第五話:日本人は投稿動画が好きだ。

 この日、日本発祥の世界最大級の動画サイト、ニカニカ動画にGUNMAR解放戦線のリーダーと思わしき男による生放送が始まった。

 その動画はHNKや大日本テレビといった日本各地のテレビ局から世界中の報道番組に晒された。

「我々、GUNMAR解放戦線は2020年第二回ゴリンピックの開催地を東京都から我々の故郷いしずえ、群馬に移設することを望む! 真の大和魂を持つ国は外国の食や娯楽に染まり、堕落し切った米國の傀儡ではなく、我ら群馬人である! 寿司ではなく、焼きまんじゅうこそが日本食なのである!」

 その中継を新撰組や御庭番衆さへも見ていた。

「GUNMARの奴らめ。こんな事をしても、意味がないとなぜ分かんねぇんだよ。というか、もう一、二年前ならいざ知らず、何でオリンピック前の年にするんだよ。そもそも、群馬県ネタなんて、令和の時代には古いんだよ!」

「倅よ、これくらいで憤るのは早計だ。逆に何故、今まで見向きもしなかったのに、今年になって、オリンピックの移設を図ろうとするのかを考えるべきなのではないか?」

 GUNMAR解放戦線を不愉快に感じ、苛立つ炎慈を諌めた正輝は今回のテロ騒動の真意を模索する。

 たとえ、オリンピックの移設を行ったとしても、通常なら競技場を即席で作ることが出来ないので間に合わず、日本全体の損失になる筈だと。

「勇美局長。奴らが生放送で演説をしている間に突入できるチャンスじゃないですか?」

「そうね。これ以上はGUNMAR解放戦線なんて変な組織の好き勝手にさせないわ。皆んな、突入準備を…」

 GUNMAR解放戦線のテロリストはなおも眼をギラつかせるほどの狂気に満ち、尚も過激な主張をし続けるが、そこで思わぬ情報が入る。

「ここからよく聞くがいい。我々が人質に取っているのは一般市民だけではない。今、我々の手中に東京県士の弟にして、現総理大臣の息子、大和弥威刃を収めている。」

「は!?」

 この発言に新撰組と御庭番衆が呆気に取られ、開いた口が塞がらない中、画面上に気まずく青冷めた表情のヤイバが連れて来られる。その隣にはカタナがダブルピースをして、満面の笑みで現れる。

「もう、やめて下さい。学校に顔出せなくなるから、人前で歩けなくなるから。」

「パピー、マミー! 見てますか、人生で初めて新幹線で人質にされました! 今夜はホームラン、御赤飯を御所望します!」

「おい、ややこしくなるから出てくんな! 今状況分かってんのか! 街頭インタビューとは違うんだぞ!」

「ふっ、見苦しいぞ大和弥威刃! この国の長である貴様が愛引きデートにうつつを抜かし、我々に隙を見せたのが運の尽きだ!」

「ややこしくなったじゃねぇか! 違います! 彼女は従姉妹です! お袋の頼みで留学に迎えただけですから!」

「ヤイバ、言い難いですけど。この場で否定するのは文秋砲にネタにされますよ。今のうちにカメラの光から目を隠す練習をした方がいいです。」

「お前はどっちの味方だ! 余計ややこしくなったわ! いや、違うんです! この娘は従姉妹でして、おふく…いや、母親から迎えを頼まれまして…」

 そこで生放送が途切れた。それを見計らった勇美は作り笑いで切り替えようとした。

「さっ、人質救出に取り掛かりましょう。」

「勇美さん、流石に無理あるんじゃ…」

「たく、あの馬鹿真面目。マジで俺たちの面倒を増やすことばっかしやがって。」

「流石、我が盟友ソウルメイト。私たちより先に敵陣に潜入するとは。流石、日本一のトラブルメーカー、大和撫子の息子だな。」

「いや、トシ姉。全然違うから。あの人、多分また、母親のせいで巻き込まれただけじゃないですか。」

 霧雨が勇美につっこみ、炎慈が呆れてため息を吐く。歳光が場違いの感心をし、総太がつっこむ。

 実はヤイバが巻き込まれた事件を対処するのはこれが初めてではなかったりする。

 大和撫子が自由奔放に度が過ぎた性格で、彼女の息子であるヤイバや彼の兄は総理大臣の御子息であるのにも関わらず、海外旅行の名を騙った危険道中に無理矢理同行させられている。

 彼らと顔見知りである新撰組と御庭番衆は内閣上層部に彼らを連れ戻すことを度々命じられ、時にはアメリカンマフィアの機関銃を相手に侍の刀で立ち向かったり、時には中華四千年の暗殺拳を相手に忍術で対抗した。

 ちなみに、勇美は大和撫子の同級生であり、歳光と炎慈、総太はヤイバと同じ、侍と忍者、陰陽師を育てる東京校に入っている。

「どうしますか、頭領。」

「構わぬ。あの馬鹿女の息子だ。伊達に危険な目に遭ってはいない。あやつも武士もののふ、あの先達の血筋を引くものなら対処を心得ている筈だ、皆のもの急ぐぞ!」

「そうね、撫子の息子だもの。これくらいの危機乗り越えられるわ。私たちも行くわよ!」

「はっ。」

「オォォォ!」

 GUNMARから新幹線の乗客たちを救う決死の作戦が今度こそようやく始まった。

 

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