第14話 行方不明

矢部「マイちゃん、バスの時間が来るから早く早く!」


「そんな急がなくても、まだ大丈夫じゃない?」


矢部「早く行ってバスを待ってたいじゃん?」


「うん」


矢部がマイの鞄を持って、マイの腰にスマートに手を伸ばした。

バス停までの田舎道を歩いていく

はたから見たらカップルそのもの、今風の爽やかな矢部とマイはお似合いだった。



ナオと連絡が取れなくなってから、そろそろ3週間、今頃どこで何をしてるんだろう?心配で心配で辛い…


先月のヒロミのお疲れ様飲み会の後に、ナオが迎えに来てくれてみんなに挨拶した。

特にヒロミとリナにしっかり挨拶して、ついでに連絡先を交換してた。


ナオ「矢部とかが狙ってるのは知ってる。選ぶのはマイのはずなのに強引すぎる、なんかあったら連絡して下さい」コソッ


ヒロミ「ん、合格!マイの彼氏は最低でもこのくらいでないとね。矢部の顔ではマイはいずれ他所に取られるわ」※ヒロミは美人好き


それから私が酔ってるからって、ナオが帰り道にドライブしてくれた。

夜景が見える所に連れてってくれて、展望台の駐車場は寒くてホワッと息が白かった


2月の冬の寒空の下で展望台から夜景を眺めて手を繋いだ。

引っ付いたらナオが温かくて胸がギュッと苦しくなった

雰囲気に流されたわけじゃないけど、見つめ合ってそっと触れるだけの優しいのをした…

雪がチラついて、はぁと白い息をこぼしたナオちゃんがとてもロマンチックだった。


ナオ「マイが熱くて溶けてなくなりそう…はぁ~。可愛い顔してると全部食べたくなっちゃうよ?

酔ってヤったらなんか勿体ないから…今度はお酒飲んでない時に来ようね?

はぁー返したくない、ずっと一緒にいてよマイちゃん…チュッ」



その翌日

日曜もバイト終わりに会う約束をしていて、いつも通りナオのお家に行った。

ナオ「明日からバイトだよ~、ぶっちゃけ京都までダルい」


「ナオちゃんが行ったら園児達みんな喜ぶよ、きっと」


帰ってから、夜も普通に電話して明日から頑張ってねと電話を切った。

翌朝、ナオから「朝早い眠い、行ってくる〜」と朝の8時前にメールが来たのを最後に連絡が途絶えた


電話しても「おかけになった電話番号は電波の届かない―…」


お祖父ちゃんにメールで聞いたら

「女人禁制の厳しいお寺に修行しに行っとる、許しがあるまで帰ってこん。気長に待っててくれんか?」

と意味がわからない返事が来た。


女人禁制?

許しがあるまで帰って来ない?

え?街中のお寺の幼稚園に行くんじゃなかったの??


お祖父ちゃんからは碌な返事が帰って来ない

「ごめん、女人禁制だから詳しく教えられん。親戚のお寺だから心配せんで良い。待っててやってくれ」


これ、教えてくれないやつだわ!


ヒロミやリナもラインするけど既読がつかない。

ナオと連絡が取れなくて3日で音を上げてしまった。


矢部「最低だなアイツ!

やっぱり浮気してるんじゃないか?京都にバイトとか嘘で、本当は浮気旅行へ行ってるのかもな」


「ナオちゃんがいないとこんなに寂しくて辛いなんて思わなかった…

今までだって3日くらい会ってない日なんてあったけど、ナオちゃん…グズッ」


矢部「わっマイちゃん」


ヒロミ「矢部がマイを泣かせたわ」

リナ「責任取って彼氏見つけて来いよ矢部!」


斎藤「チャンスだぞ」コソッ

秋山「笑った顔が胡散臭い彼氏より、お前の方がまだお似合いだよ」コソッ


春休みにみんなで旅行へ行こうって計画が上がったけど保留になってしまった。


ヒロミ「彼と連絡が取れてからでもいいわよ。

スマホ落として連絡が出来ないとかじゃない?」


矢部「中学と高校の時のあいつの友達にあたってみるから」


「矢部くん、ありがとう」


彼氏の過去を知りたくないとか言ってないで聞いておけば良かったのかな…。


秋山「モテそうな奴だったな」

斎藤「元カノとヨリを戻すとかよくある話だからな」


ヒロミ「ちょっと、やめなさいよ!」

リナ「そうよ!ヒロミの前で言ってやるなっての」

(※ヒロミの別れた彼氏は元カノと繋がってた)



春休み目前になり、矢部が京都の旅行を計画した。


矢部「中学ん時の友達に聞いたらさ、あいつの宗派の総本山が京都にあるんだよ。

それで電波の届かないような山中に修行寺がいくつかあって、そこじゃないかって話だから。

マウントでもディスリでもなく、穢れきった魂の浄化とかに使われてた寺だって」


秋山「へえー、マジで?すげーな修行僧?本物だったの?」

斎藤「京都なら近いし、なんか面白そうだし、みんなで行こうぜ?温泉宿ある?えっと住所見せて?」


ヒロミ「山登り?軽いのなら…」

リナ「流石に近くまで車で行けるんじゃない?」


矢部「あっここ、観光スポット近くにあるな。

お前らは観光スポット回っとけよ、俺がちょっと行ってくるから」

(※京都まで下道なら車で2時間程、高速道路や電車で行くなら小一時間)


「矢部くん私も行く!免許あるし、ペーパーだけど!」


矢部「いや俺が運転するけど…車停める所ないかも。電車とバスで近くまで行くみたい、ハイキングコースになってて上に寺があるって。

その友達が言うには多分ここじゃないかって―…」



…――そして冒頭へ至る


山登り用のスニーカー、ウインドブレーカー、しっかりしたGパン、帽子、登山用リュックサックには水と携帯食、スマホとバッテリー、コンパス、懐中電灯、ライター、携帯簡易トイレ、薄いタオルケット―…

矢部の装備は万端だった


マイはいつものスニーカー、Gパン

3月に入って温かくなってきたから春用の薄手のタートルネックセーターにフード付きファスナーのパーカーという軽装備。

リュックサックは弟から借りたもので、学生が通学に使うような物だ。

モン〇ンのキーホルダーが擦れてチャリッと音がする。中には、来るときにコンビニで買ったペットボトルのお茶とおにぎりとパンとクッキーにキャラメル。


矢部の装備を見て、マイは遠足気分で来たことを後悔していた。


バスに乗ってから山道を小一時間

時々、杖をついた老人がバスに乗って来る以外は殆ど誰も乗らない。めちゃめちゃド田舎道を走る。

若い2人が珍しいのか、めちゃめちゃ見られる

バス停で降りるときに声をかけられた


婆「あんた!やめときなはれ!」


矢部「は?」


爺「あの世に行くにはまだ早い!引き返せ!」


「あの、自殺志願者じゃないですよ?上のお寺に用があって行くんです」


婆「(ギョッ!)……そぅかい、えらい勘違いしてしもた」

爺「気ぃつけて行きなはれ…しっかりせんなならんよ?兄ちゃん頑張んな?」


矢部「はぁ、どうも……(この辺りに自殺の名所なんてあるの?)」


目的のバス停で降りて辺りを見回す

サワサワと春一番のような突風が梢を揺らす天気も良くてピクニック日和だ。

車を路駐できそうにない山道の途中でバス停があり、そのすぐ横に山を登る石でできた階段があった。


【ハイキング・コース〇〇寺まで〇〇メートル】

ボロい看板が申し訳程度についていた。

スマホを見ると電波が1つになっていた。


矢部「俺のアイホンはまだ電波3本あるよ…会社どこ?〇〇?」


「〇〇モバイル…」

格安スマホは駄目だぁ…くっ!こんな所で差が出るとは(※個人の感想です)


矢部が地図を見ながら歩いていく


正直めっちゃありがたい、だって地図やコンパス見てもわからないから…

スマホの現在地が頼りだったけど残念、もう電波届かないって


ナオがここにいるとしたら、そりゃ電話が繋がらないわ。浮気旅行でここには来ないだろうなぁ


浮気の線が薄くなって心に余裕ができたマイは歩きながらツラツラ考えていた


街中のお寺に観光してるヒロミ達が、宿の夜の飲み会を楽しみにしてると言ってたけど

早朝に出発して今は昼前…夜までに帰れるかな?

(※春休みで混んでたから一泊旅行になった。秋山「宿あった!キャンセル出たって」)


矢部もさすがに喋って体力を消耗するような事はせず、黙々と山道を登る

時々道に看板があり、矢部は地図を確認する


「矢部くん、地図の道そっちじゃない?」


矢部「え?」


「この地図の道、ほらここ、こう曲がってない?

草で隠れてるけど上に階段あるよ、ホラ」


矢部「あ、本当だ…ふぅー。道を間違えるところだった。こっちの道も行けるんだけど違うお寺になるみたいだ」


「疲れた?その荷物重たいでしょ?休憩する?」


矢部「マイちゃん疲れてないの?元気だね」


「普段、山なんて登らないから私も疲れたよ。矢部くんが荷物多すぎるんじゃない?登山グッズが本格的だね」


矢部「実は靴擦れして、イテテ。慣れない登山用シューズはかえって駄目だね」


「キズテープ貼る?」


矢部「ありがとう、準備いいね」


「これ弟のカバンなの。サイドポケットに入ってたから、足出して貼ってあげるよ」


ベロンと皮がめくれて痛そうだった

2枚貼ってティッシュ挟んで応急処置する


少し開けた所に出て、山の谷間から遠くに見える街を眺め、マイはコンビニ袋を敷いてそこに座り、おにぎりを食べた。

風が少し吹いて木陰がとても気持ち良かった。

矢部は直に座り、携帯食カロリーメイトを出してモソモソ食べる…喉が乾くやつだ。2リットルの水筒を出してグビグビ飲んでいた。


矢部「俺もおにぎりにすればよかった…」


「2個あるから一個食べる?」


矢部「え、悪いよ!マイちゃんのだし、2個とも食べて。俺は大丈夫だから」


「じゃあ、半分食べてよ…ヨイショ」

新しいおにぎりを半分にする。パリパリの海苔が音を立てて2つになった。


矢部「え、あ、うん。ありがとう、マイちゃんはやっぱり優しいね(照)」


「…ナオの為にここまで来てくれる矢部くんの方が親切だよ」




その頃、以下ナオ視点――…


騙された!と思ったのは祖父に車で送ってもらった時に、どんどん山道を登って行ってからだった


マイと矢部は一般公開されてる正規の登山ルートを進んでいるが

ちゃんと車で行ける地図に乗ってない裏ルートは存在する、寺の管理が大変だからだ


自力で山を降りるなんて、絶対に無理だと早々に諦めて、ナオは毎日を無駄に過ごして苛立っていた


母親がすすめた幼稚園は実在していたが、祖父と父親がナオの素行の悪さに灸を据えようと、行き先を変更したのだ。


母親がナオを迎えに行こうとしても道が分からず泣き寝入り。家事をボイコット中で家がちょっとだけ荒れてる。

(※お手伝いの坊主が1人で家事をしてなんとかなってる)


祖母も家事を手伝わずにボイコットしていて、自分たちの洗濯だけしてる。

こっそり知り合いのツテでナオの様子を見に行かせ「マイが心配して家に来た」と簡単な伝言を出した。


刑務所の方がまだマシと言われる限界寺。


俗世と隔絶された山の上の寺

自立を促すため、集められたお寺関係者の悪ガキ共で集団生活。

喧嘩したら寺の地下の独房に入れられて1日を過ごす為、余程のアホでない限り喧嘩しなくなる。

甘味も娯楽もテレビも一切ない、もちろんWi-Fiも

写経をして掃除をして洗濯をして炊飯をして寺の補強をさせられ座禅を組み瞑想して煩悩を消し去る


電気は通ってるが台所の冷蔵庫と隣の和尚さんがいる社務所のみ

夜は日暮れとともに暗くなり、スマホの充電が無くなると真っ暗。

月明かりを頼りに外のボットン便所に行くのはまさに苦行、昼間にすませておかねばならない。

井戸が枯れてから寺の上に給水装置をつけて何処かからひっぱってくる、水は貴重だから節水。

当然風呂にも入れない、お湯もわざわざ薪で沸かさないと駄目だから誰もやらない。タオルで拭くくらい


薪で炊く米は美味いと言うが、最近は学校でも飯盒炊飯を習わない子も多い。炊飯器や電子レンジしか使ってない現代っ子ばかり

家族や普段の生活のありがたみが身にしみて、だいたい3日で音を上げる。

一週間もしたら心が折れて模範囚のようになり

一ヶ月で更生プログラム修了


表向きはよくある設定―…



ナオが限界を迎えて更生しないのは、幼い姿のマイの生霊が守護霊としてナオの側にいるからだ


「マイは俺のことまだ好き?」


守護霊マイは変わらずニコニコしながらコクンと頷いた

ナオは每日見てるから気が付かないが、4歳くらいから5歳くらいに少し成長している


「マイちゃんは今はどうしてるの?」


マイはニコニコするが喋らない


「大学は春休みでしょ?」


コクンと頷いた


「今日はバイトしてるの?」


軽く頭を横に振る


「家にいるの?」


横に振る


「じゃあ遊びに出かけてるの?」


横に振る(※山道を登って来てる)


「マイちゃんは俺の事心配してる?」


ニコニコ、コクンと頷いた


「マイちゃん…」


僧「さっさと飯食ってくれよ片付かないだろ…うわぁ」


「うっせぇハゲ!」


僧「いい加減アンタも剃ったら?楽でいいぜ?

ってか独り言喋ってキメェよ」


「修行が足りないんだよハゲ!」


僧「あー、ハイハイ俺は見えませんから!

普通の人間ですから!お前らみんな頭おかしいんとちゃうか?」


「おかしいのはここの奴らだろ!

人権侵害!俺等は奴隷でも囚人でもねーし!

それに飯作ってるのは俺様だ!嫌なら自分で作った焦げた残飯食っとけよ!」


僧「くぁー、腹立つなお前!

そんなんじゃ面はいいけど彼女いないだろ?」


「フッ」(※滲み出る余裕の笑み)


僧「え!いるの?マジで?何ソレ?猿みたいな知能の持ち主?ってかお前みたいな糞は猿でも嫌がるだろ」


「フッ憐れだな」


僧「何だと?クソガキがコラ!…チッ

ってかこの際多少ブスでもいいからヤりてーよ!チキショー!女人禁制?だから何?

本の一冊でも置いとけよ!充電器さえあればスマホの画像が見れるのにぃ、あぁ死ぬぅ!

質素倹約って米と草しかないの?

人間はビタミンちゃんと取らな死ぬねんで?なぁ?」


「サルめ!喚くなうるさいぞ!ちゃんとビタミン取れる食材あるだろ!」


僧「そうなん?ってか、今日は朝から和尚さん何か忙しそうやんな?熊でも出たんかな?」


坊「お前ら知らんの?どえらいの来てんねんで?」


僧「何なん?そのどえらいの?訳わからんわ」


坊「山が荒れてるらしいで、大人しくしとけよ?また脱走とか辞めてな?探すんめんどいから」


僧「なぁ、何で降りれんの?

1日歩けば街につきそうやねんけど?」


坊「結界やって言ってたやん、これやから見えん奴は…はぁーダルッ真面目になったフリして帰るで!」


「…マイちゃんは結界通れる?道案内してくれる?」


マイはニコニコ、コクンと頷いた


僧「はぁ?…気持ち悪ぅ」


坊「どこが?そこの人めちゃめちゃ可愛い座敷わらし連れてるねんで?

見てるだけで癒やされるわホンマに。

なぁ、それ何処で拾ってきたん?ちょっと貸してや?めっちゃ凄いやん、それ何なん?

この寺って女人の禁止ちゃうの?」


「あー無理!俺専用だから(ドヤ顔)

ハゲには懐かないから諦めろ、お前はお前の婆ちゃんに助けてもらえよ

ババアが後ろで手ぐすね引いてっぞハゲ!」


坊「…充電器貸してやるから、一瞬だけソレ貸してよ」


僧「ハァ?充電器よこせや!」

(※無視されてる)


「………充電中だけなら、いいかな?

マイちゃんあっちのハゲの所にちょっとだけ行ける?」


首を横に振る


坊「マイちゃん言うの?へぇー、マイちゃん、こっち!お兄ちゃんとこにおーいーで!」


首を振ってナオの後ろに隠れてニコニコする


「残念、マイちゃんはハゲがキライだってプハッ」(ドヤ顔)


坊「チッ…縛って俺のにしてやろうと思ったのになぁ」


「やめろや!マイは俺のやぞ!

お前はお前のババアの黒ずんだチ〇ビでも吸ってろクソ坊主!」


坊「おまっ…ハゲハゲってあっちの人ほどハゲてんやろ!チョーベリーショートや!

人の事言えんけど柄悪いなぁ、更生したフリしてな?はよ帰るでホンマに」


そこでガラガラと建付けの悪い扉が開いて和尚さんが入ってきた


和尚「お前らちょっと避難するで」


僧「え?やっぱり熊でたんですか?」


和尚「アホか、そんなんちゃうわ

もっと恐ろしいもんが出たんや…〇〇さんが機嫌悪い」


〇〇さんとは霊的にこの寺にいるナニか


悪ガキ共が3日で音を上げる理由の1つに夜中にザリザリと寺の周りを徘徊する音が聞こえる

隠れても追いかけてくるように窓に人影が見え『ヴァ゙ァ゙ァ゙―…』と唸るような声が時々聞こえる。


今まで1度も寺の中に入って来たことはないが、良くないナニかがいるとだけしか知らされず、詳しくは教えてもらない。

暗くなると音がして恐怖し妄想が膨らみ新たな恐怖を呼ぶ。

朝になると気配は消えるが、うめき声と恐怖が脳裏にこびりつく。

精神がガリガリ削られていき反抗する気力がなくなっていく。

悪いことをした分だけ祟られると思い反省する。


ほんの一部の人間にしか伝わってない怪奇。

悪ガキが更生した話しだけが寺関係の身内で広まり、たまに悪ガキが連れてこられる。

自分で写した写経を握りしめ布団をかぶり朝を待つ

狂わないのは守護霊による霊的なフォローがあるから。


幼い生霊マイの守護霊がナオに付いてる、それをすぐに知ったのは坊だった。

こちらもナオと同じくらいの破戒僧で、なまじ力があるせいか、実家の手に余った。

ナオの3日後に連れてこられて、寝る部屋もナオの隣の部屋にして壁1枚隔てた所で寝て、安全オーラのおこぼれにあやかってた。


さらにその一週間後に連れてこられた僧は、不幸な手違いだ。

訳アリで他所の宗派から移ってきて、本来ならちゃんとした所で修行するはずが押し込まれた先は曰く付きの更生施設。

家事も覚えて帰って来るし良いよねと気軽にぶち込まれた。

あんまり見えないのが逆に救い



ナオ達が和尚に案内されて行ったのは寺の地下室


騙された!


「お前らがちゃんとした飯を作らないから連帯責任で俺までお叱りを受けたじゃないか!」


坊「はぁ?絶対に違うし…何か来てるんだよ

多分本当の意味で避難ちゃうの?」


僧「ここカビ臭いしもう入りたくなかったのに…なんでやねん」(※普通に帰ろうとして迷子になり脱走扱いになった)


守護霊マイが座って独房の中の壁を指さした


坊「ここ掘るんか?ちょっと待ってな」


僧「凄っ、何でスコップなんて持ってるん?貸せ掘ったる!」


しばらくザクザクしてたら大きな石に当たった、掘り出してみたら地蔵で3人ともドン引きした

ザクザク掘る音に重なって地下室の入口ドア付近でカリカリと何かがひっかく音がしていた


「マイちゃん…これ掘っても良かったのかな?祟られない?」


マイはニコニコして頷いたし、まだ指さしてる


坊「あっ、この奥が空洞になってるんだよ。地蔵で蓋してたんだ…」


僧がどんどん掘っていき人一人が、ようやく通れるほどの横穴になった

底の見えない暗闇…落ちたら死ぬんじゃないかと思う

3人とも若干引いてるけど


ニコニコするマイがピョンと穴に飛び降りてしまった


「マイちゃん!」


坊「どうするん?お前の座敷わらし降りてったで?」


僧「エ!?座敷わらしちゃん大丈夫なん?くっそー全然見えねぇし!

けど、どっかに繋がってたら出られるかもしれんやろ?最悪ここに戻ってきたらええねんし、行くぞ!」


相変わらず地下の入口はカリカリ言ってるし…

まるで地獄の底のような穴の中に


坊がスマホのライトをつけて足元を照らすと、狭い階段になっていた。

下の方が光って見えるのはマイか出口か


坊「ヒッ…うわぁ!?」


僧「え?!何?」


俺「うわぁ!マイ!」


暗く淀んだ穴の底から無数の手が俺達を引きずり込もうと地面から生えていた


どう見ても危ない地面から生えた手をマイがニコニコしながらボコボコと引き抜いて行ってる

幼女の姿なのにまるで怪力だ。


坊「ここは何なんだよ!おい座敷わらし何してるの?ヒッ!」


坊の声に反応して、引き抜かれたボロボロの奴らがこちらを見上げた。

他者を求めて彷徨う亡者だ…これアカンやつやん!引きずり込まれる!


僧「エ?!さっきから何なんだよ!何が見えてるん?なぁ!オイ!何なんだよ!お前ら!座敷わらしちゃんがどうしたん?なぁ!!」


マイが指さしてる

『あ・け・て』と口が動いてる…


気づかなかったけど木でできたドアが見えた


「あそこにドアがあるってマイが」


僧「エ!?…あっほんまや!なんや、座敷わらしは、ちゃんと案内してくれとったんやな。

何してるん?はよう降りるで?」


坊「お前…本当に何も見えてないん?」


「見えてたらあの中に降りていかねーだろ…早くその扉ぶち破れよオッサン!」


僧「俺はまだおにーさんだ!うぉりゃ!!」

(※坊とナオは10代)


ダン!ダン!ガコン!

とぶち破られた先、マイが指差す方向から風の通る音がする


僧「オエッ、ゴボッ、凄いホコリやん!…おい、何してんねん早く降りてこいよ」


坊「亡者が流れてる…道が開けたんだな

寺の下にこんな地獄があったなんて

ここは戦時中の死体置き場か?防空壕の跡地か?それとも口減らしにあったやつらか?

独房の異様な雰囲気はこのせいか…なんて場所に独房作ってんだよ!

それにお前の座敷わらし何なんだよホンマに!」


怖くてなかなか降りてこれない2人と、下で待ってる見えない僧

マイは相変わらずニコニコしながら出口を指差してる


溜まって淀んだ空気が流れていく


マイが指差す先に光の道が見えた

俺もそうだけど、みんなここから出たいんだ


亡者のあとをついて歩いていくと淀んだ空気が霧散して外の空気と混ざり合う

洞窟が明るくなってくる、その頃には薄っすらと亡者が陽に溶けていく


出られた


…そう思ったのは俺らか、はたまた亡者どもか

マイを振り返ると亡者の1人と手を繋いで歩いていた、見知らぬ少年と手を繋ぐマイは一緒に昇天してしまいそうだ。


マイに手を伸ばす―…ガシッ!


と横から白いボロボロの手に掴まれた。

ボロボロの指から爪が折れて腕にくいこむ

横を見たらボサボサの髪の女がカタカタ震えていて

『み゙ぃ゙づヶた』と髪の毛の間から覗く、黒い窪んだような目、恨みのこもった恐ろしい目


ナオ「ヒァァァ!!」

坊「ヒィーッ!!」

僧「(ビクッ)わっ、え!?何?!!」


坊「アババッ貞子みたいなんがおるぅ!!ァー、これ〇〇さんやないの!?」


『カアサンコッチ』


貞子みたいな〇〇は我が子を探して寺の周りを徘徊していて、中の人間を窓から確認していたのだ


間違って掴まれただけのナオは漏らしてしまった


僧「防空壕?洞窟?昔の何かに使われてたんか?パイプや電線の跡があるな」※見えないから平気


外に出ると昼間の太陽の光が木の間から見えた。


「マイちゃん!手が傷だらけじゃないか!さっきの幽霊達にやられたの?」

マイはニコニコしてナオと手を繋いでいる

ナオの腕に傷は無かった


坊「うわぁぁ!!寺のあった辺りが!!!」

僧「エ!?何?」


「あれはマイちゃんだ!…ハッ!!」


ナオと坊の2人には、寺のあったあたりがどす黒い闇に包まれているようにみえた。

もちろんナオはマイが探しに来てくれたと心が踊ったが2人を見て唖然とした


今、この状況でマイに会って大丈夫か?

この性欲の権化と化したヤバいサル共にマイを会わせていいのか?

しかも漏らしてて風呂入ってなくてめちゃくちゃ臭いやん俺!

さらに、髭そってない……イヤァァ!!もう駄目ぇぇ!髭面は見られたくない

女子大生がよく言う生理的に無理と言うヤツ!マイちゃんに嫌われる!


横で手を繋いでるマイがニコニコ笑ってる


坊「早く山を降りよう!〇〇さんよりも貞子パワーつよつよの、なんかようわからんのがあっちにおるんやで!」ガタガタブルブル


僧「〇〇さんよりつよつよパワーって…ヤバそうな奴やん、おい、ぼーっとしてんな!逃げるで!」


「え、あ、うん…逃げようかな?

とりあえずスマホの充電器かしてよ、コンビニまで行ったらパンツも買いたいし」


僧「お前…以外と落ち着いてんな。

コンビニか、そうやな、ここ京都やしあるんちゃう?俺の爺ちゃんちの田舎にはコンビニとかマジでないねんけどな」



2時間後


プルルル、プルルル―…

「あ、もしもしマイちゃん?」


『ナオちゃん!!!え、今どこにいるの?』


「〇〇市の〇〇って交差点のとこのコンビニ

ヤバい寺に監禁されてたから逃げてきちゃった

マイちゃんは?」


『え?山の上のお寺にさっきまでいたの…

矢部「マイ貸せよ」』


は?矢部の声!!

そうかマイちゃん1人で来たわけじゃないのか…そりゃそうか女の子が1人で来れないか


『お前、今どこだよ?何してんだ、どうなってんだ?お前ら行方不明って捜索願い出されてるぞ』


「は?俺らそのクソ寺に監禁されてたから逃げてきたんだよ。

今〇〇って交差点のコンビニ、ってかお前、車で来たんだろ?迎えに来いよ」


『はぁ?バスで来たに決まってるだろ。駐車場ないし路駐出来ない山道だったよな』


「チッ使えねーな!あー、細い道があって車で寺まで行けるんだよ。

で、お前らどこだ?マイちゃんに近づくなよ!

彼氏が行方不明なのを良いことに略奪か?最低の猿だなクソ野郎!」


僧「おっ修羅場か?」

坊「ホンマに彼女おってんな」


『俺達も今、帰りのバス停だしそっちに合流する』


「あぁ、〇〇〇ってバス停の前がコンビニだ」



1時間後―…


マイ「ナオちゃん!!」


逢魔時の夕暮れの空の下(暗黒の守護霊アレに包まれた)バスから降りて現れたマイに3人が涙を流して膝をついて拝んだ

禁慾生活をしていた3人は真っ直ぐに立てなかった


「ハッ…マイちゃん!!会いたかった!」


恋人たちの熱い抱擁

ナオはコンビニのトイレで出来る限り洗って綺麗にした。ヒゲも剃った

マイの匂いを堪能して、柔らかい体を力強く抱きしめた。冷えた体に温もりが伝わってくる

マイに包まれて、人肌の体温に餓えていたのだと改めて自覚する


苦い顔でもどこかホッとする矢部と

どこか浮世離れした美しさに心奪われる僧と坊


僧「さっきまでコンビニのおばちゃんが天使に見えとってんけどな?」

坊「うん、(守護霊アレはヤバそうだけど)本物は違うし」


マイ「ナオちゃん!いっぱい心配した…うぅやっと会えたよぅ大丈夫だった?」


ナオ「マイちゃん…僕のことまだ好き?」


ナオは確かめたかった、生霊は変わらず側にいてニコニコしてるが

会えない間に矢部や他の男に心を移してるのではと不安だった


マイ「大好きだよ。会えない間もナオちゃんのことずっと想ってたよ、私、ナオちゃんがいないと駄目みたい。寂しかった、帰ってきてくれてありがとう」


ナオ「マイちゃん…良かった」



坊「あのぉー僕、藤原くんと一緒にお寺にいた安達カズキです」


僧「あっ、ちょっ邪魔したるなや…あー、俺も同じく松永ユウジです

彼女サン美人さんやねー?お近づきにメアド教えてよ」


坊「あ、これ僕のラインです」

スマホの画面に2次元バーコードうつしだしてる


矢部「こんにちわ、マイちゃんと同じ大学で友達の矢部です」

矢部がピロンと2次元バーコードを読み取った


坊こと安達カズキが"お前じゃねーよ"と心で呟いた。


「マイに近寄るなサルどもめ!」(ボソッ)


坊「マイ…はっ!(バッと振り返り)座敷わらしのマイちゃん?!」


マイ「は!?え?座敷わらし??どこ?」


ナオ「この人ちょっと頭おかしいみたい

何も無い所に座敷わらしが居るってつぶやいてたの、お寺に戻したほうがいいかもね?うわぁヤバッ」


坊「ちょっとォ!」


僧「マイちゃんも"見えない"人なんだ!俺と一緒いっしょ!」


矢部「俺も幽霊の類は見えないです!一緒です」


僧こと松永ユウジも"お前に言ってない"と心のなかで突っ込んだ。


ナオは3週間ぶりに再開したマイに興奮してバキバキにたっていた。

しばらく動けなかったけど、マイは抱擁の余韻に浸ってるのだと勘違いしていた

何かが当たるな?財布かな?くらいにしか思わない


コンビニは坊のおサイフケータイで会計した。

お寺の坊主が着る服に身を包み

泥だらけホコリだらけの怪しい3人組がコンビニにたむろしてるとしばらく噂になった。


大事をとってナオは祖母と母親が迎えに来て家に帰り、マイもそれに付き添った。

ナオ「マイちゃんも疲れたでしょ?一緒に帰ろう?泊まりで旅行だったんだよね?…今夜は僕の家に泊まっていく?」


「ナオちゃん疲れたでしょ?今日は帰るよゆっくりしてね?明日元気だったら会いに来ていい?」


ナオ「……うん」



分かっていた事だけど矢部が落ち込んでいて、それを慰めるために安達と松永が宿屋に一緒に向かい、夜の飲み会に参加した。


ヒロミ達はマイと彼氏が来るものだと思っていたが、知らない坊主が来てちょっと引いた。


しかもコンビニの酒を飲んでいて既にほろ酔いの矢部達。

チェックインで会計を済ませてるからマイの分をそのまま松永が使用し

おサイフケータイで安達が追加分を支払った。


斎藤と秋山が最初はブスっとしてたけど、松永のちょっと大人の面白い話に引き込まれ、仕入れたばかりの寺の秘密をオカルトテイストに話す


坊主達の話す怪談が面白くて、最後はみんなで酒盛りして盛り上がった。

※お寺の知り合いが出来たから気軽に心霊スポットへ行くようになる



その後の後日談…修羅場

寺で、色々と大騒ぎ

昼間から黒い塊が山を登ってくる様子に恐怖して結界を張ったりしていたけど、全て弾け飛んでしまった和尚さんパニック

女人禁制の寺に美しい女人が来てお手伝いの小坊主さん達パニック。※下山した

ナオ達は化け物ばかりに気を取られていて、暗くて見えなかったが、あの地下から、白骨の山が出てきてしかも警察にバレた。※矢部が呼んだ


春休み明けに

秋山「ニュースでやってたの、あの白骨寺じゃない?」

斎藤「あれは、マジな話しなん?ヒョー、マジで?」


ナオ達が行方不明と知り、警察が来る前に山を降りて一旦宿に戻る時にナオからの電話でマイがパニック


祖母がやり過ぎな祖父に怒って大事な玉や数珠をマイに燃やさせた。

祖母「マイちゃん丁度良かったわ、お焚き上げしてるの。ここにあるのどんどん火に焚べてって

もう、古いしガラクタなのよ。カビ臭いし新しいの買うことにしたの、さっ遠慮なく」


マイ「わかりました、エイ、エイ、エイ」


燃えないはずのお祖父ちゃんのコレクションが一気に燃えた

後に全部燃やされたと知って寝込むほどショックを受けたお祖父ちゃん


夫婦の危機

お母さんの家事のボイコットが続き、家出の準備をしていたが

マイ「あれ?春休みの旅行ですか?」


母「えっと、ちょっと〇〇温泉まで」


スーツケースがマイに見つかり、ナオを連れて北陸の実家に帰ると言いにくくて、県内のプチ家出に留まった。

肝心のナオが「マイちゃんがいるのに県外なんて行かない」と言ったから。

お父さんが引き留めようとして付いていって夫婦で温泉旅行に。


息子の親離れを寂しく思う親心

嫁に息子を取られたとはよく言うなと複雑に感じていた。

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