第十八話:異界史日本を知る

 俺が産まれて8歳経った頃、兄貴と家の書斎で本を読み耽ながら、この世界の日本について色々分かったことがある。

 警察や自衛隊の代わりに侍・忍者・陰陽師が現存していること。

 妖怪が市民権を持ち、日本人や日本に滞在する外国人と共存していること。

 淡路府を含む四十八都道府県それぞれが独立し、地域によって九つの国に分かれた連邦体制であること。

 前世の日本の二倍の人口とそれに伴う日本企業の海外進出により、経済強国になっていること。

 そして、

「なぁ、兄ちゃん。織田信長はどうして、の?」

「桶狭間に誘い出されたことに気付いた今川義元が密かに影武者を用意し、大高城から来た松平元康、後の徳川家康と挟み撃ちにしたと教科書でしか聞いたことないから、詳しくは分からないんだ。」

 日本、いや、世界の歴史が根底から変わっていること。

 源義経が朝廷を支配して奥州幕府を設立したり、明智光秀が徳川家康と並んで西日本の天下を取ったり、徳川海軍によって黒船が敗退し、アメリカと友好な条約を結んだりと、歴史の積み重ねた中身が変わったことで今の日本、いや、日ノ本が列強から特別視されるほどの強国となっていた。

 また、世界ではイギリスがかのアーサー王によるペンドラゴン王朝が支配したり、エジプトではイスラム教ではなく、太陽神ラー教が国教になっていたりと様々な変化が見られるが、それは第二回東京オリンピックにでも話そう。

「偉いな、小学生で歴史を学ぶなんて。流石だな、ヤイバ。」

「兄ちゃんだって幼い頃から東京県士になる為に東京都の風土や文化を熱心に学んだって母さんから聞いたよ。」

 県士とは四十八都道府県それぞれを統治する侍の集団、【武士団】のリーダーである県の象徴。

 地域の広報活動の傍らで県同士の取り決めの主導権を争う【戦祭いくさまつり】で戦う政治家でもある。

「俺にとって東京都はかけがえのない故郷であるんだ。にとって…」

「また、そうやって自身を失って。この前だって全国の剣術大会で三位だったじゃないか。」

 俺の兄、大和津流義ツルギは12歳でも、冷静沈着で感情の起伏が緩やかで真面目面。だけど、文武両道に秀でて、気配りや親切心、カリスマ性に優れた自慢の兄だ。

 特に剣術に優れ、大和神技流剣術の次期師範と目されている、俺の身近な憧れだ。

「俺はそんな大層なものじゃないよ。流石に鹿には勝てなかったからな。」

「そんな、謙遜しないでよ。次は必ず勝てるよ。なんたって、兄ちゃんは俺一番の憧れの剣士なんだから。」

「ああ、こんな駄目兄貴を励ましてくれてありがとう。」

 だが、天は二物を与えないが如く、兄貴は自分に対して消極的にネガティブだ。いつも、自分と他人に線を引くような謙遜をしている。

「…本当の意味でヤイバの兄になれたなら、お前に対し誇れるのにな…」

「ん、兄ちゃん? 何か言った?」

「いや、何でもない。そろそろご飯の支度をしないといけないから、手伝ってくれるか?」

「うん!」

 俺はこの時、知らなかった。兄貴が抱える重大なを。

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