第27話 水子なんて憑いてませんよ ―マダムの黒い過去―
松内「そんなハズない!ちゃんと視て下さい
毎晩寝苦しくて内容を忘れたが悪夢も見るんです、それに最近は部屋のすみに黒い影がいて…絶対に水子が取り憑いてるんです」
水子供養寺行けよオッサン!と出かかった言葉をグッと飲み込む。
お寺に来たお祓い客と住職が来るまでの繋に
祖母の見立てで緊急性がないと判断したから下っ端がお茶出して、客に相談された。
カズキ「えーっと今回はお祓いと言うより精神的なアレちゃいます?あ、お話し伺いますよ」
松内「(イラッ)お前じゃ話にならない!住職を呼べ」
カズキ「お兄さんが無理やりアポねじ込んだんで住職がまだ帰ってきてません(予約の30分前に来て面倒な客やな)」
松内「寺の坊主なんて暇なんじゃないのか?」
カズキ「住職は檀家さんの法要とかで忙しいです。
えっと、寺の跡継ぎを呼んできますから少々お待ちを……あ、お婆ちゃんナオ呼んできていい?若造じゃ話にならないって。力不足ですみませんテヘ」
祖母「そうねマイちゃん来るまでどうせ暇でしょうから、ナオ呼んでくるわ」
それから数分後
応接室にナオとカズキが戻ってきた。
カズキはお役御免と部屋に戻ろうとしたがナオが許さなかった
カズキ「お待たせしました、こちら寺の跡取り息子のナオユキくんです。ちゃんと視える人です」
ナオ「ハァ…もう一度最初から説明してくれます?」
カズキ「説明も何もいきなり水子の霊がとか言ってきたから…え?いるん?」
ナオとカズキが同時に松内の横に視線を向けた
松内はギョッとした
『やはり"水子の霊"はいる!』と認識して改めて怖くなった。
そして2人の視線の先を目で追った、先程まで何も無かったソフアの隣の空間が暗く淀んで見えてくる
松内は恐怖にソファから飛び上がった
「ひいっ早く何とかしろ!」
ナオ「落ち着いて下さい、水子の霊など赤子の手をひねるように簡単に祓えますが供養となると別です……心当たりがありますね?」
それから言いにくそうに松内はポツリポツリと話し始めた
松内「あれは20年ほど前の話です――…」
カズキ「長くなりそうやな…(ボソッ)」
長いので要約すると
若かりし頃は、ちょっとやんちゃしてて当時付き合ってた彼女を孕ませた
結婚を迫られたけど、まだ20代中頃で結婚なんて考えられない、何より二股かけてた新しい女の方に気が向いてたから妊娠した彼女を振った
話し合いで中絶費用はちゃんと出してあげた
新しい彼女に悪いと思ってその後の供養とか行ってなかった
松内「だから水子の霊が祟ってるんです!」
カズキ「祓った所で不妊は治らないんじゃ?」
松内「は?……なぜ私が不妊だとわかったんです?」
ナオ「霊視です!」
松内「凄い…そんな事まで視えるのか(唖然)
まあそうです。男性不妊なんて今は珍しくもないのに妻の実家から散々俺ばかり責められて
友達だった奴らも腐った畑呼ばわりしてたのに今では掌かえして種無し呼ばわりですよ
でも、水子の祟で不妊かもしれないしお祓いしておこうかと」
カズキ「うーん…酷い話ですね」
松内こそが酷いゲス野郎なのではと思ったが、客なので言わない。
ナオ「先程も言いましたが供養と不妊は別問題です」
松内「妻のためにも出来る事はしたいんです(キリッ)」
カズキ「若造には重い話しで言葉も出ねッス」
妻のためとか言って種無しなんはオッサンやろ?自己中すぎん?あかん腹立つ!奥さん離婚したほうがええで!早く逃げてー
ナオ「心中お察しします」
オッサン頭沸いてんじゃね?離婚されろバーカ
それからは
坊主はカウンセラーではないがお布施を貰う分、聞くのも仕事の内と割り切ってる。
実際、人に話すことで飛ばしてた生霊がパタリと止まったりする事もしばしば。
イライラがMAXになる前に住職が帰宅した。バトンタッチした住職が「二度手間ですが、もう一度はじめからお伺いします」と聞いていた
それからしばらくしてマイがやってくる
悪霊だろうと水子の霊だろうとマイの守護霊に吹き飛ばされるはずだったが、松内は消えてないと言う
住職の厳しくもありがたいクドクド説教とお経を大人しく聞いて松内は帰っていった。
カズキが祖母からメモ書きをもらった
そこには住職が口八丁に聞き出した松内の元カノの個人情報が書かれていた。
FacebookやSNSなどで調べると元カノの現在の職場が見つかった、ネイルサロンで働くネイリストだとわかったので指名予約を入れて向かうことに
言わずもがな、松内に取り憑いていたのは水子の霊ではなかった。
だが当たらずも遠からずナニカはいるのだ
祖父が「小遣いやるから」とナオ達に調べてくるようパシリに使ったのだ
また来るかもしれないと思ったから
最初にナニカいることに気づいたのはナオの守護霊だった。
松内の隣に出て来て何も無い所を守護霊が指を差した、それをナオとカズキが見て、2人が何も無い所を見たから松内が『やはり水子の霊がいる!』と思い込んで驚いたのだ
そして松内が原因の不妊で奥さんから離婚を突きつけられてると教えた
…―ネイルサロンが入ってるショッピングモールに到着した。
カズキは気にしたら負けだと思うことにした
マイ「本当にネイルしてもらうけどいいの?お金出すよ?」
ナオ「そんなの全然いいから綺麗にしてもらってマイちゃん」
カズキ「ネイルサロンってもっとお高いイメージやけど、学割りとかあんねんな」
マイ「へぇー、個室なんてあるのね…女子なのに全然知らないわ」
ほどなく件の店員が挨拶をして入ってきた
40代の美魔女ネイリストの説明を受けて、大学や仕事で差し支えない程度のシンプルなジェルネイルをしてもらうことに
通常はカップルで来ても彼氏の方はどこかで時間を潰したりするのに、出ていかないナオとカズキを訝しむ
店員「あの?」
ナオ「まどろっこしいのは面倒だから直で聞く
松内カズヒロを知ってるな?
ヤツのことを調べてる、心配しなくても怪しい宗教とか犯罪組織じゃない。…単なる素行調査だ」
カズキ「あ、助手その1です」なるほど。
マイ「え…じゃあその2です」そう出るのね。
店員「はぁ?……あぁ!興信所とかの浮気調査とかね?そう言う事ですか。
わざわざ店に予約して来て頂かなくても、仕事終わりに電話でも答えましたけど。初見で指名予約なんて珍しいから変だと思いましたわ」
マイ「仕事場に押しかけて驚かせてしまって申し訳ありません」
店員「いえ、こちらは指名料も入りますし、ご来店ありがとうございます。
そうですか、あの人も相変わらずなのね。
ふふ、着信履歴に私の名前があったから調べてるんでしょ?残念だけど私は浮気相手じゃないわ、一方的に電話がかかってきただけだもの」
ナオ「ここで聞いた話は他言しない。話せる範囲で構わないので松内について知ってる事を聞かせて下さい」
そこからマイがネイル中の客と店員のような世間話しをしながら上手く聞き出した
以下店員の話し――…
先日、20代の頃の元カレから電話があった、そう松内カズヒロよ
「君と結婚すれば良かった。
あの時の子を産んでもらっていたら、今頃俺は幸せな家庭を持っていたのかもしれないのに」
今、この人は幸せじゃないんだ…そう思ったわ
別れた理由は元カレの浮気
当時、私の親友が元カレの事を気に入って略奪されたの。
無いこと無いこと私の悪口を吹き込んで、元カレも私の親友の言う事だからとあっさり信じたみたい
未練のあった私は泣いて縋ってズルズル関係を続け、わざと妊娠した。もしかしたら考え直してくれるかもと期待したから
2人で会う時間を作ってくれて、まとまったお金を渡されて正式に堕ろしてくれと言われたわ
私は一人で病院へ行き、その後彼は私との関係を絶った
私もまだ若かったの、見る目のない世間知らずの馬鹿で、優しいと思ってた元カレはただの八方美人だった
携帯番号がお互い変わってなかったから20年ぶりに繋がってしまったの。なぜ今更私に連絡してきたのか訪ねたら
結婚してだいぶ経つのになかなか子供ができなくて、嫁が検査しても何の問題もなかった
自分は過去に(妊娠させた)実績があったから、 そのうち出来る、たまたま嫁のタイミングが悪いだけ、嫁に問題があると長年思い込んでいたと
だいぶたってから渋々検査してみたら元カレの方に原因があったみたい
医者曰く、まだ若い時なら何とかなったかもしれないけどもう既に手遅れな状態
男性の不妊治療って漢方飲むくらいだけど、量も数も質も悪い精子の為に
なんの問題もない健康な奥様が排卵誘発剤を打ったり飲んだりして確率を上げるの、心身の負担もお金もかかったみたい
元カレが種無しだったからその苦労も全部無駄だったけど
その事で奥様の親戚からかなり責められたと電話口で泣き言をこぼしてた
落ち着くまで黙って聞いてあげてから
「ふーん、で?それが?」と興味なさそうに言ったら「え?」と絶句してた。
電話なのに元カレの間抜けな表情が手に取るようにわかって笑いが込み上げてきた
「あの時、面倒くさそうに私に堕ろせって言ったのあなたよね?
私とはこれっきりって、はした金置いて去ったじゃない。
あの頃の状況でシングルマザーで育てるのは無理だったから、あなたにそう言われると堕ろすしかなかった。一人で出産して育てるのがどんなに大変か知ってたから。
あなたは取り付くしまもなかったし、もし私が養育費なんて請求したらあなたは認知もせず逃げたでしょ?
そのための手切れ金だったわけだしね」
「いや…」
「あの時、私のお腹にいたあの子はあなたの子供でもあったのよ?
それなのに、あなたは供養もしようとしなかった
命日に線香をあげに行こうと連絡したら無視したじゃない。今更子供が欲しい?ふーん
過去に妊娠させた事があるからって、いつでも欲しい時に子供が出来るなんて傲慢だよ。
中絶させた元カノが慰めてくれるとでも思ったの?
あなたはね、もう2度と自分の子供を持てない男なのよ」
電話の向こうであの時はすまないと声を震わせ泣いてた
結婚を後悔してる選択を間違えたとか聞こえてきたけど、それはあなたの奥様の台詞よね。
女々しい嗚咽混じりの懺悔とか超絶キモかったから話の途中で電話切って着信拒否した
でも私、元カレの子供なんて妊娠してなかったの
別れた時あまりにも理不尽で悔しかったから、このまますんなり別れてやるかって、嫌がらせのつもりで性質の悪い仕返しをしたの
そもそも一緒に病院へ行っていたらすぐにわかる嘘だったのに、外面を気にして都合が悪くなるとさっさとお金で解決する人だったから
このまま残りの人生死ぬまで後悔しつづけるといいよ
「あの人はね、いつまでもこの世に存在しなかった我が子に執着して、いもしない亡霊に取り憑かれてるのよ
因果応報ってあるのね、だって私は今の夫とデキ婚だったから。こんな話、墓まで持っていこうと思ってたけど浮気を疑われたんじゃしょうがないわね」
他言無用よ。
そう言った店員の顔はどこかスッキリしていた
…――帰宅途中(※ナオの運転)
カズキ「なんて言うかあの店員さんめっちゃ怖いな、でもまあ黒いの吐き出してスッキリしとったし。水子なんてホンマはいなかったわけやから良かったんかな?」
マイ「うん、あっちはスッキリできて良かったのよ。
松内さんのほうは手に入らないから欲しくて仕方ないのかもしれないわね(元カノに連絡するなんて)奥様を大切にしてないみたいだし」
カズキ「結局あのオッサンは罪悪感からイマジナリーベビー作り出して、水子がいるって怯えて阿保やん」
ナオ「いや、あのオッサンに奥さんの生霊が憑いてたんだよ、寺に来た時には既にいなくなってた。
多分、その奥さんが離婚を決意して動き出したからそっちに意識が戻ったんじゃないか?」
カズキは、いなくなった生霊まで視えるのかとナオの不憫さを憐れんだ
カズキ「なら寝苦しいのって奥さんの生霊のせいやったんやな、悪夢にうなされるくらい恨まれてそうや」
ナオ「あのオッサンはどうせ他の元カノにも電話してるだろ、証拠がザクザク出て慰謝料とられて離婚されるさ。自業自得だろ」
マイ「なんだか気の毒ね」
ナオ「因果応報だよ。マイちゃんがこれ以上気にする事もないよ。本人が悔い改めないと何も変わらないから」
マイ「気の毒なのは松内さんの奥様よ!
健康で問題ない奥様が長い間ずっと無意味なホルモン治療受けてたなんて。
男の人が不妊を認めたくないのはわかるけど、奥様の身になって考えたらやるせないわ」
カズキ「全くその通りやね、大丈夫離婚するし」
ナオ「話変わるけどマイちゃんその爪可愛いね!話が衝撃的すぎて褒めそびれちゃった。それバイトでも大丈夫そう?怒られない?」
マイ「うん、このくらいならしてる人いたよ。
プロの人にしてもらうとなんかイイね。テンション上がるわ」
機嫌よさそうに笑うマイを見て
指先まで気を使う女子力高めの女にしてしまった事を少しだけ後悔した。
ピカピカの爪がとてもよく似合っている、さらにランクの高い女にしてしまった。
ナオは、マイの大学の講義を思い浮かべ
近くに座った男どもに指先1つでも見せたくないと狭い心を震わせていた
カズキ「マイちゃんのそのネイル、サークルの女友だちに見せたいから画像撮っていい?」
マイ「いいよハイ。カズキくんサークル入ったんだね」
カズキ「うん、男だらけのオタサーやねん
あ、車内暗いからもうちょっと上に、もうちょい、あー…OK!ありがとう」
(※マイのバストアップ画像は矢部に送って小遣い稼ぎ。サークル=矢部の立ち上げたマイの非公式ファンクラブ。会員に女の子もいる)
その後カズキを自宅に投げ捨てて祖父母に報告をさせ、ナオとマイはデートに行った
ネイルを一本一本しゃぶってやろうか迷って、指を絡めて手を繋いだだけに留めた
可愛い寺の幼馴染と私 ワシュウ @kazokuno-uta
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