第2話 ヤンキー先輩
久しぶりに会った幼馴染がちゃんと働いてる姿に、ちょっとびっくりして?
同い年なのに、なんか悔しくて?お小遣いたくさんで羨ましくて…?
家の近くならと両親の許可もおりやすかった。
急募の張り紙と時給の良さに履歴書出したらすんなり通った。
高校生不可だけど、見た目がフケ顔だから?
もう卒業するし、身長が高い方だから大人に見られたのだと思いたい。
よくおばちゃん達から「内藤ちゃんは黙ってたらしっかりした美人さんなのにね」
母からは「口を開くとアホがバレるから黙ってなさい」と。
どちらかと言えばのんびり屋だと自覚してるけど。
黒髪が条件って私からしたら厳しくもないが、染めてる人は案外多いよね。
高校生の間は土日だけのお気軽バイトでもそこそこ稼げた。
大きな葬儀会館だから全部で4ホールある。
家族葬規模の小さなホールから500人規模のものまで。
たまに有名人の式があったりする(※母ネットワーク)
無宗教でお葬式をする人は会館がいくつか契約してるお寺に頼むそうだ。
おいおい仕事上たくさん覚えさせられるんだけど、宗派が結構あるよね。
幼馴染の家の寺もそのひとつで、時期によるけど週2回とか呼ばれるらしい。
檀家さんじゃないからお布施はピンキリで、式を担当する営業マン(以下=式担)の説明によって"お気持ちです"の金額が変わるらしい。
一番安いときで〇万で高い時で3桁だったとか。
式担(※全員男性)はたくさんいるけど、みんな営業に出てるから最初だけ挨拶して、会館や事務所と言うか詰所にもほとんどいない。
奥寺チーフ(女)は詰所の女性スタッフのトップで、経理の小村さんと電話番したり、スタッフの振り分けをしてる。
1つの葬儀で
式担、リーダー1人、メイン2人、サブ2人
参列者の予想規模によって、メインとサブの人数が増えていく。
リーダーは式担がいない時に、その代わりに喪主や遺族と直接お金の話や式の流れの説明などをする。
メインは受付に出たり、参列者の誘導や供養を配ったりする、住職が来たら今日の人数がだいたい何人だとか
同じ宗派でも寺によって小道具が微妙に違うからその確認だったりする(※棺桶の上に修多羅と小刀を置いたり置かなかったり)
メインはコンパニオンスタッフの派遣を頼んだりする。お金をかける式の時に、セレモニー専用のコンパニオンを雇うのだ。
サブは雑用がほとんどで、折りたたみ椅子を並べたり、お茶出し、倉庫へ走り宗派によって細かく違いがある小道具を運んだりする。
前置きが長くなったけど、これは働き始めた頃の話し
茶髪不可なのに茶髪のヤンキー風の6歳くらい上の先輩がいた。
この先輩には入社当初から目の敵にされてる、理由はよく分からない。
多分、今まで一番若い娘の立場を私が更新したからとか、後輩なのに私の方が身長が勝ってるのも気に食わないんじゃないかな?
とにかく私には当りがキツかった
万年人手不足だから高校生の私にもサブじゃなくてメインの仕事も回ってくる。
先輩「勘違いしてんじゃねーよ、仕事覚えるのが早いとか思ってんのかよチッ」ボソッ
この手の事をすれ違いざまによく言われたのだが、最初は私に向けて言ってると思わなかった。なぜなら声のトーンが違いすぎて先輩から出てる声だと知るのに時間がかかったから。
睨まれてるのは知ってたけど、伝達事項や参列者への応対と私への態度がずいぶん違う
無視してた訳じゃないのだけど、気づかなかったから無視してるのと同じかも。
ただ、嫌味にどう返せば良いのかバイト経験の浅い小娘の私には分からない。
とりあえず何か言われたら無視にならないように「はいスミマセン」と返してる。
その日は忙しかった。
故人さんは某会社の元社長のおじいさんで、90すぎの大往生らしく参列者が多かった。
寒い日で、お年寄りから温かいお茶は無いのかとかトイレはどこかとか、とにかくよく話しかけられた。
こんな日でも先輩から「大きくて邪魔!」とか「本当にトロ臭い!」とかボソボソ言われる。
おまけにこの先輩の近くはなんか長い事洗ってないペット臭いのだ。
「はぃスミマセン後ろ通ります」とこっちも忙しくてあんま相手に出来ない。
突然会場の方で「もーっうるさいから!」と怒鳴り声が聞こえた。
その時、私は詰所にシフトの確認に呼ばれていて、ザワつく声をチーフと経理の小村さんと「何ごと?!」と聞いていた。
経理の小村さんは詰所で電話番してて、チーフとホールへ見に行くと先輩が暴れ喚いて怒鳴っていたようだ。
チーフが詰所で話を聞くからと、その場で参列者に謝罪して先輩を引っ張って行った。
私はその様子を呆然と見ていた。
ただ先輩の様子がおかしいと言うか、要領を得ない事ばかり言ってる。
リーダーの悪口だったり、式担の事を捲し立てていた。
先輩「あのヤリ〇ン女が私の事笑ったの!
新人もウザい事言ってくるし!何なの普段は私を無視するくせに私に向かって生意気なのよ!」
チーフ「大垣さん(リーダー)はそんなことしないでしょ!内藤ちゃんは詰所にいたわよ」
そんな事を言いながら連れて行かれた。
とんだトバッチリじゃない!ただ、新人に見られないのが私。しっかりした見た目も今日は助かった。
大口の客だから、ちゃんと来ていた営業の式担とリーダーが弔問客に謝罪して回っていた。
寺の住職は通夜が始まる30分前くらいに来てスタンバイする。
遺族に挨拶してお焼香の作法なんかの説明したり説法を説いたり
大きな式だから幼馴染のナオちゃんもお手伝いに呼ばれていた。(※事前に連絡来て知ってたけど)
住職控室にお茶とお菓子を待っていくのもサブの仕事のうち。
私「本日もよろしくお願い致します」
住職「はい、ご苦労さん」
私「お茶は熱いのでよろしいですか?」
住職「お白湯を下さい」
私「かしこまりました」
ナオ「僕は冷たいお茶で(ニコニコ)」
私「はい、わかりました(ニコニコ返し)」
参列者の数だけお焼香するからお教が長くなるのを知った時は衝撃的だった。
私にはよく分からないけど、リーダーやメインの人が「今日はお焼香多かったから〇〇〇のフレーズを3回言ったわ」とか
「お教の終わる7分前くらいになると〇〇〇〇」って言うから、それを聞いたら次の準備よ」とか
当時はちんぷんかんぷんで、お教って何言ってるのか全然分からないよ?とか思ってた。
結局、先輩はその日は戻って来なくて、いつの間にか帰されたようだった。
1人抜けてめちゃくちゃ忙しかった。
メインが1人では足りなくて、サブの私が今までしたこと無かった仕事が回ってきたし、同じ時期に入った主婦の山本さん(サブ)も走り回っていた。
参列者にはうまく取り繕っていたけど、
後に知ったことだけど、1年を通して冬って式場は忙しいのだ。
そして、高校生の間は夜勤(通夜)は出なくて良かった。
ナオ「マイちゃんお疲れ様」
仕事が終わるくらいの時間に声をかけられた。
(※シフト聞かれて知られてる)
「…お疲れ様でございます(よそよそしく)」
職場で馴れ馴れしく話しかけるのやめてよ、私が怒られそうじゃないか!
私達が幼馴染だと言うことは内緒にしてる。
知り合いだとバレても何か面倒そうだし
ナオ「…マイちゃんって本当に疲れないの?」
「え!今日は参列者多くて疲れましたよ??
何?また憑いてるとか?(コソッ)」
ナオ「この数珠あげる、返さなくていいから」
手からスルンと外して渡してくる
「ちょっと⁉そーゆーのここでやらないでよ(キョロキョロ)」
ナオ「じゃあ、今日はもう上りでしょ?いつもの所で待っててよ」
いつもの所とは、たまにご飯を食べに行く幼馴染の寺の近所の昔からあるファミレスだ。ドリンクバーがあって、学生やサラリーマンが時間つぶしに長居してる。
連絡先を交換してからよくご飯に誘われるのだ。
ブルジョワな幼馴染にちょくちょくポテトとか軽いものを奢ってもらって、すっかり餌付けされてると思う。
「分かりました」
ファミレスで待ってるとナオちゃんが来た。
ナオ「おまたせー、いやぁ凄い式だったね」
「(故人は)元社長だから(参列者の)人数多かったね」
ナオ「うん、そうだけど。遺産で揉めて陰謀が渦巻いてた。一族経営って何だかんだ遺産で揉めるよねー。で、誰か来てない人がいたでしょ?」
「来てない人?」
「ほら、あの今どき珍しいヤンキーいたじゃん。あの人さ、かなりヤバそうだね」
「何が?」
その後の言葉が衝撃的すぎて、一瞬理解できなかった
「かなりヤバそうだね、もう長く続かないと思うよ?
式担当の人と不倫してて、リーダーの人にバレたみたい。人を呪わば穴二つって言うじゃん?
本妻に呪か何かして、弾かれて帰って来たんじゃないかな。
式担の人もちゃんとした御守り用の護符を持ってたから、多分奥さんにも渡してるんじゃないかな?
最初はイライラして、だんだん幻聴が聞こえてきて、そのうち幻覚が見えてきて。死にはしないと思うけどやった分だけ返ってくるだろうね」
「え!」
「今日は、じいさんがずっと"苦しい、痛い、苦しぃ"ってうめくような声あげてたけど、聞こえた?」
「聞こえなかった…」何それ怖いんですけど!
「じゃあ"邪魔だ"とか"トロい奴め"とか"使えんな"とかは?」
「何なの?」もしかして私の事?
「生前の口癖じゃないかな」
「マジかー…うーん、社長だと色々あるよね」
ナオが言うには、呪だか何だかが不安定だから近くにいたらイライラ移るとか、喪主や遺族の遺産で揉めてる怨念みたいな陰気を吸って?流れてきて?先輩がなんか影響を受けたらしい。
「式担って河本さん?不倫してたんだぁ…なんか月9のドラマみたいだね」
ってかなんで働いてる私より詳しいの?そっちのほうが怖いんですけど!
「そっち~?マイちゃん、かなり当てられてたでしょ?」
「嫌味言われるけど忙しくて放置してたし。
それに入社当初から言われてたから関係ないんじゃない?」
「やっぱり?あのヤンキーってマイちゃんと相性悪そうだもんね。
もっと早く言ってよ!ハイこれあげる!僕の念をたっぷり込めたからっ(ハート)」
「ありがたや~…ピンク色の
「本物の紅水晶だよ」
「おぉ〜、えっいいの?……ありがとう」
帰ってから
(※ちゃんと浄化や邪気除けに使われてる)
土・日とバイトしてたから、翌日も出勤だった。
昨日リーダーやってた大垣さんが今日はメインで入ってて、別の人がリーダーやってる。
多分、新人の指導に入ってる感じかな、次の次の準備を先回りして教えてくれるから仕事しやすい。こちらもメモを取りながら必死で追いかける
昨日入ってた同時期に入った主婦の山本さんは日曜はお休み。平日と忙しい土曜にたまに入る。
初出勤が同じ日で何となく仲良くしてもらってる。
そして、先輩は入ってるはずなのに時間になっても来なかった…チーフが連絡したけど電話に出ないらしい。
大垣「体調悪そうだったから休みだと思ったのに。チーフにも言ったんだけど"休む連絡来てないから来るでしょ"って。もぅ!代わりを探してないのよ!
内藤ちゃん今日は3時あがりでしょ?6時まで入れる?多分チーフに言われるわよ」
マジかー…
別に入れるし、明日学校だけど6時までなら全然大丈夫だと思う。
むしろ時給が良いからモリモリ稼げる!ラッキー
くらいに思ってたけど
先輩が正面玄関でナイフ振り回して警察沙汰になって大変だったらしい。
たまたま玄関ホールに人がいない時間帯だったから被害は無かった。
駐車場のガードマンと警備員室にいた人と式担が取り押さえて大変だったらしい。
私はその時2階の小ホールを担当してたから全部伝聞で良く知らなかった。
2階からパトカーが来てたのは見えたけど交通事故か何かかと思った。
会館の前って国道の大きな交差点でよく事故あるし、向かいに大きなショッピングモールの裏口があって、万引きとかで裏口からパトカーがよく入っていくんだよね。
"痴情のもつれ"とかで片付いたらしい。
式担当は県外の別の会館に飛ばされてその後は知らない。(※全国チェーン)
高校生バイトの私は事情聴取とかも呼ばれなかった。
チーフの配慮で私は関係者にカスリもしなかったから。
特に被害も無かったし、警察沙汰になったのに2階にいてお巡りさん見てなかった。
会館側も隠し通したかったのか、情報通の私のお母さんも知らなかった。(※いつもの交通事故だと思ってる)
ただ、ものすごく後になって聞いた話し
ついでに刺されてたかもねと言わんばかりに私への罵詈雑言がSNSに書いてあったらしい。
すぐに消されたけど"新人が生意気で殺したいくらい苛つく"と。
ナオ「生きてる人間の方がよほど怖いってよく言うでしょ?」
「そこまで嫌われるような事してないと思うんだけどなぁ」凹むわ〜
ナオ「たまたま、捌け口なんて誰でも良かったんだよ。マイちゃんが悪いんじゃないからさ。
元気出して?ポテト頼む?」
「うん…」そろそろ太りそうだ。
身近に危ない人が働いてた事に後になってから怖くなった
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