にもしてある。
米やパンを用意してやりたかったが、流石に普段から食事を摂ってない物に固形物は胃が驚いてしまうと判断して、食べやすい麦粥に崩れて食べやすい肉団子にすることにした。
「まずはあなたからだ」
「はっはい。今、村の代表をさせてもらっているハンスです」
ハンスは30歳で、近くの村で農家をしていた。
だが、村に流れていた水が枯渇してしまって、途方に暮れている際に、こちらの領地を開拓すると言うので、やってきたそうだ。
他の村に集まっていた若者たちもほとんどが同じような状況だった。
戦争によって傷を負った者。
食べる物を求めてここにやってきた者。
生きるために必死にこの地を求めてきた者。
「ありがてぇありがてぇ」
涙を流しながら肉団子麦粥を食べるハンスたちに、俺たちは顔を見合わせた。
「私は彼らの領主として、開拓を成功させなければいけないな」
「ああ、まずは一年で荒地を整備して、人数分が食える畑作りだな。そのためにも種の確保と、普段から領民が食事ができるように仕入れにも力を入れてもらわないとな」
領主様としてブラフの仕事は増えていく。
だが、ブラフはやる気に満ちた顔で拳を握りしめた。
「任せてくれ。商人との交渉や、行商人に来てもらうようにしよう。それに難民などを受け入れて、領民も増やしてみせる」
「おう、その意気だ」
俺も自分にできることをしよう。
大工仕事だけじゃダメだ。
水場の確保、農地の整備、それにレベルがあるなら魔物を倒して、レベルを上げたい。
レベルを上げることで魔法が使えるようになるかもしれないからな。
ここは剣と魔法のファンタジー世界なんだ。
どうせなら、強くなってやろうじゃねぇか。
「それに面白い人材をたくさん見つけたんだ」
「人材を見つけた? どういう意味だ?」
「言っていなかったか? 私の魔法は具現化魔法ともう一つあるんだ」
「もう一つ?」
「ああ、王都では役立たずだと言われていたが、こうやって地方に来て初めて自分の価値を見つけた気がするよ」
「なんだよ。もったいぶらないで教えてくれ」
「私は鑑定魔法が使えるんだ」
「鑑定魔法?!」
俺は異世界ファンタジー小説では定番の鑑定魔法が使えるというブラフの言葉に驚いてしまう。
「マジかよ! ブラフ! チート魔法使いじゃないか?」
「はは、そこまで大袈裟なことじゃないが、皆の面接をしながら鑑定魔法を使っていたんだ。そうしたら隠された能力を知ることができた」
「ブラフ、俺たちにも希望が見えてきたな」
「ああ、私はやれる。そう思えたよ」
俺たちは鑑定で得た知識を元にして、村人たちの仕事を振り分けた。
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