第6話 電車

大学の帰りにナオと駅で待ち合わせする

家から大学までの間にある大きな駅で、デッキから巨大ショッピングモールに直結しててお茶するのに丁度いい


ブーブー…

「はいはい、どうしたの」

ナオから電話がかかってきたから出た


『マイちゃん…今どこ?』


「えっと、まだ改札の中、時計の下。〇〇シュークリームの店の前だよ?」


『ちょっと気持ち悪くて動けない…』


「え?!どこにいるの?」


『まだ〇〇駅…』※自宅最寄り駅


「すぐ行くからそこで待ってて、それか自分で帰れる?」


『ムリ…』


「すぐ行く!」


走って電車に飛び乗った

ラッシュの時間でもないからすいてたし、ちょうど特急が来てたからすぐに電車に乗れた

10分もしないうちに駅についてナオの下へ駆けつけた


「ナオちゃん!大丈夫?!」


「あれ?マイちゃん早かったね…ふぅ~」


「??元気そうだね…どうしたの?」


「…大丈夫、お腹すきすぎて気持ち悪くなったみたい、缶コーヒー飲んだら動けるようになった」


低血糖とかかな?

変なダイエットしてるとなるやつ…見た感じ平気そうだけど

「本当に大丈夫なの?心配した、帰れそう?」


「せっかくここまで来たのにすぐ帰るなんてもったいないよー」


「いやいや、意味がわからない」大丈夫なの?


駅で待ち合わせするとナオはたまにこうなるのだ。

ものすごい電車酔いするみたいだね

高校生の時はたまに親に学校まで送ってもらってたらしい。電車酔い酷いと大変だな


最寄り駅もそれなりに栄えてるし、駅ビルのス〇バでちょっとお茶して帰ろうと思う


「マイちゃん…来てくれてありがとう」


「あんま無理しなくていいよ?」


「…マイちゃん僕が誘わなきゃマイちゃんから誘ってくれないじゃん?」


「…ナオにタカってるみたいでさ。いつもなんか奢ってもらって悪いじゃん?

たまには何か奢るよ?飲みに行く?駅前なら歩いて帰れるし」

(※2人はまだ18歳お酒は二十歳になってから…)


「行く行く〜マイちゃんから誘ってもらった!キャッ、どこ行く?」


「居酒屋チェーン店か焼鳥チェーン店なら値段も味も外さないでしょ?」ポイントカードあるし!


「…外れるほど飲みに行ってるの?いつの間に!」


バイトが無い日に仲良くなった同じ方向の友達とたまに…大学の最寄り駅も栄えてるから


ナオは今日はついでがあったから親に駅まで送ってもらったらしい

「ナオの家まで歩くとちょっと遠いよね、歩けなくもないけど。バスも酔っちゃうでしょ?私の自転車に乗ってく?風に当たってると酔いにくい?ナオちゃん軽いからパンクしないと思うよ」


「…僕が自転車こいであげるよ?」


「気分悪かったんでしょ?無理しないでよ!大丈夫!」


「じゃぁ、お願いします」

(※自転車の二人乗りは危険なので良い子はやめましょう)


「さぁ!しっかりつかまって!行くよ!おりゃー!」


「わっマイちゃん!ちょっと怖ぃ」


「大丈夫!この前ゆうちゃん(※2個下の弟)乗せたから!ナオちゃん、ゆうより軽いから平気ぃー。もっとしっかりつかむか寄りかかっていいよー!足は閉じてなさい電柱に当たるわよ」


「うひゃぁ」


自転車に乗せて15分ほど走らせてナオを家まで送った




――以下、ナオ視点――


オレは藤原ナオ

寺の息子で次男……バカ長男は知らんむしろ死んで欲しい(※家出中)


マイと再会してから、もう好きが止まらない

こんなに毎日が楽しみでワクワクできるなんて

朝、目覚めてずっと君のこと考えてる

マイのスマホに某アプリをインストールして居場所が分かるようにして…って俺はストーカーじゃないよ?

だってたまに迎えに来て〜ってお願いされたらね?いつでも場所が分かるようにしておきたいじゃん

暇な時はずっと居場所トレースして眺めてる


俺のマイはめっちゃ可愛い

背も高めで、腰も細くて、足も長くて、オッパイも大きい!

天然の二重だし、まつ毛も長いし、そこらのモデルよか全然可愛い

正統派美人


高校生までは、サイズの合ってないブラウスで胸が目立たなくてデブに見えて、パッツン前髪と三つ編みでモサ子だったのに、大学に入る前に垢抜けてしまった…

会うたびに可愛くなってくから俺の為に?女子力上げてるの?嬉しい可愛んだけど!って緊張してたのに違ったみたい。


本人は「大学って化粧くらいしておかないと浮くらしいよ?知っててよかったー!」

とか言って楽しそうにお洒落していく

なんかムカついたから俺好みの服屋の雑誌をそれとなく置いて誘導してる


俺は背も低めだし、細くてヒョロい、自分で言うのも何だけど性格も捻くれてるから友達もあんまいない。高校卒業したから少ない友達とも疎遠になった。


大学生って全然魅力的じゃなかったけど、今は凄く後悔してる

マイと同じってだけで世の中の大学生が羨ましい…クソシネ!

自営業みたいなもんだけど…ほぼフリーターと大学生だもんなぁ

俺のほうが釣り合いとれねーとか、あーもう本当に凹む!


マイの交友関係が電車通学なのはアプリで知ってたけど、本人の口からちょこちょこ聞いて羨ましくなったから駅で待ち合わせした



今更だけど俺は視えるタイプの人間だ。

寺生まれが関係してるとしか思えない

祖父さん、父さん、バカ兄貴、俺と視える家系で

祖母さんと母さんは気配くらいは読めるらしい


電車は嫌い

だっているから


どこで拾って来たのか、駅についてすぐに異変に気付いた。

何かに目を憑けれたらしい。ストーカーみたいに少し後ろをチラッチラッと小汚ねぇババァがついてくる、クソッ!


無視して目を合わせないのが1番

それでも付いてくるなら人の多い所に行くと、他人に擦り付けられる

生きた人間でも見失うことってあるだろ?

幽霊も見失うらしい

ただ俺はちょっと特殊で俺自身が光って見える

オーラが見えるつー偉そうな(※偉い)ばーさんが「この子のオーラは特殊ね…そうあなたはお寺の子のなのね跡継ぎなの?お寺に住んでる限りは大丈夫よ」とか意味深なことをほざいた。


出ていく前に兄貴が言った

「お前ってコンビニとかにある"虫寄せ"殺虫ライトみたいだな。よって来たハエどもを寺に引き寄せて成仏させるアレ。

そんな事して面白いか?」

と、小さな子が虫を殺して遊んでるような言い方をしてきた。


まぁ、そんなわけで

よって来たものは仕方ない、家に帰れば幽霊なら成仏する

電車早く来ないかなぁ


ギクッ

近づいてきた…うわぁ、ドン引き!ハァー!ウザっ


頭がカクカクカクカクと高速に揺れて

手足、胴体、首、全てがねじれて千切れそう


この手の人の形から外れてきてるヤツは嫌だな

こっちの話を聞こうともしないし、よほど真っ直ぐ生きることが出来なかったのか死んでからも後悔が強くて魂が歪んでるのか

見たくもないし考えたくもない消えろ消えろ消えろ!


『ア"ァァウ"イ"ィン"ギィ゙ィ゙ィ゙ア"ァァ』


ゾワッ 悪寒が走る


聞きたくない聞きたくない!お前の声なんて聞きたくない!

電車早く来いよ!遅っせぇーよクソが!


ワイヤレスイヤホンで耳を塞いでるのにジジジとノイズが交じる

鞄を握りしめて顔を埋める、数珠を握って小さくお教を唱える

不審者に間違われても構わない

来るな来るな来るな来るな


『ン゙ィ゙ィ゙ィ゙ィ゙ィ゙』


歯を食いしばるような声がすぐ近くで聞こえる

チラッと足元を見たら捻れた首がグルンと落ちてきてこっちを覗き込んできた


ヒッ と短い悲鳴を上げた。

落ち着け落ち着け落ち着け―…

お教を震える声で呟く、音で電車が来たのがわかったけど動けない

もう靴の中まで汗でグチョグチョ


すると凄い耳鳴りがする、キィーって、次の瞬間 


バクン


バクンって?バクンって何だよ?!

と再び足元を見たら視線の先の線路からあのねじれた手が伸びてた

「ギィ゙ーギィ゙ー」ってまるで排水溝に流されるように…

違った、でかい顔が長い舌でスパゲティを巻いて食べるように、あのネジレが食べられてた


電車が来たみたいだと思ったのはこの顔だった

だって本当の電車が来たから

電車がぶつかる瞬間あのヤバいのと目が合った気がした。

ゾッと鳥肌が立って金縛りのように動けなくなった。

その時ヴーヴーとスマホがなりパッとスマホを鞄から出したことで動けるようになった。


マイちゃんから「着いたよ〜」ってメールだった。

震える声が落ち着いてきて普通に話せるようになったら電話した。


『はいはい、どうしたの?』


ホッとした泣きそうになるのを堪えるのが大変だった。

電話しただけで心に余裕が出て来た

ここは素直に甘えようと迎えにこさせた

力んでたのに体が熱くならず、汗で体が冷えてたからホットコーヒー買ってしゃがんで取り出し口に手を入れた


ギクッ!?


さっきのでかい顔が自動販売機横にいた

長い舌をグルングルン振り回してる

人間の顔じゃないと思った。

目も2つ鼻1つ口1つなのに人間の顔じゃないんだ

向きが全部縦向きで気持ち悪い


気絶しそうだ

でも震えて冷える体とは別に頭が冴えてる

ゆっくり後ずさるけどずっとこっちを見てる


『ニャーニャー』


ゾワッ!

何なの何なの何なの何なの無理無理無理!

あっ、くたびれたサラリーマンがでかい顔にお金を入れてる…あれ自動販売機なの?!おばけしか見えないから分からなかった


お金を入れてもカランと返却口から出てくる

何度がやってようやくお金を飲み込んでボタンを押しても、缶が出てこない。

サラリーマンはイライラして自動販売機をバシバシ叩くんだけど…うわぁ、両方こっち見るなよ!

サラリーマンが、チッと舌打ちして返却レバーをガチャガチャ押すが、お金が帰ってこない

両方の顔がどんどん歪んで行く…


他人がどうなろうと知ったこっちゃない!

俺から関心が移った今のうちに、その場を離れようとしたら


ゾワッっと鳥肌がたった


それはあの顔の化け物も同じで、同じ方を見た。

電車の1つが黒い、まるでそこだけ深淵に飲み込まれてるみたいだ…


マイちゃんだった


「ナオちゃーん!」

マイが俺を見つけて小走りにやってくる

深くて暗い深淵の中にくっきり浮かび上がるマイちゃん

本当にアレはどうなってるの?理由がかわからない!

けど、大きな顔のおばけが逃げるように消えていて、サラリーマンは缶を取り出して歩いていく。

駅にいた無害な浮遊霊や雑魚もいなくなった。


ゲームのラスボスみたいだよマイちゃん?


最強すぎて笑えてくる。

こんなのが葬儀会館でバイトしてて、故人は地獄に落とされない?とか思う。まぁ他人なんて知らんけど


こんな深淵を背負しょって平気なの?

生命エネルギー奪われてない?小走りめちゃめちゃ元気そう


「ナオちゃん大丈夫?思ったより平気そうだね?(ホッ)」


「うん?マイちゃん早かったね…ふぅ~」


こんな安全地帯ある?

俺だけの安全地帯、俺だけのマイちゃん、絶対にもう逃さない!

こんな俺を心配してる君が可愛くて仕方ないんだ、もっと俺に構ってよ、俺だけを見てよ!

ムッ帰れとか言わないでよ


「マイちゃん…来てくれてありがとう」

俺にできる事なんて、餌付けくらいかな?

そんな事でしか君を繋ぎ止められない、だって大学生になった君は大学の友達ができて、毎日が楽しそうで…俺には勿体ない美人で


「ナオちゃん無理してない?あんま無理しなくていいよ?」


「無理なんてしてないよ!」ドキッとする


「動けないほどしんどかったんでしょ?」


「そっちか…マイちゃん僕が誘わなきゃマイちゃんから誘ってくれないじゃん?」

 

俺のこと地元の友達の1人程度にしか思ってないくせに


「…ナオにタカってるみたいでさ。遊ぶといつもなんか奢ってもらって悪いじゃん?

たまには何か奢るよ?飲みに行く?駅前なら歩いて帰れるし」


そんな事で罪悪感もってたの?

気にしなくていいのに!俺が好きでやってるだけだし。でも嬉しい

「行く行く〜マイちゃんから誘ってもらった!キャッ、どこ行く?」



それから自転車に二人乗りすることに。

男としてのプライドがさ?俺のこと友達以下に思ってないよね?

近所の中学生とかそんな扱いじゃないよね?


マイ「大丈夫!この前ゆうちゃん(※弟)乗せたから!ナオちゃん、ゆうより軽いから平気ぃー。もっとしっかりつかむか寄りかかっていいよー!足は閉じてなさい電柱に当たるわよ」


ぐはぁ!

ゆうより軽いとか言うのも無し!クッソー!

オッパイ揉んでやろうか!!


あっ…深淵で気づかなかったけど、マイの背中にピッタリくっついたから分かった


マイちゃんも光ってるんだ


この深淵なんなの?マイが光ってるの隠そうとしてるの?

え、もしかしてこの黒いのまさかの守護霊?

えぇー?マイちゃんこの深淵のせいで人生ちょっと損してるよね?

深淵に気づく人はマイに近寄らないでしょ?

でも母さんが一度、マイの守護霊は軍人っぽいっ青年て言ってたような?その軍人も飲み込まれた?


自転車に揺られて色々考える。

祖父さんも、たまにワケわからんのいるって言ってた。マイが平気そうだから余計に意味がわからんって、普通ならあんなヤバいのに取り憑かれたら死んでるって…


マイは昔からああなのだ。

いや、昔はまだ影も小さかった。

一度、家族に断って正月に本家にマイを連れて行って本格的なお祓いをしてもらった。

マイは白装束を着せられて、良く分からない顔でお祓いの儀式の間に座らされてた。

終わったらお正月の豪華な料理とお菓子が貰えると思って機嫌よくニコニコしてた。母さんや婆さんがそう言って座らせたんだと思う。

当時5歳くらいだったかな?

俺のほうが良く覚えてる、マイはだんだん飽きてきて途中から結界のロープ触ってプラプラして遊んだり、お神酒を零して「ヤベッ」って顔してたり。※手で拭いてた


良くないモノだと思うのに、本家の人間もアレが何なのか分からない。ただ、飽きてきたマイが結果から出てウロウロしだしておしまいになった。

害が特に無かった。暖簾に腕押し。

本家に集まってたジジイどもが誰も何も分からない結果に終わった。

本職なだけに「呪われてる!」とか適当な事を言う奴もいなかった。

帰ってからマイは家族に「お着物で、偉そうな人がいっぱいいて御経してた。お雑煮が透明な汁で美味しかったけど、おかわり出なかったのマイちゃんもっと食べたかった」と雑な説明してた、幼児だもんな。


マイの家族は厄年か何かのよくある年始のお祓いで、俺(と兄貴)に付いていきたいとごねたマイが寺の本家に行ったと思ってる。

晴れ着を着せてもらって懐石料理でも出されたのだろうと。

マイの家族もお正月は実家に帰ってたから、数日本家とうちでマイを預かった。夏休みに自治会のイベントで1日お泊りするのがあったから家族も特に気にしてなかった。

マイの母が菓子折り持って「粗相はありませんでしたか?」とお祓いで連れて行かれたと微塵も思ってないようだった。

俺も小さかったし、祖父さんが当時どう説明したのか分からない。


ただ、マイの黒いのは年々大きくなっていって今では電車1つ飲み込むほどだ。

何もしてこない、ただマイが黒い影に包まれてるだけ。


自転車に揺られて暇だったからマイのジャケットの裾から中に手を入れてみたら暖かかった。うっすら汗かいてるようだった。


「ナオちゃんの手が冷たい!冷えちゃった?」


嫌がらないの?怒らないの?ジャケットの中に手を入れたのに?

僕のこと本当に弟みたいに思ってるんだな…クッソー

いつかそのデカ乳揉みしだいてやる!!


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る