第3話
王都の街並みは、屋台が賑わう。
ただ、働いている者たちは活気があるというよりも、生きることに必死になっているように思えた。
「この世界のことが知りたいんだが、正直にどんな感じなんだ?」
「どんな感じって、どんなことが知りたいんだい?」
「そうだな。世界情勢とか、貨幣価値とかどうだ?」
「難しいことを聞いてくるね。世界情勢か……そうだね。我が王国を中心に小国家が乱立している状態だね。魔国とも戦争をしているから常にどこかで争っているんだ」
常に戦争をしかける国ってことか、戦国時代のような場所ってことか?
「王国とは隣接しているから、牽制するように小競り合いが続いているよ。それとは別に魔物も出現するから命は軽くなっているかな」
そう言ってブラフの腰には、剣が携えられている。
「魔法もあるのか?」
「もちろん」
さすがは剣と魔法が存在するファンタジー世界だな。
「なるほどな。その辺は小説の世界に近いわけか、リアルになると恐ろしいな」
「それともう一つは、貨幣価値だったね。異世界人とは単位が違うんだったよね?」
「ああ、大体のイメージ通りなのか確認がしたいって感じだな」
王様から二ヶ月分の生活費を渡されているが、価値が全然わからない。
俺なりにイメージする貨幣価値はあるが、それと合っているのかどうかだな。
鉄端貨1枚 = 1円
鉄貨 1枚 = 10円
銅貨 1枚 = 100円
銀貨 1枚 = 1000円
大銀貨1枚 = 10000円
金貨 1枚 = 100000円
大金貨1枚 = 1000000円
白金貨1枚 = 10000000円
黒金貨1枚 = 100000000円
さすがは王族なだけあって、金貨の最高額まで把握していた。
通常は白金貨や黒金貨などは使われない額なので、街で聞いても教えてもらえないだろうな。
こういうところはやはり教養がある人間が側にいてくれるとありがたい。
「冒険者ギルドや商人ギルドはあるのか?」
「よく知っているね。あるよ」
異世界と違うところを問いかけると、冒険者ギルドや商人ギルドなどの国を超えた機関について説明を受けた。
ギルドは独自の協力関係を作った組合のようなもので、俺たち大工も建築組合という組織に属していたので理解はできた。
ギルドでは身分証の発行ができて便利だということで、俺の身分証を作成するために冒険者ギルドに立ち寄った。
「おお! ここが異世界の冒険者ギルドか!」
「嬉しそうだな」
「ああ、ネット小説で冒険者ギルドというワードは知っていたが、実際に自分が経験できると思ってなかったからな」
王都にあるからなのか、立派な建物の中に冒険者ギルドが存在していた。
「トオルの知識だけでも私の助けになってくれそうだな」
「おう、こちらの常識がわからないから、そちらは教えてくれよ」
「任せてよ!」
ブラフは頼られるのが好きみたいだ。
冒険者登録のやり方から、登録時の文字の書き方まで色々と教えてくれた。
本当に親切なやつだ。
文字の書き方は普通に日本語で書いても、こちらの世界の言語として変換がされていた。それは異世界人あるあるなのだとブラフが教えてくれる。
この辺りは転生チートなんじゃないかと自分でも嬉しく思ったところだ。
ブラフと普通に会話ができている時点で気づくべきだった。
どうやら言葉や文字が自動で変換されるチート能力は所持していたことに一つでも満足してしまう。
「こちらがトオル・コガネイさんの冒険者ギルド証明です」
受付さんは異世界では当たり前の美人さんではなく、普通におじさんだった。
冒険者ギルド証明の説明では、国から国、街から街を移動する際の身分証明としても使えることを教えてもらった。
王国だけに縛られない身分証明なので、パスポートみたいな扱いだと認識した。
「現状の王国は魔族だけでなく他国とも戦争中でね。色々と物資や人材が不足しているんだ」
冒険者ギルドを出た俺たちは屋台街を歩いていた。
屋台街に展示されている品物は少なく、値段も高くて、ブラフが王様から領地経営の支度金を持っていなければ、俺の二ヶ月分の資金など一瞬でなくなっていたかもしれない。
市場調査ぐらいはちゃんとして欲しい、危ない所だ。
かき集められるだけの食糧と、開拓に必要そうな道具を購入して馬車に乗せた。
「何か、必要な物はあるかい?」
「そうだな。俺の技術を活かすために、大工道具が欲しいんだがあるか?」
「それなら鍛治ギルドに行ってみよう」
「鍛治ギルド?」
「ああ、物を作る職人たちが作ったギルドだよ」
つまり、建築組合みたいなものか? なら、冒険者ギルドよりも興味がある。
「マジか! そっちの登録もしてもいいか?」
「あ〜、あそこはちょっと特殊なんだ」
「特殊?」
「うん。作品がないと認めてもらえないんだよ」
「なるほど」
「とにかく行ってみよう」
俺たちは鍛治ギルドに向かうことにした。
冒険者ギルドとは打って変わって上品な感じではなく、道具や材料が乱立するプレハブ小屋をイメージして作られたような建物だった。
「楽しそうな顔をしているね」
「ああ、俺は宮大工を目指そうとしていたからな。こうやって作られた品々はやっぱり面白いな。それに一つ一つが丁寧に作られているから作り手の腕がわかる」
椅子や机などの家具以外にも、剣や槍などの武器もたくさん取り扱っているようだ。
「なんだ、お前は?」
俺が家具を見ていると、小柄で髭面のオッサンが声をかけてきた。
「俺はトオル・コガネイ。あんたがここの親方かい?」
「親方? まぁそうだな。アンガスという」
「アンガス親方。あんたはいい腕だな」
「ほう、わかるのか?」
「ああ、この椅子の頑丈さだけでなく、造形美に惚れ惚れするよ」
俺が椅子を色々な見方で褒めると、アンガス親方は腕を組んで笑った。
「お前、職人なのか? 登録希望か?」
「登録をしたいが作品が必要だと聞いた」
「ふむ、なら一時間やるから何か作ってみろ。道具と材料はここにあるものならなんでも使っていい」
「本当か?」
「ああ」
俺はブラフを見た。急ぐならここで無理に登録する必要はない。
「構わないよ。トオルの好きにして。私もトオルの仕事を見ていたいんだ」
「よし! 任せとけ」
俺は一時間で出来る物で木造りの椅子を作ることにした。
何が面白いのか、ブラフは俺が物を作っている間、じっと仕事風景を眺めていた。
「見ていて面白いか?」
「ああ、最初はよくわからなかったけど、出来上がっていく順序は見ていて面白かったよ」
「そういうものか?」
「うん」
楽しいならいいか? 俺は自分の仕事をやり遂げるだけだ。
「なんだ椅子か?」
「ああ、持ち運びしやすい組み立て式の椅子だ」
アンガス親方は頑丈で造形美の美しい椅子を作っていた。
それに対抗して機能性があり、持ち運びがしやすい椅子を釘を使わない組み立てられる椅子を作った。滑らかにするためにやすりはこだわった。
「組み立て式?」
「ああ」
俺は簡単に椅子の足を抜いて、組合わせることで持ち運べる形状に変化させる。
「なっ!」
「うわ〜凄いな! ずっと見ていたのにわからなかったよ!」
アンガス親方だけでなく、ブラフまで嬉しそうに喜んでいる。
「どうだい? これをもう一度組み直せば椅子になる。100キロぐらいまでの人間なら座る強度は保てているはずだ。もっと時間があれば、他の形に変化もつけられたんだが」
木箱やテーブルに変化をさせる技法もあるが、一時間では作ってやすりを当てるので限界だ。
「やるじゃねぇかお前! いいだろう。鍛治ギルドに登録を許可する」
「許可するって、あんたは親方だろ?」
「何を言ってやがる。俺はここのギルドマスターアンガスだ」
「なっ!」
「ガハハハ。トオル・コガネイと言ったな。お前の発想は面白い。お前が作り出す物を今後も楽しみにしているぞ」
鍛治ギルドマスターアンガスに認められて、俺は鍛治師としての登録を許可された。
「この作品は、ギルドでもらうが問題ないか?」
「ああ、好きにしてくれ。その代わりと言ってはなんだが、俺は鍛治道具を持ってないんだ。いくつかもらって行ってもいいか?」
「おう、新人に道具を提供するのも、鍛治ギルドの役目だ。好きな物を持っていけ!」
気前の良いアンガス親方に礼を述べて、俺は大工道具を手に入れることができた。
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