第5話 

 ブルドーザーが本当に具現化された!!!

 

 これが魔法か? 凄いものだな。

 俺にも魔法が使えるようになるんだろうか? 使えるようになりたい!


「凄いなっ!」

「はは、喜んでくれているところ悪いが、具現化している間は、私の魔力が消費されていくんだ。すまないが早く使って見せてくれないか?」

「魔力が消費される?」

「常に走って体力を使っていると思ってもらえればいい」

「そういうことか、わかった。見ていてくれ」


 俺は早速ブルドーザーに乗り込んで、荒れていた領地を一気に掘り返して大きな岩などを排除するように地ならしを行っていく。


 ガソリンなどはどうなっているのかわからないが、燃料も魔力で動かしているのだろうか? どれくらい使えるのかわからないが、ブルドーザーとしては問題なく使うことができて、一時間ほどでかなりの場所を地ならしすることができた。


 だが、戻ってくると青白い顔をしたブラフが座り込んでいた。


「ブラフ! どうしたんだ?」

「ああ、すまない。思っていたよりも大きな物を具現化したせいで魔力消費が激しかったようだ」


 具現化されたブルドーザーが消滅すると、そのままブラフが倒れてしまう。

 

「大丈夫なのか?」

「魔力は休んでいれば、自然に吸収されるから大丈夫だよ。しばらく休憩させてくれ」

「こんなところで休んでいては危ないだろ。屋敷に帰ろう」

「少しだけ少しだけだから」


 明らかに顔色がよくない。

 それにこれだけの荒地ということは、ここにも魔物が現れるかもしれない。

 

 今の俺たちは魔避けの魔石を持っていない。

 俺はブラフをオンブして屋敷に戻ることにした。


「……すまない」

「気にするな。それにお前はもう少し食事をした方がいいぞ。軽すぎる」


 俺はブラフをオンブしたまま走って屋敷に戻った。

 そのまま屋敷のベッドにブラフを寝かせて、自分も一息吐いた。


 台所にやってきて、食事の用意をしながら、これから住もうと思っている屋敷の手入れが全くなされていないことに気づいた。


「まずは、この屋敷を修繕して綺麗にすることから始めよう。掃除道具はあるかな? 大工道具を手に入れておいてよかった」


 俺は家の中を探すことで掃除道具を見つけることができた。


 屋敷はしばらくの間、誰も住まずに放置されていたようだ。

 ブラフが寝ているベッドもギリギリ許容範囲だと思ったが、出来れば洗濯をして太陽の下で干したい。


「よし、まずは家の中を掃除だ。良く使うところから始めるとしよう」


 キッチン周り、リビング、玄関と順番に掃除をしていく。

 三時間ほど集中して掃除をしていたので、ブラフが起きてきた。


「やぁ、トオル。迷惑をかけたね」


 申し訳なさそうな顔をするブラフは、照れているのか中性的な容姿も相まって色気が振りまかれている。


 イケメンというのは同性、異性関係なく誤解させてしまうものだな。


「気にするな。俺も楽しくなってやりすぎた」

「はは、そんなことはないよ。それで? 今は何をしているの?」

「住むはずの家が汚いから掃除だ」

「手伝うよ」

「そうだな。まずは、自分の部屋から掃除してきてくれ。洗濯はしたことあるか?」

「あ〜ないね」

「料理もしたことないって言っていたよな?」

「はは、ごめん。役立たたずで」


 俺は全部一人暮らしをしていたからできるが、この広い屋敷を二人で管理するのは無理があるな。


「なぁ、金はあるんだよな?」

「うん。支度金として王様からもらってきたよ。それに三年間は無税で構わないってお墨付きをもらったんだ」

「ほう〜やるじゃん。なら、村人を雇わないか?」

「えっ? 雇う?」

「ああ、この屋敷は二人には広すぎる。だから、領地に住んでいる村人を雇用して、身の回りの世話を手伝ってもらうんだよ」

「あ〜、だけど村人が少なくて、彼らが働いてくれないと税が取れないよ」


 俺は大工になりたての頃に、親方に言われたことを思い出していた。


 それは大きな現場の仕事をしているときだ。

 当時の俺は大工に成り立てで、何もできない存在だった。

 周りは大勢の大工が仕事をしている中で、役立たずな俺は無力感を味わった。


 だが、親方は、俺に給料を払って色々なことを教えてくれた。


「すみません。全然何もできなくて」

「何言ってやがんだ。今のお前は学ぶ時だ。お前が成長して、いつか俺を助けてくれ。お前みたいな若い奴が成長してくれることで、いつか俺たちを助けてくれるようになる。それまでは俺たちがしっかりと支えてやるからよ」


 俺は親方から言われた言葉で感動したのを覚えいている。


「最初は税金を集めることよりも、みんなで協力してこの領地を作る方がいいと俺は思うんだ。そのために小さなことは目を瞑って、その後の芽吹きを待つことの方が大事だってな」

「はは、うんそうだね。これじゃどっちが領主かわからないな」


 困ったように笑うブラフは、どこか自信無さげに見えた。


「……ブラフ」

「そうだね。トオルのいう通りだ。いくら、今の少ない領民から税を取っても意味はない。なら、彼らと信頼関係を結んで、彼らを育てる方が、領地のためになるね」


 ブラフはいい奴だ。


 俺のような異世界人のいうことでもしっかりと聞いてくれる。

 他人の言葉でも素直に聞いて、自分なりに考えて行動を起こそうとしてくれる。


 この世界に来て、俺は王様からは追放された。

 それも役立たずな能力だと言われてだ。


 だが、ブラフと出会うことができて、今は楽しいと思えている。

 これからもブラフを助けて、一緒にやっていけたらありがたい。


「よし。まずは屋敷の片付けだ。明日は領民に会いに行こうぜ」

「そうだね。なんだか考え事をしたからかな? お腹も空いてきたよ」

「おう、そういうと思ってスープを作っておいたぞ」

「トオルはなんでもできるよね」

「おいおい、俺は役立たずで追放された巻き込まれ野郎だぞ」

「はは、もしかしてトオルが一番凄い人かもよ」

「そんなわけないだろ」


 俺たちはバカな話をしながら食事を楽しんで、その後には屋敷の片付けを頑張ることにした。

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