第4話

 大工道具に、食料、開発に必要そうな道具を馬車に積み終えたのは、日が沈む時間だった。


 王都の宿で一晩を休むことにして、早朝に出発することになった。

 宿は簡易なものだったが、意外と疲れていたのかすぐに寝つくことができた。


「おはよう。護衛は無しで行くのか?」

「おはよう。うん、王都近辺は魔物の出現も盗賊もいないからね。一応魔物避けの魔石は乗せているよ」

「そんな物があるのか!」

「それだけ魔物の戦いに慣れている国なんだ。魔物に対して警戒が強いんだ」

「そういうものなんだな」


 王都を出ると魔物が現れるということで、俺は盾と槍を買ってもらった。

 戦闘経験のない人間は、槍が一番使いやすいという理由だ。


 やっぱり剣と魔法の世界に来たんだと実感する。


 馬車を走らせて、草原を走れば見える景色が日本ではあり得ないほどに広大で感動してしまう。


「どうかした?」

「いや、世界の広さに感動した」

「何だよそれ。大袈裟だな」


 ファンタジー世界に来て、どうなることかと思ったが、隣にブラフがいてくれるだけで安心して旅ができている。

 

「次の関所まで二日はかかるから、見張りや食事は自分たちでやるからね」

「おう、料理は得意だぞ」

「そうなの? 鍛治仕事もできるのに料理まで出来て凄いな!」

「そうか?」

「私は料理をしたことがないから、保存食を食べるつもりだった」

「なら、料理は任せておけ」


 マズイ物を食わされるよりも、自分で作った方が美味いならそっちの方がいい。


 王都を離れ、二ヶ所の関所を超えた。

 五日ほど馬車の中で眠り、料理をして、遠巻きに魔物を見た。


 五日目に街について、冒険者の護衛を雇った。


「ここからは魔物だけでなく、盗賊も出るからね」

「マジか?!」


 護衛をしてくれる冒険者はスキンヘッドに怪しい二人組だった。

 正直、一緒に冒険をしたくない見た目だが、街を出ると気の良い二人だとわかった。


「俺たちはミギとヒリって双子なんだ。コガネイ! あんたの作る料理は最高だ」

「毎日でも食べたい!」


 胃袋を掴んでからは俺の言うことを良く聞いてくれた。


 ここからさらに二日走ることで、やっとブラフが領主を務める領地に辿り着いた。


 その間に料理はすっかり俺の担当になり、開拓道具の一つとして買っていた鍋に、買い置きしておいた調味料を使って料理を作る日々はキャンプ旅行のようで楽しかった。


 男同士なので、気を使うこともなくのんびり異世界の景色をしながらキャンプはありだな。


 元の世界ではネット小説以外の趣味として、酒が飲めない俺でも美味しく食べられる料理にハマっていた。


 温かくはあるが、パパッとした料理を提供するだけで喜んでくれる。

 ブラフ、ミギヒリコンビには料理の受けがよかった。


「また何かあったら冒険者ギルドに行ってくれ、あんたらの依頼なら喜んで受けるよ!」

「その時はまたご飯を頼む!」

「ああ、ありがとうな」


 領地に入って屋敷に辿り着いた所で、ミギヒリコンビに別れを告げた。


「ここが私の屋敷だ」


 ブラフが領地だと言った場所は、岩や草木が乱立する荒地だった。

 八割ほどは開拓がなされていない荒地で、魔物や盗賊がいる恐れがあり。

 開拓が済んでいるという一割は川が流れる水場。


 そして、最後の一割は、俺たちが辿り着いた屋敷の周辺と、その村に住む領民が100名ほどしかいない。


 領主の館は立派ではあるが、使われていなかったようで、埃が凄い。

 とりあえず二人が寝る場所だけは確保して、1日目を終えた。


 領地は他国と隣接しており、村人も少ない。

 税を徴収するほど田畑も育っていない。


 このままでは領民が死んでしまう。

 まずは痩せ細った大地をどうにかしなくてはならない。


 そうでなければ領民を他領に移動しなければ生きていけないだろう。


 広大な領地はあるが、荒れ放題でこんなところを開拓しなくてはいけないブラフが、王様からどんな扱いを受けているのかわかるというものだ。


「はは、ここまで酷いとは思ってもいなかったよ」

「ブラフも来たことはなかったのか?」

「ああ、君たちが召喚する数日前に、領地をいただくことができてね。多分、勇者を召喚すれば魔族の領地を手に入れられるから、いらない領地を私に渡してなんとかさせようと思ったのだろう。体裁よく厄介払いを考えていたんだろうな。我が父上ながら残酷な人だよ」


 胡散臭い王様の顔を思い出して、深々とため息を吐いた。

 息子に対して容赦のない父親だということだろう。


 この国の未来は、あの太々しい王様がいる限りは安泰なのかもな。

 逆に荒波を生きるためなら王族ぐらい太々しくならないといけないわけだ。


「とにかくできることからやろう」

「トオルのスキルはどのようなものなんだい? 異世界から召喚された者には凄いスキルが宿ると聞いていてね。もしかしたらと期待していたんだ」


 あ〜そういうことか、ブラフがここまで優しくしてくれたのは、もしかしてそれが目的か? 俺のチート能力がカタログ召喚だと聞いたら、手のひらを返して殺しにくるかもしれないな。


 だが、ここまでのブラフの行動や言動を信じたいという気持ちもある。


 もしもこいつに裏切られたら、俺にいく場所はない。


「わかった。正直に話すがガッカリすると思うぞ」

「ガッカリ?」

「ああ、俺のスキルはカタログ召喚だ」

「カタログ召喚? すまない。聞き慣れない言葉でよくわからないんだが、カタログ召喚とはなんだ?」

「いや、俺もわからないんだが、そうだな。カタログっていうのは、欲しい品物が記されたお品書きのようなものだ」

「ほう、それを召喚したらどうなるんだ?」


 もっともな質問が投げかけられて、俺は固まってしまう。


 俺だってカタログを召喚してどうするんだよってツッコミを入れたくなっていた。


「さぁ?」

「わからないのか? ならやってみたらどうだ?」

「やってみる?」

「ああ、能力は実際に使うことで熟練度が上がるんだ。使ったことがないスキルでも使っている間に熟練度が上がって使いやすいスキルになるかもしれないぞ」

「そうなのか?」


 俺は言われるがままブラフの前でカタログを召喚を行った。


 召喚したカタログは、いつも言っていたホームセンターのショベルカーやブルドーザーが掲載された乗り物カタログだった。


「素晴らしい絵が描かれているな! ここまで美しい絵は見たことがない。それにここに描かれている物はなんなんだ?」


 ショベルカーにブルドーザーの絵を見て興奮するブラフ。俺は苦笑いを浮かべてしまう。


「これはショベルカーと言って、穴を掘るために使う機械だ。そして、こっちのブルドーザーは土砂の掻き起こし・運搬・ならしなどの機能が備わっている整地用の建設機械だな」

「ほう、これが使えればこの荒地も簡単に地面を掘ったり、地ならしができるということか?」

「まぁ、そうだな。だが、俺はカタログは召喚できるが、カタログの中身は召喚できないぞ」


 本当に使えないスキルだ。

 十八歳から始めた大工仕事には自信がある。


 こういう建築現場で使う機材の免許も一通り取った。


 だが、使えないんじゃなんの意味もない。


「ふむ、一時的ではあるが、具現化できるぞ」

「はぁ?」

「私の魔法だ。架空のものであっても私の魔力で具現化が可能なんだ。すまないが、カタログの情報を詳しく解説してくれないか? 大きさやパワーなどが分かれば大丈夫だ」


 ブラフの言っている意味がわからなかったが、俺はブルドーザーの大きさや機能についてブラフに説明した。


「見ていてくれ」


 説明を聞き終えたブラフはカタログに手をかざして、何か集中しだした。


 魔力で具現化できると言っていたから、魔法を使っているのだろうか? だが、何をしているのか全くわからない。


「いくぞ!」


 決意を込めたブラフの言葉で辺りが光り始め、光が収まるとブルドーザーが現れた。


 それは俺が現場で使っていた物の最新バージョンだった。

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