第24話

 ユリウス王子の指示で100名の兵士が奇襲をかけたが、逆に敵の怒りをかってしまったようだ。将軍の怒声が響いて、門へと梯子がかけられようとしている。


「ここまでか?」


 俺は逃げる算段をつけるために、砦の中に身を隠していた場所を出て後方へ回ろうとする。


「おい! 勇者アンリ。なんとかしろ! お前は異世界から来たチートだろうが!」

「そんなこと言われても私の魔法が効かないんだから仕方ないじゃない。あなたこそ王子様なんだったら、なんとかできないの? 戦いの教育受けてるんでしょ?」


 俺が外に出ていくと勇者と王子が揉めている光景に出くわす。


 他の兵士は戦っているのに、随分と余裕に見えるな。

 本当に命の危機があることをわかっているのだろうか? 俺はグシャ領に来てブラフの具現化魔法があったからこそ、今日までなんとかやってくることができた。


 だが、この二人は全然お互いを信頼していない。


 異世界に来てからの三ヶ月をどうやって過ごしてきたのか、頭が痛くなる。


「敵襲! 敵襲!!」


 見張り台からの叫び声は、二度目で消えてしまう。

 どうやら砦の壁に梯子がかかって敵が登ってきているようだ。


「くっ! 敵が来たというのか?!」

「もう、どうするのよ!? このままじゃ殺されるじゃない!」

「うるさい! お前が勇者ならなんとかしろ?」

「ハァァ?! なんでそんな他人任せなわけ? 意味わかんないんだけど、もういい! 私いいことを思いついたし」

「あん?」


 勇者アンリとすれ違いながら、様子を伺っていると勇者アンリが巨大な火球を作り出した。警戒した隣国の兵が防御魔法を展開していく。


「隣国の将軍さん。私は亡命します! 受けれてくれますか?」

「うん? 亡命? どういうことだ?」

「こちらの指揮官を務める王子様は私を盾にして逃げようとしているの。こんな人の下にはついていられないわ!」

「なるほど! 君は異世界から来た勇者だったね。確かにこの世界の常識とは違う。ふむ。一考に値する。降りて来たまえ」


 勇者アンリが裏切った!!!


 それを呆然と見つめるユリウス王子。

 おいおい、今すぐ止めろよ。


 劣勢な状況で勇者アンリまで失ったら王国に勝ち目はないぞ。


「わっ、我も亡命する! 王子である我を貴族として出迎えることを許すぞ」


 ユリウス王子の発言に、その場にいた兵士も、隣国の騎士たちも唖然として、笑い声に包まれる。


「愉快な王子よ。貴様のような愚者は初めて見るぞ。誰が貴様のような無能を受け入れる? 兵士たちよ。貴様らの指揮官は貴様らを捨てて我が国に亡命するとほざいているぞ。負けそうになった責任も取らないで貴様らを見捨てるそうだ!」


 将軍がバカにしたように大きな声を張り上げ、勇者アンリはその横に並んで腕を組む。


 最悪の中で一番の悪手を選んだユリウス王子。


 味方から向けられる視線が一気に冷たくなる。

 空気も、戦闘を行う光景から、王子を非難するような光景に変わっていた。


「おい! 王国の王子よ。貴様の情けなさに笑わせてもらった。機会をやろう。貴様と一対一の決闘をしてやる。貴様が勝てば、我々隣国は引いてやる。代わりに、貴様が負けた場合は、この場にいる兵士は投降する者以外は皆殺しにする」


 将軍の発言に、兵士たちは今にも投降しそうな雰囲気を醸し出す。

 だが、投降したところで、隣国に行って本当にちゃんとした扱いを受けられるのかわからない。


 だからこそ、ユリウス王子へ視線が向けられる。


「だっ、誰か! 我の代わりに決闘を受ける者はいるか? あの将軍を打ち取れば褒賞は思うがままだ」


 こんな小競り合いで褒賞が思うがままにもらえるはずがない。


 誰一人として名を上げる者はいない。

 だが、このままではユリウス王子が戦って負けてしまう。


 そうなれば、この戦いは王国が敗北して、せっかく作った砦も奪われることになる。そうなればソカイの街だけでなく愚者の対岸に敵の砦ができるということだ。


 それは阻止しなければいけないだろう。


「俺が行きましょう」


 仕方なく、俺は名乗りを上げる。

 そこにユリウス王子に俺の意見を進言してくれた兵士も隣に並ぶ。


「お前はバツではないか!? 先ほどの手柄だけでなく、こんな場所で王子の代わりに犠牲になることを選ぶとは! 貴様の勇姿を誉めさせてほしい! 皆の者よ。我らが勇敢な兵士バツが、ユリウス王子に代わって決闘を受ける。どうか、その勝敗を見極めてやってほしい」


 俺を褒めると言いながら、太鼓持ちになって自分の株を上げようとする狡猾な相手だ。


 だが、そんなことを気にしている余裕は俺にはない。


「貴様! 負けることは許さないぞ! 私の命がかかっているのだからな!」


 なら、自分で行けよと思うが、俺は顔を見せないように頭を下げる。


「はっ! 全力を尽くします」


 俺はハシゴを降りて、隣国の将軍の前にでた。

 手には持参したハンマーと特別な木の盾を持っていた。


「なんだその武器は、私をバカにしているのか?」

「いえ、ですが、俺にできる最大限だと思っていただければ」

「ふん、まぁいいあの王子と戦うよりは楽しめそうだ」


 俺は将軍に勝てないかもしれない。


 だが、少しでも時間を稼げれば、ブラフが来てくれるかもしれない。


 それを賭けて戦いに挑んだ。


 

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