第11話 生き霊

バイト先の葬儀会館は大手のチェーン店

故人さんや遺族のニーズに対応している。


今日は牧師さんが来るやつです

神父やシスターがカトリックで

牧師がプロテスタント

ざっくり説明で申し訳無い。


スタッフの人数は変わらないけど、やることが全然違う…始めて見た。

いつもは棺に修多羅とか小刀とか乗ってるのに、今日は布と十字架だった。


お焼香しないから灰とかマッチとかの"焼香セット"もいらない。

献花をするらしい

外国のドラマとかで見たことある、日本でもやるんだ…勉強になるなぁ

白百合、白薔薇、白いチューリップなど、花屋から白い花を集めてきて籠に入れて置いておくと

参列者が一本取って祈り棺の上に置く…


牧師さんが聖書を持って読んでる

さすがにピアノは用意出来なかったから、キーボード持ち込んで、集まった人たちで賛美歌を歌ってる。

お教が聴こえてこないのがいつもと違って不思議


告別式が終わると、火葬場に行くために出棺するのはいつも通りで、市外にある火葬場はいつも混んでる。

1度帰って来て、待ってる間に精進料理(昼食)を食べる


式担当(営業)「1時間半後にお骨上げ」


田前リーダー「わかりました。内藤ちゃん1時間半って伝えてきて」


「はい」

伝えに行くのは精進料理を作ってる会館の厨房。


ちなみに、1時間半は懐石コースをゆっくり食べてコーヒー飲んだら、あらもう時間?さぁ行くよ!


って感じで、スタッフはギリギリのカツカツ時間。

スタッフは配膳服の着物を着替えなきゃいけないから。


今回は初七日法要をしないのだ。

いつもは骨上げから帰って来て、そのまますぐに初七日法要をするのに

火葬場で骨上げしたら解散になるようだ。

遠方から来る親戚とかは火葬場へ行かずに、ここで解散するのか荷物をまとめるとタクシーを呼んでいた。


荷物の片付けと、忘れ物チェック

通夜から会館に泊まる遺族もいるから、ホテルと同じでチェックアウトと精算しないといけない


パタパタしてたら声をかけられた


「あの、もしかして、違ったらごめんなさい。

知り合いに似てるの…内藤さんの所のマイちゃんじゃない?」


誰ですか?……とは聞けない!どうしよう?


「あ、はい。母の知り合いの方ですか?」


「あぁ、私よ、三井よ。

ほらマイちゃんが引っ越す前の斜め前に住んでた。お母さんとは引っ越したあともしばらくお茶してたのよ」


思い出した!三井さんだ、私より4つ上に女の子いた!

私はナオのお寺の近くに3〜6歳まで住んでた。

小学生に上がるタイミングで社宅から引っ越したのだ、親が新築買ったから。


「確か、小学校卒業の時にお祝いのケーキ持って来てくれましたよね?(多分)お久しぶりです」


「私もあのあと九州の親戚の近くに引っ越したのよ、久しぶりにこっちに来て、誰か知り合いに会わないかしらって思ってたの。

マイちゃん綺麗になったわねぇ…いくつになったの?」


「19です、大学生ですよ。」


「あら、大学生なの?大きくなったわねぇ!みんなお変わりない?」


「お母さんも元気です。ほら家の裏側ずっと工事してたじゃないですか。ここ出来たんです…お母さんは家の裏が葬儀会館になってショック受けてましたけど。

えっと、ケイコちゃんはお元気ですか?」


「ケイコはねぇ去年出てったきり…

あら、ごめんなさいタクシー呼んでたのよ。お仕事の途中で話しこんじゃって悪いわね。会えてよかったわ、元気でねバイバイ」


「あ、はいお疲れ様でした…お元気で」


えー、ケイコちゃん、家出したの?

年下のナオと私はよく遊んでもらっていた。いつも偉そうなぽっちゃり系ガキ大将みたいな女の子の姿が思い浮かんだ――…、




「――…、そう言えば

ナオちゃんはケイコちゃんの事が好きだったよね」


ナオ「は?」


「あー、好きって言うか、懐いてたよね?

よくケイコちゃんの後ついて遊んでたじゃん?

『ナオちゃんは私の事が好きなんだから!』とか

『愛し合ってる2人の邪魔をしないで!』とか

『アンタさえいなくなれば!』って火サスみたいなセリフ覚えて実行してきたんだよ。三井さんよくサスペンスドラマ見てたよね。

ケイコちゃんに滑り台から突き落とされたし!

よくドラマ冒頭で殺されるモブ役やらされたなぁ

懐かしいなぁ…あの頃はまだ滑り台の下にマットなくて硬かったじゃん?顔から滑って鼻すりむいたんだよアハハ」


バイトが終わって、今はナオのお家にいる。おやつにモンブランが出てきた。


ナオ「あのクソ醜女ブスデブゴリラ(ボソッ)

なんかいたねぇ…そんな人。境内の公園って子供いっぱいいたから。

僕、仲良かったマイちゃんしか覚えてないや」


「ケイコちゃん強烈だったのに覚えてないの?

家出って…4コ上だから23か」


ナオ「もう、大学卒業してる歳の大人じゃん

就職したり結婚して家を出てるんだよ。三井さんとこちょっと変わってたでしょ」


「変わってた?スピーカータイプのお喋りおばさんだったよね」


ナオ「違うよ、いやそれもあるけど。三井さんとこヤバい宗教やってたよね?

クリスマスとか誕生日とかお正月とかお祝いが一切禁止で、献金が年間100万以上とか。

三井さんの娘はこっそりウチに来てたけど、ご家族は1度も寺に来たことないよ。

そう言えばマイちゃんのお母さんも一時引っかかってなかった?」


「……あっ、なんか覚えてる」

うちのお母さん4回改宗してるのだ、サークル感覚で改宗してそう。

今は緩い所で落ち着いてる。


「マイちゃんのお母さんノイローゼ気味になってたよね」


「え?…そうだったかな?」


「ユウちゃん(マイの弟)とよく境内の公園に放置…じゃなくて、夕方まで遊んでなさいって家を追い出されてたじゃん。

三井さんとこの子と3人で公園にずっといてさ、ユウちゃんまだ小さかったから僕の家でよく寝てたよ」


「そう言えば、ユウはいつもナオちゃんちにいたね。

あんま外で遊ばなくて、ゲームやってるイメージしかない」


「そりゃあのデブ…三井さんとこの子がユウちゃんを突き飛ばして泣かせてから外遊びしたくないって嫌がったんだよ。

マイちゃんはいつも一緒に遊ぼってユウちゃんを公園に連れてくるけど、ユウちゃんはお利口さんにゲームしてたよ」


「全然覚えてないわ」


「マイちゃん近くにいなかったかな?

覚えてない?ケイドロで遊んでたら『ユウくんとおねぇちゃんばっかドロボーにすんな!』って言ったらデブゴリ…あの子に突き飛ばされたんだよ

本当に、なんでマイちゃんは素直に遊んでたの?」


「それは『マイちゃん遊ぼ』って誘ってくれるからかな?

仲良くしてくれる年上のおねぇちゃんって感じ」

ユウも今は「ウザッ」しか言わないけどね


「マイちゃんやユウちゃんの持って来るお菓子をぶん取って『はい今日のお恵み』って偉そうに1枚だけ投げるのが仲良くしてくれるおねぇちゃんな訳ないじゃん

わざと木に何か引っ掛けて、取って来い!とか言って木に登らされたり

そこに落とし穴を掘れ!とか言って硬そうな砂利にスコップ投げたり

ブランコで自分の靴を蹴り上げてから、ソレ拾って来い!とか

虫を捕まえてはマイちゃんの頭に乗せて笑ったり

泥団子作ってマイちゃんの三輪車に乗せて、壊すなよ!とか無茶振りしたり

どこで覚えてくるのか、奴隷ごっことか、囚人ごっことか、ケイドロではマイちゃん一回も警察やってないよね。鬼もマイちゃんばっかり。

マイちゃんのハンカチとか髪ゴム借りパクしまくり。しかも堂々と自分のものだって言い張ってそのまま使ってたし」


「当時は、そーゆー遊びだと思ってたのかな…?

それにしても、よく覚えてるね」

ナオの記憶力が凄すぎてびっくりだよ


懐かしい昔ばなしで当時はあーだこーだとその日は盛り上がった



以下ナオ視点――


あのデブゴリラ、思い出すだけでも腹が立つ!

マイは懐かしい思い出としてにこやかに微笑んでいたけど


俺とユウには嫌な思い出しかないクソブス

近所でのあだ名がデブゴリラだった、三井ケイコ…4つ上のまさにウホウホって感じの、見た目も中身もあり得無いやつ。


マイは昔から、守護霊アレに、守られてたから大した怪我もなく無事に過ごせてるのだと思う。

マイが来ると、境内にいた無害な浮遊霊までいなくなる。

最初に見た時は、この世のものとは思えなくて…幼女の姿をしたあの世からの使者か妖精の類いだと本気で勘違いしてた。まぁそれは置いといて


マイ本人も運動神経が良いから走るのも早いしジャングルジムも木登りも上手だった。

なまじ4つ上のデブゴリラについていけたのも、無茶振りを増長させた原因だったと思う。


全然知らない他の子が木に引っ掛けても、スルスル登ってボールや紙飛行機なんかよく取ってあげてた。

それもケイコの癪に障ったと思う


当時は「昆虫戦隊虫キング」が流行ってたから

ダンゴムシでも蜘蛛でもセミでも「ゴールドカブトキングの仲間だ!」とかアホなこと言って頭に乗せられても喜んでたし

※今なら叫ぶ


当時のマイがお菓子を取られても黙ってたのは、それが好きなお菓子じゃくて、食べずにすんでラッキーとさえ思ってた。ユウは泣いてたけど

ハンカチや髪ゴムを取られても、似たようなの家にたくさんあるし、と気にしてなかった。

母親も「すぐ落として来るんだから!」くらいにしか思ってなかった。

ケイコは親に買ってもらえなかったら羨ましがってたと思う


マイは足が早いから鬼ばっかりでも喜んで追いかけていたし、最初はナオとケイコの3人で遊んでても、帰る頃には公園にいた子たちと打ち解けてた。

マイはいつもニコニコ人懐っこくて他の子たちの輪の中にいて、ユウもその頃になると出て来て「ユウくんのおねぇちゃんだよ」って輪の中に入っていく


プライドの高いケイコは他所の子には「あーそーぼ」が言えなかった。

マイを独り占めしたいナオも自分から輪の中にうまく入っていけなかった。


母親が夕方迎えに来るとき、ゆうは外に出ていたからナオの家でお昼寝したりゲームしたりしてたことをずいぶん後になって知る


ちなみにケイコは大きいから1人で帰宅していた。

本当の放置子はケイコの方で、母親が迎えに来るマイとユウを羨ましく思い、妬んでいた



その日の夜8時過ぎ――…


ピンポーン


呼び鈴がなる


「こんな時間に誰かしら?またお祓いに駆け込んできた人?」

近くにいた祖母が勝手口を開ける。


黒いスーツの女「ごめんください、こちらに娘の婿がいますでしょ?迎えに来きました」


祖母「は?」


「申し遅れました、私、以前この近くに住んでいた三井と申します

ここのナオくんとうちの娘が交際していたのはご存知でしょう?そろそろ結婚式の日取も近づいてますし、話し合いも必要でしょう?

うちの娘に寺は無理ですものホホホ

まあ、ナオトくんは次男ですから?うちに婿に来てもらってもよろしくてよ」


祖母「は?」


「……はぁ、ボケてきた老人では話にならないわね。ナオトくーん、迎えに来たわよー!

ケイコが待ってるわー、ナオトくーん!いるんでしょー!!」


祖母「まだボケてませんわ!お引き取り下さい」


「んまぁぁ!!孫の結婚の邪魔なんて、婆さんがするもんじゃないわよ?

男の行き遅れは見苦しいわよ?」


祖母「大きなお世話です!帰って下さい」


廊下から見てたら母親がこそっと近付いて来た

「あんたは出てっちゃ駄目よ?」


「出るわけないじゃん!警察に電話しないと!

……もしもし山田さん(※いつも寺がお世話になってる警察官)

〇〇寺の息子の藤原です!!キチガイばあさんが家に来て、他人の名前を叫んでます。

ボケ老人かもしれないですけど、早く来て下さい!あ、いえいえ…はい…はい、いつもすいません」


母親「なんて?」


「10分くらいで来るって」


それから10分もしないうちに警察官がパトカーで来てババァを引き取った。

祖母と何やら言い合いしていたけど、気持ち悪かった


マイの話ではデブゴリラは家出中のはず…本当にボケたんだな憐れなババァ。


祖母「ナオはマイちゃん一筋だもんね?

あちらの娘さん妊娠してるんですって」


「キモッ…知らない」


祖母「悪いと思ったけどマイちゃんのウェディング写真出して

うちにはもうしっかりした嫁がいますけど?って誤魔化したわよ」


「マイちゃん大丈夫かな?……祖母ちゃん、今日バイト先でマイがあのおばさんに会ってるんだよ。

三井って昔さ、娘のケイコってデブゴリラがよく来てたけど覚えてない?6歳頃かな」


祖母「……三井、あぁ思い出した!

マイちゃんが引っ越した原因の三井さんね!」


「は?」


祖母「知らなかった?あのときマイちゃんのお母さんが〇〇〇〇教団の信者だったでしょ?

辞める時は、しきたりで嫌がらせ?何ていうか村八分にされるのよね。

あの頃はピークで、何人も辞めたいって人が相談に来てたのよ。賃貸の人は、ほとんど引越して行ったわ。

うちはそういう駆け込み寺じゃないのにねぇ、教団の集会場が潰れてしばらく見なかったから忘れてたわ」


「九州に引っ越してたらしいよ、こっちで親戚が亡くなって葬儀に来たんだって」


祖母「それでびっくりして見てたのね。マイちゃん化粧してもしなくても顔が変わらないから本人だとバレたわね。そうだったの…マイちゃんならきっと大丈夫よ」


〇す!あのクソババア!!!

マイが引っ越した原因ってあのババァだったのか!許せない!

娘共々呪い〇す!


その前にマイちゃんに連絡しなきゃ!

もしかしたらマイの家に嫌がらせしに行くかもしれない!


「…もしもしマイちゃん?

今、電話大丈夫だった?大変なんだよ、聞いてよ――…」


寝るまでマイと電話したおかげで気分が良かった。

電話なら言いたいこと言えるから、明日から毎晩電話しよーっ



翌朝、警察官の山田さんが来た。

三井のババァが親戚の家から消えたって探しに


昨夜、警察署に連行した後、九州の自宅に連絡しても誰も出ない、まぁ繋がった所でね?

仕方ないから葬儀があったその親戚の家に連絡して甥だか姪に引き取ってもらったらしい。

そして朝になって部屋がもぬけの殻で警察に電話したと。


祖母がうちには来てないけどと前置きして

昔あった〇〇〇〇教団の関係者だった事や娘が妊娠して家出してる等、知ってることを話した。

噂話しでも、警察だし裏とりするだろ


まぁババァがどうなろうと、どうでもいい

でもマイちゃんに電話で知らせなきゃ


今は授業中かな?

メールで「授業終わったら電話して」って送ろうかなぁ

マイは電話してくれるかな?


それから昼に電話が来た。


『もしもしナオちゃん、何かあったの?』


「うん、マイちゃんお昼休憩なの?電話して大丈夫?それがね―…」


大学にいる時のマイの声が聞けて嬉しいけど

電話が切れる時に後ろで男の声がした…


『マイここにいたのか、次の講義もう始まるぞ』


なんて馴れ馴れしいんだ!マイは俺のなのに!

俺以外にマイをマイなんて呼んでるクソ野郎が大学にいんのか!

くっそー!どんな面してるか拝んでやる!呪ってやる!


コンコン


嫌な予感がする

だって、ノックがなったのは窓の方だから

振り向きたくない


コンコンコンコン


背筋に悪寒が走る


帰れ、帰れ、帰れ!来るな!昼間から出てくるなよ!

夜でも昼でも出てくる、こっちの都合なんてお構い無し


コンコンコンコンコンコン―…

ギィギィギィギィギィ―…


音が増えてナオは振り向いてしまった


うわぁ、三井のババァの生霊だ!


ろくろ首のように首が伸びてマンホールほど膨れ上がった頭部がコンコンと窓を叩いて

大口あけて特徴的な出っ歯が窓ガラスをギィギィ擦っていた


腕の数珠を握りしめ固まる

これは以前マイが結び直した縁起の良い数珠だ

どんな結び方をしたのか、今までほどけることはなかった。

先日、やってはいけないタブーをおかして

ナオ自身の守護霊がいなくなってしまったのだ


『ケイコォ…ケイコォ…ケイコォ』


何だよ、化けて出るなら娘の所に出ろよ!


『ケイコォ…どこにいるのぉ…お母さんが悪かったから…ケイコォ帰ってきてぇぇ

ケイコォ…どこにいるのぉ…お母さんが悪かったからぁ』



あっ…ケイコもういないんだ



聞きたくもない、見たくもないのに勝手に流れてくる!やめろ、知りたくもない!他人の不幸なんて消えろ!


ケイコが19の時…

派手な格好で遊び歩いて帰って来なくなった

しばらくして妊娠したと言って帰って来た

父親が誰だかわからないと言う

心当たりの男に連絡したら、キープも含め全てに逃げられてしまった

ケイコは腹の子ごと捨てられたのだ

「父親もいない子なんて、おろしなさい。貴女のためよ」

嫌がり泣きくれるケイコをはたき、おろさないなら出て行けと脅す。

泣く泣く病院へ連れて行くと、既に簡単にはおろせない所まで来ていた

太っていたため妊娠に気付くのが遅かった


このまま生むと言う選択肢もあったのだ

だが許さなかった、世間体的にも自分のプライド的にも結婚もしないでシングルマザーなど恥だと言いくるめて……


術後の肥立ちが悪かった


教団との付き合いに嫌気がさして夫は出ていった

心の拠り所にしていたその教団は潰れて解体された。

元夫とヨリを戻そうと思ったのだが、あちらは既に新しい家庭を築いていた。

2度と近寄らないと念書を書かされ、九州の父方の従兄弟の家に母娘で居候する事に。

肩身の狭い思いをしながら娘はどんどんグレていく、何とかしなければと思った矢先の喪失…


先日、兄の葬儀があった、両親は知らぬ間に墓に入っていた。

間違って連絡してしまったと葬儀場で話していた甥と姪


心残りはたくさんある、娘の初恋の相手だった男はどうしてるかしら?

近くに住んでたはず

幼い頃からよく遊んでたじゃない

バレンタインには2人でチョコを作ってあげたわ

クリスマスは娘と一緒に過ごしたかしら

誕生日は家に招いてパーティーをした

離れてからも何度も手紙のやり取りをしていたはずだ

そうだ娘の腹の子の父親だった

ちゃんと結婚してもらわないと

お寺に盗られるなんて絶対に嫌だ、3人で、いや産まれてくる子と4人で暮らせばいい

『ケイコォ…お母さんが悪かったぁ堪忍しておくれぇ…またやり直そう』



気持ち悪くて吐き気が…「うぇぇぇ、ゴホッ、オェェェ」

勝手に妄想して巻き込むな!


体はガタガタ震えるのに動けない…オェェ…うぅ苦しい

祖父ちゃん、ばあちゃん、母さん、父さん


助けてマイちゃん―…




『三井さん、ケイコちゃんはあっちですよ

なんだケイコちゃんは昔のままですね』マイの声


あれ?霞がかった山頂…?

まるで雲海を見てるみたいだ、ここは?…マイちゃん?!


それにあれは幼い頃のケイコ?


『お母さん、いつも迎えに来なくて寂しい

お母さん、いつも忙しそうだった寂しい

お母さん、ごめんなさいイイコじゃなくて

お母さん、ごめんなさいイイコになれなくて

お母さん、ごめんなさい私は嫌われ者です

お母さん、ごめんなさい私は悪い子です』


マイ『ケイコちゃんは別に悪い子じゃないじゃん

私は楽しかったよ?一緒に遊んでくれてありがとう元気でねバイバイ』


『あんたのぉ、そういう所がムカつくのよぉぉ!!』

幼かったケイコの容姿が成長して禍々しい顔つきに変わった


マイは少し困ったように眉を下げて笑った

『…ケイコちゃんゴメンネ?

たくさんもらったムシキング返すよ、ハイ』


ケイコの頭上からセミや蜘蛛やダンゴムシ、石や靴や泥団子なんかもたくさん落ちてきた

『ギャァァ…やめてーごめんなさいぃ』『ケイコに何するのよぉぉ!ギャー』



うわぁ…マイちゃんの仕返しけっこうエグい


あっマイちゃんだ。

あのウエディングドレスを着てキラキラ輝いてる

これは結婚式?

パチパチと拍手の中を歩く、みんなが俺達を祝福してくれてる


「俺、ついにマイと結婚できるんだ嬉しい」


『ふふっ私も同じくらい大好きよ』


「マイ…世界で一番愛してる。幸せすぎてもうこのまま死んでもいい」


マイが目を閉じてキス顔で待ってる、ゴクリと息をのんで近づく


『うっ!ゲロ臭っ!

ナオちゃん、今すぐ起きて口ゆすいできなさい!チュウ出来ないでしょ!早く早く!』


俺が臭い?!さっきのゲロか!ちょっと待ってて!あっマイちゃん押さないで!


コケて雲海に落ちる!!



「ゴハッ!?ヒュー、ヒュー、ヒュー…夢?マイちゃんは?」


父「ナオ!しっかりしろ!」


母「ナオ!ナオー!」


祖母「ナオ、マイちゃんはここよ」


ピーポーピーポーと救急車の音が近付いてくる

父親が跨って心臓マッサージしていたのか胸のあたりが痛い

母親が泣きながら縋り付いていて

祖母が拝んでいたのはマイのウエディング写真。


そんなまさか!結婚式が夢だったなんて…



その後、救急車で運ばれて検査した。

嘔吐物が詰まって窒息死しかけていたらしい。

母親が見つけて救急車を呼んで、祖母がマイの写真に手をあわせていた。やめたげて


祖母「あの時、マイちゃんの生霊が来てたのよ。悪い予感がしてあんたを心配してたのね」


「うん…知ってる」


母「全くもう!救急車が間に合って良かったわ

マイちゃんも後でお見舞いに来るって…市内の病院いっぱいで市外だから、お祖父ちゃんと車で来るのよ」


「うん、知ってる」


母「今晩何ともなかったら明日退院できるのよ

一泊だけどパジャマいる?

スマホを置いてきたでしょ?取って来ようか?」


「うんスマホ欲しい

パジャマいる、ゲロ臭いから」


母「お祖父ちゃんの車で一旦戻って着替え用意してくるわね…

ここ病院だからと思うけど、マイちゃんいればまだ安心でしょ?」


「うん大丈夫。もうちょっとしたら来るよ」


だってさっきから幼女のマイがそこで遊んでるもん。

俺が心配で生霊飛ばしてるんだ


マイちゃんの生霊すげーな、めちゃめちゃ光ってる

目立つから集まって寄ってきてるけど、全部マイに持ってかれてる。

知らないお化けと遊んじゃいけません!って誰か教えてやれよ。

俺がいても全然見向きもされない、あんなゲログチョのオバケも平気なの?

ニコニコして子どもの時のままだ、マイがいると遊んでた子みんなマイに寄っていくから




祖父「ナオが死にそうってマイちゃんから電話があったんや。着歴に残ってないけど」


マイ「…お祖父ちゃんの番号知りませんから」


祖父「じゃぁ番号交換せんと」


マイが、ナオが助かって良かったと笑いながら祖父ちゃんにスマホ渡してた。やめろや!俺の、俺だけのマイだぞ!


マイの知らせで、祖父ちゃんが母さんに様子見てきてくれんかって頼んだらしい

マイが病院についた瞬間、マイの生霊以外の全てが吹っ飛んだ

ズンっと暗闇につつまれた

病人がとどめをさされそうな闇黒だな。何人か地獄に落とされそう…


マイ「…ところでなんで私の写真が飾ってあるの?

いや、確かに送ったのは私だけど?恥ずかしいから別のにしてよ!」


「それ祖母ちゃんが気に入ったんだ…白無垢しか着れなかったんだって」


マイ「あぁ、なんか分かった。

お祖母ちゃんドレス着たかったんだね…(チラリ)」


祖父「わしゃどっちでもええ言ったわ!」


マイ「お祖父ちゃん、そこは『俺のためにドレス着てくれ』って言うところですよ

どっちでもいいなんて、ドレス高いのに。自分から着たいって言えなかったでしょうね」


祖父「マイちゃん、老い先短いお祖父ちゃんの為にドレス着ておくれよ」


マイ「もう!お祖父ちゃんったら」


クスクス笑うマイの横で幼いマイが消えないで笑ってる



それはマイが帰ってもまだ残ってた。

生き霊出しっぱなしで疲れないの?もう戻っていいんだよ?

母さんが一泊一緒にいてくれるらしい

簡易ベッドに寝てる母さん


今もマイに集まってきて賑やかすぎて寝れない



『ナオちゃんも一緒に遊ぶ?』


「僕、マイちゃんと2人で遊びたい」


『分かった!マイはナオちゃんと遊ぶからみんなバイバイ。

……ナオちゃん一緒に遊ぼ。何する?』


「マイちゃんと一緒なら何でもいい。僕とだけ遊んでよ、他のコと遊んじゃヤダ、お願い…僕だけを見てよマイちゃん」


『うん分かった』


「…本当にいいの?」


『うん、だってマイのナオが取られたらやだもん!マイがしばらく守ってあげるよ』


俺の守護霊がマイちゃんになった。

そんな幸せな夢を見た

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