第16話 それは呪いか否か リーマン編

ユウカと初めて会ったのは合コンの時だった。


彼女の第一印象はツインテールのアイドル系の派手な服を着たスレンダーな娘。

街中で見たら十中八九の人は振り返るような美少女だった。

合コンの最中も興味なさそうにテンションが低めで

代わる代わる声をかけていく俺の友達等も惨敗。

ツンツン系の高飛車な感じで美人だけど冷たく見えた


顔面偏差値が低めの俺は最初から諦めていた


だから彼女が俺のスマホの待受を見て

「あっネコちゃん飼っているんですか?」

と聞いてきたときはとてもびっくりした


俺以外の合コンメンバーの全員もびっくりしていた

自己紹介以外で彼女が初めてまともに発したからだ。


帰り際に連絡先を聞かれた時はもっと驚いた。

デート商法か?ツボ買わされる?とか思ったくらいだから


ちょこちょこメールしていて、彼女からお茶に誘われた。

ここ数年で一番ドキドキして舞い上がって幸せだった時期だ。



デートの日、駅前で待ち合わせしていたら声をかけられた。

合コンの時とは全然違って大人っぽい落ち着いたワンピースの美人がそこにいた。


先日、メールでちょっと盛り上がった3段のパンケーキが有名なカフェに入った。


「実は私、あの合コンは人数合わせで無理やり呼ばれたの。

しかもフェスって聞いてたからあんな格好で行ったのに!合コンって知ってたら普通の格好して行ったわよ!」


「それは、何ていうかご愁傷さまです。だから全然ノリ気じゃなかったんやね」


「いやいや、だってみんなして私の格好イジッてきてウザかったじゃん!

でもさ、あそこで『私は騙されたの!』なんて言えないよね?

それに、ああいう場所に来るような人って、あんまりねぇ」

あなたも人数合わせでしょ?

と彼女は控えめに笑ってそういった。正直とても可愛かった。


「実は俺も人数合わせだったんだ、どう見てもああいう場にそぐわないでしょ?」


これは別に彼女に合わせたわけでなく事実だった。

イケメンの友達の引き立て役としてたまたま俺が選ばれて参加しただけだった。


「やっぱりね!場違い感あったし慣れてない感じがそうだと思ったのよ」


「その通りなんだけど、なんか俺ディスられてる?」


「クスクス、別に嫌味じゃないから、ディスってないよ」


それからプラプラ駅ビルを歩いて、夕方になり近くの飲み屋に入ってたくさん話した。

予想外と言うか、彼女はけっこう真面目で遊び慣れしてない感じが共感を持てた。


男と二人でこういう飲み屋に入った事が無かったと楽しそうに笑っていた。


「合コンの飲みより全然楽しいじゃん、また誘ってもいい?

今度は焼き鳥屋に行ってみたいの!ああいうお店って一人じゃ入りにくくて…

地元の駅前に焼き鳥屋があってね、いつも帰りに前を通るの。お腹すいてる時にあの暴力的な匂いを嗅ぎながら帰ってるのよ?」


合コンの時とは別人のように笑顔で楽しそうに会話していた。


「その地元の駅前の焼き鳥に行こうよ、なんか聞いてたらお腹空いてきた!俺も焼き鳥行ってみたくなったやん」 


なんて、既にお腹いっぱいでもう食べたくないのに柄にもなく誘ってみた。


次に合う約束をして、ドキドキしながら震える手でスケジュール帳に予定を書き込んでいたのを今でも覚えてる


それから地元の話とかもたくさん話した

舞い上がってた俺はキモかったと思うけど、彼女は可愛い顔で笑ってた。

それから何度かデートしてすごく楽しくて、俺たちは付き合う事になった。


俺は調子に乗ってたと思う、順調に行き過ぎたんだ 

こんな美女と付き合えるのは奇跡にほかならなかったのに

彼女は頭も良くて会話が上手で話がおもしろく、料理もうまくて仕事もできた。


周りも「宗教の勧誘だろ?」とか「ツボ買わされそうになったら逃げろよ」とか

「契約書にハンコ押すなよ」とか言ってくる。


「浮気したら許さないぞ?」

たまに茶化して彼女が言っていた



彼女の父親は女を作って出ていった、母は女手一つで子どもたちを育てた。


そしてユウカが成人する頃にノコノコやってきて

「癌が見つかったんだ…死ぬときはここで死にたい」と意味わからん事を言って帰ってきた。


仕事を辞めて向こうの女に捨てられたのか

約2年もの間ぐーたらして闘病生活を送り、金をすごい勢いで消費して、あっけなく逝ったそうだ


母親は浮気して出ていった元旦那を見捨てることが出来なくて、複雑な思いを胸に受け入れ

穀潰しが来たせいで弟は大学を諦めて、高卒で就職して家を出ていった


そのせいか男と付き合うのに臆病で、男性不審なところがあったんだ


俺が告白した時もそうだった


「私だけを好きでいてくれる?浮気したらすぐ別れるし、別れたら友達に戻ることもないわ。それでもいい?」


他の人が聞いたらどう思うかわからないが俺にとっては当たり前の事だと思った


そして付き合って1年半くらい経った頃に、月並みに夜景の見えるレストランでプロポーズした。


その時も彼女は

浮気したら許さないぞ、わたしだけを愛してねって。

俺の嫁は世界で一番可愛かった。

俺は彼女の為に生まれてきたのだ、彼女の為なら死ねると本気で思っていた。



そして運命は唐突だった


仕事周りで上司と営業先に向かった

その日は、台風が来てて早く帰ろうと上司と話していたけど、大雨で昼過ぎにはもう電車が止まってた。


バスもタクシーもすごい並んでいてビジネスホテルに滑り込んだ


上司は女だったんだ

でも既婚者で全然浮気とかじゃなかったんだ


時間もまだ7時過ぎで早かったし、ホテルの上の階にバーがあったから、ちょっと飲んでた。

もちろん嫁には電話で帰れないことを伝えてあった。

ただ、余計な心配をかけたくなかったから上司の事は黙ってた。


潰れる一歩手前まで飲んだ記憶を最後に、俺はスーツ姿のまま眠りに落ちてしまったようだった

 

どれくらい時間がたった頃だろうか、何かの気配を感じてうっすら目をさました

暗闇の中で目を凝らすと俺の上に誰かが乗ってた


ん?一体誰だ?


酔っ払って朦朧とする意識の中、目と耳を凝らして集中すると


「もう、あなたから誘っといて寝ちゃうんだから…アッ、また元気になってきたのねウフン」


と聞きなれた女性の声が聞こえてきた

それは上司の声だった


「あなたも奥さんと別れてくれるんでしょ?…アッ」


は?

なにを言っているんだ??


裸で俺に跨りハッスルする上司を、働かない頭でぼんやり眺めてたら



入口のドアの所に嫁が立っていた



「ひっ!ユウカ!!違う!」

思わず口がら声が漏れると


彼女は震える声で「信じてたのに嘘つき!」と涙を流して走り去った


俺は反射的に上司を押しのけて追いかけたけど、裸ではとてもじゃないけど部屋の外まで行くのは無理だった


急いで着替えて追いかけたけど、彼女はどこにもいなかったし、電話にも出なかった…


着信が数件とメールが来てて

「今、雨が落ち着いてるから車で迎えに行くね」

「着いたよ」

「何階に泊まってるの?」

「おーい、寝てるの?」


受付の人に話して彼女は部屋まで来たらしい

俺の部屋がもぬけの殻だったから上司の部屋に来てノックしたら


鍵が開いてたって

俺は気付かなかったけど、あの時ホテルのスタッフもいたらしい


そのスタッフがバツが悪そうに

「申し訳ございません…奥様が心配してらしたので案内してしまいました」と謝ってきた。



「あんなに美人な奥さんがいても男って浮気するのね」っと他のスタッフが話しているのが聞こえた。


違う!俺は何もしてない!


雨が酷くなっていて警報も出てる、相変わらずタクシーは捕まらないし電車も止まってる


電話は切られてるのかずっと繋がらなくて

嵐の中途方に暮れるけどスーツがびちゃびちゃになっただけだった


ホテルに戻って繋がらないスマホを眺めていた。



後で知った事だけど、女上司は旦那さんと上手く行ってなくて離婚間近だったみたいだ。

だからって俺で性欲処理しないでくれよ!


深夜2時頃にようやくタクシーが捕まり自宅に帰ると、ユウカと車はなかった


まだ戻ってないのか…あのまま実家に帰ったのか


眠れぬ夜を過ごし、また出勤して昼頃に警察から電話があった。


増水した川の中から車が出てきたと

中は無人だったが、俺は頭が真っ白になった



ユウカは生きてるはずだ…

だって世界で一番可愛かった俺の嫁が死ぬはずないだろ?


女上司はその後、離婚で揉めたとかで仕事を辞めて引っ越していった。




ザァーザァーと激しい雨音が聞こえる夜


ギシ…


ギシ…


深夜2時頃になると、雨音にまじって家に誰かがいる気配がする

金縛りのように体が動かない

長い髪が顔に当たる感触がする


ユウカが帰ってきたのか?


目をつぶっていても彼女が俺の顔を覗き込んでいる映像が容易に想像できた


「…、って言ったのにィ」


今まで聞いたこともないようなおぞましく恨めしい低い声が、自分の顔面の前から聞こえてきた

全身に冷や汗をかきながら俺は寝たふりを続けた


どれくらい時間がたったんだろう

すでに日がのぼって朝になっていた


「大丈夫?起こしても起きないからそのままにしといたのよ?」


台所からいつものように彼女が食器を洗いながら俺に話しかけてきた。


あれから7年たった(※失踪宣告は7年)

俺は職場で新しい出会いに恵まれ

先日、月並みに海の見えるレストランでプロポーズをした。


あれは夢だったのか….?

嵐の夜、というか激しい雨の夜になるとユウカが出てくる気がして、怖くて仕方ない

彼女は俺を恨んでる、俺のことを許さないだろう

ゴメン、ゴメンナ…




ナオ「はぁー、オッサンの話し長いわ」


カズキ「おい!ちゃんと話を聞いてやれよ!

こういうのは人に話すだけで心の荷が軽くなる事もあるんだよ!

すいません、続けて下さい」


ナオ「ハァ」


お祓いに来た人と、寺の坊主の図


なのだが、本来の住職の祖父とお手伝いの坊主は町内会のイベントで不在

お父さんはお母さんのご機嫌取りで一緒にお出かけしていて不在


祖母が対応していて、ぱっと見で深刻そうじゃないと思い。

話を聞くだけならと呼ばれたのがナオとカズキだ


社会勉強だ、修行の一環だ何だとそれっぽい理由で断ってから

お寺にアポ無しで来たお祓い希望のサラリーマンの話しを聞いていた


「えっと、どこから話せばいいのか…」と言うサラリーマンに対して

カズキが「最初からお話し下さい」と言ったせいで出会いからの馴れ初めを聞くハメになった。



カズキ「あーその亡くなった奥さん?あなたのことをそんなに恨んでないですよ?」


客「いや、しかし!…恨めしい声がするんです。怪現象なんです!本当なんです信じて下さい!

それに今の彼女にプロポーズはしたけど、ユウカの事が気がかりで…」


カズキ「わかりました、お祓いいたしましょう」


客「……今、恨んでないって言ったよね??

また住職のいる時にちゃんとお祓いしてもらうから」


サラリーマンが立とうとした所でナオが悪態をついた。


ナオ「おい、オッサン!モテなさそうなコイツにマウント取りたくて、自慢気に美人の元奥さんが〜、みたいな馴れ初め話してたけどな?

罪悪感から、結婚に踏め込めないから手っ取り早くお祓いしておこうってか?

その元奥さんは、浮気された挙げ句に事故死して可哀想になぁ?遺体もないから墓もない弔ってももらえない。

どこぞの住職に強制的に未練の元から剥がされてバイバイか?

ふぅーん、立派なこった」


客「……」


カズキ「モテなさそうって言うなよ!ってか何なんだよ!

お客さんすいません、この人ちょっと苛ついてるんです。

美人の彼女に会ってもらえなかったから…

うーん、見た所、本当におにーさんにはその元奥さんの悪霊とかは憑いてないんですけどね?」


客「えっと…?」


ナオ「お前は修行が足りん!ちょっと黙ってろ!

オッサン…生霊に取り憑かれてるぞ…うん、確かに結婚に反対してるな残念!

まぁ他人の好みをとやかく言いたくはないけど、ソレそこまで美人じゃないよね?」


客「んなっ!?ユウカは美人だった!それに生霊って?ユウカが生きてる??え?!」


カズキ「どういう事やねん?奥さん大雨の増水した川に流されたんとちゃうの?」


幼い姿の守護霊マイはニコニコしながらナオの隣に座ってる


ナオ「知らんし、でも質の悪い生霊は憑いてるっぽい、なんか結婚生活も本当は苦労してたみたいだな。オッサン甲斐性なしなんだな…ご愁傷様」


客「そんな…ユウカは俺に不満があったのか?

あの日までは幸せだったのに?ユウカ…すまない

幸せにすると誓ったのに…ウゥゥ」


カズキ「おにーさん泣くなよ…(ドン引き)

あ、違うって!なんか違うらしいで、座敷わらしが首振ってる」


客「え?は?座敷わらし??どこに?」


守護霊マイはナオをニコニコ見ながら首を横に振ってる


ナオ「え?何が違うの?元奥さんの悪霊じゃないよね?確かに良い感じはしないけどさ?」


マイの幼い口が『奥さんと別れるって言ったのに』とつむいだ


声は聞こえてこなくともカズキにも見えた


カズキ「うわぁ…え?どういう事よ?

"奥さんと別れるって言ったのに"って何なの?」


客「ヒッ…怪現象で聞こえる声の内容だ!今思い出した!

なんで分かったんだ?本当に何かが見えてるのか?俺に取り憑いてるのは…元上司の神谷さんなのか?」


ナオ「…その美人の元奥さんは、明るい茶髪のロングヘアーか?」


客「いや、ユウカは落ち着いた色合いだった

今同棲してる彼女はオカッパだし…明るい茶髪のロングヘアーは神谷さんだ」


カズキ「はぁ?なんで浮気相手が?」


ナオ「オッサン、ちょっとこの紙にその元上司のフルネーム書いてみろ。

来ないように祓ってやるが、生霊ってのは質が悪いんだ。

生きてる人間の方が怖いってよく聞くだろ?

浮き沈みがあって、今祓ってもまた負のエネルギーが貯まると思い出したように来る

察するに、オッサンの結婚の話しを何処かで聞いて逆恨みしてるんじゃないか?

向こうは泥沼離婚劇を繰り広げて転職したんだろ?再婚したくてもあっちは年だしな。

一回抱いたくらいで逆恨みされて粘着されたらたまったもんじゃねーよな?」


カズキ「うわぁ…正直引くわー」ナオに!


客「そんな!俺は被害者だ!」


ナオ「あのなぁ…男が被害者ぶると余計に粘着されて恨まれるんだよ。

いいか、この場合は開き直れ!

しこたま酒を飲まされたとは言え、ぶっちゃけ緩くて気持ちよくなかったとか、ガバ〇ンで臭かったとか、オッパイ垂れてて正直萎えたとか、ヤリ顔がマジキモかったとか…あるだろ、な?

オッサン、その上司にほんの少しでも憐れみとか抱いてるだろ?この場合は相手に取り憑く隙をあたえるな!

もしまた突然苦しくなったりしたらそう言ってやれよ」


客「…参考になります」


カズキ「お前が一番ドン引きやねんけど!

そんなえげつない事言って逆に恨まれんか?

ようマイちゃんの前でそんなん言えるな」


ナオ「ハッ…マイちゃん!大丈夫だよ、今のはこのおじさんに適切なアドバイスしただけだからね?」


マイがニコニコしながら首を横に振る


カズキ「許さんってこと?」


マイは困ったように笑いながら『奥さん生きてる』と口走った、実際に声は出てないけど。


カズキも流石に察したようだ

今更、元奥さんが生きてたとして、この男はもう別の女にプロポーズをしてるのだ


マイは困った顔のまま頷いた


客「あの?何なんです?2人とも急に黙って、何ですか?」


カズキ「あー、いやおにーさん聞かん方がいいですよ。うん。」


客「お願いします!今度の彼女は、ちゃんと幸せにしたいんです!お願いします教えて下さい」


サラリーマンはナオに土下座して必死に懇願した


サラリーマンはどうでもいいが

マイがニコニコ頷いたから教えることにした


ナオ「その美人の元奥さん生きてるよ…」


客「は?」


ナオ「……多分探せると思うけど、会うの?」


客「今更…そんな、ユウカが生きてる?本当に?」


ナオ「あぁ~、なるほど見えた!

オッサンの本当の未練は会って言い訳したかっただけか。

誤解されたまま死なれて謝ることも出来ない、不可抗力だから後悔と胸糞悪いのがシコリになってたんだな…まぁいいんじゃね?会いに行ってみろよ」


カズキ「修羅場?なんで面倒なことすんの?」


ナオ「フン!ケツの青いガキには分からんか…相手に急に死なれたら後悔がずっと残るんだよ

オッサンの無念は分からんでもないけどな」


カズキ「俺と1コしか変わらんやん!あんた、どんなけヤってんねん!」


客「ユウカが生きてるとして、何で帰ってこないんだ?やっぱり恨まれてるからか?

それに彼女の母親も知らなかったし」


ナオ「あぁ…なるほどな。家族もグルだ!

浮気はタブーの家だからな、母親は娘に苦労をかけたと思って協力したんだな…」


客「ユウカはどこですか!会って話してきます…そして謝って、今は別の人と幸せになると伝えます」


カズキ「…なぁ、俺が元嫁の立場やったらさ

浮気した元夫の言い訳とか、別の人と結婚して幸せになります宣言とかって聞きたくないねんけど?」


マイはニコニコしていた


ナオ「…なぁオッサン、姫路に心当たりある?」


客「は?姫路?そこにユウカが?…姫路?」


ナオ「そのお義母さんが知ってるから手っ取り早く聞けば?多分、押しに弱いお義母さんだから泣き落とししたら教えてくれるんじゃね?」


客「…なんでお義母さんが押しに弱いと?それも霊視なんですか?」


ナオ「癌で死んだ浮気した元夫を見捨てる事が出来ないのは、押しに弱いからだ!頭使えよオッサン!」


客「ハッ…そうか!」


それから

週末に姫路に行くと言ってサラリーマンは帰った


ナオはサラリーマンに書かせた元上司の紙をヒトガタに切って軽い縁切りのまじないを施した。


カズキ「寺の息子がのろいをかけんなや…ホンマにドン引きやで!エグいわホンマ!」


ナオ「こっちのほうが早い、わざわざ祓ってやる必要ないだろ。痛い目見たほうがいいんだよ。

さてそろそろ行くか」


この場合、呪ったのはサラリーマンで呪われたのがもちろん元上司

ナオはエネルギーのベクトルを操作しただけ


カズキ「どこ行くん?」


ナオ「マイのところに決まってるだろ?お前は来るなよ。マイが恥ずかしがってイチャイチャさせてくれないからな」


※某ストーカーアプリでマイが何時に仕事へ向かったか把握してる。



それから週末―…


マイ「ナオちゃん!どうして話してくれなかったの?」


ナオ「違うんだ、マイちゃん誤解だよ!ってか今日はバイトだろ?」


マイ「お休み貰ったの!ナオちゃんが美人に会いに行くって聞いたから!」



カズキ「修羅場や」ボソッ


ナオ「お前かよ!クソッ」



サラリーマンは婚約者に隠し事をせず全てを打ち明けた。

そして、元妻の母に居場所を聞くと最初は渋っていたけど「姫路ですよね?」とカマをかけたら全て話した。

あの日、嵐の夜に車で帰る途中に冠水した道路で側溝に脱輪してしまい、車を乗り捨てて近くのコンビニに避難する、そして弟に迎えに来てもらった。

車は後で回収しようと冠水した道路脇に放置してたら流されて増水した川に転落。※翌日通報される


浮気だ何だと愚痴り、弟に手伝わせて必要最低限の荷物だけまとめて家出する

その後、弟のアパートに身を寄せ、弟の転勤と共に姫路へ

母親は新しい彼氏と暮らしてたからその程度しか知らなかった。


姫路へ向かう前にもう一度相談しようと寺に寄った。

そこで、一緒に姫路へ行かないかと誘い

祖父が「最後まで責任を持ちなさい」と偉そうに説教してナオがボイコットする


「マイちゃんナオが美人に会いに行くで!早く来て!」とカズキがマイにチクり、マイはナオの元に向かった。


マイが寺に着いたとき、サラリーマンはトイレに行っていて、その婚約者がナオに頼み込んでいた。




マイ「ナオちゃん…もう私と別れてその人と付き合うの?」


ナオ「違う!この人はお祓いに来た人だよ!全然知らない関係ない人だ!」


婚約者「え!違いますよ!お祓いなんてしません!あの、何か勘違いしてますよ?私は婚約者がいますから」


マイ「婚約者がいる人と浮気してたの?」


ナオ「マイちゃん!俺を信じてよ!!ハッ」


幼い守護霊マイがポロポロ涙をこぼしながら笑っていた。

生霊だから本体に引きずられるように泣いていたのだ


カズキ「座敷わらしが泣いてる!……本気で傷ついてるんだ…早いとこ誤解を解いとけよ」


ナオ「マイ、俺を信じろ!俺が欲しいのはお前だけだ!」


それはナオの魂からの叫びだった


マイ「ナオちゃん…ウゥゥ私の勘違いだったのね」


抱きしめ合う2人


カズキ「修羅場終わるん早っ!仲直り早くね?」


その後

リーマンと婚約者、ナオとマイ、おまけのカズキでナオの自宅のファミリーカーで姫路へ


カズキ「マイちゃん来たからなんも見えんくなったわ」ボソッ

ナオ「だから呼んだらややこしくなるって言ったんだよ…生霊は優秀なのに守護霊アレは無慈悲だ」ボソッ


マイ「…フム、つまり失踪宣告の7年たったし婚姻解消が成立したからプロポーズをしたのね?

でも確か民事で手続きすれば1年で離婚が成立するはず…」


リーマン「え?」


マイ「災害時の状況からして1年後に手続きすると死亡したとみなされて婚姻解消されるわ

何となくだけど、その奥様には帰れない事情があったんじゃないかしら?」


ナオ「何でそう思うの?」


マイ「浮気がタブーのお家で育ったからもちろん浮気は許せなかったと思うけど

そんなのとっとと離婚したら良かったのよ…

ねえ、もしかしてだけど、奥さんの方も別の市で旦那の死亡届け出してたりして?

だって車は旦那名義でしょ?」


カズキ「え?何?どういう事?!」


婚約者「あ…1年後に再婚するため?」


マイ「あくまで雑な推理よ。

何となくだけど奥さん妊娠してたりして?

子どもがいたらさぞショックだったでしょうね、母親の苦労を見てきただけに迷ったはずたわ

そして離婚を決意する…

でも離婚って揉めるのよね?妊娠してたら辛いはずよサクッと解決するために、車に乗ってたのは夫だと嘘をついたのよ」


カズキ「いやいや、流石にそれは無理ちゃう?」


マイ「んー、やっぱり無理があるかな?ドラマだと行方不明になって捜索願いだしても警察は動かないじゃない?

届けは受理されてるし、車の通報記録だけ持ってけば家裁で成立しそうとか…まぁそんな簡単には行かないかな」



姫路まで高速で小一時間ほど、休憩をいれつつ走った。※ナオが運転した


結論から言うと、マイの推理は当たらずとも遠からず。


探し出した家の呼び鈴を押すと中から6歳くらいの可愛い幼女が出て来た

みんなはドキッとする、まさか?


幼女「はーい…誰ですか?」


リーマン「あの…こちらに緑川ユウカさんはいらっしゃいますか?」


ちなみに表札はかかっていない


幼女「マーマー!ママ!変な人がいるぅー!」


リーマン「ちょっ!!違う!」


「ミキどうしたの?…えっと、どちら様?」

と中から綺麗な女の人が出てきた。


ナオ「マイの勝ち」ボソッ

カズキ「マイちゃんの方がオッパイ大きい」ボソッ


リーマン「ユウカ!」


ユウカ「マサトシ?何で貴方がここに?」

 

驚いて驚愕したけど、見回して人がたくさんいると分かりご近所の目もある

ユウカ「とりあえず全員、中に入って」



カズキ「俺コンビニで待ってれば良かった?」


ナオ「諦めろ!帰ったら祖父さんに報告するのはお前の役目だ!俺はマイとデートの続きするし

お前どうせ暇だろ?」


幼いマイの守護霊が6歳のミキちゃんと遊んでる

ナオに寄っていこうとするから止めてるのだ。


ユウカ「…女の人を2人も連れてきて一体何なの?」


マイ「私は探偵です!」キリッ


婚約者……え!?

リーマン……えっ?!

ナオ・カズキ……は?


ユウカ「はぁー、探偵を雇ってまで何の用なの?」


カズキ・ナオ……信じた!マジかよ!


マイ「単刀直入に聞きます…再婚されてますね?あのお子さんは?」


ナオ「マイちゃん!?」


ユウカ「…はぁ調べは付いてるのね?

そうよ、お察しの通りあの子はマサトシの子よ

でも戸籍上の父親は別よ…だから親権は貴方にないわよ」


マイ「冗談のつもりでカマをかけたら当たったわ…」


ナオ「え!」 ※声に出た


マイ「だって指輪してるじゃない…それに男物の服がかけてあるわ

あれは幼稚園の運動会の写真ね、写ってるのは現在の旦那様?

お巡りさんの制服?ご主人は警察関係者なのね

どちらにしろ、ユウカさんも新しい家庭を築いていたのね」


リーマンはとてもショックを受けた顔をしていた。

まるで別れた元カノと数年後ショッピングモールとかで子連れで歩いてるのに遭遇したときのような、言いようのない喪失感を抱いていた…


リーマン「そうだよな…美人のユウカが再婚出来ないわけないよな

勝手に俺だけが再婚するものと思い込んでた

だって君は死んだと思ってたから…

どれだけ心配したと思ってるんだ!あれは君の勘違いだったんだ俺は悪くない!ハメられたんだよ」


ナオは、チ〇コをハメられたんだよな?洒落になってないぞオッサン!と悪態をついて

カズキは、謝りたいんじゃなかったのか?と呆れてる


ユウカ「上司とホテルに泊まることを私に内緒にしてたじゃない!上司とは言え女性とバーに2人で飲みに行く時点で有罪よ!」


マイ「その通りよ!」←何故か便乗してる


婚約者「上司との付き合いは仕方ないわよ、私はそこまで気にしないわ」


マイ「その結果寝取られてるじゃない、結果が全てです」


ユウカ「私も当時の、あの時は許せなかったのよ…妊娠が分かって浮かれてて、報告を兼ねたちょっと豪華な夕食を用意してたの

だから帰って来て欲しくて無理して迎えに行ったのよ…そしたらアレでしょ?

大人しく家で待ってたら知らずに今も過ごしてたかしら?…貴方は内緒にして隠し通したでしょ?

上司と泊まったこと同様に、何もなかったと、私には何も言わずに黙ったまま」


マイ「そんなのいずれバレるわ、日々の小さな挙動や上司からの些細なメールに違和感があったり、本当に墓まで持っていける人は少ないわよ」


リーマン「っ…それは」


ナオは、マイちゃん厳しい!と内心焦っていて

カズキは、シビアな大人の世界だと一歩引いた


ユウカ「フッ…もういいのよ。マサトシも再婚するのね…。

実は貴方の失踪宣告の手続きをしてすぐに再婚したの

災害時だとあの車が川に流された日に婚姻解消が成立になるから三ヶ月待たなくていいの…手続きに時間はかかったけどね。

生きてる事が分かってもその前に再婚しちゃえば再婚関係は続くのよ」

(※令和4年から女性の離婚後の結婚禁止期間は無くなった)


リーマン「何故だ、普通に言えば離婚したのに…」


ユウカ「私が耐えられなかったのよ…お腹の子にさわるから、貴方に会いたくなかった。

会えばきっと罵って話し合いにならなかったわ。ショックで落ち込んで何もしたくなかったの…

それでユウイチが、全部やってくれたわ」


ユウイチって今の旦那さんの事かな?

と飾ってある写真にみんなの視線が集まる


リーマン「ユウイチくんは…君の弟じゃないか?何故なんだ?」


えぇー!?その場のみんなが声に出ないほど驚愕した


ユウカ「私とユウイチは親の連れ子同士なの、血の繋がりはないわ。

辛い時いつも支えてくれたのはユウイチなのよ…

男女の仲じゃなくても家族としての愛でいいから

一緒に子どもを育てたいって言ってくれてね…

でも、私はユウイチが私を姉ではなく女として愛してる事に気がついてたの

知ってて知らないフリをしたのよ…あの時はまだお互いに子供だったから、私は怖くてその手を取れなかったの

貴方と結婚してた時間は短かったけど幸せだったわ

でも結局あなたは裏切った…不可抗力と言いたいのだろうけど私に女絡みの隠し事をした時点で有罪よ。

そんな人は信じられないわ

遅かれ早かれ、どの道こうなったのよ」



シーン―… 空気が重い



リーマン「……しこたま飲まされたとは言え、緩くて全然気持ちよく無かったよ?おっぱい垂れてて正直萎えてたし」


カズキとナオはギョッとした


それ今言うタイミングじゃない!アホかこいつ!滑りよった!ダダ滑りやん!

いや、苦しい状況やけど!


女性陣が全員ドン引きした


ナオ「あれは浮気じゃないと言いたいんだな?」

※責任を感じてフォローに入った


泣きそうな顔でこっち見んなボケ!自己責任じゃ!

ナオはそうツッコミたくなった


ユウカ「……全て終わった事よ。あなたも再婚するのでしょ?どうぞ幸せにね」


笑った顔は清々しく、そして美しかった。


逃がした魚はデカかったとカズキはリーマンを憐れんだ。

見た目だけなら今の婚約者よりランク上の美人だったからだ。


婚約者「休日に押しかけてスミマセン…真相が知れて良かったですわ」


「こちらこそ、わざわざここまでご足労頂きありがとうございます。

あれから7年たつのね…もう普通に結婚届は出せますわ。その確認のために来たのでしょう?

ミキ、皆さんにバイバイして」


ミキ「おじちゃんバイバイ」


リーマン「……ミキちゃん、バイバイ」


ミキは直ぐに興味を失い母親の足に絡みついていた。


ミキ「パパ今日は早く帰って来る?」


ユウカ「今日は早く帰って来るよ、お昼は何食べたい?」


ミキ「スパベッぴぃ!」


ユウカ「ミートソースのやつね?ふふふっ」



車に乗って帰宅途中―…


マイ「そのユウイチさんって人は

自分の父が浮気して出ていった時、家に居づらかったでしょうね。

お姉さんの支えになることで自分の存在価値と居場所を必死で作ってたのかな」


婚約者「その献身が愛に変わっていったのね…そんな必死の献身(愛)を受けて寄り添っていたのなら。(※リーマンの愛では)きっと物足りなかったでしょうね」


リーマン「……」


カズキは慰める言葉が出てこなかったし

ナオはリーマンへの興味が無くなった


マイ「ウチにも弟が2人いますけど最近は"ウゼッブス!"しか言わなくなったし

下の弟は7歳年下でようやく小学校卒業ですよ」


婚約者「え??マイさんおいくつなの?」


マイ「私は19ですよ?春から大学2回生です

探偵とか偉そうに言ってすみません。調子に乗りました」


婚約者「同世代かと思ってたわ…むしろしっかりしてるから先輩かと」(※26歳、童顔 今日一番ショック)


マイ「そんなにしっかりしてませんよ(ちょっとショック)

ナオちゃんとは幼馴染で最近彼氏に(照)

カズキくんは1つ下の来月から大学生なんです。他所のお寺の息子さんで、奉公に来てるのよね」



婚約者「え!じゃあ君は高校生だったの?卒業したとは言え高校生をこんな所まで連れ出してしまったわ…みんな若かったのね」


ナオ「そいつは勝手についてきたんです、お気になさらず。

マイちゃん帰ってからどこ行きたい?せっかくだからデート行こうね

〇〇に新しいカフェがオープンしてるって言ってたよね?」



ユウイチの愛はいつしか替えの利かないものになっていた


有名な呪術師も「愛ほど歪んだ呪いはない」って言ってるしね―…


マイが行って何かの跡が木っ端微塵になった事だけが分かったが、ナオはどうでもいいと思った


憑き物が落ちたように凹んだリーマンと

長年の心が晴れたような元奥さん


ナオ達が解いた呪いははたして誰のものだったのか

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