第九話:日本人は早とちりしやすい。

 煙幕の向こうから二つの影が現れ、一方はカタナの首筋に刀を突きつけ、もう一方は手裏剣をヤイバの方に投げつけた。ヤイバは寸前にかわすが、その影は隙を見逃さず、彼を取り押さえ、床に落とす。

「がはっ!?」

「ヤイバさん!?」

「よし、取り押さえた。ザマァねぇな、GUNMARも大した事は…ん? ヤイバ?」

 煙幕が晴れ、見えるのはヤイバを取り押さえる炎慈とカタナに刀を突きつける総太…

「なんで、テメェが俺に取り押さえられてんだ!? また、足を引っ張りやがって!? この芋侍!」

「そっちが間違えてんじゃねぇか! おいどけ! さっさとしないとあいつが!」

 そして、カタナに日式強襲火縄銃アサルトライフルを突きつけるリーダー格の構成員。形成逆転から危機的大どんでん返しになった。

「バカヤロー! この放火魔忍者! お前のせいで台無しになったじゃねぇか!」

「うっせぇ! お前が余計な事をしたせいだろうが!」

 ヤイバと炎慈が言い争うも虚しく、その構成員は総太を突き飛ばし、カタナを人質に取る。

「カタナ!」

(くそ! 親父、他の状況は!)

 炎慈は忍術の一つである念話で正輝に連絡を取る。

(他は無事に制圧している! 危機的状況にあるのはお前たちの所だけだ! 今、応援が向かっている!)

(今、人質が取られてんだよ! 今更、応援なんて…)

(いや、その応援というのは…)

「聞け、道を開けろ!」

「おい、待て! 他の構成員はもう捕まった! 抵抗しても意味はない!」

「黙れー! ならば、この娘を人質に我が故郷、群馬第九帝国・・・・・・に帰るまでだ! どけ! 退きやがれー!」

 炎慈の説得も虚しく無駄になり、混乱に陥った構成員はカタナを連れ、新幹線の扉から外へ出た。

「くそ! ちくしょぉぉぉぉ!」

 悔しさに打ちひしがれるヤイバ。外に出た構成員はカタナをまだ連れ去ろうとする。

「もう離してください! 人質はもう済んだんでしょう!」

「まだだ! まだ、我々は、GUNMAR解放戦線の戦いは終わらない! 貴様を人質にする限り、東京政府への脅迫は可能だ! 何が東京だ! 何がアメリカだ! ハハハハハ!」

(ヤイバさん…こんな所で今生の別れは嫌です! おお、神よ。新幹線をジャックされたのに喜んだことを謝罪します! 勝手なことをしてすみません! どうか、あの人と離れ離れになりませんように!)

 カタナは救世主さへも信じる大いなる主に祈った。しかし、祈りが届いたのは外来の神ではなかった。

 頭上に熱波と赤き熱光を感じとり、上を見上げる。そこには炎の羽衣を纏い、炎刀を携えた着物姿の青年がいた。それを見た構成員は開いた口が塞がらないほど愕然する。

「あっ、あああ、ああああ…!?」

「我は東京県士、大和津流義つるぎ!GUNMAR解放戦線に告ぐ! 直ちに彼女や人質を離せ! さすれば、情状酌量の余地で許す! さもなくば、実力を行使する!」

「黙れ! 何が東京県士だ! 人質を取り返せるものなら、熱ぢぃ!?」

 突如、日式強襲火縄銃アサルトライフルが赤く熱を帯び、構成員の髪の毛に火の粉が上がり、燃え出す。とっさに銃を放し、転げ落ちる。

 ツルギはその隙を見逃さず、構成員の喉元に炎刀を突きつける。

「これで終わりだ!」

「あぁ!? ヒィィィ!? すみません! 申し訳ございません! ごめんなさい! ナンマンダブゥーーー!」

 構成員は最早、心が折れ、土下座しながら、失禁をした。

 そこにヤイバたちが駆けつける。

「ゲッ!? 東京県士も来やがったのか!?」

「兄貴、来てたのか! カタナは今どこ…

うわ!?」

「ヤイバさーーーん!」

 周囲の者も呆然としてしまう中、カタナは涙ぐみながら、ヤイバに抱きつく。

「もう、会えないかと思いました! もう一生離れません! ふつつか者ですが! ふつつか者ですが!」

「だから、勘違いさせるような事言ってんじゃねぇよーーー!」

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