第8話 お祓い

先日のこと

夕方、バイト終わりに自転車チャリに乗ってナオの家に行き、そこからナオの車で近所のパンが美味しいお洒落なカフェに行った。


パンとコーヒー(ドリンクバー)で350円のセット。

2階が全てイートインで、お昼はパスタのランチとかもある。

ナオがデザートパイを半分くれて、私はおかずパンを半分あげた

私からしたらそれだけだった。


次にナオのお家に行った時に、ナオのお母さんが地元で有名な

「〇〇〇のケーキを買ってきたの、食べる?」と3人でお茶した。

途中からナオのお祖母ちゃんも来て4人でお茶した。

今期の朝ドラ見てる?とか世間話ししたり

忙しい大学生が息子ニートと遊んでくれてありがとうねぇ、とか言って笑ってた。


ナオが怒って

「ハイハイ、マイちゃん今日は買い物するんでしょ?行くよ!ババァどもの相手してたらマイちゃんまでシワシワになるしぃ」


などと悪態ついて、私を車に乗せて市内の大型ショッピングモールに連れてってくれた(※自転車で行ける距離)

大学の授業で画材が必要になり買いに来たのだ。


私はすっかり餌付けされ慣れて、ナオのお家に行けば何かしらオヤツにありつけるとか思ってた。

寺なのに和菓子より洋菓子のオヤツが多い、ナオのお母さんの趣味かな?

私はどら焼き(※アンコ&クリーム)とか塩大福(※塩生クリーム)とか抹茶プリンとかの和菓子も好きだけどね


ナオ「マイちゃん何も感じないの?」


「えっ?…やっぱちょっと図々しい?でも私からケーキ食べたいとか言ってないよ?いつもごちそうさまです」


ナオ「はぁ?何の話?」


「さっきのケーキの話し?」


ナオは、はぁーとため息をついて

「言おうか言うまいか迷ってたけど…」と前置きして話し始めた。


たまーに、お寺にお祓いして欲しいって人が来る。

単純に厄年とかで来る人もいれば

何処か心霊スポットへ行ったとかで来る人も。

大概何もなくて、思い込みとか偶然不幸が重なったとかで気持ちの問題なのだとか。

一応お祓いしてもらうと精神的に安心したりする、カウンセラーのカウンセリングと同じとか

お寺に渡す初穂料代分くらいは祈祷する

値段によって御経をあげる長さとかが微妙に変わるらしい。(※あくまでナオの主観)

カウンセリングも時間×値段だよね。

でも本当にたまにキチ〇イみたいなヤバい人が来るって。



――以下ナオの話し(ナオ視点)――


その日は朝から嫌な予感がしていた。

何となく花が枯れてたり、何となくトイレが流れてなかったり…イラッ!


夕方になって寺の社務所兼自宅の勝手口の扉を叩く人がいた。

夕方の忙しい時間帯(※お母さんとお祖母ちゃんがご飯の用意で忙しい時間、お手伝いの坊主が出ないときは暇なナオが出る)に呼び鈴を鳴らされて、ぶっちゃけ迷惑


勝手口に向うと、扉を叩く人が大勢いることにギョッとして固まる


悪寒がする

ゾワッとして背筋に冷たいものが走り、その場で金縛りにでもあったように動けなくなった


コレあかんヤツや!


男の声「あのっすいません!誰かいませんか!!あのー!すいません!!すいませーん!

誰かいないですか?!すいませーん」


ピンポン、ピンポン、ピンポン、ピンポン―…

ドンドンドンドンドンドン―…


ヒッ!


『あ"の"ー、ずみ゙、ずみ゙ま"ぜーん゙ん゙』

『ん゙ィ゙ィ゙ィ゙ぁ゙ぁ゙』


男の声に混じって聞こえる、生きた人間の声とは思えないもの

カタカタと震えがとまらない


異変に気付いた祖母が来てドア越しに叫ぶ

「今、手が離せないので本堂の前でお待ち下さい、すぐに住職を呼びますんで」


固まって冷や汗をかいてるナオをリビングまで押しやった。


「祖母ちゃん、あれっ」


祖母「お祖父ちゃん呼んできなさい」


言ってる間に祖父が来る。

親父は出かけていてここにはいない


「家から出るな」

祖父がそれだけ言うと、グルッとまわって本堂の方へ向かった


夕飯の時間になっても祖父は戻って来なかった

父親は県外に行ってて明日にならないと帰ってこない

祖母と母と3人で夕食を食べた、湯気が出て温かいのに体が冷えて食べた気がしなかった



ピンポン、ピンポン、ピンポン!

ドンドンドンドンドンドン!


ギョッ!?


食べ終わってしばらくしてリビングでテレビを見てた時にまた呼び鈴が鳴った


『あのっすみ、すみませーん、誰でもいいので、こっちに来て下さい、こっち、こっちに、かっ、のっ、こっちにこっちこっちこっちに…来てぇ゙』


ドンドンドンドンドンドン!

ピンポン、ピンポン、ピンポン!

『ん゙ィ゙ィ゙ィ゙ィ゙…あ゙ぁ゙…ん゙ィ゙ィ゙ィ゙』


祖母が呼び鈴の電源を抜いたが、一晩中鳴り続けた

家の周りは砂利になっていて、ジャリジャリジャリジャリ

と家の周りを何人もがグルグルと回るような足音が聞こえた。


母「お義父さんは大丈夫かしら?」


祖母「本殿の結界に守られてるから手が出せなくてこっちに来てるのかもしれない…」


2階の窓もカツンコツンと叩かれて気が狂いそうになった。

全然寝れなくて、窓が明るくなって外が落ち着いてから部屋に戻って夕方まで寝た。


夕方まで寝ててもスッキリしないけど、お腹がなり

起きて下に行くと父親とお手伝いの坊主が帰宅していて、疲れた顔の祖父と何やら話していた


すると、件の男がまた来た


ドンドンドンドンドンドン!

男「助けて下さい!助けて!」


リビングのドア越しにちらりと見たら(見えた)

ぶくぶくに肥えた体が見えないくらいに、腐った手にまとわりつかれていて、ゴミにまみれたドロドロの女の顔が肩に乗ってる


殺されて埋められた

不法投棄かなんかそういうのが集まる場所に


気付いたら虚ろな女と目があっていた

利用されて騙されて殺されてゴミのように捨てられた…激しい恨みが湧いてくる

この男が犯人かわからないが、この男が憎くて仕方ない!

怒りに我を忘れ、爪が食い込むほど握りこぶしを作っていた。


男「何とかして下さい!部屋に出たんです!」


祖父「もう手に負えん!手遅れだ、帰ってください」


男「そんな!どこもやってくれなくて、もうここしか無いんだ!

あんたが中途半端にやるから声だけじゃなくて姿も見えるようになったんだ!

どうにかしろー!責任取れ!」


祖父「…手遅れだ、そこまでくっつかれたら剥がせない帰れ!ここでは何も出来ん!」


男「お願いします!何とかして下さい!お金なら払います!」


父「金はいらん!帰れ!」


男「助けて下さい!お願いします!お願いします!」


勝手口のドアを閉めようとする祖父と中に入ってこようとする腐った手


腐った手がどんどん増えていきドアがきしむ音に祖父がこのままでは駄目だと思ったのか

「本堂へ行って下さい…できる限りはしますが、それでも何ともならなければ諦めて下さい」


祖父と父親がふたりがかりでドアをしめた

ゾッとした…勝手口のドアが泥塗れで引っかき傷だらけになっていた


「何が来ても開けるなよ」

父の顔が深刻そうに眉間にシワを作り、まるで死地に行くようだった


夕暮れの逢魔ヶ刻

それが一瞬にして真っ暗になった


ズンッ


祖父が立っていられない程のプレッシャー


ブー・ブー・ブー


ビクッ


スマホが鳴った、見たらマイちゃんだった。

(※遊ぶ約束してた)


『家に着いたよー。ナオのお家の呼び鈴壊れてるよ?』


「え、あ、そう?今行く」(ピッ)


祖母「あら、コンセント抜いたままだったわね」


「マイちゃんの何かがいつもより濃い…」

あっ!ドアが直ってる!?

さっきまで泥だらけで汚れてたのに…霊障だったのか


母「今はややこしいから帰ってもらう?」


「お腹すいたし、ちょっと出てくる」


母親が財布から1000円だして渡すと「いってらっしゃい気をつけてね」


家の勝手口じゃない方の正面玄関前で待ってた、いつも通りの俺のマイちゃん


「お待たせ。僕、お腹すいたからファミレス行きたい」


マイ「私は帰ったらご飯あるんだけど?

ナオのお家も晩ご飯まだなんでしょ?"焼き立てパン"行こうよ」


「分かった、(車に)乗って」


車に乗る時、本堂の方を見たけど静かだった。

マイのリクエストのパン屋のイートインへ行ってようやく一息つく。


疲れた時は甘いものがいい、僕はフルーツパイ

マイは女の子なのに甘いデザート系のパンを選ばない。カレーパンとかウインナーロールとかカツサンドみたいなのを選ぶ…男子高校生かよ!


マイ「今日は(バイト先が)暇だったからちょっと早く終わったの。楽で良かったけど、給料減るよね。

ナオは今日は何してたの?」


「昨日は寝れなかったから、夕方まで寝てた…」


マイ「動画?(を見て夜更かし?)」


「違うし!変な客が来て騒いで帰らなかったの!」


マイ「うわぁ…それはウザぃ。大変だったね

え、じゃぁナオのお母さん達お疲れじゃない?

あ、だから晩ごはん食べに行く予定だった?」


「さぁ?今頃、家で用意してるんじゃない?

マイちゃんのピロシキ美味しそうだね」


マイ「半分食べる?…ハイ」


サクッと2つに割って片方を差し出す

ほのかに湯気が立っていてフワッと薫る

マイちゃんが選んだから美味しいに決まってる



※あの後、ナオの家では

本堂で正座してた男に15分御経を上げて、御札を渡して


祖父「肌身離さず、清い生活を心がけ、危ない場所に近寄るな!心当たりがあるはずだな?

今はアレ等と縁が切れたが次はない!」


男「ありがとうございました、なんか吐きそうに気持ち悪くなった後で肩が軽くなりました!」


祖父「もう二度と来ないで下さい」


男「本当にありがとうございました…失礼します」

男が去った。



祖父「ふぅ~…また結界の張り直しか」


祖母「御札貼るだけでしょ」


父「今回は全部弾け飛んだな」(※御札が)


母「そうなの?静かになったわ…あのが来ると鳥もいなくなるのよ」


祖母「糞が減っていいわ」


母「お義母さん、ナオが全然相手にされてないのよ。〇〇〇〇の〇〇君がタイプなんですって」(※某アイドルグループ)


祖母「あら〜、なら自分の守護霊は何となく見えてるのね。

ほら、朝ドラに出てたでしょ?私が見たのもあんな感じよ。硬派でペコッて挨拶してくれたのよフフ

心配しなくても好みなんて変わるわよ」(※戦後のドラマ)


母「お義母さんが見た(守護霊が)〇〇君?!…それでも鈍感な子にはお寺が務まらないですよ」


祖母「中途半端に見えるより、あのくらい鈍感な方がやっていけるわ。

馬鹿ではないのだし、料理も出来るし、素直でいい子じゃない」


母「マイちゃんは、お義母さんのお気に入りなのね」


父「君は反対なのか?しっかりした感じで良さそうだけど」(※見た目だけ)


母「別に反対じゃないけど…(私が嫁いだ時は反対してたのに!)」


父「君が新しい風になってくれたから洋菓子も出る寺になったんだ」


祖母「そうよ、私もアンコよりクリームの方が好きなの」


祖父「え!?」


祖母「お寺に嫁いだから絶対にアンコしか食べれないと思って諦めてたのよ。

昔はクリームの和菓子なんて無かったから」


祖父「はぁー…あの子が嫁いできたら神様が怒っていなくなりそうだ」


祖母「それは困るわねぇ?ここ縁結びで検索したら出てくるのに

でも、いざと言う時に守ってくれないなら別にいいかしら?」


祖父「これ!滅多なこと言うでないわ!罰当たりが!」


祖母「あらぁ?冗談よホホホ」



祖父だけがちょっと心配してる件

昔、マイをお祓いすると息巻いて京都本家の寺に連れてって、手も足も出なかった事をまだちょっと気にしてる。

祖父は「あの娘は結局引っ越してしもうた…縁がなかったんじゃ」と本家に言ってその後をなんとなく誤魔化した。

そのせいで今更「実は元気でした、嫁にもらうよ」とは言いにくい。

お祖父ちゃんの小さなプライド

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