第10話 派遣 式場は式場でも…

バイト先の葬儀会館は大手のチェーン店

全国にたくさんあって、車で15分とか遠くても40分で行ける範囲の会館で人手が足りない時にヘルプで入ったりする。


ただ、今回の派遣はちょっと特殊で

式担当(営業)の男性社員が新設される会館のレセプションの仕事を持って来た。

わかりやすく言うと宴会の配膳係のこと。要するにウエイトレス。

いつも会館バイトでよくする通夜振るまいとか精進料理の配膳係のこと


精進料理って会館で作ってる懐石コースになってるから、着物に着替えて配膳する

着物も2部式でゴムのスカートだし着やすい!1人で着れるのがポイント!


今回は、土日の午前中に出勤出来る暇な人で、若い順から2人選ばれる


奥寺チーフ「内藤ちゃん次の土曜は新しい所ね」「え?はい」


こんな感じで私は予定を聞かれることなく入っていた。

もう一人は、子育てが終わってる主婦の大垣リーダー。

実年齢より若く見えるからだと思う

私も165cmで高いほうだけど、大垣さんは167かな?2人ともスラッとしてる感じ

何となく営業スタッフの趣味で選ばれた感がある


出張とか派遣とか、これの何が良いかというと、車1台で相乗りして行っても全員にガソリン代がでるのだ!

通常は千円、距離換算で今回は二千円!!ヒャッホイ



「地味に嬉しいですよね!」


大垣「うん、そうやね。しかも今回は二千円だし。

西村さん新設の式場行ったことあるんですか?」

(※西村=今回の営業の男性社員)


西村「うんあるよ。めっちゃ綺麗やで!

駅から近いし、駐車場もちゃんとある。立地が良いところだよ」


大垣「へぇ~、会場の規模はどのくらいですか?」


西村さんの営業車(第二のマイカーらしい)で出張先まで向かってる。

話を聞く限り、新しい形態の会場で、お偉いさんとかその顧客が来るみたい。

誰かの葬式とかじゃなくて、あくまでプレオープンのお披露目かな。

全国ではないだろうけど、西日本か…関西地区の営業担当スタッフが集まるとか、多分そんな話をしてる。


昨日は忙しくてチーフから派遣の話を聞いてなかった。

まぁ配膳係の着物で料理運ぶだけだし、営業の話を聞いてもね?



―…そう思ってました!!

あるぇ?

どう見ても結婚式場じゃね?めっちゃお洒落やん!


『冠婚葬祭〇〇〜』とかCMやってる大手のチェーン店だけどね?

でも葬儀スタッフは葬儀会館に呼ばれると思うじゃん!

通りで大垣さんが色々と質問して確認してるわけだ!ちゃんと聞かなきゃ結婚式の仕事は何すればいいかわかんないもんね!

ってかチーフも教えてよぉ!忙しかったけどさ


思ってたのと違う感でいっぱいの私は、キョロキョロしながら大垣さんの後ろをついて事務所に出勤の挨拶に向かう。

派遣されるとタイムカードがちょっと特殊で、パソコンに社員IDの他にホーム会館IDも打ち込む。

いつもは社員証(名札)をバーコードリーダーにピッでおしまい。


ちなみに西村さんは、駐車場に着いたらすぐにタバコ吸いに消えた…おっさん!


大垣「おはようございます、〇〇会館から来ました大垣と内藤です

本日はよろしくお願いいたします」


「内藤です、お願いいたします」


「おはようございます、チーフの松原です。

あっモデルの子が来たのね」


「モデル?」どこに?


松原「横井さん、控室に連れてって」


大垣「あの、私たち宴会場のレセプタントスタッフで呼ばれてます。モデルは多分違うと思います」


松原「あら、そうだった?控室に制服あるからサイズ確認してね」


松原チーフはとても忙しそうだった、みんなバタバタしてる。

横井と呼ばれたスーツの年配女性スタッフが控室まで案内してくれる。


すっかりアウェイの場の雰囲気に飲まれて固まってる私と違って、大垣さんは横井さんに色々と質問してた。ほぇー…


控室に入ると広かった。人も多くて、劇団の楽屋かって感じ。見たことないけど。

結婚式場の服めっちゃ可愛い!

比べるもんじゃないけどね?葬儀場は華やかさいらんし


エプロンのついたメイド服と言えばわかるかな?

山のように服があり、スタッフの服だけで10種類以上掛かってる!

私達はエプロンのメイド服……ではなくスーツだった。


スーツってさ、いつもの会館の制服と大差ないのよね。いや細かい違いはあるけど

白シャツに濃紺のベスト・タイトスカートなんてジャケットないだけで、いつもの服と同じじゃん?残念。


着替えたら大垣さんと厨房のバックヤードに入る。

何するかって言うと、お酒を運ぶのがメインの仕事。

ワインサーバーとか始めて見たわ!

グラス三分の一ってよく言うけど、気持ち少なめ

四分の一より気持ち多めらしい。そんな説明を受ける…ほうほう勉強になります


すると、松原チーフと横井さんがバックヤードに入って来た。


松原「あっ、いたわ!えっと…内藤さん、ちょっと。」



―…結果から言うと

ウエディングドレスのお色直し衣装を着ることになった。

7回お色直しできるよ!って結婚式のプログラムらしい。

結婚式でお色直し7回もすんの?!ほへぇー…


時短で7人のモデル用意していっきに見せる。

んでその内の1人がドタキャン…って言うか連絡つかないとか。


今メイクされて髪もイジられてます…多分ここで働くプロの人かな?

「口閉じて下さい」とか「目閉じてー、ハイ開けて」とか


恥ずかしい事に、胸が入らなくて予定してた服が着れなかった。急遽、違う服になった

「なんかすいません…」


ドレスのスタッフさんが「いいのよ(モデルが)合わないとか良くあることよ。今回はこっちのドレス着ればいいの。実際の結婚式でも当日新婦が太って変更とか、予定してたドレスが届かなくて変更とかあるから」と慰めてくれた。


準備終わって座って待ってたら

隣りでプロのモデルさんが、ビリッてカラコンの封を開けて、まぶたをグワッと開いてコンタクトぬちゅんと着けた。この間3、4秒くらいかな?手際よくて思わず見ちゃった


「何?」


「すいません、カラコン手際良いですね…」

ふんわり系の顔してるのにトゲトゲしい言い方にびっくりだよ。


「…あんたどこの事務所?」


「事務所??あっ〇〇葬儀会館です…あのパンピーの代役です、ブッチした人いたんで急遽」


「はぁ?…チッ」


モデルの世界怖いです!私には無理!何で舌打ちしたの?機嫌悪いの?怖っ…もう見ない話しかけない



ウエディングドレスマジック!

別人のように…見えなくもないかな?ちょっと大人の階段だよね!

ウエディングドレスだぁ、女の子なら一生に1度は着てみたいよね!

白無垢はしんどそうとか思ってたら白無垢着てるモデルいたわ。

メイクが今風って言うの?思ってたより可愛くて平安京チックじゃなかった。


テンション上がって楽しかったのは最初だけ。

まだそんな歩いてないのにヒールの靴が疲れた

髪の毛セット崩しちゃいけないから緊張して肩こる。胸が微妙にキツくてもう脱ぎたい。


それに早々に準備が終わってしまった……

(※若いから肌が綺麗、ノーメイクでも目鼻立ちくっきり、眉毛も二重もまつ毛も天然無加工、傷んでない黒髪ロング、詰め物いらない大きな胸)


プロのモデルさんはみんなメイクに時間かけてるんだなぁ凄いなぁ

…アレは、つけまつ毛だ、凄っ、ああやってつけるんだ…あっ見ちゃうけど失礼だから見ないようにしなきゃ!でも他人のメイクアップ見てしまう!

テレビで見たことあるけど、生で見ても凄かった!


プロのモデルじゃなくて良かったぁ、もう疲れたもん


控室の外の廊下にウォーターサーバーあるから、ちびちび飲んでたら西村のおっさんが来た。


西村「内藤ちゃん!?モデルやってるの?何で?」


「ブッチした人いたんです。松原チーフに頼まれて…もーめっちゃ肩凝りますよ!ウェディングドレスってしんどいですね、フゥよごしちゃいけないから水飲むのも気を使いますよ」でも仕事だから頑張るよ。


西村「…言動で台無しやから。姿勢正して笑ってなさい。どこの女優さんかと思ったで?

本物の花嫁みたいや、お父さん泣いちゃうシクシクってなハハハ

スマホあったら写真取ってあげようか?」


おっさんのオヤジギャグはどうでもよくて、スマホあったから写真取ってもらいました。

お母さんとナオに自慢しよ。

おっさん!!自分のスマホでも普通に写真とってるし!

西村「奥寺チーフにメールしておこう」


肖像権侵害よセクハラよー…そんな事は言わないけどね。

西村「ピースはやめなさい、こうお淑やかに出来ない?内藤ちゃん何歳なの」


「ふけ顔ですが19ですけど?」お淑やかてどうするの?


西村「え?未成年だったの?25、6かと思ってた」


「そんなに年取ってませんから」マジか、そんな上に見られてるの?ショックだわ


スタッフが呼びに来て、準備終わった人からあっちで打ち合わせあると別室に連れて行かれた。


スタッフ「出番きたら知らせるから、ステージ入ったらここ立って、終わったら合図するから退場」


ざっくりしすぎて不安な説明。

でもモデルの人たち何も言わないから分かってるみたい…分かってないの私だけ?

はぁもう帰りたい、場違いすぎるわ

猫背になりそう…せめて姿勢正して笑うのだけ頑張ろう



この時、カラコン娘以外の他のモデル達はマイをプロのモデルと勘違いしていた。

姿勢を正して余裕の笑みを見せていたから

天然でも目力あるのに、プロにメイクを施されたマイ。

チラ見されただけで、睨まれたと内心怖じ気付くモデルたち。

みんな自分達の方が若手だと勘違いしていた。


小さなため息すら鼻で笑われたと思われてる事に気づかないマイ


『一軍の人来ちゃってるよヤバッ…私ら引き立て役なの?』

『めっちゃ美人やん!』

『なんでこの人がメインのドレスじゃないの?事務所のアレとか?』

『ちょっと身長足りないから?』

※165センチはプロのモデルとしては低い方


ふわっとした説明が終わり、出番が近づく。

どうしよう?普通に歩いていいの?前の人の真似すればいいか…


この後、ステージに出たら会場にカメラが数台あってさらに驚く

プロパガンダ用のムービーやパンフレットのための写真も撮られまくった

緊張して頭が真っ白になり笑ったまま固まっていた。

司会の話が全く入ってこず、合図にも気づかないけど前の人が退場したからついていく。


終わったかな?と思ったら

新郎役の人と歩いて行けと言われ「はい」とだけ返事する。

他のモデルさんも写真撮ったりしてる。


新郎役の香水、臭っさ!吐きそう!…早く帰りたいなぁ


新郎役「はい…」


「え?」


新郎役「…あのエスコートしなきゃなんで、手をかけて下さい、スイマセン」


ハッ…腕組みして歩くのね!わからなくてボーっとしてたわ

「あっすいません、お願いします」


新郎役「もしかして緊張してます?」


「してます…何すればいいかわからないので教えて下さい。すいません」場違いで本当にすいません。


ステージに出るとフラッシュの嵐だった。

あっ目つぶっちゃった

写真たくさん撮ってるなぁ…これパンフレットになったりするの?

顔が笑い疲れた、表情筋固まりそう



――3時間後――


終わってから、着替えて髪もおろしてもらう。

控室出た所で西村のおっさんが待ってた。


西村「内藤ちゃん未成年でしょ?事務室で書類にサインして。

社内報に載せるのに保護者の同意がいるんだけど、(本当は駄目だけど)私が代わりにサインしといた。あとは本人のサインだけだから

大垣さんと駐車場で待ってるからね」


なんか、そう言われると早くサインして帰らなきゃって思うじゃん?

事務室で一応書類に目を通して、パンフレット作るのに載せてもいいかとか聞かれて、別にいいとサインした。


式場の男性スタッフが事務室に入って来て声をかけてきた

「君はどこの事務所?またお願いしてもいい?なんならここの専属になる?」


松原チーフ「尾崎さん、この子は葬儀会館のスタッフよ?おじさんが若い娘ナンパしないの!

ヘルプで今日だけ来てるの!引き抜いたら奥寺チーフに私が怒られるわ!

今日はありがとう、本当に助かったわ」


「いえ、こちらこそお疲れ様でした」


また他の男性スタッフが入って来て

「君どこの事務所?連絡先教えてよ」


松原チーフ「おっさんはイ・ヤ・よ!この子は葬儀会館のスタッフよ!奥寺チーフのとこのコよ」


なるほど、所属の連絡先の欄にいつもの葬儀会館の住所を書いた。タレント事務所じゃないけど自分の所属はそこだから。

(※後日、モデルの仕事の依頼で電話したら、葬儀会館に繋がる怪奇現象がおきる。一部で幽霊扱いされる)


事務室を出た所で新郎役の香水男が声をかけてきた

「あの、俺、山瀬って言います。〇〇プロの所属なんです。良かったら連絡先交換しませんか?」


「…あの、私は一般人です。タレント事務所とか所属してません。今日はヘルプで普段は別の場所でバイトしてるんです」


山瀬「え、あの、待って待って、えーっと…

え?俺振られたの?」


あ、事務所どこか聞かれたんじゃなくて、ナンパだったの?

「彼氏います、すいません」これがベストな答えだね。うん、1度は言ってみたいセリフだよね?

先日、カレカノ関係になったから早速使いました。キャハ


それから駐車場行くまでに何人も声をかけられたけど「車で営業(スタッフ)が待ってるので急ぎます!」と走って帰って来た。

(※マネージャーの事だと思われてしばらく式場に問い合わせがある)


もしかして、私にモテ期が到来したの?ウハッ


(※同年代には近づきがたい美人だけど、ビジネスなら声をかけておくべき美人)



車に乗った所で西村さんがホットの缶コーヒーをくれた。まだ温かいからそんなに待たせてないのかな?ホッ


マナーモードにしてたスマホを見たら、ヒッ!?

着信81件?!ナオからだった

メールには「誰と結婚するの?」とか「この浮気女!」とか「俺を捨てるなら呪ってやる」とか「お前を殺して死んでやる」とか「捨てた事を後悔させてやる」とか色々なんか恐ろしい事になってた。うわぁ


あっまた電話!でも車の中だから電話に出れない…


メールで「今日のお仕事でドレス着ました。結婚式場に派遣されたの。びっくりさせちゃってゴメンネ

いま、帰りの移動中だから帰ったら連絡します」と送ると、ちょっと経ってから「変なメール送ってごめん」と返事が来た。


西村「内藤ちゃんまたやらない?」


「もうやりたくないです」

最後のナオのメールでとどめを刺された。


大垣「楽しいけどドレスって大変だったでしょ?わかるわぁ…何年前かしら。会場の配膳から見てたけどめっちゃ似合ってたよ」


「ここ微妙に遠いですし…電車の乗り換えは2回までなら許容範囲ですよね」


西村「来週の水曜にまたあるんだけど、やらない?」


「大学ですよ」


西村「え?内藤ちゃん大学生なの!?」


大垣「そうやで?なんで西村さん知らないの」


西村「平日働いてるやん」


「平日は夕方(通夜)からですよ…春休みとかは平日の朝も入ってますけど。結婚式場もういいです

本業のモデルさんと並びたくないです」


西村「タレント事務所使うと高いからね」


大垣「え?!モデル料でないの?」


「え!?出るんですか?派遣されただけですよね?」


西村「どうだろ?出ないと思うよ?」


大垣「内藤ちゃん、じゃあ辞めとき!

タダで使われたら勿体無いわ!モデル料もでないの?ケチやなぁ」


大垣さんは、撮影されてたのに信じられない!とか言ってたけど、車内の暖房が暖かくて眠くてしょうがなかった。


そうか…モテ期じゃなくてモデル料ケチりたいだけなのか。

危うくイタい勘違いするところだった。


ウトウトしながらなんとか帰って来た。

西村さんから「家まで送ろうか?」と聞かれて大垣さんが「じゃあ会館まで送って!」と笑ってた。

西村さんは月1くらいしか来ないから、私が会館の裏に住んでるの知らないようだった。


※ちなみに後日、奥寺チーフも「モデル料もでないの?なんてケチなん!もう行かんでいいからね!」と似たような事言ってた。



小一時間後、ナオの部屋で――


「勘違いさせてごめんね?

って言うより、ナオちゃんどうしたのその顔!

こことか、こっちも、全身傷だらけじゃない?

野生の猫とキャットファイトしたの?

あれ?ナオちゃんちょっと痩せた?なんか運動してたの?お疲れ様です」


ナオ「マイちゃん…変なメール送ってごめんね、消しといて。でも心配した!あんな写真、心臓に悪いよ!」

(※しっかり保存して、プリントアウト済)


ウエディング"モデル"って送ったつもりが

ウエディング"モテる"と変換ミスしてた


「本当にごめんなさい…疲れるしちょっと遠いからもう行かないの。

それで、なんで傷だらけなの??

わっナオちゃん目が真っ赤!それ充血なの?血の涙みたいになってるよ?

ホントに大丈夫?病院行かなくていいの?」


ナオ「マイちゃんのせい!知らない!」


私のせいなの?

「ごめんね、機嫌なおしてよ」


ナオ「……怒ってないよ。マイちゃんこそ大丈夫?変なの送っちゃって…僕のこと呆れてない?」


「全然大丈夫だよ」

若干引くメールだったけどね?


ナオ「本当に?」


「ナオちゃん元気出して?

まだ3時半だし、何か甘いおやつ一緒に作ろっか?

タルト・タタンって炊飯器でも作れるんだって!食べる?」


「マイちゃんが僕のために作ったモノなら何でも食べたい」


「市販のホットケーキミックス使うから失敗しないよ!」


「マイちゃんは…僕のこと……頭撫でて?」


「ん?ヨシヨシ、もっと?」


「もっと!」


「イイコイイコ、よしよし

えいっ、おりゃ、頭くしゃくしゃにしちゃうぞー?」


「くしゃくしゃにしてもいいから…嫌いにならないで」ポソッ


「ヨシヨシ…チュッ…大好きだよ」


ナオがポカーンとして見下ろしてきた。

うぅ、恥ずかしい!

私より背が高くて、私より奇麗な顔してるのに傷なんて作っちゃって

私が結婚したと思って、変なメール送るほどショックだったのか…

めちゃめちゃ愛されてるなぁテヘ



それから一緒にりんご切ったり、卵混ぜたりして

タルト・タタンのケーキ作った。

ナオのお母さんが紅茶入れてくれてお祖母ちゃんがおじさんとおじいちゃん呼んできて

みんなでアフタヌーンティーした。


ナオが寝ちゃったから夕飯前に帰った。



マイに言えないナオの秘密

本格的に呪ってた

マイからのウェディング写真のメールを見て、某ストーカーアプリでマイの現在地を確認するが、ネットで検索するも新設の式場はヒットしなかった。パチンコ屋のあった更地 

車で現場まで行き、その目で直接確認すると、正装する人で賑わう結婚式場に…

私服で来たから入れないので、車でグルグル周り、塀の外から遠目に見たモデルをマイと勘違いして鬼電。

マイは仕事中だから出ない。

アプリで見た現在地は、まさに式場のそこ。

その場で泣いて壊れ、イタいメールたくさん送っちゃう。

全然気持ちが収まらないナオは、ブチギレた沸騰頭でマイの結婚相手を呪い〇す事を決意する

決意を固めると妙に冷静になり、そこらへんの店で包丁買って〇す方法は現実的ではないと思い留まる。


マイの結婚相手を〇すつもりで、自身の知る全て持てる限りの呪詛を使って、エグくてグロくてエゲツない方法を半狂乱に泣きながら行使する


寺の息子が使ってはいけない下法


マイの想い人はナオだから全て自分に帰って来るが、マイの守護霊アレに弾かれたと勘違いして1人で泥沼化する


人を呪わば穴二つ

元よりナオはカウンター覚悟で挑んでいる


カウンターに使った祖父の強力な御札が3枚ほど燃えた

己が呼び出したヤバい何かに取り憑かれ、発狂するほど怒り悲しみ妬み嘆く。

寺の本堂で暴れまわり、あわや大惨事に。


昼間からギャーギャー言って血の涙を流して発狂する息子を止めるため、祖父と二人がかりでお祓いを試みるも駄目で

肝心のナオが手が付けられない状態に。


最悪の事態を想定したお父さんがマイに助けを求めて電話するが出ない。


代わりにメールが帰って来て、仕事でウエディングドレスを着た事がわかる。

最初のメールも「ウエディングしたの」と考えなくても分る変換ミス。


ウェディングドレスを見て動揺した息子の送ったメールを見てお父さんがドン引き。

こんなエゲツないメールでフラれないのが奇跡だ!とマイの懐の深さに感謝し

お父さんが「変なメール送ってごめん」と代わりにメールする


そしてマイのメールを何度も見せて

「マイちゃんはお前に見せたくて着たんだぞ!

お前の為に着たウェディングドレスなのに勘違いするな!これはお前と幸せになるために着たものだ!マイちゃんと結婚するのはお前だ」と何度も言い聞かせて落ち着かせる。


「俺のマイだ…俺のマイだ…俺のマイだ…俺のマイちゃんに会いたい」と涙を流してスマホにすがりつく。


何とか落ち着いて正気を取り戻したナオが今度は自分の送ったメールに絶望する。

「俺は取り返しのつかない事をしてしまった…こんなメール送って…マイに嫌われたぁぁ!もう駄目だぁぁぁぁ死にたいよぉぉマイちゃぁぁん」


自分のメールで傷心した心の隙間にヤバい何かが取り憑いた。


お祖母ちゃんがたくさんプリントアウトして「お前のマイちゃんだよ、死んだら他の男に奪われるよ、しっかりおし!」とナオの周りを囲う


大量にプリントアウトしたドレス写真がこんな事に使われてる方が恥ずかしい件


息子のヤバい執着心にお母さん絶句


祖父と父親が二人がかりでナオに取り憑いたヤバいヤツを払おうとするも大苦戦する

数珠が弾け、祖父が念を込めた御札や本家から分けてもらった力の籠もった勾玉などでも封じ込めるのでやっと、祓えない


祖父「とんでもないものを呼び出してしまった…くっ!必ず助けてやるからな!」



小一時間後にマイが自転車で寺に来た時に、その何かは消滅

雑魚を弾いた時の余波で残りの御札や勾玉なども木っ端微塵になり最後は塵すら残らなかった


ナオ「はっ!マイちゃんが来たの?……怒ってなかった?」


祖母「お前の部屋で待ってるから行きなさい。マイちゃんを信じなさい」


静寂な本殿で大量のマイのウェディング写真だけが残った


貴重な勾玉が消えて、おじいちゃんは発狂したくなった……涙をのんで孫を助けるために砕け散ったと思うことにした



そして部屋で待ってたマイはいつも通りだった。

ちょっと申し訳無さそうに困ったように眉を八の字にして、ナオを気づかい謝ってきた。


その事にナオは心底安堵した

それと同じくらい信じられなかった、あんなメールを送られてきて平気なマイが。


大した事ないよと笑う彼女が、大した事ないのは自分オレの事で

もしかして、付き合ってると思ってるのは自分だけで、本当はたくさんいる男友達の1人なのでは?


壊れるほど本気で落ち込んだのに、愛ゆえに恨んで憎んだメールだったのに…マイからしたら本気に捉えない些細な事だったのか?


マイは俺のこと…そこまで好きじゃない?


すんでの所で出かかった言葉を飲み込んだ。

好きじゃないと言われたら今度こそ耐えられないから

わずかでも触ってほしくて「撫でて」と誤魔化した

頭を撫でる手付きがペットの犬を撫でるみたいに遠慮が無かった。

恋人のように好かれなくてもいい、このまま友達でいいから嫌われたくない

自分の口からポロリと出た事にも気づかなかった。


マイが撫でてた手を引っ込めた…

始まってすぐに終わる、雨の日の線香花火のように…燃える前にゴミに変わる。


あんなに見たかったマイの顔が、今は見たくない

そっと顔に触れられ、目があった瞬間―…



今でも信じられない。

「本当に俺みたいなヤバい男が好きなの?マイちゃん大丈夫?」


マイと並んでキッチンに立ち、2人でりんごを切りながら話す。


「え?ヤバい自覚あったの?

でもナオちゃんめっちゃ格好いいじゃん!

私こそつまんない女で申し訳無いです…せめて笑いを取ったほうがいい?」


「何で笑いを取ろうとするの…」


「今日、本職のモデルさんたちに囲まれて、みんな凄いなぁって思ったの。

私には笑いを取るくらいしか出来ないじゃん!

ボケるから突っ込んでよ!」


「何でお笑いせなあかんねん!」


「ナオちゃんツッコミの才能あるやん!」


「何でだよ!」


「そこは、なんでやねん!って言うところだよ?」


「僕、お笑いコンビやりたくないんだけど?

あ、だからって他の人と組まないでよ?マイちゃん流されてすぐ浮気しそうだし」


「ちゃんと断ったよ?」


「…何を?」ピキッ


「ナ・ン・パ!断ったよ。彼氏いますって、偉い?」


「許さん!」その男呪い〇す!俺のマイなのにクソッ!


「ちゃんと断わったんだから許してよ、素敵なダーリン?」


「可愛いから許す」だから結婚してマイちゃん!


照れて笑うマイが可愛くて愛おしくて

あぁ、愛おしい俺のマイ。いつか俺のいる孤独じごくに落としてあげる

俺と同じくらい苦しめばいいのに



マイが帰った後でお父さんとおじいちゃんにたっぷり怒られた。

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