第零話後編:剣神邂逅
神産みの二柱の一人、
神話では荒神や鬼神と呼ばれるほど気性が激しく、粗忽乱暴な神だとされているが…
「ごめんね、最初に目を逸らして。お詫びとして、お茶と茶菓子を用意したけど。あっ、お茶は熱いから気をつけてね。茶菓子も口に合えばいいけど。あと、座布団の座り心地は大丈夫? 正座が辛いなら、胡座かいてもいいよ。」
聞いての通り、質の良い座布団に座らせてもらい、玉露という高級茶と高級そうな茶菓子でもてなされている。
俺が知っている古事記よりも、紳士的で穏やかで丁寧な優男の感じがする。
「あの、優しいんですね。すごく…」
俺がそう話すと、神様は俯いたまま、黄昏れのように物思いに耽る。
「そうだよね。僕は人里に伝わった話よりも、弱々しくて、いじいじして、ジメジメして、仕舞いには姉さんを困らせて、引き篭もらせちゃって。僕のせいで日本最古の引きこもりって呼ばれるなんて、そんな僕なんてどうせ…」
やばい、想像以上に心が傷ついている。優しいって褒めようとするのはいけなかったかもしれない。別の所を褒めるとすれば、
「大剣を振るう姿はとても格好が良かったです! 今まで、見てきたどんな剣術家よりも勢いと清廉さがあって、素晴らしいと思います! 後、俺…こんな私を助けて、ありがとうございます!」
あの剣技に対する言葉を必死に探し、褒め方はこれで合ってるのか分からない。
すると、神様は優しく苦笑しながら、僕の方に向き、語り掛けた。
「ありがとう。でも、僕の剣は勇ましい剣なんかじゃない。恐れを振り払う剣なんだ。」
「えっ?」
俺はその言葉を自己の過小評価だと一瞬思った。だって、神様の剣は本当に凄く、憧れたんだ。剣道に勤しみ、動画投稿サイトやテレビで見た剣術家の動きを模倣しようとした僕さへも見たことないはずなのに心に残るそんな最強の剣技だったからだ。
「僕は唯一、伊邪那美…僕の母親が持つ負の力、黄泉に出でる闇の力を受け継いでいて、恐れに負けると、その力が暴走してしまうんだ。だから、恐れを振り払う為に剣で強くなるしかなかったんだ。だから、僕は…」
その刹那、腰に刺した大剣を瞬時に居合し、僕の頭上の何かを斬り裂いた。その後、身体や心が今まで感じたことのない解放感を味わい、軽くなった。
「僕は人に根付いた悪縁や禍根を断つ
俺は神様の、その神聖な
「あの、わ…俺は侍に憧れて、侍の歴史を知ろうとして、剣を愚直に磨き続けて、でも、現代では侍は古い存在だから、いつしか諦めようとして、諦めきれずにしがみついて、」
涙が溢れる、溢れすぎて、泣きすぎて開いた口が動かせない。でも、ここで、目の前にいる神様に全てを言わないと、生まれ変わっても必ず後悔すると思った。
「あなたのような剣士に会えて、本当に良かったです。」
神様は驚くように目を見開いたと思えば、母親のように優しい眼差しで見て、僕の腕を優しくも、力強くも掴み、互いの額を優しく合わせた。
「侍とは、剣士とは、恐れを振り払う勇気だ。君の手の平のまめも、両腕の筋肉も、君の努力の賜物、侍への一歩だ。君を蘇らせることはできない。けど、君の次の人生に恐れも不幸もない立派な人生でありますように祈っている。」
そう言われた俺の周囲には光の霊子が飛び交い、身体が透けて、新たな人生に引き込まれることを感じた。
「私たちが護るべき、日ノ本の子よ。どうか、悪しき神に左右されない立派な人生を、再び。」
身体と共に意識が消え去った俺は後に別世界の日本に産声を上げることになる。
侍が存在する立派な
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