第23話 浅野家の秘密 (長文)

大学のゼミの同級生の浅野さん

北陸から来ている人で、大人しくて真面目で上品な感じの人でした

たまたま隣の席になった時に挨拶して、それから話すようになって仲良くなりました

浅野さんは見える人でした


一人暮らししてる綺麗な学生用マンションに遊びに行った時、部屋は整理整頓されていて

大きなテレビがあったからお金持ち?と思って聞いたら


「家具家電付きの部屋なの」


浅野さんは、冷蔵庫は無駄に大きいから電気代が気になるわ、と笑っていました。

見た目と違って庶民的で親しみを覚えました


ただ気なるのは、部屋の隅に御札が貼ってあった事です

私は、曰く付きの部屋だから安く借りれるんだ…うわぁ

と思って見なかったことにしました。



浅野さんは占いも得意で、よくわからないものを使って学食(カフェ)で占ってくれました。

彼氏はいつ頃できるとか結婚は何歳頃とか一回目の就職先は苦労して入った割にお給料上がらないしボーナスも少ないとか


その時に、同じゼミの人が通り、そこから盛り上がって何人か占ってもらってました。


私の時と違って、浅野さんはちょっと言い淀んだ後で一人の子に


「最初はペットボトル、雑誌、スマホとかだったけど今は拳に変わったでしょ?切ったほうがいいわ。

……探してる人は〇〇駅の向かい側ビルのコーヒーショップで働いてるわ」


私は何のことか分からなかったのですが

後日、その場にいた人から聞いた話です


浅野さんが言ったあれは、あの子が

彼氏のDVにあっていた話しでした

最初は空のペットボトルで小突かれる程度だったのですが

「何で理解できねんだよブス!」と暴言つきで雑誌で殴られるようになり、スマホを投げつけられ痣になったり

最近はグーで腕や背中やお腹など見えないところを殴られていたそうです


彼女はその事を必死で隠していて、DV被害者にありがちですが

「トロい私が悪いの、だって彼は普段は優しいから」と言っていたそうです


でもあの占いの"探してる人"のくだりで目が覚めたそうです。

薄々あやしいと思っていて、それとなく探っていた彼氏の浮気相手の職場を言い当てられ


その日のうちに、友達数人と突撃して浮気相手の仕事中の職場で修羅場を展開。

浮気相手は仕事を辞めて逃げたらしいです

そして友達の友達の友達と言うゴツいヤンキーを数人集めて、ファミレスに彼氏を呼び出し

受けたモノを倍返ししてスッキリお別れしたそうです。


そんな話が面白おかしくゼミで広がって

去年の夏休み、私を含めて4人で浅野さんの実家に遊びに行くことになりました。

昔のサスペンスとかで、追い詰められた犯人が飛び降りる崖で有名な某観光地の近くにあり

温泉も近くにあるようなので決まりました。

電車代よりレンタカーの方が安かったので、皆で割り勘して、運転も順番で行くことになりました。


ご実家は祖父母と同居しているようで、浅野さんの両親と祖父母が私達を出迎えてくれました。

そこはいわゆる旧家でとても大きなお家でした

都会っ子の私達はその大きなお家の旅館のような広い玄関に圧倒されたくらいです


そして黒光する金ピカゴテゴテのとても立派な仏壇が印象的でした。仏壇なんてテレビで見るくらいでしたから、表現が残念ですみません

とにかく立派なお仏壇でした。


その仏間を通った奥の部屋が私達の部屋でした。

日当たりが一番良くて、眺めも良かったです

田んぼと山ばっかりでしたが


ちょうどその日の夜に、その山の上の神社でお祭りがあり、私達は早めの夕食を済ませて皆で行くことにしました。


浅野さんの祖母が浴衣を用意して下さっていました。

せっかくなので私と浅野さんはお揃いの浴衣を着て、エリとアサミはそのまま行くことになりました。



エリ「下駄で山登りはキツイと思ったの…大丈夫?」


下駄に慣れてない私は上に続く階段をゆっくり上がることにして、浅野さんは私に付き合ってくれました

エリとアサミは先に進んで行きました。スニーカーなら10分もかからない低い山です


神社に着くと屋台が左右に出ていて焼鳥やフランクフルトの匂いが漂う普通のお祭りに、地元の夏野菜が格安で売られていました。


そして、浅野さんの話に出てくる祠や御神木がありました。


浅野「今期はウチが役員なの。

任期が4年で20年に1回まわってくるの、今年で四年目よ

この神社でお祀りしてる神様がこの山を守ってくれてるんだよ」


「立派な御神木ね」

柏手を打って拝んでおきました

参拝のルールを知らない素人です

ちょっと前に流行ってた漫画の世界みたいとエリとアサミがはしゃいでたのを覚えてます


その後下山したのですが、行きには気付かなかった細い階段が途中にありました

古い地図が張り付いた看板が境内にあったので、別の社でもあるのかと思って聞いてみました


浅野「あの先に行ったことはないけど、絶対行ってはいけないの」


駄目だと言われると行きたくなるのが人間心理です

特にエリとアサミは浅野さんのオカルト話を好奇心旺盛に聞いていました

スピリチュアルな店でパワーストーンとか数珠とかを買ってる2人でしたから。


浅野「人の手が入ってないから、ヘビとかスズメバチいるかも、駄目よ絶対に入らないでね!」


半ば脅しのように強めに言っていました


家に戻るとエリとアサミは山から見えた近くの温泉に行くことにしたようです。

お祭りのあとで行く予定でしたが、私と浅野さんは足が疲れたので家のお風呂に入ることにしました


2時間後、2人が帰ってきました。

私達はコンビニで買っておいた、お酒とポテトチップスを広げて待っていました。

2人も缶チューハイを飲みながら話します


エリ「別に面白くもなんともなかったわ」


私「え?これだけ長湯しといて」


浅野「普通の温泉だったでしょ」


アサミ「あぁ違うわよ、温泉は普通に良かったわ。特に露天が広くて、明日は皆で行こうね」


2人の話を聞いてると

温泉に行く前に先程の神社の途中にある

行ってはいけない細い階段を上がって行ったと話し出しました

まだお祭りの明かりが見えて、人もいたので平気だと思ったようです


神社とは別の山に繋がってるのか階段を登ると、夜店の明かりが下の方に見えたそうです

途中で鎖で通れなくしてあったようですが、片方の柱が倒れて鎖が地面についていて通れたと

その先には、大きな廃屋が一軒あり、スマホの明かりで周りをグルっとして、中をちょっと覗いたりしてから温泉に向かったようです


その話を聞いてる間に、浅野さんの顔からどんどん血の気が引いていき

土気色にまでなり、汗が尋常じゃないくらい出ていました


その様子に私達は逆にドン引きして、浅野さんの様子に恐怖を覚えたくらいです


どうしたのとエリが声を掛けるのと同時に

浅野さんは弾かれたように走って何処かに行ってしまい、すぐに祖父母を連れて来ました。

その時の祖父母の顔も夕食の時の和やかな顔とは全く別人です。別の人を連れてきたのかと思ったくらいです


凄い形相の祖父母が2人に詰め寄り

「何てことをしたんだ!」と方言のなまり言葉で言っていました

色々言われたと思いますが、方言がキツすぎてほぼ理解不能でした…


その怒声を聞いて浅野さんの両親が駆けつけて、ようやく「〇〇家に行ったんか?」

と祖父母の言ってる言葉の意味がわかりました


「〇〇家」がその廃屋の事で、エリとアサミは「すみません、すみません」と泣きながら謝り続けていました


「助からないかもしれない」

お父さんの真っ青になってつぶやいた一言がとても重くて、私も足が震え立ってるのが辛かったです


アサミが泣いて叫びました

「私達どうなるんですか?もうお家に帰りたい!」


チューハイを飲んでしまったので運転して帰れません

それに駅まで遠い上に、田舎でバスも電車も終わってます


私達は、まとめて隣の仏間に座らされました

私は仏壇だと思っていたのですが、それは神棚でした。


後でネットで調べたら仏壇と神棚は全く別の物ですね。

神棚って部屋の天井近くにある小さな家の事だと思っていたので、こんなに大きな神棚があるとは思いませんでした


近所の人なのか、いつの間にか部屋の中にたくさんの人が来ていて

私達を囲んで何か話していました

お年寄りの方言は聞き取りにくくて


「〇〇家」とか

「2人が入った」とか

「今の贄は浅野さんとこ」など


断片的に分かるくらいです

そこに浅野さんが来ました、いなくなってる事にも気付きませんでしたが、異様な格好でした

丑の刻参りのような格好と言えばわかるでしょうか?

白装束に、手には藁人形ではなく紙束を持っていました


こんな時に不謹慎ですが

私は関係無いよね?と思っていたので、震え上がって泣いてる2人を横目に、妙に冷静に見ていました


浅野さんは神棚の前に2人を座らせて、私は一歩下がった所に座りました。

浅野さんが紙束を左右に振り、ブツブツ言ってよく分からない祈祷みたいなのを始めました。

途中で、お爺さんが酒を口に含んでプーッてしたり、お婆さんがお米を撒いていました。

パラパラパラーっと生米の匂いがしてたのですが、それにまじって別の糞尿みたいな匂いがしてきました……私は吐きそうになりました


すると、神棚の前に座っていた2人がえずいて吐いたのが見えました


何が異様かというと、2人が吐いたのに周りの人も浅野さんも誰も反応しなかったのです

私はタオルかティッシュボックスを探してキョロキョロすると


バチーン!!


ほっぺたに衝撃がきました

何が起きたか理解するのに数秒固まり


いつの間にか眼の前に立っていた浅野さんに紙束で叩かれたのだと気が付きました

驚きすぎて声も出ませんでしたが、私が叩かれてから

前に座る2人もバシバシ叩かれていて

何がなんだかわかりませんでした


痛さよりショックの方が大きくて動けませんでした

全くの不意打ちでしたし、まさか自分が殴られるなんて思ってませんでしたから

私は家で浅野さんとポテトチップス食べてただけだったので、お祓い対象だと思ってなかったからです


儀式?の終盤に差し掛かったのか、浅野さんの声が大きくなってきて

神棚のロウソクの火を紙束につけて2人の真上にばら撒きました


そこでようやく2人が動いて叫び

私は隣の部屋に置きっぱなしだったチュウハイやジュースをかけて消火活動をしました

周りの人は畳が焦げてもお構い無しに、一心不乱に何かを呟いていました


それで儀式が終わったのか

浅野さんはすっかり元の浅野さんに戻っていました


今晩は私達がいた奥の部屋の更に奥

私は押し入れだと思っていたふすの奥の部屋が昔の座敷牢のような所でした


アサミは納戸だと思っていたようです

そこに3人で寝てもらうと布団と荷物を移されました

豆電球しかなくて暗くてジメッとした所でしたが

大昔に結界?を張った場所で霊的に安全なのだとか

簡易でしたが鍵をかけられてしまいました。


私を叩いたことや、2人を焼こうとした事への説明も謝罪もありませんでした

その日は疲れていたのに全然寝れなくて、私達は布団の上で3人で固まっていました。


明るくなってきて、サッシで窓が隠れてるだけだと気付き

外に出れそうだったので、靴は諦めて

鍵はエリが鞄に入れてたので荷物を持って車まで行き、コンビニでサンダルを買って高速に乗って帰りました。

申し訳ないのですが、ご挨拶もせず浅野さんも置いて帰りました。まぁ実家ですし


私達は昨晩寝てなくて疲れていましたが、高速のサービスエリアについてようやくホッとしました。

そして、あの異様な光景を尋常ではないと思い始めました。

お祓いとは言え友達を焼こうとするものでしょうか?


ほっぺが少し赤くなっていたアサミを見て

私が消火しなければ、もっと火傷していたかもしれないと怖くなりました


比較的に元気だった私が皆を家まで送り、レンタカーを返して帰りました。

浅野さんから連絡はありません


あれから、よく金縛りにあうようになりました。

それも、金縛りにあってる時に白装束の女が髪を振り乱して私に五寸釘を打ち付けるのです

コンコンと音がするたびにお腹がキリキリと痛くて、怖くても視線をそらせません


髪が邪魔で顔がよく見えませんでした…

でもあの焦げ臭い匂いと糞尿のような匂いがして、たぶん気絶したと思います


汗びしょで起きてお腹を見ましたが何もなっていませんでした

アサミとエリも似たような夢を見て、更に車にひかれかけて2人はお祓いに行くと言っていました


思い出すと嫌な気分になるので、何となく2人と連絡をとらなくなり

夏休みが終わり、大学に行きました

浅野さんとはあれから一度も連絡を取っていません

ですが、講義室で見かけて普通に話しかけてきました。

何もなかったように「おはよー、なんか久しぶりだね」


私は逆に不気味に感じましたが「おはよう」と返しました


講義が終わると話したいことがあるの

と呼び止められ

夏休みの件かな?と思って講義室から人がいなくなるのを待ちました


そして彼女は御札をおもむろにカバンから出して


「あれから変な夢を見ない?コレを貼っておけば大丈夫だから」


これは、あの時の…火をつけた紙束の一枚?

あっ!浅野さんのマンションに貼ってあった御札だ!

今思い出すなんて…


浅野さんは2人にも渡そうとして、夏休み中に連絡をしたのですが

無視されたらしく、今朝早く待ち伏せして突撃したら


「他でお祓いしてもらったからいらない、もう話しかけないで」


と断られたそうです

徹底した塩対応です、そこまで言える2人が羨ましい


と言うか2人には夏休み中に連絡をしたの?


仲良いと思ってただけにショックでした。

黙って家を抜け出して帰った手前、何も言えませんが


浅野さんが、私から2人に渡して欲しいと

御札を置いて次の講義に行ってしまいました


あの2人に夏休み以来、久しぶりに連絡すると

「あの人ヤバいから!別のとこでお祓いしてもらった方がいいよ。ってかまだお祓い行ってないの?大丈夫なの?」


と逆に心配してもらいました

そんな訳で、渡せなかったと浅野さんに御札を返しました。捨てるのも気持ち悪いので


浅野さんは「わかった」とボソッと呟いて去りました


一応、私の部屋には御札を貼っておきました。

それ以降は金縛りも変な白装束の女も見ないので効果があったのだと安心していましたが


ですが恐ろしい事にまず、妹が交通事故にあい骨折して一週間ほど入院しました

そして、両親が乗ったバスが事故にあい、両親だけが怪我をしました

それから祖父母が住んでる地域がよくゲリラ豪雨にあい、そのたび祖父母の家が床下浸水して

元々古い家だったので床下が腐って、建て替えか引越すと言う話になりました


その他にも、妹の彼氏が浮気相手から性病をもらっていて、妹からお風呂経由で家族に感染し、同じお風呂に入っていたのに私だけが助かりました


その後も家族が順番にインフルエンザに感染して、私だけが助かったり

通販で買ったカニで食中毒になり

私も食べていたのに私だけが助かりました


妹「逆にお姉が祟られてて家族が巻き込まれてるんじゃない?

大事なものを奪うってよく聞くじゃん」


ゾッとしました、ありえます

それからも死ぬほどではないですが、不幸がちょこちょこ続いてます


あれから浅野さんとは私は普通に接してるつもりです、あの2人は私ごと避けてますが

浅野さんはあれ以来、御札のことは触れません。


それなのに突然「冬休み入ったらもう一度実家に行くから」と言われました


行くからって…?

私に来いと言ってるのだと気付くのに数日かかりました


あんなことがあったので内心怖かったんですが、家族に不幸が起こってることも気になったので一緒に行きました。


日本海側は雪が積もってたので今回は電車で行きました


往復で万単位の旅費です

怖いから観光地のホテルに予約を入れました

スキー場が近くにあったのでシーズンで混んでましたが、1人だけですし極狭の一部屋が空いてました。


久しぶりに会う浅野さんの祖父母も最初の優しいお爺さんに戻っていました


ただ、浅野さんが私に渡してきた御札を祖父母に見せて「渡せなかったの」と残念そうに言うと


爺「ほうけぇ、おっとろしゃ」と残念そうな顔をしました


話は終わりと出ていこうとしたので

家族に起こってる不幸の原因を知りたくて、意を決して聞きました



「アレは何だったんです?私達に何が起きてるのですか?」


浅野母「……あなたは知る権利があるわね」


お年寄りのなまりは聞いてもわからないので、祖父母に聞く前に比較的に話が通じそうなこちらのお母様に聞くことにしました


浅野さんのお母さんは他所から嫁いできたので、そこまで詳しくないけど

しがらみもないのか簡単に教えてくれました


お母さんの話を要約すると

大昔はこの村全体で山の神様を信仰していたけど、今は5つの家で持ち回りで、あの神社と山を管理している


元々の山の所有者は〇〇家と言う地主だったようです。あの廃屋のお家です


ある日突然、原因は不明ですがその家から「狐憑き」が出ました


今で言う心神喪失状態で、鍬を振り回して暴れ、縛って閉じ込めてもいつの間にか出てきて家族に襲い掛かり

お祓いなどをしても効果が無く、逆に神主が殺されて1年たたず一家が全滅しました

最後はその人も自殺して〇〇家は没落


村の中でその〇〇家から嫁をもらったことのある5家のどの家が山と遺産を相続するかで揉めて、中々話し合いが決まらず


令和になった今でも権利を宙ぶらりんにして、交代で土地の税金を払い、役員として管理をしています

田舎なので山の税金はとても安いらしいですが、税金を払い続けてきた為に権利を放棄するのが勿体無い年寄連中は今でもしがみついてます


お母さんは面倒な役員と無駄な税金から開放されたいと言っていますが、娘の浅野さん本人は役員を継ぎたいようでした


肝心の〇〇家ですが、不幸な事件を警察に言わず、屋敷の裏手にただ埋められて、お墓もありません

村の禁忌として扱い、近づかない事が暗黙の了解になりました


ずっと放置していましたが、戦時中に疎開して来た街の人が数組ほど神社に居座り

その1人が禁忌を知らずに〇〇家を見つけてしまいました

エリ達でも簡単に見つけることが出来たのです

その人は神社に居座る他の家族を誘って、屋敷の中を物色しました

食うに困っての犯行ですが

翌日、屋敷に入った数人が心神喪失状態になり、我が子を手に掛け暴れまわりました、が、


母「私が聞いた話では狂った人が皆殺しにしたって事だけど、近所の噂では別の話も伝わってたわ――」


噂では、事態を重く見た5家の、その年の役員が先導して、神社に居座る他の家族ごと村八分にして……サクッと。

〇〇家の裏に全員埋められたそうです

戦時中でしたのでそれも無かったことにされました


それから、〇〇家に入った人間は狂うと言われ続け

役員交代の4年毎にその話もしっかりと引き継ぎが行われるそうです

しっかりした資料があり

何人埋まってるとか、そのお名前も、どこの場所かも残ってるそうです


ここまで聞いて、今更ですがとても怖くなりました

屋敷に入ったら狂うと言われてるにも関わらず、そのエリとアサミと同じ部屋に私を閉じ込めたの?


このお母さんですら、私に少しも悪いと思ってないのです

いや、多少はやり過ぎ感あるから話してくれたんだと思いますが…

お母さんは〇〇家の逸話は話半分に思って信じていないようでした


半年近くたったのにエリもアサミも狂ってません。むしろ浅野さんの言動の方が不気味です

何のために私をここに呼んだのでしょう?


エリとアサミが一部録画していました

それをSNSに載せたせいで、浅野さんに話しかける人はいなくなりました。

たまにオカルト好きな他の学部の人が話しかけに行くみたいですが

浅野さんのほうが相手にしませんでした



お母さんが夕飯食べるでしょ?と当然のように私に準備を手伝うように言ってきたので


ホテルを予約してると、お母さんにだけ挨拶してバス停まで走りました。

40分待って最終バスに乗ることが出来ました

夕食を食べていたら終バスに乗れませんでしたね

終バスが5時前とか早すぎませんか?


その夜、私はうっかり御札を家に置いてきた事を思い出しました…


ここはホテルの4階なのですが先程から窓の外に白装束の女が立っています

恨めしそうに睨んで、今にもホテルの部屋に入ってきそうで怖くてしかたありません

思いたくないのですが浅野さんに似てます


泣きながらエリとアサミに連絡しました

グループラインで通話中にして今まであったことと、今起こってる事を全て話しました


エリ「何でホイホイついて行ってるの?バカじゃない?ってかお祓いまだ行ってなかったの?信じられない!」


アサミ「ちょっと、それよりお化けが外に居るんでしょ?窓を叩いてるの?」


「こっちを睨んでるだけ…」


エリ「カーテンしめなさいよ!」


アサミ「ホテルの人に言って部屋を変えてもらえないの?」


「スキー場の近くで部屋が満室だった…怖くて窓に近付けない」


エリ「キャンセル出てるかもしれないでしょ?部屋が臭いとか言って変えてもらいなさいよ」


「御札を持ってきてないから部屋を変わったところで同じよ」


アサミ「御札ってあの?

お祓いしてもらったお寺の人から聞いたけど、その御札が呪いの目印になってるから貰わなくて正解だって

その日の服とか持ち物全部処分したほうがいいって」


エリ「私も別の神社に行ったけど、服とか荷物の処分は言われたわ…

縁を切ったから、その山に二度と近付くなって

私も腕に火傷の痕があったんだけど、お祓いしたら消えたわよ?

目印だって言われてゾッとしたわ

それに、浅野さんのお母さんの話とちょっと違う話を神社で聞いたし

私が聞いたのはマレビトの話しだったわ」


アサミ「私が聞いたのもマレビト殺しの話よ…浅野さんと仲良くしてるからあなたに言わなかったけど

〇〇家の人達が旅人を殺して財を奪っていて5家はグルだった

殺された人達の怨念が抑えきれなくなって〇〇家が没落して、怨念の分散のために4年おきに管理してるんじゃないかって

私達もマレビトだから、帰りたいと思う死霊達の念を受けて散らす役目をさせられたって。

だっておかしいと思わない?

あの上に道があるって教えてくれたの境内にいた人よ?」


それから2人は一晩中チャットに付き合ってくれました

窓の外にいた人はいつの間にかいなくなっていました

私はアサミの行ったお寺を紹介してもらい、冬休み中にお祓いをしてもらうことにしました


数日後―…

本堂で住職に御経をあげてもらい説教されました。

私の厄が家族にむかってる

今回は家族に災いが来る前にお祓いに来たから間に合った、次は誰か死んでたかもしれない


と言われてゾッとしました

本来はアサミ達がかぶるはずだったモノも、お祓いして縁を切ったから近くにいた私のところに来たと


それと火をつけた御札を頭に投げたりなんて、素人目線の危ない方法だから絶対にマネしないように

「火事になるやろアホか!」と叱られました


仰るとおりです、あの時の私もそう思いました。

家にある御札は護符じゃなく呪符で間違いないだろう

何で持ってこなかったの?と怒られました(※後日また持ってった)


不思議な気分です、お祓いしてから家族の不幸がなくなりました。

お金取られるし、お祓いとかちょっと気が引けて、なかなか行けませんでしたがもっと早く行けば良かったと思いました。


それから、ゼミの先生に言って残りの講義はリモートに切り替えて講義室に出ないようにしました。

エリとアサミがやってる方法です


講義が終わり、4回生になる時にゼミも変えました…勿体ないと先生に言われましたが

正直に浅野さんに嫌がらせされてるので変えますと言うと渋い顔をしたけど、アサミのSNSにあった動画を見せると理解してもらえました。


そして浅野さんも同様の事を言ってゼミを変えてるから、残っても良いと教えてもらったのです

エリとアサミに教えて私達3人は残ることにしました

春休みが終って大学へ行ってビックリです

私の候補先のゼミに浅野さんが移っていたのです


門のところで待ち伏せされて話しかけられました


浅野「ゼミ変えるって聞いたのに、なんで?」


誰に聞いたの?怖いんですけど!

「先生に勿体ないからって、考えなおしたの…」


浅野「春休みに実家に帰るって連絡したのに!」


「そんなメール来てないけど?」※本当


浅野「嘘つき!送ったわ!あっ御札を捨てたわね?」


「捨ててないよ預けただけ」お寺に…


浅野さんは泣きそうな顔で睨んで去って行きました

それをエリが見てたらしくメールをくれました


「気持ち悪いし、もう関わりたくなくて出ていかなかったけど、あなたは粘着されてるみたい。

他の人に聞いて回ったりしてるっぽいよ

あの変な占いで当てたかもしれないけど

もっとはっきり断らないから付きまとわれるんだよ…気をつけてね」



それから家に手紙が来て、中に御札と黒くて長い髪の毛が一本入ってました


ゾッとしました


そのままお寺に持って行きました

アポを取って無かったので仕方ないのですが住職がお留守でした


法衣を着た中年の坊主の方が

「これは…私の手に負えません

来週の火曜の午後なら住職は空いてます、そんなに待てないなら今日の夜には帰ってきます」


待ちました。

アポ無しで押しかけて申し訳ないのですが、応接間で待たせてもらいました

テーブルに件の封筒を出したままにしてましたが、先程からカサカサと封筒が揺れてます

風も無いのに…


その時、お婆さんが入ってきました

若いお客の私に合わせて、紅茶とフロランタンを出してくださいました

住職が帰るまでまだ時間があるので、その間のお話相手を連れてきて下さいました


先程とは別の若い僧です


「どうもこんにちわー。僕、安達カズキいいます…あ、この封筒!

ちょっと箱にでも入れときましょうか?うっオェッ」


お婆さんが桐の箱を持ってきて、件の封筒を入れると蓋をして上に写真立てを置きました

私からは写真が見えませんが置き石のかわりでしょうか?


それから安達さんが親身になって話しを聞いて下さいました


安達「うーん、その吐いたほどの糞尿の匂いってジジババ達のオムツちゃいます?

ビビって漏らしたかもしれませんね」


「生暖かい空気でしたし、そうかも?」


安達「その最初に山登った時に浴衣を着て歩いてたから霊的に村の人間に紛れ込めたけど

帰るときは服着て帰ったから印がついたかも…

サービスエリア寄りまくって帰ったんは正解ですよ、だいぶ落として帰ったはずです」


「え、私達はサービスエリアに怨霊ばら撒いたんですか?」


安達「サービスエリアは旅の途中に寄るとこやから、散ったと思いますよ

彼らは怨霊になりたくてなったんやないです、殺されて山に閉じ込められて淀んで澱が溜まって行ったんでしょう

散ったから故郷に帰れた人もいたはずです」


「なんだか気の毒ですね」


安達「……気の毒ですけど、その分たくさん殺してますから。中途半端に同情してはいけません

冷たいようですが、最後まで助ける気が無いなら同情してはいけません」


「ハイ、その通りですね…

私は中途半端です、浅野さんが一人になってると思ったら、今も気になってしまうんです。

エリやアサミはバッサリ切りましたけど

私は面と向かってはっきり言えないです」


安達「その浅野さんの写真は無いですか?」


私は山のお祭りに行った時の写真を見せました


安達「おぉーなるほど、彼女は△△△ですね」


「は?なんです?」よく聞き取れませんでした


安達「あ、えっと生まれつき見える人の別称です

ただ、お寺とか行ってない素人さんなので可哀想ですが贄になるでしょう」


「贄?」

神棚の前にいた時に聞いた言葉です


安達「惹きつけるタイプの人間は祓えなければどうなるかわかりますよね?

周りの厄を集める掃除機です。ゴミの捨て方を知らなければ、いつかいっぱいになって壊れますよね」


「そんな…どうすれば浅野さんは助かるのですか?」


安達「お祓いに連れて来てもらったら良いのでは?

私の番号を教えておきます、今度連れてきて下さい

友達割引しますので友達になりませんか?僕も大学生ですから……あっ!」


「え?は?友達?」

安達さんが急に立って、いきなり桐の箱を開けました


え?!

中に入ってた封筒がボロボロに崩れています

何が起きたのでしょう?


安達「……ちゃん来たから消し飛んだやんか」ボソッ


「え?何ですか?ボロボロですけど?」


安達「えっと…お寺に置いとくことで浄化作用がありましてぇ…うん、そう!見ての通り邪気が消滅しました」


「お寺のパワー凄いですね」

信じられない事ですが、現に手紙がボロボロになっていました。封筒に御札のあったような焦げたあとがありました

素人にはできないお寺の力です


安達「出来れば友達は定期的にお寺に連れてきて下さい

お寺でゆっくりするだけでも違います

お祓いはお金かかりますけど僕に会いに来るのはタダですから!いつでも連絡待ってます」



それから夕飯前に住職が帰ってきて

ボロボロになった手紙を見て、必要なら御経をあげるけど、もう憑いてないと言われました



それから、迷ったけど思い切って浅野さんに連絡しました。

翌日、大学のカフェで話しました

お寺に行ったら御札が燃えカスになったことも、本職の方に写真を見せたら

見える人だと一目で見抜かれて、惹きつけるタイプだから定期的にお祓いに行ったほうが良いと言われたことも


浅野さんはしばらく黙って聞いていましたが

泣き出してしまいました

あわわ、私が虐めて泣かせたみたいじゃない!


浅野「本当にお寺に持って行っただけで御札が燃えたの?

邪気なんて込めてないし…あれは私が書いたものなのに!

それに髪の毛はわざと入れたんじゃなくて偶然入っちゃったの…でも、確かに封筒から髪の毛は気持ち悪いね、お祓いされて当然ね」


浅野さんの腕を見たら御札の模様に火傷のような痣がありました


浅野さんの書いた御札は実家で言われたとおりの方法で書いたもので、マンションの部屋や鞄にいつも入れておくように言われたらしいです


もしかしたら彼女は無自覚でやっていたのでは?


「お寺で相談しよう?」


浅野「うん…だけど」


御札を浄化する力が強すぎて、自分に返ってくる反動で火傷したのだから

そのお寺に行くと今まで書いた分の反動で人体発火現象で燃えてしまいそうだと泣いていました


エリの行った神社に相談に行くことにしました


神主さんは親身になって聞いてくださる、柔和な癒し系の優しそうなお爺さんでした。

その時に△△△の意味を教えてもらいました


贄と言う呼び方もあるのだと

霊的に避雷針の役目をする人の事だそうです

掃除機の例えよりわかりやすいです


本来は、その人がいるだけで跳ね除けたり、封じ込めたりする人達の事で

その強さのレベルが何段階かあり、ざっくりと私達にもわかりやすく説明してくださいました


自覚して代々神社や仏閣にいる上級者と

無自覚で避けになる下級者がいて

恐らく浅野さんのお母様が後者のそれにあたるのではないかと


陰気がたまるスポットにその家系から嫁をもらってきて置いとくことがあるようです

お母様が嫁いできてから実害はないので、浅野さんもそうかもと言っていました


ここからが神主さんの見解で、お寺の安達さんと少し違っていました

〇〇家の管理していた神社の神主の入れ知恵で中途半端に祈祷が伝わり、呪符も贄の事もその時に一緒に伝わっていて定期的に贄の家系から嫁をもらっていたのではないかと


浅野さんも生まれつき見える人でしたが、避けとしては不安定で

お母様といることで無事に過ごせていたと

それから、大学で一人暮らしするようになって

惹きつけるタイプの浅野さんを心配した祖父が、本来は呪いになるはずの御札を持たせたり部屋に置くことで、雑魚避けのつもりだったのでは?と言うことでした。


ただ、それを呪符と知らずに友達に渡してしまったのは良くなかったと


私の場合順序が逆に現れました

白装束は浅野さんの生霊で私を心配しすぎて強めに出てしまった、それを呪いと勘違いして

そして御札を置いたせいで家族が呪われたらしいです


その生霊に五寸釘で刺されましたよ??


今は綺麗サッパリ祓われてると言われました

私を祓ったときの余波で家族も祓われてると神主さんも感心してました

おそらくその余波で浅野さんに呪詛返しのような事がおきて腕に痣が出来たのだろうと

お寺の住職は凄い方のようです、かなり怖かったけど。


浅野さんはごめんと謝ってくれました


「御札で叩いたこともゴメンしなさい!」


浅野「御札で叩いてごめんね」


「ふん!許してあげるわ!痛かったのよ!

…こっちも置いてってごめんね?」


浅野「うん…寂しかった」


それから神主さんのすすめで神社の水で手を洗ったら浅野さんの腕の痣が薄くなりました


神主さんが浅野さんは厄除けとしては不安定ですが、本来は居心地良い波動が出るはずなのに

山の土地神みたいなのが、管理者の長年の悪行や間違った素人管理のせいで淀んでいて、その影響を受けてるのだとか。

浅野さんのお母さんがいることで祟神まで落ちてはいないそうです


でもそのお母さん開放されたがってましたよ?


大学卒業後も実家に帰らずこちらで暮らすなら、こちらの神様と縁を繋いでおいたほうが良いと言われ

浅野さんは神主さんに売店のアルバイトを持ちかけられました

巫女さんのバイト、黒髪の彼女は似合いそうです



あれから数日たって私は以前のように浅野さんと仲良くしています

エリとアサミにも事の顛末を話しましたが、それでも彼女達はもうそういうのに関わりたくないと言っていました。スピリチュアルに懲りたようです

(※エリは単に飽きてアサミは住職の説教が効いた)


浅野「いい加減、下の名前で呼んでよミウちゃん」


「リツコって仕事できる女っぽくて格好良すぎ」


リっちゃんって呼んでよって

笑った顔は何だか以前より明るくなって晴れてました

神主さんが言う心地よい波動ってこれかぁ

巫女のバイト良かったんだね

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