第十話:日本人は説教が上手い

 GUNMAR解放戦線の新幹線ハイジャック事件は無事終結した後、ヤイバたちは千代田区千代田市にある東京城に呼び出された。

 そこはかつての江戸城を和洋折衷の構造と外装に改築し、史実の国会議事堂に似せたような城であり、その天守閣にある黒茶髪の七三分けと茶色い瞳を持つ壮年の総理大臣が座っている執務室がある。

 千代田区のビル街が一望できる所にて、ヤイバ、カタナ、炎慈、総太は正座をし、その前には御庭番衆頭領である服部半蔵正輝、新撰組局長である近藤勇美、そして、現総理大臣である大和仁が彼らを見下ろす。

 その傍らには歳光と霧雨、ツルギが立っていた。

「どうして、勝手にテロリストを撃退したのか、三十文字以内で答えろ。」

「カタナが危ない目に遭いそうなので、助けました。」

「確かにあの時、その娘が危険な目に遭ったのは事実であり、お前たちが戦ったことでテロリスト殲滅が早まった。だが、それは結果論だ。」

 仁は自身の息子であるヤイバの額を人差し指で何回も突っつきながら、説教を続ける。

「結果は良くても、護るべき民たちを危険な目に巻き込んだ過程だけは認め得ない。お前の母であり、私の嫁である大和撫子ほどの無鉄砲な蛮勇さだけはないとするが、喧嘩っ早いことだけは受け継がれている節がある。ただでさへ、我ら大和の血筋は厄災を呼び込むトラブルメーカーのような体質であるにも関わらずだ。」

「勝手な喧嘩を買わないよう気を付けます。」

「喧嘩っ早い点では、炎慈! ぬしも同様だ! 客車内が緊迫した状況とは言え、テロリストと間違って拘束した末に奴らに隙を与えるなど言語道断だ!」

「そもそも、このば…いや、何でもありません。反省します。」

「総ちゃんも同じよ。危うく、その娘が連れて行かれる所だったから、次は必ず気を引き締めなさい。」

「はい。ゆみ姐、今度は気を付けます。」

「よろしい。では、下がってから反省を続けるように」

 ヤイバたちは俯せて、落ち込みながらその場を後にしようとしたが、炎慈は少し納得行かず、ヤイバの脚を軽く蹴る。

「たく、馬鹿侍! テメェのせいで怒られたじゃねぇか!」

「堪えろ! 反省が足りないと言われて、また叱られるのがオチだぞ!」

「だったら、ヤイバ先輩。ゲンさんの親子丼を奢って下さいよ。僕もう腹ペコで。」

「ヤイバの不始末は僕の不始末でもある。ならば、僕が奢ろう。」

「うむ! 私もだ! あの店で使われる黄金之不死鳥ナゴヤコーチンは確かに上手い!」

「もう、みんな。ちゃんと反省しなさいよ。というか、ヤイバやあの娘以外、すき焼き弁当を食べたばっかりじゃない。」

「ん? おい、カタナ! 行くぞ!」

「あっ! はっ、はい!」

 ヤイバたちは緊迫な状況を脱したことで談笑もしながら、部屋を出た。そこに、仁がカタナに声を掛ける。

「マリアヴェル・ヤマト・華侘那と言ったかな? 君の母親、サクラ・ヤマトは息災か?」

「…? 母は出発前にも元気に迎えました! では、また今度会いましょう!」

 カタナはヤイバたちに追いつこうと急ぎ足で退出した。

 それを見送った仁は手を目に当て、一息つく。勇美や正輝も肩の荷を下ろす。

「血は争えないということか。全く、撫子め。私への連絡なしにあいつの妹の娘を日本に寄越すとは。」

「まぁ、なでちゃんの身勝手さもあの日本暗黒末法期からも変わらないわね。それがいい所なのか、悪い所なのか。」

「悪い所に決まっている! 大和弥威刃は仁総理のご子息だ! わざわざ、危険な道中に何度も呼ぶなど言語道断だ! 我々が何度尻拭いをしたことか!」

「私たちも大和撫子をとっちめないといけないわね。」

「私の妻が毎度の事ですまない…。」

 総理大臣が溜息を吐き、忍びが憤り、女侍は苦笑する中、東京駅郊外の建物の影に潜み、電話する者がいた。

「やはり、偽のGUNMARでは駄目だべ。おらが渡した焼きまんじゅうで操ったのはよかったけんど、我らがGUNMARの方が強いに決まってるべ。そんじゃ、また。」

 スマホの電話を切ったその男は闇の中へと消えた。

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