第13話
なんだかおかしな展開になってしまったが、互いに信頼関係を結ぶのにブラフと婚約関係を結んだのは、俺にも恩恵をもたらした。
「領主様とご婚約を! それはおめでとうございます!」
ハンスに事情を話すと、祝福の言葉をもらった。
すぐに村人全体に広がって祝福ムードが広がっていく。
何者でもなかった俺は、領主の家族として認められた。
「これからはトオル様も我々の主人です。今までも導いていただきましたが、今後は命令してくださいませ」
「命令って言われてもな」
彼らの能力は、ブラフが鑑定魔法によって得意なこと、苦手なことなどを持っているスキルで選別して、仕事を振り分けている。
俺は大工技術を生かして、家の修繕や、村と屋敷を囲う柵作りを中心に指示を出している。
土木建築は俺のお箱で、それに必要な機材があった場合は、ブラフの具現化魔法で出してもらって活用している。
「まぁ今は、領地の発展が第一だからな。そのための協力を頼むよ」
「もちろんです!」
なぜか、村人たちからは凄く喜ばれた。
男性同士であっても、結婚というのは祝いたくなるようなことなんだろうな。
俺の常識で測るの間違っているような気がする。
「トオル、ここにいたのか? そろそろ出かけよう」
「もうそんな時間か。わかったよ」
ブラフに呼ばれて屋敷に戻ると、荷馬車が用意されていた。
御者を務めるのは、村で御者の技術を持っていたものだ。俺も操作技術を持っているので、できないことはないが買い物に行く先で人手があった方がいいのは事実だ。
「ヨーゼフ、今日は頼むぞ」
「はいです」
俺たちよりも少し年上のヨーゼフは、力仕事が得意で、土木建築の手伝いをよくしてくれている。
「トオルは相変わらず、村人たちと仲が良いのだな」
「うん? おう、みんなよく働いてくれているからな」
「はは、領主様、ご婚約されたそうでおめでとうございます」
「ふっふん。そんなことは当たり前だ。お前は良いやつだな」
なんだかプリプリとしていたブラフが、ヨーゼフに祝いの言葉をもらって、ご機嫌になっている。
まぁ、こういう人の気持ちはよくわからん。
「とにかく街に行くんだろう。ヨーゼフ頼むな。みんなの食料と、種や農具を購入しないとな」
「はいです」
俺たち三人は、ミギとヒリに出会った冒険者ギルドがある大きな街へ向かうことにした。
領主に挨拶をしなくていいのかと問いかける。
「領主はほとんどが王都にいて、家令が取り仕切っているだけだから、むしろ貴族が行くと気を使わせてしまうんだ」
「そういうものか?」
「ああ」
ブラフだけでなく、ヨーゼフにも頷かれてしまった。
どうやら常識を知らないのは俺の方のようだ。
「なら、気にしないで街に行こう。前は、通りすぎるだけだったが、これから交流を持つなら、街の名前を聞いておきたいんだが、街の名前はなんていうんだ?」
「ソカイだよ」
「ソカイの街?」
「ああ、こんな辺境だから。名前も結構適当なんだよ」
あまり名前にも意味がないのかもな。
「どこから行くんだ?」
「一番大事な場所からだ」
「一番大事な場所?」
「ああ、私たちの婚約のために必要なアイテムだ!」
「そっ、そうか」
指輪でも買いに行くのだろうか? そんなことを考えていると、奇妙な店の前に停車した。
「ここは?」
「旦那、ここは魔物の卵を販売している店です」
「魔物の卵?」
「そうです。魔物は人に懐きません。ですが、卵の時に魔力を注ぐことで主人に懐くようになるのです。ただ、不思議なことに二人以上の魔力が必要なので、一人ではどうにもなりません。ですから、結婚の祝いなどで贈られることが多いのです」
なるほど、結婚して魔物の卵を祝いと送って育てることで祝福するわけか。
「わかったなら、どの卵が良いのか選ぼう」
「俺はわからないから、ブラフに任せるぞ」
「ダメだ。魔物の卵も二人で選ぶことに意味があるんだ」
「そういうものか?」
俺がヨーゼフに説明を求めるが、ヨーゼフもそれは知らないのか、両手を広げられてしまう。
俺はため息を吐きながら、ブラフと共に魔物の卵販売所に入っていく。
「いらっしゃいませ、お客様。お二人で来られたということは?」
「そうだ。私と彼が結婚する。だから魔物の卵を所望したい」
「それはそれはおめでとうございます。どのような卵が好みでしょうか? 育てやすいのは鳥系か、水系の魔物ですが」
店主の言葉にブラフは首を横に振る。
「ドラゴンがいい」
「えっ? ドラゴンですか?」
「そうだ! おいていないか?」
「いえ、一応一つだけありますが、本当にドラゴンですか? 生まれてくる種は不明で、危険なこともありますよ」
「構わない。ドラゴンが欲しい」
どうやらブラフなりにこだわりがあるようだ。
女性が結婚指輪やアクセサリーにこだわるのと同じようなことかな? 確かにドラゴンは俺も興味がある。
「トオル! あれだ見てくれ」
「うん?」
そう言ってブラフが指したのは、他の卵よりも遥に大きくて一メートルほどはありそうな卵だった。
「マジか?」
「うん! やっぱりドラゴンがいいね。結婚するなら絶対にドラゴンの卵が欲しいって思っていたんだ」
「そうなのか?」
「うん! 夢が叶ったよ」
そこまで言われて断ることはできないな。
「わかった。俺もそれでいい。店主、頼める?」
「わかりました。それではこちらへ」
俺たちは巨大なドラゴンの卵を買い付けて、ブラフはとても嬉しそうな顔をしていた。
その後も上機嫌で買い物をしていくので、商人たちは金払いの良いブラフに愛想よく対応してくれた。
行商人などは、一年に数回しか来ないということで難しくはあったが、ヨーゼフが自分が買い物に来ても良いということで、とりあえずはヨーゼフに任せることにした。
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