第零話前編:剣神邂逅

 俺という存在はは侍に憧れた。

 刀一つで戦場を駆け抜け、威風堂々に肩で風を切り、激動の時代や群雄割拠な乱世でも己が武士道で貫き、多くの人々に刻まれる。

 そういう侍に俺はなりたかった。

 天才的カリスマ性で源氏を勝利に導いた末に、忠誠を誓った兄に討たれた悲哀の将のように

 戦国の乱世を破壊し、常識を超えた策謀を巡らし、天下統一目前に迫るも、頼もしい腹心に叛逆された第六天魔王のように

 激動の幕末を駆け巡り、世界的脅威に対抗するために武士たちを団結させたが、日本の夜明けを見る前に何者かに暗殺された龍の如き革命家のように

 そんな彼らのようになりたいと。しかし、四民平等や廃刀令が出された後の現代には武士の世界は失われた。

 それでも、諦めきれずに武士の歴史と剣術を学び、今では地元の剣道大会で優勝し、地元の高校の歴史教師にもなった。

 しかし、自分の心は晴れなかった。

 と今、走馬灯で思い耽っていたが、最後に自分の自宅に何故かトラックが突っ込んで、死んだことを思い出し、辺りを見回すと、金の壁に、胡散臭い無駄なデザインのオブジェクト、その中心に変な椅子に座るわ、自らの神と自称する金髪の不遜な男が口を開く。

「さて、君は不幸の事故で死んだ身だ。故に、異世界に転生させよう。そうだな、チートスキルの一つや二つを与えてやる。だから、さっさと俺の箱庭せかいを救って来い。」

 不幸な事故だと言うのはおかし過ぎる。そもそも、うちの自宅はマンションの5階にある個室なのに何故かトラックが突っ込んできたんだ。

「あの、ちょっと待って下さい! 勝手に決めては困りますけど、あのトラックについて何かあるんじゃないんですか!?」

 自分の言い分や筋を通したはずだが、不遜な男は苛立ち、舌打ちをした。

「チッ! せっかく、この俺がわざわざ運命を捻じ曲げて、異世界に送ろうと思ったのに、いちゃもんつけやがってよ…」

「はっ!? あんたが俺を殺したのか!? いくら、神様でもやっていいことと悪いことがあるだろ!」

 次の瞬間、俺は何か神の力らしき重いプレッシャーを受けて、這いつくばってしまい、不遜な男は面倒臭そうに見下ろす。

「はぁ? 俺がやったのはリサイクルだよ。無駄に歴史を知って、竹刀を振り回すだけの無価値な人生を送るお前に俺の箱庭せかいを好きに生きれる奇跡チャンスを与えただけだよ。ほら、住めば都だぜ。」

 不遜な男は空間の裂け目を生じさせ、その男のせかいを見せる。

 見ると、そこには、森や海どころか草や川さへも存在しない荒地で、崩壊した街と屍肉に群がる貧民の姿。

 いかなる魔界やどんな地獄でも醜く、救いようが一切ない。

「何なんだよ、こんな世界に放り出す気か!? ふざけんな、いい加減にしろ! この偽神が!」

「はぁ? 生意気だな。そうだ、チートなしで放り出そう。そうすれば、俺様への不敬を後悔しながら、惨めになる姿を観れるからな。ハハッ!」

「そんなことが許されると、ぐはっ!?」

 俺の怒号を意に介さないその男は俺の脇腹を蹴りつけ続け、高らかな醜悪な笑いを上げる。

「うるせぇ! うるせぇ! うるせぇ! お前のようや平凡な人生を生きて、神を敬わない文明者気取りの類人猿の分際で俺様に指図するな! ギャハハハハハ…は?」

 俺はその男の暴行のせいで薄れゆく意識の中でも力を振り絞り、いつの間にかその男の穢れた脚を強く掴み、怒りに身を任せ、睨んだ。

 その男は俺を恐れたかのように身を一瞬竦み、しかし、我に返ったのか憤り、俺の顔を蹴り潰そうとした。

「その気色悪い目を見せるな、この類人猿がぁ…あ?」

 しかし、その男の足が俺の顔に接触すらされずに、ボトリと血が吹き出て、地面に落ちた。

「あっ、あっ? あがぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」

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