第三話: 日本人は世界最強のトラブルメーカーである。

 1時間後、アメリカの制服に着替えた帰国子女は新幹線の席で身体をうずくまり、赤面を両手で隠していた。そんな彼女を見た

「うう、恥ずかしいです。まさか、叔母様に騙されるなんて。」

「うちのお袋が本当にすまなかったな。というか、あそこまでいったら、コスプレどころじゃねぇけどな。」

「切腹ですか、打ち首ですか、それとも、ですか?」

「たくっ、お袋、何、教えたんだよ? 自己紹介して、気分を変えるぞ。俺は大和弥威刃って…あの時、名前を読んだけど。」

「私はナデシコ叔母様の妹の娘で、彼女に日本にいる父親と二人息子の兄弟がいると聞かされました。その時の会話で日本への留学ホームステイを誘われました。」

「日本の留学ね。うちのお袋も強引な所があり過ぎるからな。それより日本好きなのか?」

「はい! 日本は素晴らしい国だと両親から聞きました! 侍や忍者や陰陽師や妖怪といった様々な強者達が集う戦場にして、日本グルメやアニメが発達した天国が行き来する極東魔境! 私の一番憧れた地です!」

 弥威刃は落ち込んでいた華侘那が嬉嬉揚々と日本を想う姿勢で元気になった姿に思わず、微笑む…日本に対するイメージに関しては苦く笑うが。

 そんな彼女はちょうど新幹線が発車したのを知り、瞳を爛々と輝かせ、子供のように心を躍動させた。

(たく、色々変なところは純粋だが、あのお袋の知り合いに関しては意外とまともじゃん。まぁ、こういう案内も意外に悪くないか。)

「ヤイバ、ヤイバ! この新幹線はいつハイジャックされるんですか?」

「はっ?」

 微笑んだのも束の間、何かトラブルめいた性質を彼女から感じ、眉を顰め、眉間の皺を寄せた。

「確か、母国で読んだ小説に殺し屋たちが新幹線内で闘うのを知りました! さらに、ハリウッドの映画でもスーパーヒーローがヤクザと新幹線の上で戦っているのを見ました! 日本の刑事ドラマの第一話で公安が新幹線内に潜伏するテロリストを…」

「ちょい待てやおい!? 何で新幹線=ハイジャックになるんだよ!? ていうか、大声で物騒なこと言うなよな! さっきから乗客の視線が痛いんだけど、完全に変人扱いされてるんだけど!」

「私、新幹線でハイジャック犯と戦うのが夢なんです! 侍対ハイジャック犯! これは全米が大号泣のハリウッド映画史上の傑作になります!」

「ふざけんな! こちとら、とんでもない馬鹿で行動的過ぎる母親のせいでハリウッド映画並の冒険に付き合わされて、苦しさと死の怖さで大号泣してんだよ! 大体、こんな目立って狭っ苦しい所でテロリストをやる馬鹿がいる訳…!」

 ヤイバが怒鳴ると同時に車両の扉から迷彩柄の軍服を着た三人の男が勢いよく現れ、銃をかざし、恐喝する。

「手を挙げろ、我々はGUNMAR解放戦線である! 目的はただ一つ、我らが母国、群馬の地こそがゴリンピックに相応しいと内閣政府に知らしめる為だ! 命が欲しくば、我々に協力をするが…!」

「うるせぇ、何でこんな時にハイジャックする馬鹿が現れるんだよ、ちきしょうがぁ!!」

 新幹線で憤り、悔しく、ただ叫ぶことしか出来なかった大和弥威刃。彼こそが日本人随一のトラブル体質であることを彼自身は知りたくもなかった。




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