第26話 竜宮童子

今日は休日、マイは午前中から自転車でナオの家に向かう

スマホを見るとメールが来ていた


『中で待ってて。すぐ帰る』


ナオのお寺の境内は公園になってるから、子どもがいても珍しくない

ボサボサ頭で薄汚れた服の子がいた


放置子だ!


いや、違うかもしれないけど

よく見ると、転んだのか膝から血が出ていた


「ボク、大丈夫?あっちの水道で膝洗おうか?」


1年生くらいかな?

座り込んで動かないから手を貸して起こす

そのまま手を繋いて歩いた

砂場で転げ回ったの?ってくらい汚れてるけど、可愛らしい顔をしていた


ハンカチを濡らして膝にあてようとしたら

水道から勢いよく水が出て男の子が濡れてしまった


「キャッ!?ごめん大丈夫?」


「ペッペッ…うん」


中途半端に濡れた時の、何ていうか生乾き臭?

この男の子めっちゃ臭かった


ひぃー!

抱きついてきた!?

ホント臭いんだけど!いつからお風呂入ってないの?


「ハックシュ、ズズッ…お姉さん」


盛大に鼻水を垂らす、しかも黄色いやつがドロリ


ナオにメールで了解を取ってから、家のお風呂を使わせてもらうことにした

春先とは言え、水浴びなんてさせて風引かせたら放置子の親に怒られそうだ


誰か入る予定だったのかお湯が丁度はってあった。そのまま使わせて貰おう


子どもの服を脱がせて、マイもついでに服を脱いで乾燥機付の洗濯機に入れる

キャミソールの下着姿でお世話する


背中に痣とかないから虐待はされてなさそう(ホッ)

児相に通報したとして、私が捕まりそうだわ


「膝の傷染みる?痛くない?」


「…うん」


汚くてシャンプーが泡立たない

洗って流してを3回目でようやく泡立った

体もボディーソープが茶色い泡汁に…うわぁ


「シャンプー目に染みるから閉じてなさい、流すよ」


「…うん」


「ハイ、前は自分で洗ってね

そう言えば、ボクのお名前は?」


「りゅーぐー とーじ」


「竜宮?…トウジくんね、格好いい名前だねー

お姉さんはマイって言うの内藤マイ」


「マイ…ちゃん

どこ行くの?一緒に入らないの?」


「湯船に入っててね、タオル用意するの忘れちゃったから温まって待ってて」


あれ?用意してないのにタオルが置いてある


幼いなりに小綺麗な顔立ちの美少年

ナオちゃんの小さい頃も可愛かったな

乾燥機をかけてる間にナオのTシャツを勝手に借りることにした


彼シャツとか、一度は着てみたかったの

着替えさせて、トウジくんの膝にキズテープを貼った

そして、持ってきたオヤツのクリームどら焼きをあげた。

一応アレルギーないか聞いたけど…大丈夫そうかな


「マイちゃん、僕に何かして欲しいこと無い?」


「お手伝いしてくれるの?ありがとう

でも別にすること無いし、何もしなくていいよ

冷たいお茶と温かいお茶どっちがいい?」


「温かいお茶」


子どもが飲んでも良さそうな温めの紅茶を出してあげた

テーブルに向かい合わせになるように、お茶を置いたのに横に来た

よそのお宅だし、勝手にあっちこっち触るのも気が引けるよね。お婆ちゃんだけでも帰ってこないかな…


「トウジくんはこの辺に住んでるの?」


「住んでた場所は遠くだよ」


「今日はお家の人はいないの?」


「みんな出かけてるみたい」


やっぱり放置子なんだ…

親の仕事か何かで引っ越してきて、休日も両親共働きなのかな?

あんまり個人情報を根掘り葉掘り聞くのも悪いし


「トウジくんは一人でここに来たの?」


「連れてこられた」


「え?自分でちゃんと帰れるの?」


「もう少しここにいちゃ駄目?マイちゃん一緒にいてよ遊ぼ」


これは、誰か迎えに来てくれるパターンかな?

放置子って訳でもないのかな?

遊んでて汚れただけ?

お家の人が迎えに来るまで遊んであげよう


それからおんぶしたり抱っこしたり、膝枕をせがまれたり

懐いてくれるのは可愛いけど、ベタベタと遠慮がないから、こっちが戸惑う


ソファーに座って絵本を読んであげる

図々しくも膝に座って胸にもたれ掛かってきた

距離感が近すぎる

気のせいかな?お風呂に入ったときより肉付きが良くなった??


乾燥機が終了したから元の服に着替える



――ピンポン



「チッもう来たか」


「え?お迎えが来たの?」今舌打ちしなかった?


"はーい今行きます"と返事して玄関に向かう

玄関に出ると太ったスーツの男が土下座してた


男「ひぃ!?お、お迎えに上がりました。家人よ、どうかその〇〇を鎮められよ」


不審者だっ!


「あの、どちら様ですか?」


男「ひっ?!…子供を迎えに来ました」


土下座したままガクガク震えてる不審者

警察に通報する前に

「一応確認しますが…トウジくん、知ってる人?」


「知らない、不審者!」


「通報します!」


男「ちょっと!!そりゃないでふ…ヒッ!」


扉をしめて鍵をかける


「大丈夫よ!すぐに警察に通報するから!……ってあれ?圏外??なんで?こんな時に!」


男が玄関のドアをダンダン叩きながら叫ぶ

「すいません、私は知り合いです!ちょっと!竜宮童子様!…このっ!返せよ!おらっ!」


「うるさい帰れ!」


ドンドン叩いていたのが静かになった

怖くて心臓が早くなる


帰ったのかな?やっぱり知り合いなのかな?

うーん…どうしよう


「本当に知らない人なの?知ってる人でも暴力的で、あやしいけどね」


背中と言うよりおしりに抱きついてきた

「マイちゃん一緒にいて」


「大丈夫よ、ここにいなさい。

本当に知らない人なの?保護者だったら私の方が警察に通報されちゃうからね?」


「マイちゃん大好き!

僕に出来ることはない?何でも叶えるよ、何が望みか教えて」


「ヨシヨシ怖かったのね。大丈夫だよ、君は何もしなくていいよ」


トウジは悲しそうな顔をして「望みはないの?」と聞き返してきた


「お父さんかお母さんが迎えに来るまで待っててあげるね

鍵かけたから大丈夫だよ、それにここの家の人も帰って来るし、心配しないでね

それまで何して遊ぶ?また本読んであげようか?」


「マイちゃんは与える側なんだね…

ねぇ、僕のお嫁さんになってよ?急いで大人になるから」


最近の小学生って本当にマセてるね


「ありがたいお申し出だけど…ふふっ先約があるからお断りするわ」


ドンドンドンドン!!


再びドアがドンドンされ、ビクっと驚いた


ナオ「マイちゃん!開けて!」


すぐにドアを開けると、ナオが入って来て

入れ違いになるようにトウジが飛び出した


「ナオちゃん!外に不審者いなかった?

トウジくん危ないよ!さっきの人がまだいるかも!待って」


「マイちゃん駄目だ、行くな」


「え?でもトウジくんが」


「大丈夫だから落ち着いて、外に母さん達もいるから

マイちゃん大丈夫?何もされてない?」


「何もされてないよ、お世話しただけ。ごめんね駄目だった?

あ、お尻とか胸は触られたかな、最近の小学生ってマセてるね」


ナオはため息をはくとマイを抱きしめた


「マイちゃんが無事なら良かった(ホッ)本当に大丈夫?何ともないの?」


「そんなとんでもない放置子には見えなかったよ?

暴れたり物を壊したり盗んだりしてないよ?

ちょっと小汚い感じはしたけど

アレでしょ

勝手に冷蔵庫開けて荒らしたり、玩具壊したり、お金盗んだりする放置子もいるって聞いたことがあるから」


「マイちゃん、アレを放置子だと思ってたの?」


「変な人が迎えに来てた。

もしかしてヤクザの御子息だったりする?

私、薬漬けにされてソープに沈められちゃう?」


「それはネットの読みすぎ!でもマイちゃんが無事で良かった」



【竜宮童子】

竜宮童子が保護されたのは

〇〇県の海と山に挟まれた小さなド田舎だった


最初は美しい少女の姿で人の前に現れて

保護の名の下に一人暮らしのおっさんに飼われる事になった

40メートル先に隣家があるような、警察署も児相もない田舎


そして、少女はその人の望みを叶えはじめた

男は欲望のままに願いを叶えてもらい、調子に乗って街へ出てしまった


あっという間に通報されて少女は児童相談の施設へ送られる

施設内で修羅場を広げ、そこの人間関係をめちゃめちゃにした


少女は願いを叶えるたびに命を削りどんどん醜くなっていく


その頃になって少女が普通の子供ではないと職員たちも気づき始める

精神科へ行くが医者を丸め込んで出てくる

苦肉の策でお寺へ預けられ


巡り巡ってナオの寺へ

ナオ達家族は、ひと目見て人ならざるものだと解った

ボロボロで薄汚れた少女は、ナオを次のターゲットに選んだ

祖母がお風呂の準備してる最中に抜け出し

勝手にナオの部屋に入って、パンツを脱いで迫った


ナオの守護霊が痴女をガードしたときに気付いた

これ生霊じゃね?と

そこからターゲットをマイに変える

狂ったようにナオの守護霊を追いかけ回して、奇声を発して暴れ外へ飛び出た


家人が追いかけて境内から出ると

近所なのに知らない住宅街に迷い込んだような感覚になり、帰れなくなった


少女がナオ達をまいて境内に戻って来くると

「お兄ちゃんにパンツおろされた」とでも騒いで2人の間に割って入り、あばよくばマイの所へ転がり込むつもりでいた


が、しかしマイを取り巻く恐ろしい闇黒に腰を抜かしてチビり、童女に化けていたのに術が剥がれて毒気を抜かれてしまった


本来の姿の竜宮童子に戻り

冒頭へ至る



その日の夜―…


母「すっかり落ち着いて、いい子になったわね」

祖母「トウジくん行く所無いならここにいてもいいのよ?」


トウジ「お母さん、お祖母ちゃん

僕、いい子にするからここに置いて下さい(うるうる)」


ナオ「絶対反対!クソガキ帰れ!撒き餌にして海にバラ撒いてやる」


カズキ「女の子じゃないやん」(※バイトしてた)


母と祖母を丸め込んで家に居座る

どこから出したのか札束がギッチリ入った茶封筒を出して祖父と父も丸め込んだ


トウジ「マイちゃんを家に呼んであげるよ」


ナオ「は?」

カズキ「え?!…可愛そうな子やんか、居候の一人や2人変わらんやろ」


カズキがあっさり寝返った

ナオが一人反対したところで、決定権は面倒を見る母と祖母にある


元いた児相から書類を取り寄せ、サクッと手続きを済ませた。

小学校へ転校手続きも終わり人に紛れて生活する

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可愛い寺の幼馴染と私 ワシュウ @kazokuno-uta

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