第19話 寺の跡継ぐのが嫌でリーマンになった話し

俺は地方の寺の息子です

でも今は東京でリーマンやってる、家は弟が継いだと思う多分。


家を出てから帰ってない、連絡もしてない

あ、一度だけ

まだ話が分かる祖母と一応父親に、生きてるから失踪届け出さないで欲しい事と知り合いの伝手で関東で既に職に付いたから寺は継がないと連絡した


住職の祖父は頑固クソジジイでめちゃめちゃ厳しくて、よくゲンコツ食らってたし、母親はヒステリックでなんかよく泣いてた。



子どもの頃の話なんだけど、

お盆の時期になると、敷地の隣の墓地に昼夜関わらず

あの世から戻ってきた人かなんか(?)が、うろうろしてた


境内にある大きな木の真ん中あたりに、赤い実を持ったシワシワの爺さんが立っていて

いつも、何かをブツブツ言ってて気持ち悪く

一度だけ近くでそのブツブツの内容を聞いたことがある

今は内容を忘れたけど、当時は腰を抜かして泣いて帰った


高い木の上にはいつも黒っぽい人間っぽいシルエットの何かが乗ってる。乗ってるって言うか、風船みたいに風と一緒に木と揺れる

杉かなんかの木だったと思う


境内の公園でよく子ども達が遊んでいたけど、明らかに昭和チックなレトロ感満載の少年が混ざってたり

真っ白な肌のセーラー服姿のオカッパ頭の女子高生が立ってたり

それはまだ良い方で


ボサボサの髪を振り乱して四つん這いになって這う、気持ち悪い老人に追いかけられ家まで走って逃げたり

公園によくいる小ぶりのカラスかと思ったら、禿げ上がりすきっ歯の人の顔がついた黒い何かが蝉の死骸をつついてたり


木の横を通り過ぎると、ほぼ必ず枝に引っかかる。

枝かと思ったら日焼けしたようなカリカリの細長い干からびた人間の腕だった。

たどると木の皮みたいなシワシワのナニかがいて、それに髪の毛を抜かれると数日は熱で寝込んだ…だから坊主頭にしなきゃいけないんだとあの時は思ってた


地面から手だけ出して追いかけてくるヤツもいた。それに捕まれば最後はボコッと地面から気持ち悪い顔が出て来て腰を抜かして泣いて帰ったこともあった。

アレは怖かったし気持ち悪かったな…潰れたような形の悪い頭から直接二の腕がはえてた、今思い返してもゾワッとする


小学校に入るまで、それが普通だと思ってた。

母親はあんまり見えない性質たちで少し感じるくらいかな。悪いところへ近寄らないってタイプの人。


当時は父親は跡を継いだばかりで、顔繋ぎやら挨拶周りやらで、ようは営業の外回りや出張みたいな感じで寺にいることは少なかったと思う。

よくわからないけど家にあんまいなかった


俺が小学校を卒業する頃かな?弟が生まれて母親は育児を優先するようになった。

まぁよくある話で上の子は放置になるわけだけど、過保護気味だったから別に良かった。

週2回の学習塾が息抜きっておかしな話だけど、友達と会えて塾の前後に遊べるから塾へ行くのが楽しかった。お陰で成績は良かった


高校を卒業するまで

毎日、土日も早朝5時に起きて本堂で祖父のお勤めを正座して聞いて、読経に写経をやらされ、寺の清め(掃除)をしてた。

週末は夜も読経をやらされてた

サボると殴られて、ゲンコツってレベルじゃ無い時もあった


そんなある日の蒸し暑いの夜の事

本堂の扉を開けっ放しにして、(たまに面白がって混ざる)弟と一緒にいつもの読経をしてたら

背後から明らかに異様な気配が漂ってくる


カサカサカサカサカサ―…


まだ子供だったのと弟に不甲斐ない姿は見せたくなくて、良いところを見せたい気持ちが怖さを上回った。


読経をやめて音の方へ行こうとすると

いつの間にか来ていた祖父が一括


「じゃかぁしぃわ!

集まってくるなら次から金とるぞ、払えん奴は子々孫々取り立てるで!」


多少言い回しは違ったかもしれないが、こんな感じの事を怒鳴って

ダン! ダン! ダン!

と足をわざと鳴らしてドスドス歩いて行った。

どこのヤクザやねんクソジジイが!


それまでカサカサしてた気配が消えて

弟は「うえぇー、ジィジ怖ぁい!マーマー」と泣いて帰った


それ以来、本堂の縁側に白い影みたいな、悪い感じはしないけど、煙みたいなのが家の周りをウヨウヨしてるのをよく見るようになった



弟が3歳くらいの時に境内の公園にたまにくる母子がいて

母親は抱っこ紐で下の子(あかちゃん)を抱っこしていたりベビーカーに乗せて来たりしていた。


そして弟と同い年くらいの女の子がいた

ドス黒いモヤをいつも頭のあたりや肩のあたりに憑けていた

モヤは薄くなって女の子を覆ったり

集まってアニメに出てくるススタワリ?みたいな感じで虫のように纏わりついていた


ギョッとして祖母に聞くと最近引越してきたと言う。

自治会の子ども会に属していて、イベントでたまに見かけるようになる。

境内にはたくさん子どもがいたけど、弟はあの子とよく遊んでいた。

あの子が来ると空気が一瞬変わって胃のあたりがゾワッとした


いつもいる杉の木の黒いのや、たまに見かける人では無いものが遠巻きにしてるのがわかってから

あの子のアレは良くないものだと分かった。

ただ本人は至って普通の子で、怪我もなく泣いて帰ったり何かに怯える様子はなかった見えない普通の子だった



祖父と父親は昔から見える方だ。


でも僧侶という手前、お化けとか幽霊とかいう表現を使わず、アレとか直接言わずにとか言葉を濁していた


祖父の若い頃、電波の届かないような山奥の寺で修行してた時に(当時は携帯も無さそうだけど)

古くからいる凶悪な貞子みたいなのを見たことがあるみたいで

守護霊ってか、ご先祖様を大事にしろと説教していた。


そのエピソードを肝試し風に何度も語り

子供の頃はよく「悪い子はそのお寺に預けるで!」と脅されて、なんか怖かった。

まあ、悪いことするとすぐゲンコツ落とされたけどね。


弟も見えるほうで、これが質が悪い


雑魚を引き寄せるように呼んでは寺の結界で焼くと言う所業をしていた。

俺にはわざと隙を作って引き寄せてるようにしか見えなかった。

わざわざいそうなところへ向かって行くから

どっちかというと、お化けに好かれるタイプと言えば分かるかな?

顔も誰に似たのか雑誌の表紙になりそうなクリっとした感じ(イラッ)



これは寺に伝わる話しだけど

大昔の飢饉のときに亡くなった子供をまとめて供養してるみたいででかい共同墓地みたいな塚のようなものがあって

小さい頃は絶対その近くで遊ばないように祖父から言われていました。


言われなくても不気味で薄気味悪いところだったから俺は近寄りたくなかったけど

弟はよく引き寄せられて、その塚の山になった所で遊んでた…

例のあの子のがいる時はその塚全体が薄ぼんやり黒く変色して見えてとても怖かった


弟は二度ほどその塚の中に引っ張りこまれそうになってた。

祖父がえらい剣幕で走ってきて弟を引っ張り戻しゲンコツを落としていた。

弟は、わんわん泣いてうるさかったけど、感謝しろよな。


ある時、祖父が留守の時にまた弟が引き寄せられた。

脚が震えて動けない俺と違って、たまたまその場にいた例のあの子はニコニコしながらまるで遊んでるかのように

「私ちゃんも行くー!」とか言って自ら塚の中に入って行った。名前がうろ覚え


ズシャドンッ と地面が揺れた


確実に揺れたのに、家の人は誰も気づかなかったらしい。

塚全体が真っ黒に禍々しく黒くなり

深淵の淵を覗いてるような恐ろしい恐怖の中から弟と例のあの子のが手を繋いで出てきた

弟は、ぼぉーっとしててあの子はケロッとしていた。


様子がおかしいと思って弟を抱えて走り、家につく頃にはわんわん泣いていたから、元に戻ったと思ってホッとした


驚くことにその塚が跡形もなく消えていた

更に塚の存在を誰も覚えてなかった

寺に伝わると言ってたのに??


一生懸命みんなに説明しても誰も取り合ってくれなかった。

肝心の弟に聞いても「知らない!」プイっとされる始末。

本当にわけがわからなかった。

ただあの子に聞くのもなんかな、結局俺は怖くて聞けず…

ただ、寺にいた変なのはグッと少なくなった

更地になって今は駐車場になってます


俺の必死の訴えが効いたのか、祖父が正月に京都本家の寺にあの子を連れて行った

俺は別の寺に預けられていて、何故かお祓いされた。塚の話しはそれ以来タブーになった。


あの子のお祓いがどうなったか祖父に聞いたら

めちゃめちゃ怒られて「もうほっとけ関わるな!」といわれた。何があったのか知らんけど祖父の機嫌が悪かった。

だいぶ後になって祖母に聞いたら、結界の中でも普通に遊んでて暖簾に腕押しだったと


祖母「怖い顔のジジイどもに囲まれてもニコニコしてたわよ?…普通の子は泣くかもしれないけど、普段から寺の頑固ジジイを見慣れてるもんねぇ」



何歳ごろか忘れたけど

あの子が小学校上がるタイミングかなんかで引っ越すと挨拶に来た。

俺は正直ホッとした、年々大きくなるアレが怖かったから。

特に何をするでもないけど、俺と相性が悪かったのだと思う、早く忘れようと考えないようにした


弟が中学卒業する頃に喧嘩して家出した。


この家に俺の味方はいないと思ったから、仲良かった友達がデキ婚して大変だよと言いつつ子どもの写真を見せられて

このままじゃいけないと焦燥感みたいなのもあった、俺も若かったから勢いがあったんだ。


仲良かった友人が仕事で関東へ引っ越す時に

「マサユキくんもサラリーマンやってみる?

新規の事務所の立ち上げで人を募集してるから、働きたいなら言ってよハハハ」

あちらは冗談のつもりで言ったかもしれないけど

渡りに船だと思った。

それ用の資格を家族に内緒で取ったりして、半年くらいかけて準備していた。


友人から新人が半年で辞めたから入るなら今だよと連絡が来ていて了解した。

いつ家族に言い出そうか迷ってた。

迷いが顔や態度に出てたのか、俺が不真面目になったように思われたんだと思う

ずっとうるさかった祖父とたまにしか帰ってこない父親が説教してきて、思春期で反抗期の態度悪い弟、母親はヒステリック、祖母は見守りと言う名の無関心


俺の不満が爆発し大喧嘩して突発的に家を出て、マイカーでそのまま深夜の高速に乗って関東の友人のマンションへ



前置きが長くなったけど

出張で久しぶりに関西に帰ってきた


実家の寺に寄ろうとは少しも思わなかったけど、京都のパワースポットをいくつか回るうちに、ナニかをくっつけて帰ってきたようだ


フランスパンの入った買い物袋を持ったショートカットのマダム風な薄ぼんやりしたモノが付かず離れずうろついている

滞在してるホテルにもついてきて壁にもたれ掛かったりソファーやイスに座っていて

何か話しかけてくるけどよく聞こえない


宗派が違うけどホテルの近くの寺に行ってお祓いを頼んだ


住職「私では力になれません、お帰り下さい」


素気なく断られてしまった。

そんなやばいものには見えなかったのに…何故だ?

ネットで調べてまた宗派の違う寺に行くけど


住職「申し訳ない、私ではお役に立てませんお帰り下さい」


その後も宗派の違う寺に行くけど構ってもらえず、怖くなってきて神社に行った

寺の息子と言っても別に神社がご法度って訳では無い。知り合いが神式の葬儀ならその作法に従うし(※お焼香ではない)

ただ、日本の教会にはエクソシストはいない

ちゃんとした所から派遣してもらわないといけないらしい。俺もそこまで詳しくないけど


神社の鳥居をくぐる時にピリッとした感じがあって、神主が飛び出してきた


神主「これ以上は入らないで下さい!

申し訳ないが玄関の外で話を伺いましょう!」


門前払いだった今までと違い、話くらいは聞いてくれるらしい


神主「…何をしたらそんなものに憑かれるのです」


「は?…フランスパンの包みを持った普通の女の人ですよね?ショートカットの」


神主は視線をそらして直視せずに

「あなたにはそう見えてるのですね……ソレは人間だったものじゃないと思います

大昔は人間だったかもしれませんが、私にはわかりかねます…」


「あの、どうしたらいいですか?」


神主「申し訳ないです……どこも断られたでしょうが」


神主のおっさんはバツが悪そうに視線をそらした

一体何をしたらこんな顔になるんだよ…



そしてホテルに帰ってテレワークする

お化けがいるから仕事出来ませんは通用しないから

それに今のところ俺には何の影響もないし

そう思ってた


夜中に頼んでないのにルームサービスが来た

頼んでないと断ると、申し訳ございいませんと帰って行ったが、再びルームサービスが来た。

頼んでないのに酒とツマミが届く…


3回目の今度は、スマホで撮影したらしく、見せてもらった。

俺の部屋番号から確かに連絡があり

俺の声じゃない女とも男と判断に迷うような機械音っぽい声でルームサービスを頼んでる


もう一度聞かせてもらうと、バックに俺が仕事でかけた電話の声が聞える…確かに俺の部屋らしい


ホテルの人と部屋を確認する

フランスパンの袋を持ったマダムが部屋の壁に立ってるだけで他にはなにもない


ホテルの人が気味悪がって、お金はいらないからと酒とツマミを置いてった

まさかアレが頼んだのか??


生きた人間よりもマネキンのような作り物っぽい感じで、顔は遮るものがなくて見えてるのに、よく認識できない。

声もポソポソとしか聞こえない

いつの間にかソファーに座って酒のトレーの前に座っていた。

酒を飲むでもなくただ座ってた


足音も息遣いも聞こえない…静かな空間にただいると認識できる


今更ながら、この無害そうなマダムが怖くなってきた

ニヤリと笑ってるように見える、でも顔のパーツ一つ一つは認識できない、雰囲気で笑ってるとしか


仕事を切り上げてベッドに倒れ込んだ。

今日は色々と寺を回って疲れたから…いつの間にか眠りについていたらしい


起きたら枕元に立っていた


「ヒッ〜〜…」流石にビビるから!


口に手を当てて叫ぶ声を抑えた

相変わらず何か言ってるけど聞こえない

聞こえないと言うより俺には理解出来ない


朝になってツマミがカリカリに乾燥していて酒が半分になっていた。

ダメ元で昨日の神主の所にもう一度行こうと思う


昨日の神社に行くと何やらバタバタしていた

「あの、すみません」


巫女服の女の子が俺に気付いた

「あ、申し訳ございません…バタバタしてて

神主の〇〇さんが昏睡状態で救急車で運ばれたみたいなんです。私バイトでよくわからなくて…あの?お急ぎでしたら社務所に行って下さい」


まさか俺のせいか?

その後、昨日の寺にも行ったけど体調悪そうな住職が「帰ってくれ!」と叫んでいた


このまま出張先の職場に向かっていいのか?

職場で死人をだしたら洒落にならない…

仕方なく実家の寺を頼ることにした…祖父さんにどうにか出来なくても本家へ取り次いでくれると思ったから


それから電車に乗って久しぶりの地元へ

あれだけ帰るつもりはないと思っていたのに、結局頼りにするんだもんな

縁を切ったつもりでも久しぶりに見た実家の寺は、俺のいた頃と少しも変わってなかった


…と言っても5年くらいしか経ってないから

弟もちゃんとしてたら大学生だな。




弟「何しに帰ってきたんだよクソ兄貴が…チッ」


弟は反抗期を拗らせていた

更に話を聞くと大学進学しなかったようだ…アホやん!大学くらい出とけよ!


祖父は自治会の集まりで不在

父親は母親と近所に出かけてるらしい、祖母と弟が家にいた


祖母「マサユキ、久しぶりね。元気そうで安心したわ。…変なのくっつけて帰って来るなんて

次に帰って来る時はひ孫の顔でも見れると思ったのに、ハァ」


弟の後ろにチラチラみえる小さな子ども…

どこで拾って来たのか、縁者でもなさそうな

なんかの因縁がありそうな座敷わらしだった…旧家か奥座敷でも行ったのか?


弟「今更寺を継ぐ気になったのかよチッ」


「相変わらず捻くれてるな、お前が元気そうでちょっと安心した」


祖母「中でお茶入れるわ、今日はモンブランを買ってきたのよ」


「お祖母ちゃん、コレ…どうにかできない?」


祖母「アレどこで拾ってきたの?」


後ろを振り返ると駐車場の外からこちらを伺っていた

ここには入って来れないんだ!

俺は希望が湧いた


弟「……兄貴は相変わらず見る目がないね。あれ自力で祓ったら?」


「どこの寺でも無理だった…」


弟「ふぅーん…俺が引き取ってやろうか?」


「お前には無理だ!大変な事になる!」


祖母「心配ないわ、アレはここに置いていきなさい。さぁ、入って。今までどうしてたか教えてちょうだい

あなたのお母さんは寂しがってたわよ」


実家はやっぱりいいもんで

嫌で嫌でたまらなくて家出したのに恋しかったのか…と少しセンチになった

弟は機嫌を悪くしたのか早々に部屋に戻り

祖母ちゃんとたくさん話した

ただ気になったのは、スーパーに売ってるような2つセットのあの安いケーキが出てきた事だ


経済的に困窮してるんだな…俺にはそんな余裕ないから援助はできない


ふと写真が額に入って飾ってあった。


「あいつアイドルオタクになったの?」


祖母「あぁ、それが今のマイちゃんよ」


「え?ナオの彼女?!めっちゃ美人やん!美人局?騙されてない?大丈夫なの?」


祖母「…あんたにはつくづく縁が無かったのね

それ、昔ここの近所に住んでたマイちゃんよ?

マサユキは気味悪がってたわね、遊んじゃダメとか言ってナオを怒らせて…」


「は?誰?」 まさか?


祖母「…忘れてるならいいわ。

それより、今はどうしてるの?こっちには帰ってきたんでしょ?」


「え、いや出張だよ。

来月にはまたあっち帰るんだ…有給とって一週間ほど先乗りして休暇を過ごしてたら拾っちゃって」


祖母「あら、サラリーマンまだ辞めてなかったのね?5年で音を上げたのかと思ったわ」


「辞めてない、ちゃんとしてるよ!」


祖母「ちゃんとご飯は食べてるの?…あんなのに取り憑かれてた割に元気そうね?ちょっと太った?あんたは昔から神経が図太かったから」


「太ったんじゃない筋肉つけたの!…母さんは?」


祖母「デートしてるわよ?最近は2人で仲良くしてるわよ、この前なんて―…」


グッ 親の仲良い話しは聞きたくなかった

(別に悪いことじゃないけど)

え?あの生意気な弟にも彼女いるのに、何で俺にはできないんだよ!やっぱり顔か?

おかしいなぁ昔はよく似てるって言われてたのに?あれぇ?


詳しくは省くけど、ヒトガタに折った型紙に俺の名前を書いてふぅーっと息を吹きかけて立たせ、外から見える縁側とかにお茶と一緒に置いておくと

アレには俺がそこにいてお茶飲んでるように錯覚する。

よほど印か何かついてない限り、ただ拾ってきただけのは誤魔化せる


アレがついてきてないことを確認して、後は寺に任せるとこにした

祖母さんは母さん達に会ってかないのか聞いてきたけど、明日から現場行って仕事だから準備したいと断って帰ってきた

丸くなった祖父さんとか想像つかないから


昔、俺が見てた例のあの子の、その飾ってある写真が何ていうかウエディング写真だったのが気になった…

ふぉ?大学行かんと結婚すんの?マジか?


小舅の俺がいたらアカンやろ…


俺がいない間も、ここもちゃんと時間が流れてるんだな

いつまでも俺の知ってる実家じゃなくなった感じがして少し寂しくなりました。

いつでも帰ってこれる場所だと思ってたけど、弟に嫌がられるわけだ…結婚式とか呼ばれるんかなぁ?




その後―…

寺に置いてきたアレはマイが学校帰りに寄った時に逃げて元の場所に返った

ナオはマイに兄が一瞬来たことは一切言わずにいて無かったことに。

祖母は夕食時にペロっとしゃべった


祖母「筋肉つけて元気そうにしてたわ。仕事で京都に出張して、わざわざ寄ってくれたんだけどね。

みんないなかったから、世間ばなししてケーキ食べてすぐ…仕事忙しいみたいね。また寄るって言ってたわよ」


と何でもないような事のように言って、母親はちょっと泣いていた。

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