第9話

 緊張で手が震えている……。


 自分で言い出したことだが、今から俺たちは魔物と初戦闘をすることになった。

 奇しくも、村にゴブリンが出たという。


 

 ゴブリンとは、緑色の肌をした醜悪の顔をした小鬼だ。


 繁殖能力が高くて、一匹見つければ、根絶やしにするまで増え続けるというので、村人と協力して討伐をすることになった。


 夕方から夜にかけて活動を開始するゴブリンを、本来は冒険者ギルドなどに依頼を出すのだが、あいにくこんな辺境に来てくれる冒険者はいない。


 ミギとヒリのコンビは護衛として付き合ってくれたが、ゴブリン退治に出向いてくれるほどお人好しではない。


 何よりも冒険者を求めている間にゴブリンの数が増えてしまう。


 だから、これは領主と領民が力を合わせて行わなければならない緊急の案件だ。


「大丈夫か?」

「お前こそ」


 俺に声をかけたブラフの体もガタガタと震えていた。


「もちろんだ。これまで訓練はしてきたんだからな」

「そうかよ。なら、これは領主として、領民を守る初仕事だ。気合いを入れろよ」

「ああ、トオルだって気をつけろよ。ゴブリンは魔物中では弱いと言われるが、油断すれば危険な魔物なんだ」

「わかっている」


 俺たちは互いに発破をかけて、村の捜索を行った。

 最初に発見されたゴブリンは、二体だった。


 その時はハンスが上手く倒してくれたそうだ。


 だが、一匹居れば根絶やしが必要なゴブリンだ。


 巣など作られていたら村が全滅させられる恐れまである。

 だから、俺たちはすぐに行動に移した。


 俺はカタログ召喚を使って必要なカタログを事前に召喚して、ブラフに使い方を説明した。


 普段はカタログ召喚の熟練度を上げるために、デザートや元の世界に有った品物のカタログを取り寄せていた。


 カタログを召喚すると魔力が消費される。

 召喚したカタログは一時間ほどで消滅していた。


「ゴブリンだ!」


 村人の声に、俺たちは顔を見合わせて現地に向かう。


 そこでは5匹のゴブリンが、村人と戦っていた。


「いやー!!!」


 それを見たブラフがゴブリンの背後から切り掛かる。

 さすがは元王子様だな。覚悟ができているじゃねぇか。


 俺は、昔からバカだったから喧嘩をよくしたものだ。

 だが、喧嘩は命のやり取りまではやらない。


 これは命のやり取りをする場所なんだ……。


 唾を飲み込んで、息を吐く。


 覚悟を決めなくちゃならない。


 俺が迷っている間に、ゴブリンがブラフの背後から襲い掛かろうとしていた。


「ブラフ!」


 無我夢中で、俺はブラフを襲うゴブリンに槍を突き立てた。

 槍が肉に刺さる感触が伝わってきて、ゾッとする悪寒が背中に伝わってきた。


「くっ!」

「ありがとう、トオル!」

「おう! どうどんいくぞ」


 威勢良く返事をしたが、足が震えている。


 情けない。


 本当に俺ってやつは情けないな。


 だけど、ブラフが三体目を倒して、この場にいたゴブリンはいなくなった。


「大丈夫か?」

「おう。余裕だぜ」


 俺は一匹、ブラフは三匹のゴブリンを倒した。

 村人は怪我をした様子で、武器を持っていた者が下がっていく。


 村の子供や女性は家の中で待機してもらって、男たちで探索をしていた。

 村から出れば、集団で襲ってくるゴブリンの餌食になるかもしれない。


 だからこそ、ゴブリンを村で迎え撃つことにした。


 村人には三人一組で隊を作らせて、自分たちを守らせている。


 俺たちは二人だが、ブラフが剣を使えるということで心強い。


「ごっ、ゴブリンが群れで襲ってきたぞ!!!」


 村人の声がした方へ視線を向ければ、10体以上のゴブリンがこちらに向かってきている。


「こちらの戦力を見極めたから集団で襲ってくるつもりだな!」

 

 ブラフの言葉に、俺は覚悟を決めることにした。


「ブラフ、カタログの召喚をする」

「今なのか?」

「ああ、とっておきの切り札だ。村のみんな!! 一箇所に集まってくれ!!! 出来るだけゴブリンを引き付けて防御を固めてくれ!」


 俺の呼びかけに応じて、24名の男たちが集結して、木の板などで壁を作っていく。


「ブラフ!」

「具現化魔法よ!」

「よし! 貸せ!」


 ブラフが作ってくれた三つのピンを抜いてゴブリンに投げつける。


「目を瞑って身を屈めろ!」


 指示に従うように全員が身を屈み込める。


 空中で眩い光が集団でこちらに向かってきていたゴブリンに視界を奪った。


 夜に活動すると聞いた時から、準備した道具が役に立った。

 閃光弾は空中で眩い光を放ってゴブリンたちの視界を奪う。


「よし! 今だ! かかれ!!!」


 俺の声に応じて、ブラフを先頭に村人たちが視界を奪われて苦しむゴブリンに襲いかかった。俺は運良く閃光弾の光から逃げたゴブリンがいないのか探す。


 2匹が逃げていく姿が見えて俺はそれを追いかけた。


 キャンプやサバイバルゲームで遊んでいた知識が活かされる。


「トオル!」


 1体目のゴブリンを後ろから突き刺して、2体目が振り返ってこちらに攻撃を仕掛けようとしていた。ブラフの声で気づくことができた。


「ありがとうな。ブラフ!」


 俺は棍棒を振り上げるゴブリンの攻撃を避けて、槍を払った。

 ゴブリンの肩を傷つけて怯んだところで突き刺した。


「ふぅ、なんとかなったな」

「大丈夫か?」

「ああ、ギリギリだったありがとな」


 座り込んだ俺にブラフが手を差し出して立ち上がる。


「全く無茶をするなよ」

「悪いな。お前の勇敢な姿に刺激されたらしい」


 俺たちはゴブリンの後始末を村人に任せて屋敷に戻ることにした。

 村人たちが倒したのも合わせて30匹弱のゴブリンを殺したことになる。

 ブラフからもゴブリンが群れを作っているならこれぐらいだと説明を受けたので、帰ることができた。


「なぁ、ブラフ。俺の鑑定をしてくれないか?」

「鑑定?」

「ああ、知りたいことがあるんだ。もしも、魔力が枯渇するなら今じゃなくてもいい」

「そういえば、ゴブリンを倒してから魔力切れの感覚を味わってないな」

「……出来そうか?」

「やってみるよ」


 俺はワクワクしながら、鑑定結果をまった。


「あれ? 凄い! なんだこれ?」

「なんだよ! 教えてくれ?!」

「全ての数値が上がっているんだ。ほら」


 そう言ってブラフが書き出してくれた内容は、俺のレベルが上がって、全ての数値が上昇している結果だった。


「よし!」


 一番嬉しかったのは、火の魔法(熟練度初級)が増えていたことだ。


「どう言うことなんだ?」

「ああ、詳しくはまた夜にな」


 二人ともゴブリン討伐で疲れていたこともあって、休息を先に取ることにした。

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