第26話
勝利に感動している兵士たちに水を差す者が現れる。
「おい! 貴様!」
「うん?」
「良い腕をしているではないか?! 今日から我の配下になることを許すぞ!」
そう言って戦場に現れたのはユリウス王子だった。
決闘中も砦の中で怯えていた王子が、決闘が終わり、隣国の兵士が全ていなくなったところで現れるとは、どこまで恥知らずなのか。
「丁重にお断りさせていただきます」
「断れると思うなよ! 貴様は、ブラフの旦那だと言っていたな! ブラフ! 貴様は今回の失態を、どうやって責任を取るつもりだ」
「失態?」
ブラフもユリウス王子が言っている意味がわからなくて、首を傾げる。
「そうだ。貴様がもっと早く救援に来ていれば、勇者アンリを敵国に差し出すことはんかったのだ」
「何を言っているのですか、兄上? それはあなたの失態ではありませんか?」
「違う! 全ては貴様の失態なのだ! 我は何も悪くない。貴様らが用意した砦があったから、敵は我々よりも多くの数を用意して、将軍を派遣してきた。貴様らがもっと救援に来ていれば、勇者アンリも我の元を離れずに勝利していたのだ」
ユリウス王子は、何を言っても無駄なタイプのようだ。
「残念ながら、それは無理な道理とお伝えさせていただきます」
俺とブラフがなんて答えようか悩んでいると、鎧を着た老人であるソカイ領の家令が言葉を発する。
馬上から、降りた家令は深々と一礼をしてから顔を上げて、ユリウス王子を見た。
「ソカイの街は、これまで辺境伯の代わりとして、ソカイ伯爵家が代々隣国と小競り合いをしておりました。そのため此度の戦も、ソカイの主人である伯爵様に状況をお伝えして、出撃しております。それは我々が物見にて、戦場の成り行きを確認して、一日とかけずに連絡を取り合う手段があって成り立っております」
家令の言葉に、俺はブラフを見る。
ブラフは、そういう魔術があるとだけ耳打ちしてくれた。
「だっ、だからなんだというのだ?」
「一つ、グシャの皆さんが作り上げた砦は、しっかりと砦に値する機能を持っています。敵に脅威を与える効果を持っていた。
一つ、勇者アンリは鍛錬不足であり、爆裂系の魔法しか使えない。実践経験のない勇者だった。
一つ、敵国の将軍は、英雄と呼ばれるほど紳士な人物で、何度となくユリウス王子に戦いや決闘を申し込まれていたが、ユリウス王子は最悪な返しをすることで無礼を働いた。
一つ、ユリウス王子は自ら亡命を表明して、自分の命だけ助かり、兵士たちの命を蔑ろにした。
我々はここまでの情報を知った上で伯爵様に知らせて兵士を動かしました。この情報はすぐに王に知らせがいくことでしょう。さらに、我々は辺境伯としてこの地に赴任されたブラフ・グシャ様をサポートするためにおります」
「なっ! なんだと! 貴様! 余計なことをしてくれたな!」
「これが私の仕事ですので」
意外な発言に、家令さんの言葉を止めようと、ユリウス王子が飛びかかろうとしたが、ユリウス王子の部下たちに止められる。
その上で、俺にバツという名前をつけてくれた兵士が我々の前に膝をついた。
「グシャ辺境伯様、お初にお目にかかります。この軍の指揮を預かる隊長をしております」
「ああ、元第五王子、現辺境伯ブラフ・グシャだ」
「此度の戦は、ご助力本当にありがとうございました」
「うむ。貴殿らの戦い。しっかりと家令殿から聞き及んでいる。よくぞ兄上を守り戦ってくれた。王国のために感謝する」
ブラフの言葉に、ユリウス王子の兵士たちは涙を浮かべ、全員がブラフの前で膝を降り、礼を尽くした。
「ありがたき、お言葉! そこで一つ図々しくもお願いがございます」
「お願い?」
「はっ! 希望者だけになりますが、我々兵士の中からグシャ領へ移住したい者が数名おります。このまま王都に帰還しても笑い者になるか、責任を問われることになります。どうか受け入れていただけないでしょうか? もちろん、身を粉にして働かせていただきます」
聞けばユリウスの兵は、半分は王都でユリウスと共に遊び呆けていた放蕩貴族の倅たちで、王族の近衛兵だとふんぞり帰っていたそうだ。
そこに寄せ集めの兵士が呼ばれて1000名の兵を作った。
そのため300名ほどの兵士は不平不満が溜まっており、俺の活躍を見てグシャ兵になりたいと言ってくれた。
「うむ。貴殿らの申し出を受けよう。我々グシャは領民をいつでも募集している。まだまだ領民が少ないから、やらなければいけないことが多い。それでも来てくれるかい?」
「もちろんです。我々も元は平民です。戦うことでここまで来ましたが、此度の戦はあまりにも
「わかった! 貴殿らの申し出を受け入れよう。王都に帰りたいものたちもソカイの地までは護衛をする。その後のことは貴殿ら自らで王都へ帰られよ」
すでに家令さんの働きで、ユリウス王子大敗は知らせられ、グシャ辺境伯の活躍が伝えられている。
今からユリウス王子と共に王都に帰っても、隊長の言うように笑い者になるだけだろう。
それもまた彼らの選択だ。
俺たちは一つの道を示しながら、此度の戦に幕を閉じた。
♢
「お父さん!」
グシャ領に帰ってすぐにフルフルが出迎えてくれる。
数日見なかっただけなのに、大きくなったような気がするのは親バカなのだろう。
ドラゴンの羽を生やし、ドラゴンの尻尾が長くなってきたフルフルが俺に抱きついてくる。
「ただいま。フルフル」
「無事なの? 怪我はないの?」
「ああ、大丈夫だよ」
「よかったの」
まだまだ舌ったらずな話し方ではあるが、しっかりと言葉が話せるようになったフルフルは三ヶ月ほどで小学生ぐらいの大きさになった。
魔物の成長は早いのだな。
「ありがとう。そうだ。ブラフ。作りたい物があるんだけどいいか?」
「うん? 何を作るの?」
「教会だよ。女神様にお礼を言わないとな」
「ああ、それはいいね。うん。トオルが治療魔法を使えるようになったお礼をしないと」
300名の兵士を新たにグシャ領に加えて、俺たちは新たな領地発展を目指していく。
そのためにも女神様たちには、しっかりと見守ってもらわないとな。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
あとがき。
どうも作者のイコです。
プロット的に、この後に女神様からさらに力をもらってとか、考えていたのですが大分話を端折ったにも関わらず6万文字に到達してしまいました。
中編コンテストの方に出したいと思ったので、今回の話は次話で完結としたいと思います。
明日の投稿を最後にしますので、どうぞ最後までお付き合いいただければ幸いです。
宣伝です。
4月10日に、道スライムが捨てられていたので連れて帰りました
書籍が発売されます。
おじさん主人公とスライムが織りなすほのぼのダンジョン攻略サクセスストーリーとなっておりますので、よければ書店や電子で手に取っていただけると嬉しく思います。
どうぞ今後も応援をよろしくお願いします(๑>◡<๑)。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます