第4話 料理教室

私は大手チェーンの料理教室に通っている


今日はそこのお友達紹介・体験キャンペーンで

可愛いエプロンがめちゃめちゃ似合うナオちゃんを誘って来ている。

大学で"ベルサイユのばら男役が似合いそうだネ"と褒められた(?)シンプルなエプロンの私とナオは、綺麗なクッキングスタジオでドミグラスソースのハンバーグとガトーショコラを作っていた。


ナオ「マイちゃん手際良いね…ここ通って長いの?」


「高校生の時からよ(ドヤ顔)」


高3の卒業式の前日(※3月中頃)に初めて行って。

月に1、2回で今日が3回目だ!


バイト先のリーダーの1人の大垣さんと仲良くなった。

普段は中学生のお子さんがいる主婦で、どこか抜けててぼんやりした性格がその子と似てるらしい。

その大垣さんから"お友達紹介・体験キャンペーン"に誘われて行ったのが始まり。


ナオが料理出来る自慢してきて、羨ましくなったから私も凝った料理がしたい!って通い始めたワケじゃないよ?

決して女子力負けてると焦ったワケでもない!


パスタくらいなら作れるし、お母さんのお手伝いでカレーとか肉じゃがなら大丈夫!

バイト代が料理教室に溶けていくけど、マイ・マザーからはOKをもらいやすかった。



そして、周りのマダム達からキャッキャウフフと見られてる…ナオちゃんが!

主婦層が多くて男の子は珍しいし、お顔が良いからモテるのね


「ナオちゃんも上手だね…お料理教室行ってたの?」


ナオ「行くわけないじゃん、これくらい簡単だし出来て当たり前でしょ!」


フン!とすっかりツンツンキャラになってしまった。次からは女の子誘って来よう…



ナオ「どう?僕のハンバーグ!綺麗な形のバンバーグでしょ」


「うん、ナオちゃん上手だねお店みたいよ」


ハンバーグなんて誰が作っても失敗しないんじゃない?

ただ、家庭のハンバーグと違ってちゃんと飴色に炒めた玉ねぎを使ってるし、隠し味に味噌と赤ワインを使ってて、小麦粉を炒めてドミグラスソースを作っていた。勉強になります!

ウチのフライパンと違って油が無くてもひっつかない!!凄っ!


並行してガトーショコラも作る

メレンゲは家ではハンドミキサーだけど、ここでは泡だて器でやる…大変だよ?

ナオとどっちが早く出来るか競争しちゃう…勝った!


ナオ「マイちゃん、ちゃんと料理が出来るんだね…意外」


「ケーキは昔お母さんがよく作ってくれたから。ナオちゃん昔に一回食べてない?」


ナオ「ん、あぁチョコケーキ?」


「そう、それ!」


まぁ、つつがなく終わった。

クッキングスタジオでやるからケーキが焦げるベタな展開もなく

窓際の景色がいい席で作りたてをお互いに交換してから食べる。


今の時間帯は、お友達紹介で来たグループが他にもいて、みんな同じメニューだった。

そこでやたら目が合う人がいる…

30〜40代の主婦の生徒が大半の中、比較的に若そうな女の人のグループで何となくナオちゃんを狙ってるのではないかと推測する


ナオ「マイちゃんのハンバーグの方が柔らかいね…生クリームもフワッとしてる」


「ナオちゃんのハンバーグの方が肉感があって美味しいよ?私のはやわすぎて崩れそうだし。

クリームもナオの方がしっかりしてて形が崩れないじゃん。

それより、あっちのテーブルのレディ達がナオちゃんを見てるよ(コソッ)」


ナオ「…今気付いたの?遅っそ!

最初からだよ、料理中もずっと見られてたじゃん。ネチャっとした視線が気持ち悪いよね」


知らなかった!


ナオ「マイちゃんも気にしないほうがいいよ。あの人はゲストでしょ?」


「知らない…」だってまだ3回目だから。


それから講師がナオちゃんの勧誘を熱心に頑張っていたけどナオは断っていた。


ナオ「マイが心配で見に来ただけだから…彼女に、ここの料理を作ってもらうし遠慮しときます」


講師「ナオユキ君は手際良くてとっても上手だったわ、と一緒に通ったら楽しいわよ?」


「先生そのくらいで。またイベントがあった時に誘いますから、ねぇ?」


残念そうな講師とバイバイして

スタジオのビルを出た所で声をかけられた

「ねぇ、ちょっと!」


ギョッ!

あの見てくるお姉さんだ!

私が返事をしようとする前に、グイッと一歩出てナオにしては珍しい塩対応をする


ナオ「はぁ何?」


「何って…アタシの事ずっと見てたでしょ!そっちこそ何よ!」


あっ電波な人だ…うわぁ

私が一歩引いて、ナオは更に私を庇うようにして前に出た。


ナオ「チッざけんな気持ち悪ぅ消えろ」


ナオがどこぞのヤンキーのようだ。

彼の知られざる一面にびっくりする、口悪いなぁ

(※以下=地雷女)


地雷女「はぁ?そっちが私の事見てたんでしょ!…何よストーカー?私はあなたなんかに興味無いんだからぁ!」


スタジオは大きな駅の前の大きな駅ビルのワンフロアだ。

往来で大声をあげてファビョる地雷女に注目が集まる


ナオ「はぁ?殺すぞ」


ナオちゃんの目が据わってるんですけど!

「ナオちゃんもう帰ろう、地雷な人だよ相手にしちゃ駄目だよ」


ナオ「…うん行こう」


駅が目の前なのに反対方向に走って、ぐるっと回って、わざわざ地下を通ってから地上の電車に乗った。


「いるんだ、あーゆー人。ちょっと怖かったね」


ナオ「……気にしないほうがいいよ」



私からしたら多少びっくりしたけど些末な出来事だったし、料理教室も月に1、2回だから次の予約まで遠い、この事はすっかり忘れていた。


週末のバイト終わりに

ナオのお家で料理対決してると、キッチンの窓の外からガサッと音がした。

ナオが包丁を握ってバッと横の勝手口から飛び出した。


ナオ「チッ……マイちゃんは大丈夫?」


今のナオの行動の方が大丈夫じゃないでしょ!


「びっくりした…アライグマ住み着いちゃった?この家、中身はリフォームしてるけど屋根裏は古そうだしね?」


ナオ「…アライグマじゃないから!」


その後も外をチラチラ気にしてる様子だった。

何なんどーした?


料理が出来る頃にナオのお母さんが帰ってきた。

母「まぁ、美味しそうな匂いねぇ

マイちゃんの今日の料理は何なの?」


「オムライス・ハンバーグ乗せデミグラスソースです」


母「まぁ!お父さんが好きそうね。

もう出来るの?お父さんも呼んでくるわね

あ、ナオ宛てにポストに入ってたわよ?」


ナオ「差出人は?…書いてないなら捨てて!」


母「北村ヨシエさんですって」


ナオ「知らない捨てて!」


テーブルにあった手紙をポイッと捨てて見向きもしなかった。


食べた後でナオの部屋に行く

「北村ヨシエって?…もしかして元カノとか?」


ナオ「(ジロリ)違うから!」


「何かあった?ナオちゃんどうしたの?」


ナオ「あの料理教室の地雷女だよ」


「え!?」


ナオ「どうやって知ったのか、物理的にストーカーされてる。参拝客のフリして本殿に来てた…監視カメラに映ってたんだ」


「マジで?」ドン引きなんだけど!


ナオ「マイちゃんには被害がないし、気にすると思って黙ってた」


「私が誘ったから…ゴメンナサイ」


ナオ「そうやって気にするから、マイちゃんは悪くないでしょ!

でもこの家に出入りしてるの見られてたらマイちゃんも何かされるかもしれない。

生霊ならともかく、生きた人間ほど面倒だよハァー」


「警察に通報する?」


ナオ「監視カメラの映像だけだし、被害が無いから相手にされないでしょ。

それに、ここ交番近いしパトカーの見回りコースだし」


「それは手詰まりだね…ナオちゃん惚れられたの?」


ナオ「知らない!ただ、一度だけ玄関の前にいたのを見たから…あり得ないよねキッショ!」


「ウチの家よりナオちゃんの家の方が安全だと思う…お手伝いさんもいるし、修行中の(屈強な)坊主頭の人もいるよね」


ナオ「…マイちゃんちに泊めてもらうには、まだ早いと思う。遅くなる前に家まで送ってくよ」


境内にある自宅用の駐車場に向かい、いつも乗せてもらうナオの軽自動車の前まで来て違和感があった。


ナオ「タイヤがパンクしてる!」


そこじゃない違う!


良くわからない直感が働いて、車の下を覗き込むと「あった…」

スマホが車の下に貼り付けてあったのだ

ナオも流石にゾッとしたのか家に走って親を呼んだ。

スマホは私が見つけたと言わずに渡して

物証が出たから警察に通報する話になった。


私はナオのお父さんが所有する高級車に乗せてもらい、家まで送っていただいた。高級車の革張りのシートは汚してはイケないと緊張しまくった


父「マイちゃんご馳走さま、ハンバーグ美味しかったよ。またおじさんの分も作ってねワハハ」


ナオ「チッ、オヤジは余計な事言うなよ!」


「おくちに合って良かったです」

ナオはまだ反抗期なのかな?

そんなことよりタバコの匂いと車の芳香剤の匂いがキツかった!



数日後にナオから連絡があった。

よく行くお洒落なコーヒーショップで話を聞く

要約すると


スマホは北村ヨシエのものだった事

その北村ヨシエは自宅マンションで死んでいた事

死後一週間はたっていたらしい

原因は職場でミスが続いてノイローゼとかで警察は結論づけた

そのマンションは料理教室から私達とは違う方向だった

若そうに見えたけど36歳で独身、一人暮らし。身内はいなくて書類上の祖母が九州だけど連絡が取れない

料理教室の翌日から仕事を無断欠勤していた

警察が調べて分かった事で、あの日あの後で、スタジオの人に私の連絡先を聞こうとして断られて、誰もいない事務室に侵入して勝手にパソコンの個人情報を盗み見ていたらしい。


私の個人情報すでに割れてるんかい!

えぇー、連絡してよ!大事な事じゃんか!

「後味が悪い結果だけど…終わった事だよ、私達に何か出来たわけじゃ無いしね」


ナオ「……死後一週間って、あの手紙は誰が家のポストに入れたんだ?」


「あっ!?」鳥肌がたってゾッとした


ナオ「…視線?」バッと振り向くけど何もいない


辞めてよ!びっくりするじゃないか!

「誰かいたの?」


ナオ「いなかった…ここパワースポットなんだ

悪い感じのは入ってこれないと思う」


知らんかった!

え?ただのお洒落なコーヒーショップじゃ無かったの!

「ナオちゃんのお家は大丈夫なの?」寺だけど。


ナオ「爺ちゃんが結界を張り直してる」


え?!何で?…とは恐くて聞けないんだけど!


ナオ「境内に…ちょっと言えないモノが埋められてたんだ。

父さんと爺ちゃんが監視カメラ確認してる

警察は犯人死亡でもう事件解決してるつもりだし」


サァーっと血の気が引くのが分かった。

「ナオちゃんは出歩いて大丈夫なの?」


ナオ「分からない…けど家にいてもすること無いし。マイちゃんに会いたかったの」


ドキッとしたし、いつも強気なナオのしゅんとした顔にぐっときた。

「言ってくれれば私が家に行くのに」


ナオ「引きこもってたから気晴らしがしたかったんだ」


「ナオちゃん…元気だして?ヨシヨシ」


ナオ「子供扱い…」


ナオは反抗期拗らせてるんだった!


それからコーヒーショップのサンドイッチ摘んで、なけなしのお小遣いで私が会計した。

私が誘ったからこんな目にあってるんだし…


昼からバイトだからそのまま向かった。

大垣さんと一緒のシフトだったから、世間話ついでにこのモヤモヤした気持ちを愚痴った。


「あの、お料理教室で個人情報流出したらしいですよ!

しかも住所調べられて体験に来た友達がストーカーされたんです」


大垣「私の所にも料理教室から連絡あったわ。

それって、故人の北村ヨシエさんじゃない?

内藤ちゃん明日はヘルプで〇✕会館に出張よ

遠方から身内って人が急に来て、無理やり予約ねじ込んだみたいなの。お式も最小限にって話だけど、今はどこも忙しいでしょ?人数足りなくて私と一緒に入るわよ」


マジでか!凄い偶然じゃないか!

凹んでるナオには内緒にしておこうかな…



翌日、会館に行くと制服に着替えてから大垣さんの車で例の地雷女の葬儀に向う。

複雑な心境だけど仕事は真面目にやる。

私は実害らしき被害はないけど…ナオへの仕打ちはやるせない


自分の所属する会館も2階建てで大きい方だけど、ここも大きな4階建てのビルだった。

ワンフロアがそのまま1つのホールになっていて

地下に霊安室と小さな家族葬用の部屋があった。


大垣さんに付いて簡易の祭壇を作ってお寺の坊さんを一階の玄関で待ち伏せて地下に案内する…参列者0人だ。

身内のお爺さんがポツンと据わってるだけ。

お教も心なしか短い。お焼香もお爺さん1人


36歳って死ぬにはまだ早いと思うし、普通は若い人ほど参列者は多いのに…

料理教室に誘った人は来ないの?薄情な!と思ったら香典が2件届いていた。

仕事上、香典返しの確認の為に見るから職場と個人名の2件を覚えた。仕事だしね!


何事もなく終わり、後日料理教室に行って予約表を確認する。私の予約はまだ先だけど確認のためにわざわざ行ったのだ。

今どき手書きの予定表で空いてる時間帯に自分の名前を直接書くタイプ。

電話で確認も予約もとれるけど、もしやと思い、あった!

香典の名前が載っていたのだ


個人情報流出したせいか色々と厳しくなって、予定表を見てたのをスタジオの別のスタッフにそれとなく注意された。


「…体験に来た友達がここに来た人にストーカーされたんです。しかも車パンクされたり、家の敷地内にイタズラされたりしました!

その方はもうお亡くなりになりましたけど!」どうしてくれる!


と腹いせに睨むと、心当たりがあったのか謝罪してきた。

スタッフ「個人情報流出の件は申し訳ございませんでした…それとストーカー被害はまだ続いてますよね?重ね重ね申し訳ございませんが、こちらとしても対処に困っております」


「え?犯人は死亡しましたよ?

先日、葬儀がありましたから間違い無いです」


スタッフはしまった!とバツが悪そうな顔で言いにくそうにポソりとこぼした。

「個人情報が盗み見られた現場にいたのは、お亡くなりになった方と、この方です。

予約は入ってますけど、先日は来ませんでしたし」


ゾッとした!

まだ全然終ってないやんか!ケーサツ!何してんねん!

「ハッ…もしかして警察は知らない?」


「……はい。無くなった方の事しか聞かれませんでしたから。事情聴取って程喋ってませんでしたし」


急いでナオに知らせる。

地雷女の葬儀にヘルプで入った事も全て!

すると電話がかかってきた


「ナオちゃん!全然終わってなかった!

矢島キョウコって料理教室の人が共犯だったのよ!危ないから家にいなきゃ駄目だよ!」


『え?マイちゃん今どこにいるの?』


「料理教室の中だよ、予約表を確認に来たの!矢島キョウコって香典送ってて、パソコンを盗み見たのって2人だったの!」


ザワザワとナオのバックに喧騒の音がした。

家じゃない、外にいるの?


『…僕、今マイちゃんから呼び出しがあったってテーブルのメモを見て、ザッドサッ……プー・プー・プー…』


「ナオちゃん!ナオちゃん!」


その場で警察に通報した。

深刻な自体にスタッフの人が事情聴取に来た警官の名前を覚えていて、すんなりと連絡が取れた。


「雑な捜査のせいでナオが殺されたらマスコミに全部リークしてやるぅ!バカァ!」


私は駅まで走った

電車の中ではナオの無事を祈って、駅から自転車に乗ってナオの所まで全力疾走した


お寺にパトカーが2台来ていて、最悪の事態を想像する…

ドラマとかニュースでよく見る進入禁止のテープが巻かれていた


震える手足に力を入れて野次馬の中に混ざり、電話するためスマホを見たら…着信が18件?!

自転車に乗ってたから全然気づかなかった

言ってるそばから電話がかかってきた!


「ナオちゃん?」


『マイちゃん!今どこにいるの?急いで逃げて!』


「え?ナオちゃんちの前にいるよ?野次馬にまざってる」


『すぐ行く!そこにいて!』


すぐに自宅の方からナオが「マイちゃーん!」と走って来た。


「ナオちゃん!」と返事をしたら狂気に満ちたネチャっとした視線を感じた。


野次馬に混ざって木の陰にいる!


次の瞬間、鞄に手を入れながらこちらに走ってくる女の人が見えた。

咄嗟にしゃがんで足元にある細かい砂利を両手で掴み投げつけた。(※周りの人ごめん)


「ギャァァァ!何するのよこのアバズレがぁ!」

鞄からカッターが出て来だ。


野次馬達の「きゃぁー!」で

警察官の1人が気づいて「あっ、止まれ!」


「マイちゃん!」


スローモーションのようにゆっくりと流れて見えた。


いける!


何がとは思わない頭が真っ白になっていた。

気づくと向かってくる女の人の顔面に蹴り入れていた。ひぇ


振り回すカッターが当たり前に足を引っ込めて

蹴られた女の人は「バグん」とか言って盛大に転がった。


ナオがグイッと腕を引っ張ってその場から離れて

「マイちゃん!」


「ナオちゃん大丈夫?!」

警察官の若干引いた感じで見てくる視線が痛い。


「マイちゃん馬鹿なの!危ないから!」


「…ロングブーツだから大丈夫かなって」思ってなかったよ?

気がついたら動いてたの、今になってバックンバックン心臓が口から飛び出そうよ!


それから事情聴取されて

まぁ危ない事すんなってめっちゃ怒られたけど、別の警官から「君、足長いねぇ」と褒められた(?)


後日ちょろっと聞いた話し

あの地雷女を面白半分で煽っていたのは矢島キョウコ(38歳、独身一人暮らし)だった。

"さっきからあの男の子こっち見てない?あれ彼女かな?遊んでそうな女。イケるんじゃない?"とか何とか焚き付けたらしい。

それでストーカーして隠し撮りした写メを共有するうちに矢島キョウコ本人も3日目には好きになっちゃった!うわぁ…ドン引き!


恋するアラフォー女の粘着は怖かった。

北村ヨシエをライバル視するようになり、邪魔になって自殺に追いやった。

鬱傾向にあったから「その薬が合ってないのよ、もうやめたら」とか言って直接手は下してないけど。

職場にも「堕胎手術の失敗で体調悪いみたいよ」とか変な噂を流して孤立させていたようだ…怖っ!

何故かその前から私の存在は彼女達の中から消え失せていた。

ライバル視すらされてないけど、そもそも私は彼女じゃないしね


ナオのお爺さんの結界?も生きてる人間の妄執パワーには及ばなかったのかな?

すんなり自宅に入られて(※いつも勝手口があいてる)物色されていて、ナオとは全然関係ない腕時計やお箸が盗まれていたらしい。

警察も見回り強化してるとか言うけど警備ガバガバやん!



さらに後日聞いた話し

言いにくそうにしてたナオがちょっとお高いフラッペ盛り盛りカスタマイズを註文してくれた。


「マイちゃんごめんね」


「お高いフラッペが?」私が催促したみたいやん


「フフフ…違うよ。僕のせいなんだ」


ナオは前回、このコーヒーショップに私を呼び出した時に感じた視線は矢島キョウコのものだったと言う。

しっかり後を付けられていたらしく

監視カメラに映りたくないから店内には入ってこず、向かいのショボい喫茶店から望遠レンズで覗いていたのだと。


ってかよくその視線に気づいたね


愛しの君がお洒落なコーヒーショップで女とデェト。

誰だあの女!あっ、料理教室の女やんか!

と、ここで再び私が浮上する

粘着アラフォー女はなんと私の殺害計画まで練っていたようだ。ひぇ


だが隙が無かったらしい

私の通勤通学は自転車

職場はセキュリティがありそうな葬儀会館。

しかも自宅まで目と鼻の先なのに自転車乗ってるし。

庭で大型犬飼ってる怖いわ近づけないわ(※ハスキーの雑種)

フリーターで大学生に思われてなかった…

料理教室の人がうるさいから予約確認の電話もできない。

愛しの君の近くをハエのように来た所でサクッとすればいいかと、ナオの近くで待ってた所にあの日の事件がおきた。

家に1人でお留守番してるから、なんか我慢できなくてナオを呼び出したらしい。


家を出る前に私から連絡ラインが来て、念の為催涙スプレーを持って外に出る。

メールを見て急いで私に電話する、ナオが車に乗ろうとした所で粘着女が迫ったら、催涙スプレーで返り討ちにあい逃走した。


「ギャァァァ!よくも!あのアバズレを切り刻んでやる」と吐き捨てて。


アバズレって私の事?失礼しちゃう!


騒ぎを聞きつけた寺にいた人が出て来て警察に通報。私を探しに行こうとして止められて寺の人に事情聴取され、両親が駆けつけて事情聴取、さらに駆けつけた警察官にまた事情聴取され

その時に、勝手口は中から鍵を掛けても、外から捻るのと普通に開くと言う壊れ方をしていたことが判明。

ナオはドアにブチギレる。

合間に連絡しても私が電話に出ないし、既読にもならない

ナオは最悪の事態を想像して、いても立ってもいられなくなったと泣きそうな顔で言う


「自転車爆走してたから気づかなかったの…ごめんね。

ナオちゃんが途中で電話切ったから、そっちのほうが心配だったわ」


「野次馬にまざって帰ろうとしてた粘着女を引き止めたのは、僕なんだ。

マイちゃんって叫びながら出たでしょ?

マイちゃんも返事したからバレたの。

あの粘着女はマイちゃんの顔をよく覚えて無かったから、僕が出ていかなかったらマイちゃんは危ない目に合わなかったんだ……ゴメンナサイ」


「私ってそんなモブ顔?

あ、ナオの顔しか覚えて無かったのね!取るに足らない女だと思われてたんだわ!

あの時に捕まって良かったのよ。警察官もたくさんいて、周りに人がたくさんいたからカッターを鞄から出さなかったんでしょ?

地面が細かい砂利だったから、事前に催涙スプレーで顔を焼いておいたから派手に痛がったのよ

だいぶ暖かくなったけどあの日が寒いからロングブーツを履いたのよ。

カッターが当たったけど私の肌には傷一つ無かったわ。

かかとが潰れて捨てようと思って出しておいたの、最後に履いてから捨てるつもりだったし。

破れても平気なの…だから遠慮なく蹴り入れられたのよ!」


ナオは私を見て安堵したような、懐かしい物を見るような、そんな複雑な顔をしてから泣き笑いした。


ナオ「マイちゃんには、かなわないや

粘着女の鼻が折れて潰れてたんだって…正当防衛だよ」


知らなかったし、知りたく無かった…


「私の長い足が罪になるところだったのね」


ナオ「そこに着地する?マイちゃんって自分のこと大好きだよね…羨ましい」


「ナオちゃんだって、いつも自信満々じゃん?」


ナオ「僕のは違うよ…そうでも思わないとやってけないもん。

僕って何もないんだよ、無力だし無能だもん役立たずだ」


「何でも出来る私のスーパー幼馴染のくせに!

ナオちゃんが無力なら世の中の六割くらいの人は無力以下だね」


ナオ「それって僕は60点ってこと?ちょっと!低すぎない?」


「じゃあ80点にしとく?」


ナオ「僕の学生時代のテストの平均点は95以上だ!」ドヤ顔


「凄っ!!自己肯定感ありすぎない?」


ナオはちょっと膨れてプイっとする。

既視感…デジャヴだ。あぁー、甘えたいのか!幼い頃のナオちゃんの癖だ。


頭をナデナデして「ナオちゃん大好きだからそんなに怒らないでよ」と昔みたいに宥めてみた。


ナオ「むぅ…僕のこと嫌いにならない?迷惑かけてごめんね」


「料理教室に誘ったの私だもん…私こそ元凶に会わせてゴメンネ」


ナオ「マイちゃんと料理教室は楽しかったよ?

…マイちゃんも僕といて楽しい?」


「ナオちゃんといるといつも楽しいよ…フラッペ食べる?ハイあーん」


ナオは遠慮がちに口を開けてパクついた。

どこか懐かしいやり取り

事件の全容は分からないままだけど、根掘り葉掘り聞くと疲れそうだしいいや。

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