第17話 コンビニ店員の話し

最近入ってきた大学生の新人が慣れるまで

早朝6時から出勤してる

いつもは7時出勤なのに、とても眠い。


俺は大学を卒業して就職が決まらず、ズルズルとフリーターをやってる


ここは駅ビルのコンビニで、改札口の前にあって朝6時から23時まで開いてる。

俺は早番担当

改札に一番近いから朝からでも忙しい

店長は週に2、3回しか来なくて、他の正社員もおもに遅番のレジ締めをしてる。

実質的に俺が早番の責任者だ


今日も6時の出勤10分前に来て眠い、3月とは言え春先で朝はまだ寒い


安達「おはようございます!今日もよろしくお願いします」


「おはようございます、朝から元気だね。4月から大学でしょ?何時からなの?」


安達「8時15分の電車に乗るんで残業できねッス」


「ギリギリやん!時間来たら自分でタイムカード押してあがってな、電車遅れないようにしてよ」


安達「ハイ、大丈夫ッス!品出ししてきます」


この安達くんは、いつも俺の肩の方をチラッと見る。

クセなのかな?最初は寝癖が付いてるのかと気にしてたけど、慣れてきた


ピロン、ピロン―…


駅ビルのコンビニだからか、店の入口はいつも基本開けっ放しで、人が入ってくるとピロンって音がなる

電車が到着して人が降りてくると、誰もいないのによく音がなる


安達「いらっしゃいませ〜」


「誰もいないから。たまにコンビニの前を通るだけで音がなってしまうんだ」


安達「…ハイ」


安達くんが、一瞬だけビクッと肩が揺れた気がした。


今日は起きた時から頭が痛い

薬を飲むほどじゃないけど、地味にしんどい


安達「先輩、気分とか頭痛くないですか?」


「え?…あぁ、うん。よく分かったね。

起きたら頭が痛かったんだ、寝不足かな?」


安達「夜寝る前に清酒か、なかったらベッドの位置を変えたほうがいいかもです」


「は?」


安達「あー、俺の実家が寺なんです。

こう言うと馬鹿が茶化すんで黙ってるんですけど…

先輩の部屋はよくないですね、何かの気配で夜中起きたりしませんか?」


ギクッとした


当たっていたから

家鳴りがけっこうあってギシッギシッと聞こえるんだ俺の部屋だけ


そうか、安達くんは寺の息子なんだ


「えっ…じゃあたまに俺の肩よく見てるのは?もしかして何か憑いてるの?」


安達「あ、ハイ」


「……マジで?冗談だよね?脅かすつもりで言ってる?」


安達「不快にさせたならスンマセン。

でもベッドの位置は変えたほうがいいです、出来れば窓から離した方が無難ッス」


「考えとくよ」

何なんだよ…気持ち悪っ!

なんで俺の寝室のベッドの位置までわかったの?


帰宅後、自分の部屋を見回す

俺は実家住まいで二階の奥の部屋だ、別に周りに墓があるわけじゃないけど…

癪だけどベッドの位置を窓際から壁際にかえて、ついでに掃除した

部屋の掃除を模様替えと勘違いしたオカンに「彼女でも来るの?」とか聞かれた。

しばらくいないですお母様…くぅ!

掃除なんて何年ぶりだろ?



翌日―…

安達「おはようございます」


「おはようございます…ベッドの位置変えたら頭痛が治まったよ、何だったの?」


安達「見てないんで何とも言えないんですけど、悪い空気溜まってるとかじゃ?」


「よく霊道になってるとか聞くじゃん?寝てるだけで幽霊に憑かれちゃうみたいな?」


安達「寝てるだけで幽霊は拾わないですね。先輩は歩きながら拾ってくるタイプですよ」


「ちょォ待って!冗談キツイよ脅かさないでよ……え、本当に?」


安達「冗談ですよアハハッ先輩ビビリすぎ」


からかいやがっただけ?

「本当に?ねぇ、もしかしてまだ憑いてるの?」


安達「無害そうなので気にしなければ…ここ人通り多いし、ほっといても他の人に行くんじゃ

気になるなら住職の御札貰って来ましょうか?」


「いや、そこまでは…」


御札もらってもどうしたらいいか分からん…額の裏に貼るの?

部屋に額なんてないからポスターの裏にでも貼っとけばいいの?



翌日―…

安達「おはようございます」


「おはようございます」


安達「品出ししてきます」


「あハイ」


今日は何も言わないの?

品出しから帰って来たら自分から聞いてしまった


「今日は何も憑いてない?」


安達「昨日と変わらないです…スイマセン気になってますか?あんま気にしんほうがいいんですよ」


ピロン、ピロン―… 入口のチャイムが鳴る


安達「いらっしゃいませ」


「誰もいないから、誰かがコンビニの前を通ったかな」


安達「え…ハイ」


「……もしかして幽霊入ってきた?」


安達「大丈夫ッス!」


何が大丈夫なの?否定しなかったけど、やっぱり幽霊なの?からかっただけ?

大学生のノリにもうついていけない



翌日―…

今日は土曜日で安達くんは6時から12時まで働いてる。

平日は早朝の2時間だけだから初のロング出勤だな。

間に30分休憩が2回だ。



安達「土曜キッツー、めっちゃ多いし…ハァ」


「お疲れさま、初めての長時間はしんどいやろ。高校の時バイトはしてたん?」


安達「俺、身長伸ばしたくてバスケ部やってて忙しくて」


「……今から牛乳飲めばまだ伸びるよ」

寺の息子がバスケ部かぁ…意外!

そういうの関係ないのかな?


安達「先輩いつもどこ歩いてるんですか?

小さな不幸を運んで来そうなのが3つ憑いてますよ…うわぁ………あっ冗談ッス。」


「ちょちょちょォ、何それ?意味わからないんだけど、怖っ!本当に冗談?

普通に帰ってるだけだよ?別にお墓とか通ってないし」


安達「あ、いや冗談…です。品出ししてきます」


おいおいおいおい! …マジで?


その日は確かに、小さな不幸が3つ

帰る時に、自転車に乗ろうとしてズボンの裾が引っかかってコケたり

お釣り渡す時に落してお客さんに拾わせちゃったり…これは俺の不幸じゃないかもだけど

最後は家にあったバナナが腐ってて気づかず一口食べたり


翌日から3日間、安達くんは大学の入学準備とかで休みだった。


俺はと言うと怖かった

あのヤロウ!からかうだけからかいやがって!

どこで何を拾ってくるんだよ!今も後ろにいたり?(ブルッ)


俺には霊感なんて全然無いから少しも分からないし感じないけど



ピロン、ピロン―…



空気が透き通るような感覚って言うの?

もの凄い美人がコンビニ入ってきた!


ほえぇ!おぉー…


あっ見すぎた!一瞬こっち見たよな…ドキドキする


普通にお茶買って帰った。


今日はいい日だ。

目の保養だ、安達くんに教えてあげよう


3日後―…

安達「おはようございます」


「おはようございます」


安達「品出ししてきます!」


入学式でなんかあったのかな?

楽しそうにしてるのをみると、俺の大学入学の頃はどうだったかなぁ、若いなぁ、青春してるんだなぁって…何年前だよ!


俺にもこんな頃があったはずなのに、いつまでもコンビニバイトしてる訳にはいかないよな…ハァ

電子レンジのガラスに写る自分の顔が、くたびれて見えた

顔が老けて見える…若い安達くんが眩しい



ピロン、ピロン―…



ハッ!あの美人ちゃんだ

え?!一瞬俺を見た!…目が会っちゃった!うひょー!


今日もペットボトル一本買って帰った


丁度棚に商品を並べてて安達くんは見てなかったかな?

今度来た時に教えてあげよう

今日もいい日だ!

心なしか俺の顔が若返った気がする!目の保養だ



数日後―…


「今日も来たっ!」


安達「えっ、あぁ」


「最近、この時間によく来てくれる俺の癒しの美人ちゃん。春だし新社会人とかかな?」22、3歳くらいかな。


安達「えーあの人、大学生ですよ?」


「え?安達くん、あの美人ちゃんと喋ったの?」


安達「えぇまぁハイ」


「いつの間に!よく話しかけれたね!馴れ馴れしいコンビニ店員とかキモがられない?」


安達くんはニヤニヤしながらドヤ顔して

「見た目より優しい感じッスねー」


「君凄いね、尊敬するよ!

あのレベルの美人さんに声掛けるとか無理!

俺が声かけたら次の日からここのコンビニ来なくなりそう」


安達「クククッ先輩、以外と遠慮しぃなんですね。挨拶くらいなら大丈夫じゃないッスか?

俺、品出ししてきます。ほらレジ来ますよ」


「待って心の準備がっ……いらっしゃいませ。袋はどうされますか?」スンッ


美人「あ、そのままで」


「157円です」


スマホ会計だから小銭のやり取りが無い…お釣り返すとき手を触れると思ったのに、残念。

ってか挨拶なんてどうやってするの?俺なんかが、話しかけてはいけない美人じゃん無理!


落ち着いて近くで見ても凄い美人ちゃん

オッパイおっきい!

まつ毛長っ…天然まつ毛かな?


あっ目が合っちゃった!


照れたように笑って帰った


照れた笑顔も可愛いなぁムフフ…え?!ちょっと待って、もしかして俺に気があるとか?

いやいや〜偶然だよな?


安達「先輩見すぎ」


「…キモかった?」


安達「さぁ?あ、もう8時だ!お疲れさまでした!」


空気が透き通るような美人って表現がおかしいと思ったのは

テレビで"透き通るような美人"と言うフレーズが出た時だった


いつも店に入って来る時に目が会うから、ドキドキする

え?もしかして本当に俺の事を?

いやいや〜、ナイナイ。

変に話しかけて「はぁ、キモッ」とか言われるのがオチだ。

俺の心のオアシス




以下、安達カズキ視点―… 


入学前から早朝のコンビニバイトを始めた


お世話になってる寺の住職さんから、朝の5時に起きて寺の清め(掃除)と写経と読経させられそうになったから。


ナオはしないくせに、なんで俺だけやねん!

(※お手伝いの坊主もさせられてる)

寺で無駄に早起きさせられるならバイト行こうと思った。小遣い欲しいし


いやぁ、都会のコンビニ時給高っけぇ!1350円ナニソレ!?

実家から仕送りあるけど、小遣い5千円って

今どきの大学生が?アホちゃうか!服1枚買ったら消し飛ぶやん!


「自分のことは自分でしたいんで!教科書代の他にも細々としたもんいるみたいなんです。兄よりいい大学行くから、兄貴にお金出し渋られて(テヘ)」って言ったら

「ちゃんと自立して、しっかりしてるのね。偉いわ」

と、お祖母ちゃんとおばさんに感心されてバイトの許可が出た


6時から8時までとか丁度いい

駅のコンビニって分かりやすい場所も良かったみたい。


何より終わったらマイちゃんに会えるし!

ナオの彼女やけども、別にいい

なぜなら美人はみんなで共有すべきやから!俺の彼女ちゃうしな

でっかいオッパイがプルンプルン揺れるだけで、いただきますやん!毎晩のおかずや!

いつか挟まれてみたいけど、ナオに呪われそうやから絶対に口に出せん(ゾッ)


あいつほどあり得ない奴もいねぇ…マイちゃん可哀想やけど、一生粘着されそう。



駅のコンビニバイト舐めとった

ヤベェ奴いるやん!幸薄そうな店員のおにいさん

肩にいっつもなんか乗っけてる

ピンポン玉くらいの大きさのハエみたいな体やねんけど顔が人間で手の先も人間っぽい

最初に見た時は、どこかのキショいマスコットかと思った。

けど、モゾモゾ動いてるのが分かって


ギョッ! うわぁ…何あれ?


何をどうしたらニンゲンがあんなんになるんやろ…知りたくもないけど。


たまに先輩の頭にストローみたいな口をプス、プス、って刺してるし…思わず声かけちゃった。

だってキモかったもん無理!

咄嗟に手で祓ったけど、あれ何やねん!


改札前のコンビニめっちゃエグいわ

電車が来るたび遠くでガタゴトギィィープシューって駅に到着する音がして、改札を抜けてそのままコンビニ来る幽霊おる。

それ、ルーティンなん?

ドアも律儀にピロンピロン鳴らんでいいし!

人影が見えるから"いらっしゃいませ"って言ってまうやろがい!


相変わらず先輩は何かひっついてるし…うわぁ

この人はどうしたん?

心霊スポット巡りしてんの?

ボロボロのゾンビみたいな手が先輩の足首掴んでる。両方右手で掴んでるから2人いるんかな?

肩にも指が変な方向に曲がった手が乗ってる

うわぁ…指がグネグネ折れて動いて顔を撫でてるみたいだ


今日は先輩が獣臭い、まるで動物園の柵の前みたい…ドア全開のコンビニで良かったな

人の出入りが多いから匂いが籠もらないけど、近くにいるとめっちゃ臭かった

品出しついでにモップがけして淀んでる空気を祓った。


土曜日って学校とか仕事ないやん?だから暇かなって思ったけど忙しい!


マイちゃんも今日は昼までバイトって言ってたから、昼からナオとデートかな?

家に来てくれたら遊べるのになぁ

何だかんだ俺にも気を使ってくれるし、俺がナオに絡むとさり気なく間に入って来て俺の相手をしてくれる。

ヤキモチ焼かれてるって分かってても、めっちゃ楽しい

ナオは嫌がるけど



大学が始まって

家の人がケーキ買ってきてくれてお祝いしてもらった。

マイちゃんからお祝いに、ちょっといいチョコをもらった、めっちゃ嬉しかった

4月に入ってたけど、遅れたバレンタインをもらったと脳内を書き換えておいた。

『俺はバレンタインに美人からチョコをもらった』


教科書の入った鞄をもってコンビニ通う生活が始まった


俺が駅前のコンビニでバイトしてるって教えたら、彼女はたまに寄ってくれるようになった

彼女の大学の構内にもコンビニがあるから改札前のコンビニに寄るのは実は初めてだと言う。


分かるか?

可愛い女の子が俺を目指してバイト先のコンビニ来るんやで?

俺を見つけるとニッコリ笑って手を振ってくれる

仕事中やから気を使って話しかけては来ないけど


ペットボトル一本買って、俺がレジの時はニッコリ笑って「お疲れさま先に行ってるね」とコソッと話しかけてくる。

俺がレジじゃない時は、帰りに俺の方をチラッと見てニコニコ可愛い顔で「またあとで」と口パクする


あれ?この子俺の彼女やったかな?


とか一瞬錯覚してしまう

まぁそれくらい破壊力があるわけで

仲良くなったら人懐っこくて可愛い

もうな、俺の彼女ともだち可愛いやろって高校の時の奴らに自慢したくなった。


改札抜けて駅のホームのベンチでいつも座って待ってる

俺を見つけるとニッコリ笑って

「カズキくんお疲れさま、お茶買った?」と、さっき買ったお茶を渡そうとしてきた


「あっ、控室にあったから持ってきた」


って最初に断ってしまったから、次からは聞いてこなくなっちゃった。

ありがとうって貰っておけば良かったと後悔した。

だって、お返しに遊びに誘ったり、何かプレゼントする口実になったのにな。


ナオに〇されるな…辞めよう(ゾッ)


先輩に憑いてたなんかが、マイちゃんの守護霊アレに滅せられてた。

文字通り、先輩からしたら癒しの天使やと思うけど、知り合いって言ったら面倒そうやからな

バレるまで黙ってよう



マイ「いつもお茶しか買わない客って思われてるかな?店員さんに見られてる気がするの」


「駅のコンビニやし、お茶だけの客なんて珍しくないから、そんな事気にしとったん?

おにぎり1個の客とかいるで」


マイ「自意識過剰だったのね…わぁ恥ずかしっ!」


確実に見られてるけどな。

先輩がそのうち告白するかもしれんけど、玉砕されて終わりやろ


マイ「早朝のコンビニバイトって大変でしょ、眠くないの?駅つくまで寝てていいよ

私が降りる駅で一旦起こしてあげようか?」


それはあなたの肩を貸してくれると言う事ですか?膝枕でもええよ?

ぴったり並んで座ってるから、伝わってくる温かい体温でめちゃくちゃ眠いけどな

寝たら勿体ないやん

この距離でこんな可愛い子が話しかけてくれるのなんて電車以外で無いよな


親しくなった人だけが見れる特別可愛い笑顔で

至近距離から大きな目で見上げてくるから

ホンマに勘違いしそうやわ


ブー…


ひっ!ナオからメールで「俺の女に近すぎなんだよハゲ!」


見てるの?ストーカーかよあいつ!

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