第一話:日本人は刑事ドラマが好き。

 2020年4月、春の名残が続き、桜吹雪を幻視する頃、日本の七つの国家の一つである新武蔵帝國にある都会、帯刀許可を持つ学生や会社員、赤顔高鼻の天狗や角と筋肉が目立つ鬼、日傘を差す河童などの妖怪が行き交い、城のような石垣と白壁を持つビル群の上で黒装束の忍者が飛び交う。

 そんな時、街頭モニターや店内のテレビに映し出されたのは日本初となる新幹線でのテロ事件である。

 停車した新幹線の周りには警察である侍や公安である忍者が周りを包囲していた。その包囲網の近くにある東京駅では作戦会議が行われていた。それも、すき焼き弁当での有名店『煉獄屋』の前にテーブルとパイプ椅子を置き、しかも、背中に桜家紋が付いたスーツ姿の侍が突撃を論じる中、同じ家紋が付いた忍び装束姿の忍びが待機を反論し、激しい言い争いが生じていた。

「日陰者は黙っていろ! 反東京派のGUNMAR共が野放しになっていいのか! 突撃あるのみだ!」

「テロリストが何人か? 奴らの言う爆弾がどこにあるのか? それらのことを分かってないのに突進するな猪面共! 乗客の安全が最優先だろ!」

「だからって、奴らを野放しになってもいいのか! この弱腰共が!」

「そうならない為の会議なのにガキのように我儘いうな! 阿保共が!」

「これだから、忍びは!」

「これだから、侍は!」


 犬猿の侍と忍者が言い争う中、テロリストに占拠された新幹線内では彼らの想定よりも緊迫とした状況になっていた。

「ヤイバ! ヤイバ! これがテロリストなのですね! ハリウッド映画でしか見たことがありません! しかも、相手は東京を解体するという壮大な野望を持っているのですね! あれですか、銃撃戦に発展するのでしょうか! いや、ここは日本、〇スト・〇ムライや〇ンジャス〇イヤーたちが颯爽に駆けつけるのでしょうか!」

 金髪ポニーテールと翡翠の瞳を持つ帰国子女が鼻息を奮い立たせ、目を爛々と輝かせながら、無邪気にはしゃいでいた。

「何でこんな時に限って、お前はウキウキしてるんだよ! それと、〇スト・〇ムライはともかく、〇ンジャス〇イヤーは言うな! 色々な意味で!」

 彼女と同じ瞳を持つ黒髪の男子は彼女にツッコむ。眉間の皺の寄せ方が年季があることから、相当の苦労人であるらしい。

 そして、今、ツッコミしたせいでテロリストに一方的に怒鳴られる。

「おい、お前ら! 人質の癖に喚いてんじゃねぇ! 手を挙げろ!」

「聞きましたか、ヤイバ! 手を挙げろと言って、銃を突きつけるなんて、今までにないラッキーな体験です!」

「これのどこがラッキーなんだよ⁉ アンラッキーどころか、お前のせいで絶望的じゃねぇか! どんな前向き思考(ポジティブシンキング)してるんだよ、お前は!」

「黙れって言ってるのが分からねぇのかよ! 痛い目見ないと分かんねぇのか⁉ ああん!」

「これはまさか⁉ よいではないか、よいではないと言いながらエロ同人誌みたいに慰みものにする気ですか⁉ そんな、勝負下着を日本で買う予定だったのに!」

「「お前は絶対に黙ってろ!」」

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