第29話

《sideセリフォス》


 窓の向こうには賑わう王都の景色が広がっている。部屋の中は、まるで絵画のように完璧な豪華さで満たされていた。


 天井には黄金の装飾が施され、クリスタルのシャンデリアがきらびやかな光を放っている。壁には芸術家が丹精込めて描いた大理石の彫刻と豪華な絵画が飾られ、床にはふかふかの絨毯が広がっていた。足元が沈むような柔らかさがあり、踏みしめるたびに高貴さを感じさせる。


「悠真。どうやら君の同郷は我が国を裏切ったそうだ」


 私は、長く美しい金髪を整えながら、ゆったりとした椅子に腰掛け、ワイングラスを傾けた。城の特別室は、まさに私の品格を象徴するかのような部屋だ。すべてが一級品、そして誰もが羨む場所の頂点に最も近い。


「らしいね。俺には関係ないけど」


 茶髪に余裕の笑みを浮かべる、美少年。私には劣るが、勇者としての能力は魅力的だ。第一王子である私にこそふさわしい存在である。


 橘 悠真に目をやった。彼は茶色い髪を整え、黄金の瞳が薄暗い部屋の中で輝いている。彼は私が信頼する勇者だ。その端正な顔立ちと落ち着いた表情は、この計画においても不可欠な要素である。


「セリフォスさん、確かに見事な部屋だけど、つまらないんだよな。俺の力が試せるのはいつなんだい? あんたの言う計画は成功するだろうな?」


 悠真は椅子を揺らしながら不満を口にするが、その様子すら私にとっては楽しみの一つだ。彼の不安はわかる。だからこそ、私は彼を完全に掌握できる。


「悠真、心配など無用だ。君が私に従ってさえいれば、この計画は必ず成功する」


 私は悠真の肩に手を置き、低く笑った。彼の整った顔に一瞬の陰りが差すのを見て、内心ほくそ笑む。彼が抱える不安を利用して、私は彼をより深く引き込むことができる。


「この国で私の名を知らない者などいないだろう? 王国の第一王子、セリフォス。しかも、見ての通り、私ほどの美貌と地位を持ち、民衆の信頼も厚い者はいないだろう。だが、悠真、知っておいてほしい。表向きの顔が全てではないということを」


 そう言いながら、豪華な絵画の一つの前に歩み寄った。その絵は王国の誇り高き英雄が描かれていたが、その裏には……。


「悠真、見ていてくれ」


 指を軽く動かし、絵の裏に隠された隠し扉を開いた。その中には、王国の秘密に関する文書や、私が集めた情報が収められている。


「これが私の武器だ。表の顔ではなく、裏での力が真の力ということだ」


 悠真は目を見開き、驚いた様子だった。


「王国の裏側……これほどまでのものを準備しているのかよ……」

「そうだ。表の光ばかりを見ている者は、足元をすくわれるのだ」


 私は手元の文書を一つ持ち上げ、悠真に見せた。


「この文書は、王国の貴族たちが隠している闇だ。彼らは正義を掲げながらも、裏では民衆を虐げ、自分たちの利益を優先している。これを利用しない手はないだろう?」


 悠真の顔は、次第に真剣さを増していった。彼は少しずつ、私の計画の全貌を理解し始めている。


 その時、部屋の奥の扉が開き、筋肉隆々の男、デュランが姿を現した。私の剣である彼は堂々たる体躯で、常に鍛え上げられた筋肉が浮かび上がるような服装をしている。彼の眼差しには、冷静さと忠誠心が見え隠れしていた。


「セリフォス様、準備は整いました。いつでも動けます」


 デュランは低い声で報告し、剣の柄に手を置きながら、私に向かって頭を下げた。彼は剣士としても一流であり、力と忠誠の象徴だ。


「ご苦労だった、デュラン。お前がいてくれるおかげで、私の計画は万全だ」


 私は彼に感謝の言葉をかけながらも、内心では彼をただの駒としか見ていなかった。彼の力は確かに頼もしいが、それ以上のものはない。ただ、利用価値があるというだけだ。


「さて、悠真、デュラン。お前たちの役割はわかっているな?」


 私は再び席についてワイングラスを手に取り、二人を見渡した。悠真は真剣な表情でうなずき、デュランも忠誠心を示すかのように、静かに頭を下げた。


「ああ、セリフォス様。面白い世界を見せてくれるんだろ?」

「その通りだ」


 私は満足そうにうなずき、デュランにも目を向けた。


「デュラン、お前は私の剣として動いてもらうぞ。お前の力があれば、どんな障害も打ち砕くことができるだろう。だが、決して目立つな。お前の存在が知られれば、全てが台無しになる」

「心得ております、セリフォス様」


 デュランは深々とうなずき、再び剣を握り直した。その巨体から発せられる圧力が、部屋全体に広がるようだった。


「ふふ、やはりお前たちは頼りになるな。だが、私が一番信頼しているのは、この計画そのものだ」


 私はワイングラスの中身を一口で飲み干し、空になったグラスを静かにテーブルに置いた。


「悠真、お前の美貌と勇者としての名声が、この計画の要だ。民衆は、お前の言葉に従うだろう。だが、その裏で動くのは私だ。民衆の心を掴むのはお前の役目だが、王国を掴むのは私の役目だ」


 悠真は再びうなずき、その瞳には覚悟が宿っていた。デュランも言葉少なにうなずきながら、私の指示を待っている。


「では、始めようか。国取り」


 私は低くつぶやき、再び微笑んだ。

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勇者召喚に巻き込まれて追放されたのに、どうして王子のお前がついてくる。 イコ @fhail

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