勇者召喚に巻き込まれて追放されたのに、どうして王子のお前がついてくる。
イコ
始まり
第1話
俺の名前は
16歳の頃から、日本で大工として仕事をしていた。
やっと一人前として認められる仕事ができるようになって、仕事が楽しく感じていた。
そんな俺が気がつくと、剣と魔法の異世界ファンタジーの世界に召喚されていた。
正直に言えば、なぜ俺なんだと疑問に思うが、大工の仕事に慣れて暇つぶしで読み始めたネット小説の世界に似ているから内心ではワクワクしている自分もいた。
大工の朝は早い、夜も早い。
酒を飲むのが苦手な俺は、親方が飲みにいくために早く帰宅するので、俺は家に帰って家事をする。
その後は、スマホでネット小説を読み漁っていた。金をかけなくてもできる趣味にちょうど良かったのだ。
スマホの課金ゲームにハマったこともあるが、今では小説の方が種類が多くて面白いと気付いてから様々な知識も得られると気付いて読む癖がついた。
まさか自分が、ネット小説で読んでいたような世界に召喚されることになるなんて思いもしなかったがな……。
「勇者召喚に応え選ばれし勇者たちよ。どうかこのルズル王国をお救いください!」
美しい王女様が悲壮感を誘う声で訴えかける。
そんな王女様の周りには、豪華な鎧を着た騎士たち。
そいつらに助けてもらえば良いだろうに。
そんな中世ヨーロッパを思わせる外国の方々に囲まれて、俺は召喚されてしまった。
「皆様どうか鑑定を受けてください」
皆様と言われて、俺以外にも数名がまとめて召喚されたことに気づいた。
全員戸惑っている様子だったが、王子王女を名乗る十名ほどの美男美女が俺たちに声をかけて鑑定を促してくる。
これはあれだな。
バーゲンセールに群がる人たちに近い。
召喚された者たちを自分の陣営に引き込もうとしているんだろうな。
美男美女に促されて悪い気はしない。
俺を含めて五人の召喚者たちが鑑定を受けた。
「四人は勇者様ですね。そしてあなたは勇者召喚に巻き込まれた異世界人です」
名前:トオル・コガネイ
年齢:23歳
性別:男性
称号:異世界召喚に巻き込まれた者
職業:大工
技術:大工仕事全般
レベル:1
体力:50
魔力:10
魅力:10
運力:20
固有スキル:カタログ召喚
鑑定ではステータスが表記されて、体力やら、魔力やら数値化されて表示される。
勇者たちは軒並みレベル1と表記されているのに合計数値が1000を超えている。
俺は合計で90だった。
この世界ではショボいステータスな部類に入るそうだ。
20歳代の平均は、150前後。
つまりは、俺は最弱? 扱いを受ける。
小説で読んでいたチートスキルなどは軒並み勇者様たちが所持しているようだ。
俺が得られたスキルは1つだけ。
「カタログ召喚です」
「なんですかそれ?」
俺のスキルを鑑定してくれた人も首を傾げながら詳細を教えてくれた。
元の世界のカタログを召喚できるというだけの能力。
カタログの中身を召喚できるわけではないので、マジで使えねぇ〜。
鑑定を行ってくれた人間と共に顔見合わせて、互いに苦笑いを浮かべてしまう。
召喚者として、王様の謁見に向かう途中で、四人は仲良くなった様子で話に花を咲かせている。
俺は1人で4人の後に続いていた。
「コガネイ殿」
「えっ?」
1人で歩いていると、イケメンの王子様に声をかけられた。
「これは王子様」
「そう畏まらないでくれ。年齢を聞けば私と同い年だというじゃないか、それに召喚に巻き込んでしまったようで申し訳ない」
他の王子や王女は4人の勇者たちに話しかけようと様子を窺っている。
だが、中性的な容姿をした可愛らしい王子様だけは俺に話しかけてくれた。
良い人なんだろうな。
こういう異世界召喚では王族は嫌味なタイプが多く描かれる。
巻き込まれた人間を追放するとかいう話が多い。
それなのにこの王子様は本当にいい人だな。
女性的な顔立ちに白い肌。
オレンジ色の髪が優しい雰囲気と相まって子犬のように見える。
「気にしないでください。召喚されたことは仕方ないので、これからの生活が保証してもらえれば」
「コガネイ殿は冷静なのだな。わかった。生活については父上がなんと言おうと私がなんとかしよう」
「あの、王子様のお名前を聞いても?」
「ああ、そうだったな。私はブラフだ。ルガル王国の第五王子なんだが、あまり地位は高くない。王位継承権も10番目だったのだが、先日返納した」
返納ということは王様にはならないってことだな。
「代わりに領地を頂いたので、そちらの経営をしようと考えているところだ」
王子様でも働かないといけないのか、色々と大変なんだな。
「だから、王がなんと言おうとコガネイ殿が困っているなら、我が領民として迎え入れよう」
「ありがとうございます」
期待はしないが、もしも追放されても甘えられる場所があるのはありがたい。
それに彼のような王子に声をかけてもらうことは素直に嬉しい。
王様が待つ謁見の間に入った。
♢
「追放じゃ」
勇者たちの挨拶が終わって、俺の鑑定結果を見た王様が冷たい眼差しで追放を告げた。
この王様! 容赦ねぇな。
煌びやかに着飾った王様を見た時から、どこかおかしいと思ったんだ。
本当に救いを求めているにしては、騎士たちは煌びやかで、王様も着飾っているからな。
「このような使えない能力は見たことも聞いたこともない」
こちらを馬鹿にするような口調で蔑む瞳、言い分など聞くつもりがないようだ。
まぁ、こちらとしても信用できない王様の側にいない方がいいだろう。
「わかりました。ですが、召喚されて右も左もわからない身です。どうかしばらく過ごせるだけの金銭だけでも頂ければ仕事を探して生きていけると思います。どうか温情をいただけないでしょうか?」
「ふむ、聞き分けが良いことに免じて、二ヶ月分の生活が送れる貨幣を持たせてやる。さっさと出ていくがいい」
こうして俺は異世界召喚に巻き込まれて中世ヨーロッパを思わせるレンガ調の城を出た。
「さぁ行こうか? コガネイ殿!」
追放されたはずなのに、なぜか隣には身軽な格好をしたブラフ王子が立っていた。
キラキラとした瞳で嬉しそうな顔を向けてくる。
「えっと、ブラフ王子。私は追放された身ですよ」
「ふむ、そうだな。我が父ながら酷いことをなされる」
「いや、だから私と一緒にいてはいけないのでは?」
「何を言っている! 約束したではないか?! 何かあった場合でも我が領民として受け入れると」
「本気だったのですね!」
「うん? 私がいった言葉が嘘だと思っていたのか?」
正直、思ってました。
ブラフって名前からも嘘つきかなって。
「私も第五王子を返納した身だ。王族ではなくなって肩身の狭い身分なのだ。領地経営に尽力しなければならない。真面目に王国に貢献して民を養うために生計を立てようと思っている。コガネイ殿には私の従者として一緒に我が領地に来てもらいたい」
「それは助かりますが、俺でいいのですか?」
「はは、自慢ではないが私には人望がない!」
「それは確かに自慢になりませんね」
互いに声を出して笑い合った。
イケメン王子の自虐ネタに、巻き込まれて追放された俺。
良いコンビになれるかもしれないな。
「もしも、コガネイ殿が能力がなくても、人手が欲しかったのだ」
「何もできないわけではないですよ。これでも大工ですからね」
「おお! 職人だったのか?! それは助かるな」
「それに雇われるなら、俺のことはトオルと呼んでください。それに敬語が苦手なので砕けた話し方をしても?」
「もちろんだ。私もその方が友人と過ごしているようで楽しい。私のこともブラフと呼び捨てにしてくれ」
俺たちはまた笑って握手を交わす。
「話がわかるな。ブラフ、よろしくな」
「ああ、トオルもな」
我々は互いに握手をして雇用関係を結んだ。
早速、ブラフが所有する領地へ向けて王都を立つ準備に入る。
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どうも作者のイコです。
新作は男性同士の友情をテーマにしたお話になります。
僕自身が男性同士の接触は苦手なのでないと思います。
今回は、この男’s(メンズ)の絆が尊い! 異世界小説コンテスト用の作品になります。
10万字以内で止めないといけないので、途中で終わるかもですが、お付き合いいただければ嬉しく思います。
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