可愛い寺の幼馴染と私

ワシュウ

第1話 プロローグ

私が高校生の時の話し


冬休みすぐに同級生がカラオケ店の火事に巻き込まれ死亡したとニュースで流れた。

同姓同名の別人かな?と思ったけど、ニュースの画面に見知ったカラオケ店と野次馬の中に同じ学校の制服が見えたから、まさかのまさか?


ニュースでは、男女6人で部屋にいたけど亡くなったのは男の子1人だけ。

煙を吸って意識不明で運ばれたのが2人でいずれも同じクラスの男子


冬休み入ってすぐと言うこともあって「週末に来れる人だけでも良いので通夜と告別式に最後のお別れを…」と葬儀会場の住所と連絡先が添付されたメッセージが学校の連絡アプリで来た。

そこまで仲良くないけどクラスメイトが亡くなるとちょっとだけショックだった


ちなみに風のように駆け抜けた噂では、彼らは合コンをやってたらしい…。

ウチの母親がニュースにかじりついていて、PTA役員の連絡アプリから得た情報で、有ること無いことを詳細に私に教えてくれた。


母「女の子達は他校の子で、煙臭いからってすぐに逃げていたのよ!

逃げ遅れた〇〇君は最後まで歌ってたのかしら…煙を吸って動けなくなったらしいの、エレベーターの前で亡くなってたんですって

無理やり合コンに参加させられてたんでしょ?可哀想にねぇ

もう大学も推薦が決まってたのに、こんな時期に遊び歩いて―…」(※高3)


「へぇー、そうなんだ。女の子達と一緒に逃げてたら助かったかもね」


亡くなった〇〇君は、見た目は真面目

中身は腹黒い系のチャラ男、今までに付き合った彼女がたくさんいて教室スクールカーストのトップ的な人物。

ウチのクラスにイジメは無かったけど、もし漫画とかならイジメのリーダーやってそうな感じかな



実家が葬儀会館(某大手のチェーン店)の駐車場の裏にある。

駐車場がとっても広いから、葬儀会館までそこまで近くない。

ちなみに引っ越してきた時は、ただの広い雑草畑だったのに後から葬儀会館が建った。両親は縁起悪いと近隣住民と反対運動してたけどサクッと建った。



――その週末――


母「今期のPTA役員は全員行くのよ、それに〇〇君ってあんたのクラスメイトでしょ?

5年前に買った喪服もう着れなくなってたのよ。急いで買ってきたわ!あんたは制服ちゃんと着なさい、シャツ入れなさいネクタイは?」


「ねぇ、靴下って白いほうがいいの?(※靴と靴下は指定なし)」


いつもの通学用の履き慣れた(薄汚れた)スニーカーじゃなくて、お母さんがピカピカの黒いローファーをついでに買ってきた!


家から近くの葬儀会場だけど、中に入るのは実は初めて。

入口のホールは広くて綺麗でホテルみたいだ。

会館に入ると母は役員同士で集まるらしくて早々にどこかへ、私は同級生が集まってる場所に向う。


母に連れて来られただけで、これと言って仲良かった訳ではないのに、早く着いたからと前の方の席に通されてしまった。

いやいや、歴代の彼女達はどこ行った?

私がこんな所に座っちゃ駄目でしょ?


すると、近くの扉から案内されて入ってきたクラス委員長を見つけた。


「中田君!クラス委員長なんだし、前の方の席においでよ!クラスの代表としてさ?私のかわりにここ座ってよ、マジで!お願いします」


「内藤さん、俺も母さんがPTA役員だから来ただけで、〇〇とそんな仲良く無かったし。

ちゃんとお別れをしたい友人が前の方の席に来たほうがいいよね?だから俺は後ろで遠慮しておきます」


とかごちゃごちゃ言ってたら、気を使った近くのスタッフがパイプ椅子を私の隣にもう一つ並べた。

そして、亡くなったクラスメイトの母親が来て挨拶をしてくれた。


「中田君、お久しぶりね。うちの子が中田君がクラス委員長に選ばれたって悔しがってたのよ。

あの子って学校でも内気でしょ?自分からやりたいって言い出せなかったのよ」


中田「この度はご愁傷様です。心よりお悔やみ申し上げます…」


私「この度はご愁傷様です、心中お察し致します」


「うぅぅ…来てくれてありがとうね。

最後のお別れなんだけど、あの子逃げ遅れちゃって真っ黒なの。だから蓋は開けられないのよ」


丸焦げを想像してしまって鳥肌がたった

ニュースではそこまで言ってなかったし、お母さんもそんな事は言わなかった。

泣いてるおばさんには悪いけど、うつむいた顔が上げられないよ!

それにしても内気って…親の前では良い子だったの?


式中はめちゃめちゃ眠かった。

お教が子守唄のようだし、外はクソ寒いけど会場は人がたくさんいて暖かかった。

隣の中田君は本物の真面目君だから、背筋が伸びてしっかりしていた。

そして、誰か来てない人がいたのか始まるまで時間がかかっていた。



「本日はご多用にもかかわらず、亡き息子〇〇のためにお通夜のご焼香を賜りまして誠にありがとうございます。〇〇もこのように皆様に見守られ、とても喜んでいてくれる事と思います。

〇〇の在りし日のことなどお聞かせいただければと思い、別室にお食事の席をご用意いたしました。

息子の供養のためにも、どうか今しばらくお付合い頂ければ幸いです。

なお明日の葬儀、告別式は――……」


終わるまでに4時間もかかった。申し訳ないけど長いね…


中田「内藤さんのせいで前列に座らされたから、途中で抜けられなくて大変だった!」


「マジでごめんなさいです。でも中田君のお母さんはPTA副会長だから途中で抜けたら後でバレて怒られない?」


中田「受験生から4時間も奪う方が罪だと思うけど?チッ…こっちは推薦が決まってる内藤さんとは違うから!」


本当にスミマセンです

帰ろうとした所でまた〇〇の母に捕まってしまった。

「別室に通夜振る舞いを用意してるのよ。

クラスメイトの席もあるの、みんなに迷惑をかけたでしょ?

よかったら食べていってね…田舎から曽祖父や祖父母も来てるのよ。

学校での話を聞かせてあげてくれるかしら」


盛大に引きつり、ヒクヒク作り笑いの中田君を助けるだけの勇気が私に無くてゴメンナサイ。


クラスメイトの分を用意したと言われた葬儀会館のお寿司はとても豪華なものだった。

死んだ〇〇君のお家が金持ち風なのは、持ち物や夏休みの海外旅行の話で知ってたけど…


葬儀だから当たり前だけど、黒スーツの大人(

親戚か父親の会社の人たちか何か偉そうな人)がたくさんいた。


真面目な中田君と小遣い貧乏な私は、みんなのように茶髪にせず黒髪で年寄りの受けが良かった。

クラスメイト代表としてお年寄り親戚の集まりの中に放り込まれた。


「女子で付き合いの浅い私より、クラス委員長の中田君は〇〇君と修学旅行も同じ方向だったよね?(班は違うけど)✕✕寺方面だったでしょ?」


「俺にフルなよ。〇〇君は、えっと…」


それから修学旅行はどこ行ったとか、成績は上の方だったとか当り障りない話をした。

ご老人「不帰の客か、親不孝者め」ボソッ


夜9時を過ぎたあたりでようやく開放された。


家はめちゃくちゃ近くだけど、近いからこそ途中まで送ってくれるらしい。


中田「……変な事言うつもり無いんだけどな、何か黒い影がチラチラ見えたんだ、変なうめき声みたいなのも、それに焦げ臭くなかった?〇〇ってさ、黒焦げになったんだろ?」


「え?」


中田「俺ら〇〇と仲良くもないのに前列に参列して、親戚相手によく知りもしないでベラベラ喋って…もしかしてあいつ怒ったんじゃないか?

帰るときもなんか付いてきてる気がして怖くなって。だから方向違うけど一緒に歩いてるんだ…内藤さんに付いて帰らないかなって思って」


「嘘だよね?今もいるの?」


中田「あいつ女好きな部類だろ?俺に取り憑かれても困る…引くわードン引きだよ!」


「…火事の日は、合コンしてて帰りたがって嫌がる女の子を引き留めようとしたり。それでトイレ行くふりして女の子みんな先に帰ったんだって。

彼女を取っ替え引っ替えして、推薦が決まってからは浮気に遊び放題で成績もガタ落ち。

そんな本当の話より、お母さんの息子像を壊さない中田君の優しいおべっかの方が良かったと思うよ?

〇〇君の友達ってみんな茶髪の派手なグループだったから、黒スーツの中では浮くし。

お母さんが中田君を連れて行った気持ちもわからなくもないよね」


中田「合コン!?マジで?」


「お母さん情報と……ラインで回ってきた他校の子の悲痛なSNSのスクショだよ、ほら見る?ってか知らなかったの?」


中田「俺、昨日まで塾の冬季合宿だったんだ」


「中田君って国立大だった?勉強頑張ってね。

大丈夫だよ、化けて出るにしてもだよ

単なるクラスの同級生ってだけの私達よりも、先に逃げ帰った合コン相手とか、別れるか別れないかで揉めてた彼女とか元カノ達とか友達の所に出るんじゃない?

宮内さんとか、藤本さんとか、米田さんは有名だよね?」


中田「宮内さんも〇〇の元カノだったの?!」


「あ、家ついたありがとう。じゃあ勉強頑張ってね」

地味に落ち込む中田君にバイバイして先に家路についた。

お母さんに玄関前で塩をまかれたのはビビったけど


「これ何の塩なの?」


母「一緒に巻き込まれた△△君、入院してたけど亡くなったんですって。1人が寂しいから引っ張られたのかもしれないわよ」


「え!」


「あんたは帰るのが遅くなったから知らないでしょ?会館の前にテレビカメラが来てたのよ!

学校関係者だけでも会場に入り切らないほど人が来てたんだから」


知らなかった


黒い影、実は私にもチラチラ見えてた、気のせいかもしれないけど。

焦げ臭いのはお焼香の匂いだと思うけど、うめき声よりも文句みたいな声に聞こえたし

明日の告別式に参加するのはやめてお祓いに行こうか迷ったけど


私はお母さんに再び連れて行かれた。

今度は後ろの方でお焼香だけしてすぐに帰ることにした。


私は知らなかったけど、昨晩の通夜で一緒にカラオケしてた女の子の1人が来てたんだって。

中学時代の同級生だったらしい

お母さんは、私と中田君には優しそうに接してくれたけど、その子には鬼のように怒って罵詈雑言を捲し立てたって。

だから通夜が遅れたんだって、歴代の彼女達が来ていないのが何か分かった気がする



「そこのお嬢さん……ちょっとそこのお嬢さん!

っておい!呼んでるだろ!マイちゃんってば」


「あ、私ですか?」

振り返るとお坊さんから呼び止められた

通夜は1人だったけど、告別式にはお坊さんが3人来てた。お焼香の人数が多くて3人がかりでお教をあげていたのだ。

その坊主の1人に声をかけられた。

坊さんなのに髪の毛生えてて茶髪で若造だったから目立っていた。

〇〇君の知り合いかな?


「はい…?」

なんだろう?クラスメイトでも私は接点ないよ?


「俺は……僕だよ久しぶり。ナオユキだよ。マイちゃん大きくなったね、全然変わらないけど」


「…ナオちゃん?!」

葬儀会館の裏に引っ越す前に住んでたのが、寺の後ろだった。

寺の境内に小さな公園があって毎日そこで遊んでた。

ナオちゃんはそこの寺の次男で、くりっとして可愛かったから最初は女の子だと思って人形遊びに誘っていた。

ちなみに私の初恋は、その兄で寺の跡取り長男のマサユキお兄ちゃんだった。

バレンタインにチョコを何度か渡したのは、まだ恥ずかしい思い出だよ!


「ナオちゃん久しぶり、立派になったね。

頭は丸めなくていいの?今どきは茶髪OKなんだ」


「マイちゃん、引っ越してから全然連絡くれなかったからもう会えないかと思ってた…その制服、故人と同じ学校なんだね。いつからこの街に帰ってきてたの?」


「ん?私は引っ越してからずっとこの会館の裏に住んでるけど?」


「え?」


「市内で引っ越したのよ?言わなかった?」


「聞いてない……あの頃の涙を返せ!突然いなくなったから遠くへ引っ越したのかと」


「菓子折り持って挨拶行った気がするんだけど??最後の日にお兄さんと遊んだから覚えてるよ」


「あの馬鹿兄貴…(ボソッ)

そんなことより、マイちゃん昨日も来てた?

夜は寝にくく無かった?体が重いとか無い?」


「えぅ……いや特には?

何なの?ビビらせようとしてる?葬儀場でやめてよ洒落にならないから」


「んん~?本当に何ともないの?でもちょっと待ってね」


そう言ってナオユキは私の肩や腰や頭をポンポン叩いてくる。

坊主がやると洒落にならないじゃん!

え?何か付いてたの?〇〇君の幽霊?

いやでも本当にそんな仲良くも無かったし…歴代の彼女達ってちょっと派手な感じで、黒髪で地味な三つ編みの私とは趣味タイプじゃないよね?


「取れた?祓えた?」


「祓えたって…僕はお祓いなんて無理だからね」


坊主のくせに!


「ちょっと見えるだけで、そんなの無理無理!修行しなきゃ凡人の僕には無理だし。

でもそっか、マイちゃんて昔から見えない性質(タチ)だよね。覚えてる?昔は―…」


「ナオ帰るぞ!ナンパするんじゃない!時と場所を考えろ」


「ナンパじゃねーし!連絡先…あっスマホ置いてきたんだった!

マイちゃん、今度いつでもいいから、またお寺においでよ…あそこなら多分ソレはがれ落ちると思うから。

それまでこれ貸してあげるね!ちゃんと持ってて。

じゃあまたね!」と数珠を渡してきた。


数珠を渡されて固まってしまった。

ひぃ、やめてください!本当に怖いやんか!

でも、つきかえせない!イヤー!

怖くなったから帰り際に会館の"ご自由にお持ちください"の塩をガバっと持って帰った。

玄関前で自分にふりかけてその上を踏んで帰った。


翌朝、すぐに自転車(チャリ)で寺に向かった。

中田君に気になるならお祓い行かない?と誘ったけど「昨日は気になったけどそこまでじゃないし」と彼は勉強を選んだようだ。


境内にある自宅はリフォームされて趣のある綺麗な一軒家になっていた。

呼び鈴を押すと、ナオユキがにこやかに出て来て部屋に案内された。

普通にもてなされて紅茶とフロランタンが出て来た。


寺なのに和菓子に緑茶じゃないんかい!


お祓い的な事を期待してたのに、普通にダベって連絡先を交換して、大学は推薦だから終わってる事を告げると遊びに誘われた。


お祓いする前に緊張をほぐしてくれるのかな?

とか思ってたけど違った。


「もしかして、故人の幽霊が付いてるとか思ったの?違う違う、そんなんじゃないよ」


「じゃあ何のための数珠なの!」


「それは、生霊用だよ…あの故人のお母さんには参った。

マイちゃんお母さんから彼女だと思われて睨まれてたんだよ?気づかなかった?

長い首が巻き付いててなんかヤバそうだったから落とそうとしたんだけど、すぐに絡みついてくるから。マイちゃんは別に彼女とかじゃないでしょ?」


「マジかー…同じクラスだったけど全然接点ない人だよ」

何処からそんな誤解が…最前列に座ったせい?

私はあのおばさんの生霊に取り憑かれてたの?長い首?ヤダなー

「ねぇ、もういない?」


「いないよ」

クスクス笑ってからかわれた気がするんだけど

ホッ…告別式に本物の元カノ来てたしな


「じゃあ、△△君って巻き込まれて入院してた同級生が死んだのってやっぱ引っ張られたの?」


「偶然じゃないかな?葬儀会館の人の話では死んだ同級生は非常階段に倒れてたって…直接の原因は逃げようとして転落死じゃない?」


「男の子は全部で3人のはず、もう一人いたの。そいつはどうなったの?」


「僕が知るわけないじゃん、普通に逃げたんじゃない?でもほら救急車に乗せられたんだよ」


ちなみに、△△君の葬儀は市営の家族葬で、ごく親しい友人しか呼ばれなかったそうだ。

お家が貧乏子沢山だから式が挙げられなかったって噂だった。



本当に申し訳ないけど、初詣は電車ですぐの関西最大級の商売繁盛の神様にお参りに行ってて、ナオちゃんとこには行ってなかった。

誘われたし今年からお参りはナオちゃんとこに行くとしよう。



「明けましておめでとう。…ナオちゃん黒髪に戻したの?」


「明けましておめでとうございます。今年もよろしくお願いいたします。

マイちゃんって派手なのタイプじゃないよね、真面目ちゃんなの?」


「美容院って高いじゃん?一万円とかするとね…お小遣いもったいない」


「お洒落とか興味ないの?マイちゃんはそのままでいいけど。

あ、甘酒配ってるんだ、飲んでく?」


「飲む」

地域(ローカル)神社は甘酒出たりするよね

(※後日別の友達に誘われて恵比寿えべっさん行った)

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