第9話 骨董品

その日のバイトは疲れた


昨日の通夜は2階の中ホールでやったのだけど、思ったより弔問客が来てとても忙しかったらしい。

今日の告別式は1階の大ホールでやることになった。たまたま大ホールが空いていてよかったとチーフが言う。

故人さんは8歳の女の子で急性白血病で失くなったと。気付いたときには手遅れと言うヤツらしい


そんなわけで、通夜に学校の生徒やその保護者が来た。

翌日の告別式は平日だったけど、学校を休んだのか小学生が一クラス分丸々来た。

それ以上いたかもしれない…もちろんその保護者や学校関係者も来ていた。


幼い子共の葬儀はなんか辛かった。

小学生の半分くらいは泣いていて、半分の半分くらいは大人しく出来なくて最後は飽きてきて駄目だとわかっても遊んでた。親が連れ出して帰ったり先生がそれとなく注意したり。

気の毒なお母さんがずーっと放心してて、他のスタッフも気を使って話しかけないようにしていた。

めちゃめちゃ忙しかったし2時間も残業したけど終わってホッとした。

全く知らない他人の最後のお別れだったけど、もらい泣きしそうだった。


ナオにメールで"残業になった"とだけ連絡してたから30分おきに着信が入っていた。

電話して終わったことを伝えて今から行くと言うと、ナオが迎えに来ると言う。


それなら、まぁ、ありがたく待つことにした。

疲れたし甘やかされたい。

10分もかからないうちに迎えに来たナオの車に乗った。


「マイちゃんお疲れ様、忙しかったんだね」


「うん忙しかった」


「残業ってわかってても心配で何回も電話しちゃった、ゴメンネ」


「こっちこそ2時間も待たせてごめんよ」


「僕の家行く?」


「うん、(別にどこでも)いいよ」


「もう帰ったかなぁ…」


「誰か来てたの?なら別の所でいいよ」


ナオはブツブツ言ってたけど、車は家に向かってるようだった


いつも通りナオのお家に行くとナオのお母さんが「マイちゃんいらっしゃい」と出迎えてくれた。


ナオ「部屋に行くから、来なくていいし!」


母「はいはい」


五分もしないうちにナオのお母さんが地元で有名な〇〇のチーズケーキを持って部屋に入って来た。

スポンジ部分にレーズンが入ってるちょっと大人のチーズケーキだ!


反抗期拗らせてるようなナオがお母さんを追い返して

「ゆっくりしていってね」とお母さんがバイバイする


「誰か来てたの?このチーズケーキはお客さんに買ってきた物の残りじゃない?」

と私は思ったことを聞いたら


ナオはため息交じりにポツポツと話してくれた。

駅前の商店街の骨董品を扱ってるアンティークショップの店主おっさんが来てたと言う

海外まで買付に行って曰く付きの品を買ってきては、ここでお祓いを頼んでると


「へぇー?骨董品ビンテージの自慢したくて来るんでしょ?ツボとか買わされるの?」


「…今の話でマイちゃんの気になるところはそこだよね。うん、まぁ、自慢してるね。ツボとか買わされた事はないよ。むしろ、色々とくれたりする。

その机の上にある万年筆とか前に貰った物だよ」


ビンテージの万年筆!凄い「良い人なんだね」


「さぁ、いい人かは知らない。」


「ふーん」


「マイちゃんはモンブランの方が好きでしょ?…食べたい?」


唐突にどうした?

あっ、もしかして余ったケーキにモンブランがあったのかな?でもなぁ

「〇〇のモンブランはさ、普通のモンブランっぽくないよね、別に嫌いじゃないけど」


「え?!そうなの?」


「スーパーの乳製品コーナーの横とかで売ってる普通のモンブランあるじゃん?こう、ラーメンみたいなのに栗が乗ってる普通のモンブラン。あれが好き」

安いし大きいし栗乗ってるから


そんな話をしつつチーズケーキ食べて

なぜか女の子向けのお洒落雑誌があるから読んだり、ナオが大学の話し聞きたがるから何したとか話したりして時間が過ぎる


「マイちゃん夕飯食べてく?」とナオのお母さんが声を掛けに来て「家で用意してると思います」と帰った。


今日はちょっと疲れたし早くお風呂入って寝たい

あ、ナオからメールが来てる…



――以下は骨董屋の店主視点


先月買った荷物が空輸で届いた

東南アジアで買った、からくり箱…曰く付きと言われていたけれど構わない

また、いつものようにお寺に持ってけばいいだけだ

(※からくり箱=内部や表面に仕掛を施し、一定の操作を行わないと開かないように作られたもの)


荷物を店舗倉庫に入れて次の休みに寺に予約を入れカレンダーに書き込んだ

今日の日付は2月13日

10時にバイトの子が来る

昼から市外の古本屋に行って……あれ既視感?


そうだ、10時のバイトが

電車の遅れで遅刻すると電話がかかってくる


ブー・ブー・ブー―…


「はい…」


『あっ店長お疲れ様です

なんか人身事故かなんかで電車遅れてます、すいません』


「ああ、急がなくていいよ。気をつけてね」


『すんません!』


それから…何だ、そうだニュースだ!


電車の事故をちょっとだけやるんだ

テレビのチャンネルをつける…たしか8チャンネル!


番組の途中で上に速報のテロップが流れた


それから、それから…


そうだ、昼から古本屋に行って、特に本を買わずに帰るんだ……

どういう事だ?どういう事だ!?


頭が真っ白になって考えがまとまらない!

なんだ、頭が回らない


カラン、カラン―…

入口のドアが鳴る


いつの間にか2時間も経っていたらしい


「店長、遅れてすんません!

いやぁ~、電車完全に止まってたみたいで駅も混んでて大変でした。

バスもめっちゃ並んでたんで一本乗れなかったんですよ」


バイトの子が倉庫の手前ロッカーが並ぶスペースに行く。


そうだ、この後は確か

鞄をロッカーに入れて、店のエプロンをつけて玄関の掃除に向かうはずだ


「今日の入り作業……玄関の掃除ッスね!行ってきます」


ホウキを持って玄関を開ける…うわっ知ってる!気持ち悪い既視感だ


滝のような汗が顔や背中を流れる

私は一体どうしたのだ?頭がおかしくなりそうだ


カレンダーをみたバイトの子が声をかける

「店長、昼から古本屋行くんですよね?」


チラリと時計をみるともう12時前だ

「こうしちゃおれん!行かなければ!後は頼んだ!

夕方までに帰ってくるけど、遅くなるかもしれん。帰りの鍵はいつもみたいにポストに」


「あ、はい!いってらっしゃい」


東南アジアで買った曰く付きの仕掛け箱だ!!アレのせいに違いない!


奥の倉庫の荷物から仕掛け箱を取り出すと紙袋に入れて持っていく

寺だ!寺に持ってけば…


いつもなら15分もかからないのに

今日はなぜか時間がかかる

駅前の一方通行の道でパトカーが交通違反を捕まえてる、他所でやってくれ通れないだろ!


ぐるっと大回りすると、道路が工事してさらにぐるりと片道三車線の大きな国道に出てしまった


くっ…国道はUターン出来ない!

どんどんと目的地から離されていく

やっとの思いでたどり着いたのは夕方頃だ


車を駐車場に置いて紙袋を持って走る


ビリビリィッ


何かに引っかかったのか紙袋が破れて中身が飛び出した


拾って


だから薄いのは駄目だと……ハッ!?


私は薄いのは駄目だと思った??

これも既視感がある!!


「藤原の住職!いるか!!私だ!湯浅だ!〇〇商店街骨董店の湯浅だ」


勝手口の呼び鈴を鳴らすと家の中じゃなく外から声がした

「なんじゃい!大きな声ださんでも聞こえとるわ」


助かったぁ!


私は東南アジアで見つけた曰く付きの仕掛け箱だと買ったときの説明をして見せた


でも今日の事を説明しようとするが、うまく説明できない

「呪われてるのかもしれん!助けてくれ!」

こう言うしか無かった。


住職「またなんじゃい?…それが?呪いの箱か?」


「とにかく見て下さい!!」と住職に押し付けた


受け取った住職が箱を触ると仕掛けがスルっと動いて蓋が外れて、箱が落ちた


ギョッ!「ひっ……中身は空?」


「おぉ、すまん蓋が外れてしもうた。

東南アジア言うが、そりゃ違うな、ほら蓋の裏に MADE IN チャイナ…残念やったな」


「え!チャイナ!?

いやいや、そんな馬鹿な!これは曰く付きの仕掛け箱です」


住職「…ほんならお祓いしとこうか?

おっ、ナオええ所に。

これは曰く付きの仕掛け箱らしいんや、ネットで(値段いくらか)調べてくれんか?

ここにMADE IN チャイナって書いてあるやろ?」


ナオが、ん、と短く返事をしてパシャッとカメラで撮るとすぐに検索を始めた。


ナオがスマホ画面を見せて

「残念だったね…ドンマイ」


「いやいや、違うんですって!呪われてるの!」


住職「でもな?ネットで200円の箱なぁ…うん」


「違うんです!何ていうか今日変なんです!見たんです今日の事、あーもう何て言えばいいんだよ!」


ナオ「湯浅さんなんか憑いてるね」


「え?」


ナオ「じいちゃん湯浅さんちょっと変だよ…じゃあ俺出てくるから」


住職「おぉ車気を付けてな…。最近、彼女できてんて」(※爺の早とちり)


「ほぉ、ナオくん18?19だっけ?

ちょっと前まで小さかったのに大きくなったなぁ。他所の子って大きくなるの早いな」


「湯浅さんとこの子は大学生やった?」


「ウチはとっくに卒業して就職して別んとこ住んでるわ!」


「もう、そんな経ったか、なら結婚は?」


「まだや!

ここのお守り買ってきたのにご利益無かったわ」


「ハハハ残念。」


「ってそんなんどーでもええねん!!

デジャヴ!そうデジャヴや!今日の事デジャヴや!」


「…その東南アジアの荷物はこれだけか?」


「まだ、店の倉庫に」


住職「全部見たるから持って来んかい!」


それからまた大回りして、道を迂回したりグルグルして帰ると商店街の閉店時間に。

一部の飲み屋以外はシャッターが降りる


バイトの子が帰った後の暗い店内を見回す


荷物のダンボールごと車に乗せたが…今から行くとなると夜中になるな住職怒りそうだ

1度帰って明日行こう




先月買った荷物が空輸で届いた

曰く付きのからくり箱を確認すると、荷物を店舗倉庫に入れて次の休みに寺に持っていくとカレンダーに書き込んだ

今日の日付は2月13日

10時にバイトの子が来る

昼から市外の古本屋に行って……あれ既視感?


そうだ、10時のバイトの子から遅刻すると電話がかかってくる


ブー・ブー・ブー―…


「はい…」


『あっ店長お疲れ様です

なんか人身事故かなんかで電車遅れてます、すいません』


「ああ、急がなくていいよ。気をつけてね」


そう既視感だ。

テレビのチャンネル8!テロップが流れる

私は知ってる…!


行かなければ…

そうだ寺だ、寺に行かなければ

バイトの子が来てから店を任せてあの曰く付きのからくり箱を持って行かないと!


それからバイトの子が来てから

車で寺へ向かう

いつもは15分なのに、道が混んでて通れなくて迂回できなくてと夕方になった。


車を駐車場に置いて紙袋を持って走る


ビリビリィッ


何かに引っかかったのか紙袋が破れて中身が飛び出した

拾って、だから薄いのは駄目だと……ハッ!?

これも既視感がある!!


「藤原の住職!いるか!!私だ!湯浅だ!〇〇商店街骨董店の湯浅だ」


外から声がするはず

「なんじゃい!大きな声ださんでも聞こえとるわ」


助かったぁ!

「呪われてるのかもしれん!助けてくれ!」


住職「またなんじゃい?…それが?呪いの箱か?」


「とにかく見て下さい!!」


受け取った住職が箱を触ると仕掛けがスルっと動いて蓋が外れて、箱が落ちた


「あっ……中身は空」スン


「おぉ、すまん蓋が外れてしもうた。

東南アジア言うが、そりゃ違うな、ほら蓋の裏に MADE IN チャイn…残念やったな」


「え!チャイナ!?

いやいや、そんな馬鹿な!これは曰く付きの仕掛け箱です」※ショックなのは変わらない。


住職「…ほんならお祓いしとこうか?

おっ、ナオええ所に。

これは曰く付きの仕掛け箱らしいんや、ネットで(値段いくらか)調べてくれんか?

ここにMADE IN チャイナって書いてあるやろ?」


ナオが、ん、と短く返事をしてパシャッとカメラで撮るとすぐに検索を始めた。


ナオがスマホ画面を見せて

「残念だったね…ドンマイ」


「いやいや、違うんですって!呪われてるの!」


住職「でもな?ネットで200円の箱なぁ…うん」


「違うんです!何ていうか今日変なんです!見たんです今日の事、あーもう何て言えばいいんだよ!」


ナオ「湯浅さんなんか憑いてるね…でもその箱じゃないよ店だ」


「店?」


ナオ「じいちゃん湯浅さんの店ちょっと変だよ…じゃあ俺出てくるから」


住職「おぉ車気を付けてな…。最近、彼女できてんて」



―…それからまた大回りして、道を迂回したりグルグルして帰ると商店街の閉店時間に。


バイトの子が帰った後の暗い店内を見回す


荷物のダンボールごと車に乗せ…今から行くとなると夜中になるな住職が怒りそうだ

1度帰って明日行こう




先月買った荷物が空輸で届いて倉庫に入れた

今日の日付は2月13日

昼から市外の古本屋に行って……あれ既視感?


そうだ、10時のバイトの子から遅刻するって電話がかかってくる


ブー・ブー・ブー―…


「はい…」


『あっ店長お疲れ様です

なんか人身事故かなんかで電車遅れてます、すいません』


「ああ、急がなくていいよ。気をつけてね」


そう既視感だ。

テレビをつけるとテロップが流れる

デジャヴ、いやループだ!もう何度も今日をループしてる!


思い出せ、よーく思い出せ…何だった?

そうだ、バイトの子が来てから寺に行くんだ

あの曰く付きのからくり箱を持って…?

いや、紙袋を引っ掛けるから違う物に入れないと!


12時前にバイトの子が来た


「店長、遅れてすんません!

いやぁ~、電車完全に止まってたみたいで駅も混んでて大変でした。

バスもめっちゃ並んでたんで一本乗れなかったんですよ」


バイトの子がロッカーに鞄を置きに行って、エプロンをつけて入り作業のためのホウキ待って来た。

玄関の掃除をする前に声をかける


「ちょっと出かけるから留守番よろしく!帰りは遅いと思うから鍵はポストに!」


「え?あぁ昼から出かけるんでしたね、遅くなってすいません。いってらっしゃーい」


道をぐるっと大回りして寺からどんどん離される

「いつもの癖で同じ道を通っちまった…」


ダンボールごと持ってきた。

なぜか、そうしないといけないと思った


駐車場についてダンボールを持って…重たい!

曰く付きのからくり箱だけを鞄に入れて

そうだ住職は外にいるんだ


「藤原の爺さん!住職さーん!」


住職「なんじゃい!…あぁお前さんかい、どうした?」

 

「助かった!この、呪いの箱お祓いして下さい!

東南アジアの怪しげな会員制の骨董屋で買ったものなんです!」


住職「またなんじゃい?…それが?呪いの箱か?」


「とにかく見て下さい!!」

と住職に押し付けた所で落とすことを思い出して、手を離さずに咄嗟に握る、蓋が開いても落とさなかった


「中身は空だ」そうだ空だった。


「おぉ、すまん蓋が外れてしもうた。

東南アジア言うが、そりゃ違うな、ほら蓋の裏に MADE IN……残念やったな」


「そんな馬鹿な!これは曰く付きの仕掛け箱です」※何度目でもショックは変わらない


住職「…ほんならお祓いしとこうか?

おっ、ナオええ所に。

これは曰く付きの仕掛け箱らしいんや、ネットで(値段いくらか)調べてくれんか?

ここにMADE IN チャイナって書いてあるやろ?」


ナオが、ん、と短く返事をしてパシャッとカメラで撮るとすぐに検索を始めた。


ナオがスマホ画面を見せて

「残念だったね…そう言えばいくらで買ったの?」


「え?日本円で2万…うぉぉぉボラれたぁ!」


住職「ネットで200円の箱なぁ…気を落とすでない」


「あっ、違うんです!何ていうか今日が何度も繰り返してるんです!」


ナオ「6回目だよ湯浅さん、店だよ。店に置いてきてる…ロッカーだ」


「え?」


ナオ「じいちゃん湯浅さんの店がヤバいよ…じゃあ俺出かけるから」


住職「…おぉ車気を付けてな。最近、彼女できてんて」


「東南アジアの荷物は車に積んでるのに…店?」


住職「その荷物はどこや?それ持って本堂に来なさい」


重いから住職とダンボールを本堂に運んで確認する

「小ぶりの仏像が1つ無い、倉庫に置いて来たのか?!

ロッカー?まさか!いやでも確認に行かないと!」


住職「おぃ、荷物は置いてくんか?」


「後で取りに来ます、一応それお祓いして下さい!」


住職「気を付けてな!あ、ほらナオと彼女やで!美人さんやろ?」ドヤ顔


逢魔が時

いつの間にか夕暮れ時をすぎて薄暗くなり始めた空の下をナオと彼女が車から降りてきた。


遠くからでもわかる目が覚めるようなバチバチの超美人。

「ナオくんよりウチの息子の嫁に、いやあんな美人はウチの息子には勿体無い、無理無理。

アパートに高級車は停めておけんわ」


住職「そら盗まれるわ」


そうだ、それよりも店に戻らないと!

工事車両が片付けられていて、いつもの道で帰れた。

でも、店に着いたのは5時を過ぎていて、バイトの子が帰った後だ。


商店街はまだ開いてるが、暗い店内の電気をつけてロッカーを確認する、空だった


カラン、カランと扉の開く音がする


客「ごめんくださーい、あのー、さっき買った袋に変な仏像が入ってたんですけど?」


仏像?!「は、ハイただいま!」


客「あの、さっきいた店員さんが間違えて入れたと思うんです。

気持ち悪いし返します」


客が袋から出してレジカウンターに置いた。


「大変申し訳ございませんでした。わざわざすみません」


客「いえ、では」―カラン、カランと出ていく音がなる。


東南アジアで買ったものだ、何故客の袋に??

意味がわからない。


ギョッ!

仏像を手に取った瞬間ポロポロと崩れた

そのまま外国のマジックサンドのように崩れて手のひらから落ちていく


ズシンと急に疲労感と眠気に襲われた

立っていられないほどではないけど、とても疲れた

今日は駄目だ、頭が働かない帰って寝よう…



翌朝いつも通り起きて出勤する

何か忘れてる気がする…何だった?


カラン、カラン


住職「おはようさん」


「おぉ、いらっしゃい!掘り出し物でっせ」


住職「買い物しにきたんとちゃうわ!昨日荷物置いてったやろ?持って来たったで!」(※心配で気になって見に来た)


「あ、忘れてた!」そうだ、忘れてたのはこれのことだった。


ナオ「重たい…これどこに置けばいい?」


「あっごめんな、こっちのカウンターの下置いといて」


ヨタヨタ歩いて持ってくる。


ナオ「ふぅー…やっと終わった」


自転車が店の前に停まる音がする

カラン、カラン


「おはよーございます!あ、いらっしゃいませー!」


住職「元気なお嬢さんやね、高校生バイト?」


「あ、はい高2です!」


高校生バイトの水谷さん

近いから自転車で来る、週3のアルバイト

1つしか無いロッカーに荷物を入れてエプロンをつけると、入り作業の玄関前の花壇に水やりをする


住職「大丈夫そうやな帰るで」


「あぁ、わざわざ運んでもろてすいません」


カラン、カラン―…


水谷「ありがとうございましたー…

店長!さっきの人カッコよかったですね!」


「めちゃめちゃ美女と付き合ってるで」


水谷「あ、はい」スン



――以下ナオ視点――


「あっマイちゃんからメールだ!

祖父ちゃん、俺駅よって帰るからここでバイバイ」


「デートか?あ、今日はバレンタインやな

チョコ貰えるんか?ええなぁ」


「祖父ちゃんは祖母ちゃんにあんこでも貰ってろよ!」


ここ数日、あのおっさんの祟りの触りを受けたのか、変なループに巻き込まれていた。

マイちゃんに会える日がループするなら幸せかな?と流れに身を任せていた。


だけど、よりによって残業して元気ない日のループとはね。

最初の日は自転車で来たマイちゃんがケーキ食べる?と聞かれて「帰ったらご飯あるので」と断わった。

「本当は今日は疲れたからなんか食べる気にならなくて」と残業理由を話してくれた。


2回目はおっさんに会わずにマイちゃんに会いに行き、家にも行かずに"焼き立てパン"に連れていって過ごしたけど

パン食べ終ると「今日は残業して疲れたから」と理由も話さずにすぐに解散になった…。


3回目の朝、おっさんに会ってないのにループしてる事に気づいてちょっと焦ったけど、マイちゃんに会えるなら良いかな?

気になっておっさん見たら、ちょっと寿命みたいなの吸われてる事に気づいて持って来る玩具の箱じゃないと忠告した。


マイの残業理由知ってるし、特に電話せずに2時間後、駐車場へ迎えに行った。


「仕事終わったよ、今日は残業で疲れたからまた今度行くね(ゴメンネマーク)」

とメールがきた。

急いで電話して駐車場にいると言うと、マイは走って出てきた。

「わー!めっちゃゴメン!2時間も待たせちゃって!!」


駐車場で2時間待ったわけじゃないけど理由ワケを話すとサイコパスみたいじゃん

「うん、こっちこそ勝手に来ちゃってごめんね」


何となく気まずくなって、マイがいっぱい話しかけてくれる。

それはそれで嬉しいけど、家に寄ってもチーズケーキを断って帰った。


マイは疲れてるけど、俺に気を使って会ってくれる。そこは別にいい

だってマイに会えないループなんて死んでやるから!

疲れてるのにチーズケーキ食べないのは何でだ?母さんと喋ると体力無くなるから?

餌付けに失敗した

マイの食べなかったチーズケーキを食べてると祖母ちゃんが自慢気に教えてくれた。

「マイちゃんはモンブランが好きなのよ」

と、何故知ってんのこのババァ!?


ケーキをモンブランにすることは出来なかった。

なぜならループした時すでにチーズケーキが家にあるから!

俺が起きる前に朝イチで買いに行ってるんだよな…〇〇のチーズケーキ人気だから。


4回目、5回目のループでは、仕事中にメールや着信を残して適度に気を使わせ、車で迎えに行き、お疲れ様と労う

母さんと話さずに部屋に行くと、勝手におやつを持ってくるから断れない。

ループでマイにチーズケーキを食べさせて、俺の部屋で寛ぐことに成功した。

そんなミッションないけど、達成感がある!

目の前でケーキ食べてるマイが可愛い

多分、甘くて良い雰囲気になってると思う…多分ちょっと元気になってるし


ループしてるから、ループしてるから、ループしてるから…どうせ何も覚えてないんだから

「マイちゃん、あのね…」好きだよ。

って言えないよー!


仮に覚えてなかったとしても振られたくない!

こんな元気ない日のマイをループさせやがって!


ループしてるから忘れちゃうから…俺は今日のこと覚えてるけど、マイは忘れちゃうから


6回目で禁じ手と言うほどでもないけど、マイをループの原因のおっさんに合わせようと思う。

おっさんもそろそろヤバそうだし。


―…そう、思ってたけど結局会えなかった

次は祖父ちゃんにもうちょっと引き止めてもらおう


ループしてるからどうせ忘れちゃうしメールなら送れるかな?と軽い告白メールを作って遊んでたら送信しちゃった。

発狂するほど羞恥で転がりまわったけど、返事が来なくてだんだん冷静になって、どうせ忘れちゃうんだったなと複雑な気持ちになった。

全部無かったことになるんだ


翌朝、祖父が起こしに来た。

「ナオはまだ寝とったんか、荷物運ぶの手伝え」

寝ぼけてたから何のことか分からなかった。


車に乗った所でループが解けてることに気付いた。

祖父ちゃんが「ボロアパートに高級車は停めておけんやろ?ハハハ」と昨日駐車場で会った事を話してくれた。

あの時いたんだ…えー、もっと早くマイを会わせておけば良かったかな。

マイの守護霊アレの触りを受けておっさんの祟りが消し飛んだ。

でもまぁ、チーズケーキ食べてくれたし。モンブランもスーパーにあるような普通のモンブランが好きって分かったし!昨日のマイはなんか可愛かったし


駅でマイを待ってる


マイちゃんから誘ってくれるなんて…いつぶりかな?

今日はいい日だ!

そこらへんの雑魚浮遊霊がいても全部平気!

マイちゃん来たら消し飛ぶくせに!


マイからのメールを見て浮かれてたけど、送信メールを見て血の気が引く…


キャァァァ!!告白メールが送信済みになってるぅ!アヒャァァ?!


しかも全然軽くない!

引っ越す前から好きだったとか重いし!

いなくなってどれだけ泣いたとかウザい!

いつも君のこと考えてるとかストーカーかよ!

顔も体も心も全部好きとかキッモ!

君は本当は光輝いてるとか無いわー!

死んでも離さないとかホラーかよ!

長文あり得ない!!

早く消さないと!(※相手に送ったメールは消えません)


逃げよう!もう駄目だ!完全に引かれてる!

永遠の別れを告げに来るんだ!嫌だぁ!頼む一生のお願いだループしてくれー!


「ナオちゃんお待たせー!」


「ヒャッ!」


ギギギと音がしそうなホラー映画のようにゆっくり振り向くと


照れた顔が可愛い美人の女の子がいた。

今までに見た笑顔の中でも最高に可愛い照れた笑顔でモジモジしながらゴ〇バの紙袋を渡してくれた。


ナニコレ?今までアリガトウの手切れの品?


「あの、私もずっと好きだったよ」


「エ?」


「メールありがとう、ナオのメール見て疲れが吹っ飛んだよ。私が元気ないからあんなメールくれたんでしょ?」


「あ、」励ましメールだと思われたの?うそん


「…あの?ナオ?」


「アハハ」


「あのね、手紙も一応描いたんだけど、これからもよろしくね?」


何をよろしく?友達としてこれからも?犯すぞクソアマ!今日もオッパイでけーな!

紙袋の中に手紙が見えたから開いたら、メッセージカードが入ってた。

水彩画かな?めっちゃ上手に春の丘で遊ぶ少年少女が描かれてた。


「あ、これ俺とマイちゃん?Love Forever って」


「もぅ恥ずかしいから声に出さないでよ」


俺の粘着系のクソダセェ告白メールより

全然格好よくてロマンチックなメッセージカードだった

額に入れて飾るぞ!


「マイちゃん大好き!僕と結婚して」


「えぇ!ちょっとプロポーズ早すぎるんじゃない?」

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