第七話:日本人は親切だが、マナーには厳しい

「ふっ、鬼畜米の雌餓鬼が侍の真似事か。実に馬鹿げている。」

 先程、生放送で顔を出したGUNMAR解放戦線の構成員が意気消沈のカタナに対し、鼻で笑い、軽蔑のこもった冷たい眼差しを向ける。カタナはその視線に背筋が凍るほどの恐怖を感じた。

「見た所、日本人われわれとアメリカきちくべいのハーフではないか。剣術を齧ったぐらいで、我らGUNMAR解放戦線の崇高な理想を止められると思うな。」

「崇高な理想、ゴリンピックとどう関係あるんだよ?」

 ヤイバの問いかけに構成員は口元を歪ませ、高らかに答える。

「第二回東京オリンピックなど前座だ。我々はその舞台で群馬県による日本独立統治を宣言するのだ。そもそも、あの二度目の世界大戦では独国ドイツにも露国ロシアにも負けなかった。しかし、米国アメリカは核爆弾を使い、我々を降伏させることはおろか、我々の国の裏で植民地にしていることを忘れたか!」

日世上納金ポツダムマネーのことか。」

 日世上納金ポツダムマネーとは敗戦国となった日本がGHQ側からポツダム宣言と同時に約束された制度である。

 その内容は日本八州の経済金の四割を米国アメリカ、中華国、独国ドイツ露国ロシア英国イギリス仏国フランス伊国ローマ豪州国オーストラリアの八カ国に税金として分け与えるという、史実の現代日本からしてあり得ないシステムである。

「あまつさへ、東京の政府は令和という新時代になっても、その不当な賄賂制度を変えないどころか、米国アメリカを含む外国の官僚どもに頭を下げ、媚び諂う! 貴様の父、第100代総理大臣、大和仁もその一人だ!」

 父親の名前を出されたヤイバは今まで面倒くさい風に装った表情を怒りに満ちた顔に一変させた。

「親父は関係ねぇよ。自分たちの妄想を現実にしようとするのが、テロリストだと分からないのか?」

「妄想ではない。奴が一番、外交に力を入れているではないか。外国に現を抜かし、我ら日本国民は消費税は高くなる一方ではないか。そもそも、貴様がその娘と愛惹きしている時に捕まったのでは大和魂の風上に置けない。そんな貴様の兄である東京県士もたかが知れている。」

 カタナはその時、ヤイバが拳を痛々しく強く握り締め、腕を震わせていることに気がつき、構成員相手に喰ってかかる。

「いい加減にして下さい! 私はただヤイバさんに留学の案内をしてもらっただけです! ふしだらな事は一切してません! それにヤイバさんは総理大臣の息子だとか、東京県士の弟だとか言ってますが、ヤイバさんはヤイバさん! この世界にただ一人の人です! 私もあなたもヤイバさんのことを何も知らないのに勝手に決めつけないで下さい!」

 その瞬間、構成員はカタナの髪を掴み、日式強襲火縄銃アサルトライフルを突きつける。

「口を挟むな、鬼畜米と日本人のハーフの分際で!」

「違います! 私の名前はマリアヴェル・ヤマト・華侘那! 私は鬼畜米ではありません! 私は私です!」

 カタナの悲痛でも輝きを失わない叫びにヤイバは腕の震えは止まった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る