第十六話:日本人の中には危機の脱し方を心得ている者もいる

 巻き付かれた江実は煙で咳き込み、取り巻きたちは再び狼狽する中、彼は後ろから苦無を喉元に突き付けられる。

「もうやめやがれ、城ヶ咲江実。こんなことして、兄のお世話にはなりたくねぇだろう。」

「服部半蔵炎慈!」

 江実の後ろに素早くも潜んだ炎慈は警告を促す。

「今さら、ここで終われるかよ。悪目立ちばっかしてるヤイバの糞ボンボンと、由緒正しきボンボンとの差を教えなきゃいけねえんだよ。」

「これだから、侍は馬鹿なんだよ。ヤイバ《あいつ》が江実おまえと同じく親どころかということばっかり気にしやがって。いい加減気付けよ、お前らは互いに在り方が違うってよ。」

「うるせぇ! ヤイバの腰巾着の一人には言われたくね…ぐがぁ!?」

 炎慈は江実の頭をコンクリートの地面に叩き付けた。しかし、加減でもしたのか、地面が凹んでも、血さえも出ず、彼はそのまま気絶していた。

「俺があの芋侍の腰巾着だぁ!? 寝言は寝て言え! 日ノ本最強の頂点たる忍者が侍の分際に頭垂れるかよ! 糞が!」

 炎慈は悪態を吐きながら、倒れた江実を何度も足蹴りにする。

「うわぁ、城南中の学校を消し炭にした放火魔が俺たちのリーダーを…」

「誰が放火魔じゃ! このモブ共が!」

「あびゃぁぁぁぁぁ!?」

 自分を侮辱した取り巻きの馬面頭りーぜんとを忍術で燃やした炎慈にヤイバは呆れてしまう。

「お前なあ、少しは忍べよ。忍びらしく。」

「うるせぇ! てめぇが因縁ふっかけたのが悪いだろうが!」

「もう、リーダーはあてにならねぇ! 俺たちだけでも行くぞ! 覚悟しやがれ、ヤイバぁ!」

 残りの取り巻きたちが一斉にヤイバやカタナに襲い掛かる。

「はい、天然理心流奥義【五段突き】っと。」

「ひぎゃあぁぁぁぁぁぁーーー!?」

「土方歳光と共に…城南中のならず者を片した…瞬剣の沖田総太じゃねぇか…揃っちまった…大和四天王が…あっ、俺のあそこが痛え」

 その瞬間に後ろからやって来た沖田総太が鞘刀による五つの突き技を取り巻き五人の股間に放ち、全員はそこを押さえ、悶えた。

「喰らうがいい。我が、ダークネスバトル天然理心流超絶対必殺最終奥義ダークルプスハウリング…」

「厨二病みたいなダセェこと言いやがって、もう時代遅れなんだぎゃあ…!?」

「厨二病でも、時代遅れでもないし、ダサくないもん! というか、技名叫んでいる間は待って欲しいぞ!」

 技名が長過ぎて、その隙を襲われそうになるも、返り討ちにした歳光を尻目に春花は襲って来た取り巻きたちに札を貼り続ける。

「そりゃそりゃそりゃあーーー!」

 すると、取り巻きたちはあちこちであまりにもむず痒さで身体を掻き続ける者や、足の爪先から頭までこちょばされた感覚に襲われ、笑い叫ぶ者、感電したように痺れ、気絶する者など次から次へと異変が現れた。

「私、特製の防犯用霊符は如何かな。これからも土御門印をご贔屓に。」

 にこやかに笑う春花とは裏腹にあまりの惨状に嘆きそうになるヤイバはそれらを堪え、カタナの手を引き、この場から逃げる事に成功する。

「もう後はどうにでもなれだ! 行くぞ、カタナ!」

「はっ、はい!」

 斯くして、窮地を脱したヤイバ一向だが、後にこの騒動により、其々の親や上司にこっ酷く叱られることを彼らは未だに知らない。

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